わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで 作:遠野静
――どうでもいい話だが、望月干果は同性に大変モテる。
まず、普通に顔がメロい。
整った中性的で、しかし何処か儚げな容貌はどうしても人目を引く。
ついでに大抵の相手には優しい。パーソナルスペースも近い。
それが『人間関係で傷つきたくねぇよ』という自己防衛から来るものにせよ、顔がメロいのもありて、なんとなく優しい雰囲気に惑わされてしまう。
そして『どしたん話聞こか?』を自然とできてしまう。ついでに言うと他人に自分の生活を任せてもいいか楽だし。くらいのヒモ適性もある。
特に夢もない。面白いものを見れて適当に生きていけたらいいと思っている。
故に順当にいけば……別に『異能』とか関わらず、そこそこサークラしながら遊び歩いていた中身のない奴になっていたのだろうな、などと望月は思う。
件の黒縄三年による、佐守誘拐事件があって、その動機を知り……そして佐守を本気で心配し、黒縄に怒ったことで、初めて自分に他者への感情があるのだな、などと、今更に思っていた。
――故、己は出会いに恵まれたのだろう。
今の居場所は、多少居心地が悪くても逃げようとは思わない。
もう秋原の選抜メンツにはみっともないところや恥ずかしいところも見せてしまっているし、尚更開き直っている。
「もし、この出会いがなければ、僕も黒縄さんみたいになっていたのかもな……」
いや、そもそも水野部長のスカウトがなければのらりくらりとへらへらと適当に、人を喰って生きてたんだろう。佐守や戸枝とはまったく無縁の距離感でいたのだろう。
そう思うとあのクズにも多少の感謝はある。現部長である山名にも解体されまくったので、感謝も怒りもしているが、いまだに遠い。
――ともあれ、おかしなことではあるが。
望月という名の迷惑を嫌うヒモ候補は、『国異』などという魑魅魍魎跋扈するスポーツ大会に『本気にさせられた』ことで、割としっかりと、何か「本気」のようなものが根付いてしまったのである。
――の、だが……。
「ああ、諏訪ちゃんさぁ……」
「はい、なんですか!」
「別に部活以外でまで……くっついてこなくていいんだからね、僕に……」
佐守による全国行脚から戻ってきた諏訪みこと、中学三年生。
彼女はなぜか、佐守でも戸枝でもなく――無論山名でもなく、望月にくっ付いてきている。
まあ、気持ちは分かる。――まず佐守は彼女にとって愛憎溢れる相手。戸枝もまた、あの余裕を許さぬ生き様についていくのは息苦しい。
そして山名部長は、諏訪の価値観を最初に破壊した相手である。
――故に、諏訪みことにとってが「もっとも近づきやすい憧れ」という、まさに『半端者』が故の必然が、ここに発生していた。
というより、尊敬している。敬愛している。憧憬が、多分そこにはある。
「はっ。憧憬の吸血鬼ねぇ……」
思わず自嘲してしまう望月。とはいえ相手は年下の後輩、山名部長には適当にあしらっとけと言われたが、彼女の『スサノオ』が裏方として十分機能することは、望月的にも明らかだ。そしてそれは望月にも出来ない領分で、使えると思われるのだが――
◇
「ああ~……」
いつぞやの、部活棟の屋上にて、一人頭を抱えている望月。
自分を慕う後輩が出来た。それは嬉しい。人に好かれること自体は気持ちがいい。
過剰に持ち上げられるのも……まあ、今の望月であれば耐えられる。昔なら人間関係毎リセットしていたが、諏訪をリセットするために佐守や戸枝と離れたくはない。
意外な帰属意識に気づいて、またも自嘲を漏らす。
問題は、あの娘が大変――多分『地雷』なのだということである。
私生活ならまあいい。何度か刺されているし。けれどそれを競技にまで、“勝負”の場にまで持ち込まれると、少しだけ困ったことになる。
――というより、普通に負ける。敗因が味方の自爆とか溜ったものではない。
「これを僕ひとりでどうしろというのさ」
とりあえず、佐守あおによる全国行脚などという暴挙は、おおよそ失敗した。
(あおちゃんはマジカルチャンバラの楽しさを教えたかったみたいだけど、それ以前だよなぁ……)
結果、戻ってきたのはプライドも何もかんもグチャグチャにされた諏訪みことである。
しかもそれの処理を自分に放り投げたのは山名部長である。後衛役的に、どないかしろということらしい。
「どないかしろ」などという曖昧過ぎる命令だが、意図はわかる。
だってもうどこが悪いとかではないのだ、あの後輩は。
「ええ、ああ……どうするかなぁ……」
珍しく悩む望月。
もういっそ使い物にするのであれば、人心掌握してしまうか……楽だし。
あの子は結構尽くそうと思えば尽くせる子だろうし。
主役を歌う彼女は大変分かりやすい。適当に乗せとけば心を開くし、そこにぬるっと入り込めばまあ、『異能』なんて使わずとも『眷属』には出来よう。諏訪みことは。
「とはいえな~! よくねえよな~……!」
秋原的には、自分で動けない駒は少し困る。『斬る』にせよ『終わらせる』にせよ『負けない』にせよ――それから、『当てる』にせよ。
ある程度自己判断して貰わないと困るのだから――と思っていると、何故か屋上の扉が開く。
「あ、望月先輩!」
そして、今一番聞きたくない声まで聴こえる。
諏訪みことである。のっそりと上体を起こしつつ、一応問う。
「ええと……まず、誰からこの場所聞いた……?」
一応、自分としては大切な場所ではあるのだが。
本格的に『国異』に足を踏み入れる“約束”を、あの三人でした場所なのだが。
そんな土足で入られると、さすがに少し怒りが湧く。
「山名部長です」
「よし」
じゃあ殴ろう。と思いつつも、望月は諏訪を見る。
諏訪みことの瞳はきらきらしている。この、いまだに名前もない彼女は、やはり望月だけは安全圏だと安心している。
「ああ~……まあ、良い舞台か……」
はあっとため息を吐きながら、望月は胡坐をかいて座りなおし、目の前の諏訪に問いかける。
「ほら、座りなよ。なんか困ったことがあったんでしょ」
笑顔で、ぽんぽんと隣を叩く望月に、諏訪は一切軽快せずに入り込んで――
「――『ああ、寒い。雪と狼と夜が来る』」
故に、突如として溢れ出す望月の闇に、彼女は対応できない。
「え」
びくりとする彼女の腕を掴んで、表情はあくまで笑顔のまま――
「『
――主役気取りの子役に向けて、脇役共の闇を、ここに謳う。
「――『着憑。デア・ナハト』
「は、う……!」
拡がる闇が、あっという間に諏訪みことの魔力を吸い上げる。
「ああ、だから気にしないでいい。これは僕の方が反則みたいなもんだしね……」
耳元で囁きながら、こっそりと彼女の血を頂く。『痛がり』な彼女だが、こう抱き留められていると、それも気にならないらしい。
へっと笑いつつ、魔力を取り上げられた程度でもう動けなくなっている諏訪を抱きかかえる。
そのまま念話――というよりもほぼ読心で、こっそり『眷属化』した諏訪みことの内側を覗き込む。
途中でスッさんと目が合うが――
(『む……まあ黙っておこうか』)
(ありがと……んじゃ)
「ああ。いや、分かるよ。『負けたくない』、『痛いのもきらい』、『ただ活躍したい』……なるほどねぇ」
実際のところ、ただ甘い言葉を囁いているだけではない。
彼女の裏側をもっとも理解出来てしまうのも望月である。
延々『負けない』とだけ言い続けて、最後には『勝ち』を奪ったはいいが、根の部分は変わっていない。
――だから、輝ける舞台も、負けたくない気持ちも、分かる。
ただ、『逃げたくない』という一点だけが、望月には少し分からない。
それは、言葉だけを聞けばなるほど、確かに素晴らしい誇りにも見えるだろう。
――見えるだろうが、それだけだ。実が伴わず、まして命掛けなんて馬鹿げている。
「――ああ。じゃあ、こう言おうか」
黒縄事件についての話は聞いた。そして、その時に彼女が何をやったかも知った。
「――『
――そんな甘い言葉を、彼女に囁く。
「で、でも――『秋原のジョーカー』が、そんな……」
「いいんだよ、僕は最初から脇役、半端者。カマセ。――だけれど、『
耳元で、触れる様な距離で彼女の闇を優しくなでる。
「――ただ、
「む――」
「――はぁ。なので『部長の命令は聞くこと』、これは絶対だ……君が『神』でも『主人公』でも、なんでもいいが……本戦はチーム戦。君が華々しく勝ったって、結果としてチームが負けたら、意味がないからね?」
「むむ――」
「
「よいでしょう……この諏訪みことにお任せあれ」
「ああ、ありがと……」
はあっとため息をついてから、望月は異能を閉じる。本当にちょろくて助かる。
最悪な言い方ではあったが、これで多少は周りにも目が行くのではないだろうか?
……というか、明日には練習試合を組まされている。既に。
洛陽高校との練習試合を、なぜか組まされている。なので少なくとも明日は機能して貰わないとマジで困る。
――故に、最後だけは本当に。
「はぁ……! よし、頼むよ『主人公』。大丈夫、負けた時は僕らのせいだ」
――少なくとも、乗せた分の責任は自分が持つべきだろうと、明日の反省会に向けて望月は思う。
「んじゃ、そろそろ戻るよ……そもそも君、中等部でしょ……あとここ不法侵入だし……」
「え――」
ぽかんとする諏訪に、軽く笑う望月。
「君の憧れは、不法侵入するような悪人だ。どう?」
「いえ、でも――立ち入り禁止の屋上に一人でたたずむ望月先輩は……なんか、絵になります」
「ああ、そう……」
――またもどうでもいい話だが、望月干果は同性に大変モテる。
まず、普通に顔がメロい。
整った中性的で、しかし何処か儚げな容貌はどうしても人目を引く。
そんなものが、どこか困った顔で(原因は目の前にいる後輩のせいだが)、立ち入り禁止の屋上で暮れなずむ姿など、彼女には『映える絵』としか映らないらしい。
これを、人間関係リセットさせずにどうにかするには、どうすればいいのか――
「は~あ……まさか、僕がこんなことで悩むとは。未来なんてわかんねぇなぁ……!」
後輩ひとり満足に世話できない『秋原のジョーカー』は、誰もいない屋上の、蒼天に浮かぶ白い月に吠えるのだった。