わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで 作:遠野静
わたしの名前は佐守あお。
広島県私立秋原に通う十五歳で出雲国の剣。
『異能』は『クサナギ』――『視界範囲内の剣軌道上を道理を無視して切断する』とかいうとんでも『異能』。
――の、割には二年の上の方々にはコロコロされる程度の競異部所属……。
現状、わたしが困っているのは、なんかもう競異部にはいらんのでは……? と若干思われている中学生、諏訪みことさんおよびその背後にいる不審霊『スサノオ』の対処、対応……。
それから……。
「なんで私を呼ぶねん、山名」
そう言っているのは村田知子さん、洛陽の妖刀使い。
『異能』は『ムラマサ』――『対象と同じだけの魔力量を土地から吸い上げて、必ず刃を通すようにする』とかいう格上殺しの『異能』。
ただ、剣術の腕前自体は自前……。というわけで、本当はめちゃくちゃ純剣術で強い方……。
なのだが、何故京都の洛陽から、広島の秋原にいるのか……。一応、連休ではあるけれど。
「さすがにもう中学生の相手はせんぞ……」
「ああ、それに関しては再考中だ」
既に山名部長は、なんとかスっさんの意識だけきり離せんかな……などと考え中である。
「え~……じゃあなに? 私は何のために呼ばれたん」
「いや、ちょっと話し相手が欲しくて……は〜」
「通話にしろよ……」
などと言いながらも、ちゃんと座ってくれる村田さん。
いい人だ……。
「んで、何が問題なんだよ……つうか狂犬しかいねぇ、他は?」
「望月には諏訪のお守りしてもらってる。戸枝は『秋原の熱剣』のネームバリューで入部者募集中」
「うわぁ……」
などとボヤいている村田さん。
しかし大丈夫である。何故かみんな『秋原の熱剣』を恐れ、そして戸枝さんも断じて余分を許さぬ矜持の人。
……ゆえに、悲しいことに悲しいくらい成功していない。
「そんなわけで現状の悩みは、諏訪がダメな場合の保健やね……いやもういっそ、本戦形式にして一旦試してやるか……」
と、山名部長はとんでもないことをぼやく。さすがに思わず反応してしまう。
「混ぜるんですか、諏訪さんを……」
「一番分かりやすかろ……は〜というわけで洛陽部長、練習試合組んで……」
「え~……うわぁ……」
村田さんも、さすがに学園まで含められると断りきれないのだろう。洛陽だって新体制のチーム戦を試したいだろうし。
「え~……こっちもまだ来年の一年待ちなんだが。お前んとこだけフライングじゃねぇか」
「かわりに雑魚だからいいだろ……」
当人がここにいないので、容赦がない山名部長。
まあ……え~……。
確かに、わたしもほぼ初陣は、鶴久とやった時の練習試合。
あの時はあんまり自分に役割がなかったので、とにかく水野元部長に言われるがまま、望月さんの護衛、それと戸枝さんと二人で――正確には望月さんのドレイン込みで、『鶴久の絶剣』を迎え打った。
……のだけど、今の諏訪さんを前に出したらどうなるのか。
まあ、心は折れるか。……いっか。
――などと話をしていると。
「や、水野いるかな?」
などとまたも『白夜の聖剣』が不意打ちでランダムエンカウントしてきた……。
もうこの人もいいや、これで……。
「あ~……ウチのクズなら遊び呆けてますよ……」
などと山名部長も気軽に答えている。
そう思っていると、ふと逸見さんの視線が村田さんに向いた。
「む。なぜここに」
「いや、それはこちらの台詞なんですが……もうマジ徘徊癖やめてくれませんか」
「なんだ、人を暇人扱いとは……酷いぞ」
これでも受験勉強してるんだぞ、などと宣う不条理。
これまたなんだかんだで寄藤さんが爆発しないか、大丈夫か……とか思ってたら寄藤さんも来ていた。
「来てんですか……」
「もう誰かついてないと延々どっか行くからね、この人……」
は〜あとため息を吐いている寄藤さん。に、自然体な化物は――
「うん。なので今は寄藤に色々なところで稽古をつけてもらっているよ」
などと悪意なく仰る。多分本人はマジで「後輩と一緒に全国行脚」くらいの気持ちである。
「佐守さんも来る?」
「やです」
とりあえず『斬って』おく。
寄藤さんは知らないけれど、わたしは学園生活が大変なのだ……。主に追試が……。
そうしていると、村田さんがため息を吐く。
「あ~……それでうちにも来てたんですか……もうウチの元部長、何か意味分かんなくなってましたよ」
「吉祥とは、別に大して撃ち合ってもないんだけどなぁ……」
既に京都の洛陽は通った後のようだ。
元『三年五指』、『不動明王』こと吉祥さん。
今は引退して、もう剣を振るう気はないらしい。……のだが、この化生には関係ないらしい。
もうこの人、災害では……?
しかしこの二人が会話してるの、初めて見るなぁ……。
いや、かたや白夜、かたや洛陽のお二人なので、まあまず秋原で話してるのが意味分からんけど……。
前に、村田さんは『ちょっとくらいなら傷つけられるかも』とか言ってたけど……。
「やめろ、思い出すな。あくまで本戦前提だ」
「ああうん。村田さんは強いしね」
「やめてくだせぇ〜……私はあんたみたいな多様な『異能』が一番苦手なんすよ〜……」
確かに、刀一本で挑むには十二輝剣――というか『逸見さんの十二輝剣』は、ちょっとどころでなく困る。
「先輩、あんまり加減出来ないんだから、やめてくださいよ」
と、寄藤さんまで止めに入っている。
「ふむ……ううん。しかし、秋原まで来た意味が――」
キョロキョロと周囲を見渡す逸見さん。
まあ、ここにいるのはわたしと、山名部長、村田さんと、あと白夜のお二人。
「あ~……じゃ、うちの練習場開けるんで、模擬剣同士でどうですか?」
山名部長の提案に乗るのは逸見さんである。
「いいね」
「よくねぇよ、私の都合はよ」
「しかしこのまま帰らせると、お前を呼んだ意味がなくなるし……」
「それは加害者の言うセリフではない」
はあ、とため息を吐いている村田さんに、しかし山名部長、秋原の『冬の狙撃手』は――
「――あと、お前も折角なら卒業前に『伝説』に挑みたかろ」
――やはりひと言で、核心を撃ち抜くのだ。
「――――は〜〜、ズルいなぁ、お前!」
「よし、鍵開けてくっかぁ……あと佐守、望月と諏訪呼び戻してこい。あいつにはいい教材になる」
「はぁ……」
たしかに……なにしろ純剣術試合――
――彼女が『剣』をしたいならば、絶対に見ておきたい極致だろう。
「分かりました〜。あと、戸枝さんも呼んできます」
最近出番がない。わたしのヒーローの出番がないのはわたしが困る。
「見物客が増えるの面倒だなぁ……」
などとボヤきながらも、村田さんはもうやる気になっていた。
◇
――向かい合うは二人の剣士。
かたや『剣聖』――『白夜の聖剣』逸見明音。
当人は店じまいしたと言っているけれど、なんだかんだ自由に開け締めしている『伝説』だ。
かたや『殺人剣』――『洛陽の妖刀』村田知子。
武光さんとかいう化物を除けば、多分現二年生で一番剣の上手い人。
これをタダで、うちの練習場で、しかも秋原メンツで見れるとは……。
いや、寄藤さんもいるけど。
まあとりあえず、わたしたちはモブに徹しよう。だって、見たいから。
「はあ……なんか下級生どもから嫌な視線を感じるが――」
スッと、剣を正眼に構えて――
「――『洛陽の妖刀』村田知子。ここにて『伝説』を斬り捨てる」
「――『白夜の聖剣』逸見明音。いざ、尋常に"勝負"と参る」
――敢えて、その『伝説』の名乗りを上げながら、先に動いたのは逸見さんだ。
正眼からの袈裟斬り――振り下ろされる『唯の斬撃』は、それすらも無駄もなく、隙もなく、美しい。
「ほっ」
「――っと」
それを切り払いながら、返す刃で突きを狙う村田さん。しかしそれは軽く首を反らすだけで躱される。
「んじゃ――」
そのまま、刃を横にして首に向けて斬り返す村田さんだが――
「おっと」
そんな軽い掛け声とともに、逸見さんの剣が差し込まれる。
鈍い音同時に二人とも弾かれるが、村田さんは弾かれながらも次の剣を狙う。くるりと一回転してさらに横薙ぎ。
「はっ――!」
「よ」
それを、今度は受け流しつつ、自らは剣を振り下ろす逸見さん。
姿勢を崩したままの村田さんには避ける術は――
「あいよ……っと!」
かと思えば、その場でぐるんと転がりながらしゃがみ姿勢で剣を構える。
――しかし相手は『白夜の聖剣』。
既に、次の剣が振り下ろされている。
「あっぶねぇ!」
それを両手で支えた剣を防ぎながら、なんとか弾き返す村田さん。
それから間合いを離しつつ再び構え直すが――そんな余裕を、この『伝説』は許さない。
「だろうね」
とんと軽やかに踏み込んで、最小動作での右小手狙い。
――を、一度剣から手を離して避ける村田さん。しかしそれも『白夜の聖剣』の対応範囲内である。
「ほっ――!」
片手持ちになった剣を切っ先で巻き上げて、村田さんの手から剣を奪おうとする。
――しかし相手は『洛陽の妖刀』。
その程度の純剣術ならば、『腕の力を抜いて』受け流している。
とはいえ間合いは近い。武器を奪えずとも、あとは『白夜の聖剣』が突き穿てば勝ちであるが――
「――あー、じゃあ」
――その剣が、逸らされた。
正しくは、横から弾かれた。
村田さんが――両手で握り直した『柄側』で、逸見さんの剣を弾いた。
「むっ――」
初めて、逸見さんの動きが止まる。
呼吸が、意識が、思考が――『選択と選択の間』が生まれる――
――故。
「はいよっと!」
柄で打った反動も利用して、上体だけで剣を振り上げる。
そこからの剣の振り下ろし、常人ならばまず回避できない袈裟斬りを――
「――では」
――その剣筋に合わせるように。
刃をピタリと村田さんの剣に合わせて、文字通りに『鏡合わせ』のように剣を振り下ろす逸見さん。
同時の斬り落とし。しかし、当然ながら『剣は同じ座標には存在できない』。
――ならば、『それを意識した上で振り下ろされる逸見さんの剣』の方が、村田さんの剣を僅かにだけ軌道を抜いて――
「と」
「いてっ……」
村田さんの殺人剣は、逸見さんの肩を少し掠めただけ。
一方の逸見さんの剣は、しっかりと村田さんの肩を叩いていた。
くるんと刃を回して横に、それから逸見さんが言う。
「――では、ここまでかな」
「ここまでっすねぇ……はぁ、負けた! まだ届かんか〜……」
ボヤきながらも両手を上げる村田さん。
「いやでも柄のはビックリしたよ。何あれ、必殺技?」
「んな大層なもんでも……ただの殺人剣です。やはり殺人剣で『伝説』は斬れぬか……」
「私は人なんだけどなぁ……」
「じゃあ斬られてくれません? 何抜いてんですか」
「だって、抜けたから」
『異能』抜きで、凄い応酬を見てしまった――では、諏訪さんは……。
「…………」
……寝てやがる。軽く小突いて起こす。
もうこれに剣を教えるのは無理かもしれぬ……。
いやまあ……素人目には意味分からん応酬だろうけど。
とか思っていると、村田さんがこちらを向く。
「あ~……あと、そこの佐守、お前」
「あ、はい?」
急に呼ばれてびっくりした。なんだろう……。
「お前の使う……あ~"薙ぎ"? アレの究極系が、今の『コレ』だぞ」
などと仰る村田さん。ついでに逸見さんも。
「ああ、基本的には受け流しだからね、今のは。そうだな――」
なるほど確かに、そう言われると"薙ぎ"に近いのか――とか思っていると――
「うん。単に『受け流し』と『斬り落とし』を同時にやっただけだよ、今のは」
それが出来る人間が他に何人いると……。などと思いながらも、なるほどと一応は理解した。
――理解はしたが。
「――はあ、やっぱり遠いなぁ」
今のをやれと言われて、やれる気はしない……。
さすがにちょっと遠すぎる術理の話だった。