わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで   作:遠野静

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後日談:『新生秋原』対『新生洛陽』

 わたしの名前は諏訪みこと。

 ――私立秋原の中学生、中等部所属であり、高校に入ったら競異部に入る予定のもの。

 

 有難いことに中学生にて、もう選抜メンバーにほぼ確定で選ばれている。

 そして今回はそんなわたしの試運転も兼ねて、初めてのチーム戦だ。

 

 ――お相手は京都の私立洛陽高校。

 部長は――

 

「はぁ――マジでやるとは思わんかった……つうか、お前もそれでいいの?」

 

「いやまあ……あんまりチーム戦を組めんのでな。やってくれてむしろ有難い」

 

 ――山名部長が話しているのは、相手の部長さん。村田知子さん、高校二年生。

 『異能』は『ムラマサ』――なんだか『土地から魔力を吸い上げて、相手と同じだけの魔力量差分を埋める』とかいう、意味の分からん『格上殺し』の異能使いだ。

 

 大変不遜ではあるなと思うけれど、しかしそれ以外の効果はないらしい。

 なので、気になるのは――

 

「一応、うちの面子紹介するか……まずこっちが渡辺――あ~……まあ今更説明も要らんか」

 

 知っている。だって私立秋原は準々決勝で洛陽高校と戦った。

 確か『異能』は『シシノコ』――『髭切』。つまりは『化生殺し』だ。

 望月先輩には特効が入る剣だけど――

 

「まあ、私の剣は大したことないよ」

 

 などと笑っている。では、『神』であるわたしには大したことなかろう。

 それに彼女は『秋原の熱剣』のカマセだった。『秋原の熱剣』は今年の『国異』準々決勝で、『明王』『風神』『髭切』を墜として、『新しい伝説』となったのだから。

 

 今は副部長をしている――らしい。

 他の三人は、どれも知らない顔だ。確か今年の『国異』、残る三名は三年生だったはず。

 

 故に――

 

「それでこいつが――まあいいか。話してもしゃあない……。とりあえず、適当な一年生で固めた」

 

「適当とは、よういう」

 

 はっと山名部長は鼻で笑っていた。意図はわたしには分からない。

 わからないが、きっと雑魚ばかり集めていて弱いから笑っているんだろう。

 ならばわたしも笑おうと思っていたら、佐守先輩に口を塞がれた。

 

「はいはい……ダメですよ、そういうのは」

 

「なにがですか」

 

 この不遜なただの『剣』は、やたらとわたしに先輩面をしてくる。それが大変癪に障る。

 

「――まあ、やりますか。スッさんも準備いいですか~」

 

『おう、いいぞ~』

 

 はあっとため息を吐いてから、佐守先輩はわたしの首根っこを掴んでむりやり試合開始地点へと移動した。

 

◇

 

 今回のフィールドは『中世風の街』。

 なんだか秋原が二回戦で戦ったのと同じような遮蔽の多いフィールドだ。

 であれば、『秋原のジョーカー』望月先輩の大活躍がまた見れるのでは?

 

 思わず視線を向けるが、望月先輩はへらへら笑いつつ。

 

「ああ……いや、あれは条件が色々あってたからねえ。今回はまあ、分からん」

 

 などと、謙遜されていた。

 

「いや、謙遜じゃないけど――と」

 

 などと話している内に、試合開始のブザーが鳴った。

 早速山名部長がわたしに指示を出す。

 

「よし、じゃあさっそく念話使うぞ、降ろせ」

 

 言われずともと答えながら、わたしは堂々と模擬剣を掲げた。

 

「――『高天原より地を降り。征くは葦原中国の総て』」

 

 神威の力が降り立つように、この地に満ちる全ての雷雲を吸い取るように――

 

 「『礼讃せよ。喝采せよ。叢雲抱いて降りたつ神を』」

 

 ――まさにここにわたしがいると、堂々と宣言をするように!

 

 

「――『降神。スサノオ』!」

 

 発動と同時に雷鳴がわたしに堕ちる。しかしそれは自爆じゃない。あの『決勝戦』で元部長、水野三年がやったような――全身雷化だ。

 

 そうしていると、何故か山名部長からため息が聞こえた。

 

(あ~……もう、全員即座に散れ。あと諏訪以外は望月の眷属になっとけ。そんで戸枝、中央の道を『終わらせろ』、早めに)

 

(分かりました……はぁ)

 

 などと、何故かため息ばかりが聞こえてくる。

 ――とはいえ、これは嬉しい。

 

 『秋原の熱剣』を、間近で見られるのだから――!

 

「――『世界よ、終われ。私と共に、私以外の全てを焦せ』」

 

 傲慢ながらも強い矜持、燃えたぎる熱剣が上段から振り下ろされる。

 

「『炎の剣。主役の光。大地を丸ごと焼き尽し、私だけの春よ来い』」

 

 ――その唄に込められている矜持を、わたしは知らんし知る必要もないだろう。

 ただ、その炎は強い。規格外の魔力量から放たれる世界の終わり――!

 

「――『抜剣。レーヴァティン』」

 

 一キロを燃やし尽くす炎が、一気に中央の道を燃やし尽くす。

 それと同時にブザーが一度。

 どうやら誰か向こうで堕ちたらしい。なんだ、圧倒的ではないか、わたしたちは。

 

(よし、一旦戸枝はそこで目立っとけ……んで諏訪はさっさと動け、立ち止まるな)

 

(はい?)

 

(……諏訪さん、命令を聞かないと『終わらせます』。いえ、どうでしょうか……このまま、私が護衛につくのは)

 

(いりませんが)

 

「ああ、諏訪ちゃんは黙ってなー! はあもう、せっかく遮蔽多いフィールドなのに、あんな分かりやすくしてくれてさぁ!」

 

「え、うわっ」

 

 急に足元を奪われたかと思えば、そのまま望月先輩の影がわたしを引っ張っていく。

 影へ、影へ。

 何故だ――と思っていると山名部長の念話が届く

 

(望月、適当なとこで諏訪は落としていい。渡辺と何か一年が向かってる)

 

(ああ、『化生殺し』ね……んああ! もう、面倒にしてくれたなぁ!)

 

「では、わたしが『勝ちを奪い』ます」

 

「無理だから、さっさと逃げる。えっと、僕のことは刺してもいいけど周りに迷惑かけない。先輩命令!」

 

 そう言って、望月さんはわたしを路地裏でぽいっと投げ捨て、そのまま影になって去っていった。

 

「むむ……」

 

 なんだか……不愉快だ。

 わたしはこんな場所にいるべきではない。

 我は神なのだから堂々と立つべきではないか。

 

「よし、行こ――」

 

「――『君は私を知るだろうが、私の全ては知りようもない』」

 

 と、歩き出そうとした途端に何か声がした。

 これは詠唱か? コソコソと、何を――

 

「『ホワイトチャペル。レザーエプロン。ああ、あるいはカノニカル・ファイブ』」

 

 ――? 何か怪しい雰囲気の詠唱だな。

 まあいいか、雑に雷撃を放てば終わる――

 

「――『殺人。ジャック・ザ・リッパー』」

 

 気付けば、耳元で囁かれる声。

 ――次の瞬間。わたしは何かを感じる前に、視界が暗転した。

 

◇

 

「――『とー! 危なぁ!』」

 

 ギリギリのところでその刃を避ける諏訪――というよりもスサノオ。

 もっとも、多少判断は遅かったが……いや、正しくは、尊重しすぎたと言うべきか。

 

「あれま。斬れなかったか……」

 

 とんっと前方に立つのは、先の一年。諏訪が笑った『大したことない魔力量』の――けれども対人に於いてはほぼ無敵の刃を誇る――佐塚静香、洛陽の一年生。

 

 ――その『異能』は、『ジャック・ザ・リッパー』。

 強力な気配遮断効果に加え――

 一次的に村田の『殺人剣』を自らに付与する。などと言う、何処かで聞いたような『異能』である。

 

 ともあれその刃は、『神』化している諏訪の体にはあまり効かない。――効かないが、それでもちゃんとダメージは負った。

 ううむ……と悩む暇もなく――

 

「では、『妖刀の暗器』――佐塚。参るなどとは――言わんよ!」

 

 一言言って、即座に路地裏の陰に消える佐塚。

 ただでさえ『殺人剣』だけでも恐ろしいのに、それを気配遮断しつつ、しかも路地裏で襲ってくる。

 

「『はは! しかし、吾は神だからな――』!」

 

 そう言いながら、純粋に『道理反らし』でなんとか剣を凌ぐスっさん。

 しかし、このままではやはりまたすぐに魔力も体力も尽きよう。

 

 どう見ても向こうの方が、コスパがいい。

 こちらは完全顕現状態だと、数分も持たない。

 

 ううむ……などと悩んでいると、山名から念話が届く。

 

(あー、スっさんか。何、交戦中?)

 

(『うむ、そのようだな……どうする、このまま吾が戦うか?』)

 

(――ん。いや、練習だ。戻しな)

 

(『いいのか? 負けるぞ?』)

 

(正面戸枝、望月は撹乱で手一杯だ。佐守、行け)

 

(はい)

 

(……で、諏訪には『佐守が来るまで保たせろ』とでも伝えてくれ。保たんだろうけど)

 

(『はは、たしかにな!』)

 

 どうにか剣を反らしつつ――スサノオは……。

 

(『ならばまずは――神的に逃げるぞ!』)

 

 とりあえず、冷静に諏訪を戻せるまで距離をとる。無論、向こうにそんな事情は無関係に追いかけてくるが、逃げながら内面の諏訪を叩き起こす。

 

◇

 

『おい、みこと。状況だけサクッと伝えるぞー!』

 

 ……え、何と思ったら体が勝手に走っていた。

 おまけに背後から凄い剣が飛んでくる。それをこの神はわたしの体を使って反らしながら言う。

 

『まず、交戦中だ! 相手の『異能』はようしらん! だが、とりあえず強い!』

 

 ……はぁ。

 はあ?

 

『故、今から体をお前に戻す。いい感じのタイミングでこう……ぽいっとするからな!』

 

 いきなりですか!

 

『そのいきなりな状況を作ったのはおまえだが……ううんまあいいか、とにかくいくぞ! さん、にー、いち!』

 

「――っと!?」

 

 体が元に戻った。

 しかし、相手は追撃してこない……。

 

「なんだ? 雰囲気変わったな〜……」

 

 片手には、なんだかとにかく鋭い刃を持っている。

 ……あの程度の魔力量でも、あの程度の刃は作れるのか、なるほど。

 

「ふう……では、不遜な輩に天罰でも下します、かと……」

 

 あんなもん、全力を叩きつければ終わる。

 少し悩んだが、あの刃は怖い。なので、まずは一撃で消し飛ばそう。

 

 幸いここは路地裏。やたらと湿って、閉所で、おまけに金属類も多い。

 

「――雷よ、不遜な輩を征伐しろ!」

 

 どんと、足を叩きつけると同時、全力の魔力で『この閉所全体』を焼き尽くす……!

 

「あ、やべ。『秋原の神剣』が来る。んじゃあね〜!」

 

「はっ――?」

 

 さっさと逃げていく、相手――いや、待てよ!

 ここはわたしに負ける場面だろうが!

 

「待て――!」

 

「あ、追いかけてくれるんだ。じゃあ楽だわ」

 

「…………え?」

 

 ぽかんとするわたしに、くるりと振り返りながら、その必殺の刃が振り抜かれ――

 

「――『抜刀。クサナギ』」

 

 ――その直前に、その刃は別の剣にて両断された。

 

「あ~……くそっ!」

 

 そう言いながら飛び退く不遜な輩。

 そしてわたしの前に立つのは――

 

「ええっと……まあいいか……『斬れ』ば」

 

 なにか、ため息をついている佐守先輩だった。

 刃を解除された佐塚さんは、元に戻った模擬剣を佐守さんに向ける。

 

「む。出たな『秋原の神剣』……! お前だけはこの刃で仕留める」

 

「なにゆえに……別段、あなたに恨まれる覚えはないのですが……」

 

「お前、やたらと村田先輩に気に入られてんだろ。他校生のくせに……」

 

「あ~……わぁ、また鏡かぁ……」

 

 はあっとため息をつきながらも、剣を握り直している佐守先輩。

 その構えは圧倒的にわたしよりも美しく――

 

「――では、あえて『熱剣の影』佐守あおとして、行きます」

 

 対峙する佐塚……先輩とやらも、模擬剣を改めて構えて――

 

「『妖刀の暗器』佐塚静香――『殺人。ジャック・ザ・リッパー』」

 

 詠唱破棄で刃を戻す佐塚さん。無論威力も効果も落ちるが――

 

「よっ!」

 

「おっと!」

 

 『殺人剣』と、佐守先輩の剣が正面からぶつかり合う。

 わたしにはそんなことしなかったのに。

 ちゃんと正面から剣戟をしている。

 

「さすが……『秋原の神剣』……強いなぁ!」

 

「あなたは、まだ少し下駄はかされてますね」

 

 わたしじゃあどうしょうもないような刃ですら、佐守先輩は“察して”弾いている。

 

 二人の目には、もうわたしなんて映っていない……。

 

(先輩、わたしも……雷とか!)

 

(えっ、あ~……いや、ここで撃たれると余計な――おっと!?)

 

「どうした、鈍ってんぞ『神剣』!」

 

「色々ありまして……!」

 

(先輩、わたし撃ちますよ!)

 

(ちょっと、黙――はあっと!)

 

(佐守さん。そちらに行きますか……?)

 

 念話に戸枝先輩の声が混ざる。

 そう言えばあの人は今、『中央で目立っている』。

 

 ならばわたしが向かうべきはこんな路地裏ではなくそちらでは――?

 

 そうしているとまた念話が届く。山名部長だ。

 

(諏訪、暫く黙れ。佐守、決められるか?)

 

(ちょっとだけ、無茶をすれば……!)

 

 『殺人の刃』を、わざと身体で受け取める佐守先輩――とはいえ、脱落ブザーはなっていない。

 その状態からさらに模擬剣を持ち上げて、無理矢理鍔迫り合いに持ち込んだ。

  

 そうして鍔迫り合いの最中――

 

「――『抜刀。クサナギ』」

 

「うおっ!?」

 

 いきなり――その『殺人剣』は改めて両断された。

 加えて倒れる佐塚さんの背中を、佐守先輩は改めて斬り捨てた。

 

「残念。……村田さんなら、ここから斬り返してきますよ」

 

 そんな言葉とともに振り下ろされる斬撃。

 そして、佐塚さんの脱落ブザー……。

 

「いてて……さて、さっさと逃げますよ。どうせこの位置は知られてますから……」

 

「え、でも……!」

 

 逃げるなどと、そんなことを『秋原の神剣』がやるのかと。

 

「今、まあまあやせ我慢してます……あと、あなたもそれなりのダメージを……ああ、スっさんが痛覚切ってるんですね」

 

『うむ。戻したらこいつまた暴走するぞ』

 

「……とりあえず、まだ用途はあります。多分、村田さんはわたし一人でも、戸枝さんでも堕とせな――」

 

(――ぐっ)

 

 とか話していると、その戸枝先輩の念話が届いた。

 しかもその後脱落ブザー!? それも『秋原の熱剣』の……!?

 

「ええっと……はぁ、もー!」

 

 と、佐守先輩は叫びながら、わたしの手を取って駆け出した。

 

(すみません、状況だけ)

 

(戸枝が村田と渡辺二人がかりで堕ちた。……つうか、逆にようあの二人相手にここまで耐えたな、あいつ)

 

(そりゃわたしのヒーローですから……ええっと、それで村田さんは?)

 

(あー……望月ぶつけたいが、渡辺がずっと隣にいるな……ちゃんと警戒されてる。よかったな、望月)

 

(嬉しくないですねぇ……った!)

 

 今度は『秋原のジョーカー』、望月さんの声が聞こえた。

 

(ああ。やべ……こっちも交戦中でーす! しかも『アスカロン』だ……うーわぁ……)

 

 ……アスカロン。聞いたことがある。

 多分聖剣だ。多分、『吸血鬼』の望月先輩には特攻――と思っていると山名部長の声がする。

 

(なるほど。村田の殺人剣は化生にゃ効かんからなぁ……え~、なんだあいつ、武光対策か?)

 

(まあ確かに武光さんはほぼ化生ですが……『鶴久の絶剣』という化生を討伐した逸話はないのでは?)

 

(そう、そこが現二年生の問題でな〜……)

 

(あああの、こっちもまあまあ苦戦中なんですけど!?)

 

 わたしの念話を使っているのに、わたしがまるで入り込めない。

 ……切っちゃえ。

 

(望月さんはどちら側です?)

 

(――え~、ここは――)

 

「は?」

 

 『秋原の神剣』が驚いた顔をしている。

 よし。よい成果だ。

 

「……え~と」

 

 なんだかモニョモニョ言っている。

 

『すまんな、苦情なら後で聞く』

 

「こうなると、望月さんは堕とせませんね……」

 

 佐守先輩は不意にわたしの手を離すと、こちらを――というかスっさんを向いていった。

 

「今、村田さんと渡辺さんが同時に向かってるみたいです。わたしは、望月さんの護衛に行きますので」

 

 そこで、ちらりとわたしを見てから、佐守先輩は――

 

「…………はあ。堂々と、迎え撃ってください。主役を名乗るなら」

 

「…………!」

 

 認められた!

 あの『秋原の神剣』に。ついに。

 わたしが一人前だと……!

 

『う~む。何秒持つか分からんぞ?』

 

「いえ、引きつけられるだけ価値はあります。山名部長も狙ってるので」

 

『はは! 吾を釣り餌扱いか!』

 

 なにか変な会話をしているが、まあいい。

 ならば諏訪みこと、その役目を果たしてやろう!

 

「では、わたしは――ああ、なるほど?」

 

 そう言ったかと思えば、佐守先輩は、不意に模擬剣を空に掲げ――

 

「――『斐川(かわ)の化身に、手向けよう』」

 

 その伝説の詠唱を謳う。

 

「『わたしは、彼の尾(八重の水)より生まれた(鍛えられた)『出雲国の剣(もの)』、だから』――」

 

 せっかくの『秋原の神剣』なのに、妙に辛気臭くてなんか変なのってちょっと思ってる鎮魂歌。

 どうせなら堂々とやればいいのにね――などと思っている内に、その規格外の魔力が完全詠唱で完全解放されて――!

 

「――『抜刀。クサナギ』」

 

 一閃――ただそれだけで、目前の街並みが文字通り『斬り捨てられた』。

 

 向かいには戸枝先輩の残り火と、それからこちらに向かってくる村田さんと渡辺さんとやらが見える。

 

「舞台を整えて上げました。あとはまあ……全力でお願いします」

 

 ぽんと肩を叩いてから、逆方向に向けて駆け出す佐守先輩。恐らく望月さんの方に向かったのだろう。

 

 ――ならば、わたしは堂々と前に立ち……あんな辛気臭い詠唱よりも花々とした詠唱を謳う!

 

「――『高天原に、称えよう』」

 

 我は主役ならば、手向けは不要。なぜならば所詮は悪者。

 

「『これは、彼の邪蛇より奪い取った『大和国の剣』である』」 

 

 ――この一撃で、わたしの魔力量だともう一回とかは不可能なんだけど。

 問題無いし。だってさっき、綺麗に見せてくれたし。

 

 ――そしてなによりも、『正当なのはわたし』だ。

 この剣の所有者はわたし、あの蛇の娘が神剣扱いなど片腹痛い。

 

「――『抜剣。アメノムラク「『抜剣。シシノコ』」

 

◇

 

 諏訪の脱落ブザーが鳴る。

 

「早……」

 

 などと呟きながらも、山名は分かりやすく見えた渡辺を撃ち抜く。

 これでこちらは三名。向こうは村田と『アスカロン』の二名。

 ついでに村田も撃ち抜いたが、先の渡辺への狙撃で逆算されたのだろう。即座に『斬り落とされる』。

 

「あいつも大分人間やめてきてんな……」

 

 などと呟きつつも山名は位置を変える。

 

(望月〜生きてるか〜!)

 

(なんとか〜! でももうちょっと無理かもです〜!)

 

(佐守〜間に合うか〜!)

 

(早すぎてちょっと無理かもです〜!)

 

 むう、と唸る山名。

 村田を落とすには化生がいる。まず人間であれは難しい。かの『異能』、『ムラマサ』は何分『魔力量差分を整えて、剣士として戦う土俵を生む矜持』だからだ。

 

 故に村田は、例えば望月とかは本当に苦手である。

 逆を言えば、望月が残ってくれないと、山名にとっては困るのだが……。

 

 ……そう思っていると、脱落ブザーが鳴った。望月の分だ。

 

 これで念話も使えなくなった。そうなると――

 

「あ~、村田は思いっきりこっちに来てるな……え~、佐守はまあ『アスカロン』の方に向かうか……」

 

 ならば、そのまま佐守に『アスカロン』は倒してもらう。なんだかんだ言って、現一年で剣術においては佐守は普通に上位層だ。

 

 村田は、どうにか距離を取りつつ狙撃で仕留めたいが……。

 

「マジでよくよく見てんなあいつ……」

 

 山名が狙いをつける前に、引き金を引く前に、遮蔽に隠れている。

 山名の狙撃の速度を読んで、しっかりとその隙間を潜り抜けてくる。まさに妖刀。殺人剣の本領だ。

 

「はあ……まあ、負けか」

 

 さすがに無理筋だろう。

 とはいえ、今日は練習試合。

 本戦ではないし、むしろ負けを教える意味もあった。

 

 ……あったのだが。

 

「まさか、念話切るとはなぁ……あとの反省会、どうするか……」

 

 っていうか、もう諏訪は入れない方がいいのでは?

 などと山名が思っている内に後方から足音が聞こえる。

 

「よっ――!」

 

 一応、振り返りつつ鉈を振るうが、当たり前に斬り替えされて――

 

「ま、これも散々秋原に振り回された恨み分だ……!」

 

 という村田の一撃で、山名は堕ちた。

 

◇

 

「――『抜剣。アスカロン』!」

 

「では、“薙げ”!」

 

 山名部長の脱落ブザーが鳴った。

 だからもうあまり時間はない――故にこの聖剣使いは。

 

「――聖剣使いなら、一番怖い人を知ってますので……“打て”」

 

 魔力を込めた大上段からの一撃で、『アスカロン』は叩き落とす――これであとは……!

 

「よっ」

 

「――っと!」

 

 ――村田さんとの一対一だ。

 

「――『抜刀。クサナギ』」

 

「おっと」

 

 遮蔽に隠れる村田さん。

 無論遮蔽は斬れるが、その先にいる村田さんは『視界にいない』から斬れない。

 

「へえ、そういう仕組みか……!」

 

「うわぁ、知られたくなかったなぁ……“払え”!」

 

 とにかく現状、遮蔽の多い路地では『クサナギ』はいまいち効果が薄い。

 とはいえ、純剣術では敵わないので――

 

「悪あがきは、させてもらいますっ――」

 

 逃げる。路地裏がありがたいのはこちらも同じだ。

 なにしろ、村田さんは基本的には人間である。

 だから『近づいて斬らねばならない』。

 

 角を曲がった瞬間に――

 

「――"払え"!」

 

「おっと!」

 

 魔力を込めた薙ぎ払いに対して、路地裏の壁面を三角飛びの容量で避けている村田さん。

 え、かっこよ。

 

「はいよっと!」

 

「うわっと」

 

 ――なんて見とれている場合ではなく、振り降ろされる斬撃を回避する。

 なるほど。妖刀使い……そして殺人剣……確かにこれは……!

 

「殺人鬼よりも、よほどでは……!」

 

「佐塚ほどでもねぇよ……そういう『異能』じゃないし」

 

 なんて言いながらも、村田さんは狭い路地裏を立体的に駆け回りながら迫ってくる。であればこれは普通に身体技術――その方がよほどでは?

 

「ううむ……ならば『抜刀。クサナギ』!」

 

「お」

 

 壁面ごと、周囲の建物を横薙ぎで全部両断した。とりあえず、狭い路地裏は若干村田さんのほうが有利だ。

 ならば、その有利をまとめて『斬る』。

 

「あとは、『抜刀』――」

 

「ならこうだな」

 

 村田さんは崩れた瓦礫を握ると、それをわたしの顔に投げつけてきた。

 

「……!」

 

 顔が汚れる、意識が奪われる。――何よりも『視界が塞がれる』。

 

「はいよ」

 

 故に、続く村田さんの一撃を、わたしは躱せない。

 ――最後の脱落ブザーと、試合終了のブザーがなった。

 

◇

 

「ふうむ……」

 

 ……山名部長が頭を抱えている。

 わたし、諏訪みことはなぜか秋原の方々と、洛陽の方々に囲まれて座らされている。

 なんだか空気が重い……何故だ。そう思っていると、不意に望月先輩が口を開く。

 

 まるでこの、わたしに向けられた空気をそらすかのようにへらへらと。

 

「ていうか、僕メタで固めすぎじゃないっすか、村田さん。準々決勝で僕に負けたのそんなに悔しかったんですか?」

 

「知らん。私の弱点補うと自然とこうなる……あとお前、なんか勝ち誇ってるけど、あれは勝ちじゃねぇだろ……」

 

 そういえば、確か今年の『国異』準々決勝では村田さんと望月さんがタイマンしていた……あの時は、村田さんが山門の門番として階段に立ち――

 

「そういえば――」

 

 と口を開くのは戸枝先輩。

 

「あの時の望月さん、やたらと早く来ましたが、どういう勝ち方をされていたのですか」

 

 あの時は完全に『秋原の熱剣』誕生の瞬間にカメラが映っていたから、望月先輩と村田さんの戦いは配信にも映っていなかった。

 

「望月さんのドレインと『ムラマサ』では、無限地獄になるだけでは――」

 

「ああ、それは僕の機転が「こいつが階段から滑り落ちたから手を伸ばしたらそのまま吸われた」

 

「わあ」

 

 と、素朴な声を上げるのは佐守先輩だった……。

 

「だから何か、慌ててたんですか、あの時……」

 

「ああ、いや? もちろんあおちゃん助けるためだよー」

 

 なるほど……機転を利かせたんだ……。

 

「ダメですよ、望月さんは嘘しか言わんのだから」

 

「いや、そこはどうでもいい。どうでもいいんだが……あーえー……」

 

 山名部長がまた頭を抱えている。

 

「……何か、とりあえず秋原の反省会なら、ウチ帰っていいか?」

 

「いや、そっち視点も聞きたい……どうだった?」

 

 わたしを指す山名部長。

 それに村田さんとわたしに剣を突き立てた不遜な渡辺さんは――

 

 

「弱い」

 

 

 一言であった。

 

「あー、んー……。まあそうだよなぁ、それだけならいいんだが……」

 

 何やらモニョモニョ言ってる山名部長。

 

「なぁ、諏訪さん。君は、高校に入ったら競異部に入りたいか?」

 

「はい!」

 

 そして『秋原の熱剣』、『秋原の神剣』のような世代を象徴する代表になるのだ。

 

「まあ、夢があるのはいいんだが……あー」

 

 はあっと、ため息を再び吐いてから、山名部長は。

 

「まあいいかー! どうせ来年も選抜戦やるし! そこであれこれわからぁな!」

 

 そう未来に放り投げる。なるほど選抜戦……!

 そういえば佐守先輩が選ばれたのもそれがきっかけだと聞いた!

 

「任せてください! わたしの実力、来年見せてあげます!」

 

「ああ……本当に頼むな……」

 

 わたしの未来は薔薇色であるというのに、何故か山名部長はため息しかついていなかった。




 諏訪みこと編(完)
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