わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで 作:遠野静
わたしの名前は佐守あお。私立秋原の高校一年生にして、十五歳にして今年の『国異』の最後を決めちゃったもの。
『異能』は『クサナギ』。『視界範囲内の剣の軌道上を、道理を無視して切断する』――以下略。
「やあ、やってるかな」
などと、また気軽にエンカウントしてくる『白夜の聖剣』逸見明音さん……。
フルスペックであれば一年六人ステゴロで倒せるこのちょっと存在してはならない不条理はただいま受験勉強中の息抜きといってそこら中を徘徊している。
……元ラスボスが、『白夜の聖剣』が、ランダムエンカウントモンスターになっている。
この『白夜の聖剣』、曰く国異の三年大体友達だそうで、うち以外にも色々気ままにフラフラしては影響だけ残して去っていくらしい。
まあ……それはそれとして。
「今日はとりあえずわたしだけですよ」
「おや、他の……山名さんとかは?」
「部員勧誘中で」
「ふむ……さすがに他校の部員まで増加はできんなぁ」
「白夜、強豪だから余ってませんか」
「やだ。私は白夜高生だもん。他校に余計な塩まで贈る気はないぞ」
じゃあこの人本当に物見遊山なんですけど……。
などと話していたら。
「ところでそこの影にいる子は、なんだが凄く小さく見えるけど……」
「ああそうでした……ダメですよ諏訪さん。ここはもう『白夜の聖剣』の間合いですよ」
ついでに『秋原の神剣』の間合いです。と言いながらもう『スサノオ』を使って逃げようとしていた諏訪さんを掴まえて前に出した。
……しかし『スサノオ』、隠蔽系もできるのか。凄いな。
あとそれを裸眼で見つける逸見さんもやっぱり不条理だな。
「いや、挨拶がまだだから。帰られるとちょっと困るんだ」
「失礼に当たるから」などと宣う不条理。
「中等部の娘だね。ふむ……ダメだよ? さすがに」
「さすがに試合には出しませんよ……来年向けです……」
「なるほど、ならいいか……しかし……」
「『あ~、みことならもう気絶したぞ』」
「ふむ……表情筋の動きが違う……なにか、人格が違うように見えるなぁ……なるほど、何かを降ろす――イタコ系の『異能』?」
またも最適解を踏み抜いておられる……。
そして諏訪さんはもう気絶したのか……。
「『まあとりあえず答えようか? この身体は諏訪みこと。そして吾はスサノオである』」
「スサノオかぁ……また大物だね。どおりでちょっと水野っぽいと思ったよ」
大方の把握はしたらしい。
「『あ~、敬称とか付けんでいいぞ。吾はスサノオのスの部分程度故にな。気軽にスっさんとでも呼んでくれ』」
「分かりました、スッさん。そしてその調子で降ろしているとすぐに魔力が尽きないか?」
「『うむ、現状の課題はそれよなぁ』」
……大方の順応も把握したらしい。
「『とは言え、吾も完全顕現時間はまあ後の課題として……』」
そう言って、珍しく諏訪さん……というかスッさんは立ち上がる。
「『『白夜の聖剣』、現代の生きる伝説か。なるほど確かに、お前はソレだな』」
「? よく分からないが褒め言葉として貰っておくよ」
などと逸見さんは言っているが、わたしは知っている。
大蛇さん……つまり同じ伝承側の存在が、逸見さんにちょっとビックリしていたことを。
「『はっはっは! ならここでやるべきはひとつだな!』」
◇
向かい合う二人――というよりも『剣聖』と『嵐神』。
双方ともに剣を構える。逸見さんは、やはりいつ見ても美しい正眼で。
「佐守さん、試合開始の合図してくれるー?」
「はい」
「『なあに任せろ。化生討伐なら吾の分野だ』」
「む。私は人間の範疇でしか剣は振らないつもりだが……」
どちらを応援するべきなのか。
秋原高生としては、まあスッさんを応援したい気持ちもあるけど。
しかし長年国異を見てきた身、今年白夜と戦って最後ヘトヘトで決めちゃった者とは言え、『白夜の聖剣』に負けて欲しくないなという気持ちも少しある。
……まあどうなるか見たいという気持ちもあるので。
「では試合開始〜」
「――『彼方の果て。湖の底。常世を越えて飛び立とう』」
流れるように美しい詠唱。軽やかで、隙もなく、無駄もなく。
「『花園の門よ開け。今ここに王が選ばれる』」
逸見さんの長い黒髪が、金髪にかわり――
「――『抜剣。エクスカリバー』」
――選ばれし王の剣が、ここに抜かれる。
「『集え円卓。この剣に覚えがあるならば』」
続けて振るわれるのは英雄たちの詩。
その剣がそこにあるならば必ず集まる英雄伝説。
「『騎士の本懐。常勝の伝説よ。今こそ刻まれた証を示せ』」
十二の輝剣――それぞれに円卓の騎士の逸話を込めた煌めきが――
「――『召集。ナイツ・オブ・ラウンズ』」
色とりどりの絢爛な輝剣――それぞれに自立可動するそれらが、王を守るように出現する。
久々のフルスペック『白夜の聖剣』だ。
対峙するスッさんはケラケラ笑いながらとんっと飛び去ると――
「――『高天原より地を降り。征くは葦原中国の総て』」
例の、大変上位者目線な詠唱を再度歌う。
無論スッさんには詠唱中に止まるなんて隙は見せない。
「『礼讃せよ。喝采せよ。叢雲抱いて降りたつ神を』」
……ていうか既に意識は奪ってるっぽいけど、まだ始まるのか。その方が乗るのかな……?
「――『降神。スサノオ』」
再び振るわれる神威は、彼が初顕現したときとほぼ同じだ。
つまりやる気全開。スッさんではなく「スサノオ」として、ここに立つ。
「『うむ。というより吾でないと、やれん。みことには早いとかそういうレベルでもない、これは』」
「ふむ……なるほど確かに神威の迫力だ。……では、やはりちゃんと名乗ろう」
などと言いながらも逸見さんは剣を正眼に構えて――
「――『白夜の聖剣』逸見明音、いざ尋常に"勝負"とさせてもらう」
「――『嵐の神』須佐之男、いざ参る」
急に二人の雰囲気が変わったかと思いきや――
まず動いたのは逸見さん。
逸見さんは、とんっと背後に飛のくと。
「では――円卓の騎士達よ、その威光を指し示せ」
いきなり、十二本の輝剣の一斉掃射を始めた!
常人であればまず防げないそれを――
「『はっ! 吾は神なるぞ?』」
ケラケラと笑いながら、何やら周囲の『道理』をねじ曲げている……!
あれはみことさんではすぐガス欠になる使い方――つまり異能の本質の無理矢理だ。
「『おっと、卑怯とは言わせんぞ! 何分相手が相手なのでな!』」
スサノオの周囲の道理がねじ曲がり、輝剣はすべて軌道を曲げられる。
その中を突き進むスサノオ。
――しかし相手は『白夜の聖剣』――『理解力と対応力の化物』である。
「だろうね――では『サー・ヴェイリン』」
そのまま絨毯爆撃を続けながらも一本の赤黒い輝剣を呼び出す逸見さん。
「君の聖具を貸してほしい。『神の死を確認しよう』」
赤黒い輝剣は、一本の血の滴る白い槍に変化した。
――呼ばれたそれは『聖人の死を確認する槍』。を後方に待機させる。
「加えて『サー・パルシヴァル』『サー・ガウェイン』『サー・ガラハド』、『聖なるモノの行方を探そうか』」
「『むう……!?』」
呼ばれた三つの輝剣が道理を反らしていたスサノオを固定する。
「さて……『サー・トリスタン』、一つ撃ち抜いてくれ」
藍色の剣がまるで矢のごとく撃ち抜かれる。固定されているスサノオでは防げない。
「『はっ! いいだろう――ならば本領だ。――『抜剣。アメノムラクモ』』」
詠唱破棄して抜かれる道理距離無視切断の剣、加えて嵐と雷も乗るが故――
「『サー・ランスロット』、ちょっと空模様を見てくれる?」
――そんな、冗談とも本気ともつかない命令で空に浮かんだ黒剣が、全ての雷をその身に落とす。
『サー・ランスロット』、『アロンダイト』――『不屈に属する黒剣』が、神の雷霆を守りきる。
加えて、道理切断剣自体は当人がヒョイっと躱す。
だがそれで最後だ。先ほどまでスサノオを捉えていた三つの輝剣は神の怪力で破壊され、後は真っ直ぐに『白夜の聖剣』にその剣を突き立てるだけ――
「――さて、待たせたね」
そんな、冗談か本気ともつかない言葉と共に背後から『神殺しの槍』が顔の端からいきなり飛んできた。
――いや、それは一手目に呼ばれた槍だ。
そしてそれは、スサノオは倒せる。
そして、それをスサノオも理解していた。
だからそれを飛ばす隙を与えぬように、飛ばされる『トリスタン』も『アメノムラクモ』で正しく処理し、固定してくる三つの輝剣もすべて破壊し。ギアを上げ続けて――
そしてまさしく、この場で決めようと、決められると確信したが故に――
「『は』」
「――『サー・ヴェイリン』、撃て」
ただ一言。伏せられていたその槍だけは、逃れられない。
「『ぬう……負けかぁ!』」
はーあと大の字で寝転ぶスサノオもといスッさん……。
せめて『スサ』くらいであればもう少し……とかモニョモニョ言ってるけど、多分対応を変えただけだと思う。
「見事。正に神の有り様、正しく拝見しました」
「『はっそれを打ち砕いておいてよく言う』」
「だって打ち砕けたから」
「『大蛇の娘、こいつ何を言っとる?』」
「さあ……」
いや、多分全部本音だと思うんですけど。
「『まあいいや。ふうむ! やはり、悔しいな!』」
そう言いながらもケラケラ笑う嵐の神。
その横に立つ『剣聖』はどこまでも自然体に微笑む。
「『異能』持ちとのマジカルチャンバラは愉しいですか」
「『ああ。吾は愉しんでおるぞ』」
「それは良かった」
「『とは言え、すまんな後は頼むぞ大蛇の娘!』」
「はい?」
「『さすがに出し切ったのでな! 多分吾、家まで保たん! 故に――』」
とまで言ったところで、スサノオの意識が途絶えた。
残っている諏訪さんは……気絶したままだ。
安心していいのか分からないけれど……。
「え、えぇ……」
わたしより背の高い諏訪さんを運べというのかこのクソ神は。
「む。そういうことなら私が運ぶよ――よいせっと」
おお。
あの『白夜の聖剣』におんぶされている。
……諏訪さん、途中で起きたらまた気絶するんだろうなぁ。
「しかし、この娘を入れてどうするんだい秋原は」
「学園秘密です……」
などと答えながら、逸見さんとわたし、それから気絶した諏訪さんで校舎へ戻っていくのだった……。