わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで 作:遠野静
黒縄事件以降、そんなわけで他の学園組は帰ってしまった。
よって残るは『白夜の綺羅星』諸星阿左美二年生と、『再誕の聖剣』寄藤環の二人。
すると、思ったよりも冷静な諸星は口を開く。
「ふうむ……しかし、来年のチームに課題があるのはウチもよなぁ」
「そうですね……」
何分、今年の『国異』面々は諸星二年、寄藤一年を除けば、逸見三年、加藤三年、黒縄三年である。
強豪白夜、適当な一、二年でもそこそこの強さはある。――とはいえ、それを押し退けて寄藤一年が入れる程度の強さである。
いや、寄藤は普通に一年の規格外、上位相当なのだが――
「ううむ……お前の『輝剣』も、逸見先輩みたいに『加護』を配れんか?」
「試したし、もう大体の機能は一応、反映済みではありますが……」
『輝剣の加護』。『魔力共有』。『念話云々』などなど、一通りの円卓機能は揃っている。
名も無き剣でも、『魔力共有』、『念話』が使えるのは十分脅威であるが――
「ちょっとダメです。相手の意識を乗っ取りますね……」
なにしろ、名も無き剣達は寄藤の獣性である。
そんなもん、並の選手にぶち込めば――まあ、ベルセルクになる。
名のある剣でも同じだ。『ガラティン』なんて渡したら、他の選手が『次代の聖剣』時代の寄藤になるだけ――かと言って、『加護』に回す魔力を減らせば、今度は意味がほぼなくなる。
諸星二年のようにやたらメンタル強き者でもなければ、寄藤環の精神力はちょっとヤバいのだ。
故に、諸星部長はちょっと悩んでいる。
来年、あまり魅せられないのは大層格好悪い。
「ううむ……。どうせ一年後には『白夜の聖剣』のネームバリューで、規格外も入ってくるだろうが……しかし、今年は秋原に優勝を奪われたしなぁ……」
「うえぇ……」
と、口を開くのは『再誕の聖剣』寄藤環。
『白夜の聖剣』に憧れて入ってくる規格外の一年など、もう勘弁である。本当に勘弁である。自分にどんな感情を向けられるかも分からんし、あともう鏡はマジで懲り懲りだ……。
「――とはいえ、ある意味『ガラティン』との相性はいいのか……? いや、ううん……」
後輩に自分と同じ轍を踏まれても困る……。
「む……となると、やはり残りの二年で埋めるか。最後は華々しく、格好良くいこう」
「ついでに来年は優勝しよう」という諸星。結論としてはそこに帰結する。寄藤も、来年が最後である諸星世代に特に異は唱えない。
唱えないが――
「負けますよ」
割と素直に感想を述べる寄藤。
なにしろ『その他』である。これはもうキャラが立っていない。などという問題ではなく。何分、逸見明音に憧れて入った二年世代――新部長である諸星は特殊個体だが、その他の二年生は大体文字通りに十把一絡げ。
別に練習してないわけではないが、『白夜』の部員であること自体に満足してる連中ばかり。
それも、今年の敗退で折れかけている。
「ふむ……やはり副部長はおまえだ、寄藤」
「ええ……一年に任せんでくださいよ……」
結構、ガチ目に苦情を入れる寄藤。ただでさえ『一年』で白夜の選抜メンバーに選ばれた、故に他の白夜の上級生からの覚えは大変悪い。
「そこ踏まえても、お前。……そうだなぁ、うちの馬鹿共に格好良く稽古をつけてくれ」
結局のところ、一番問題なのは『再誕の聖剣』を認めきれない部員たちの心の問題だ。
なので――
◇
「はあ……まあ。こうなるか」
白夜の練習場で、模擬剣を握る寄藤。向かい合うのは諸星を抜いた、都合一、二年の先輩諸君。
総勢二十名前後。一対二十とかいうめちゃくちゃな状況ではあるが、それを作った諸星部長は笑っていた。
「格好良く打ちのめせ? したらまあ、多少は分からなぁな」
「退部者、増えないといいんですがね……」
そうボヤく寄藤を尻目に、さっそく試合開始の合図が起こる。
まあいいか……などと、寄藤は思いながら剣を構え――
「――『彼方の果て。憧憬の煌めき。夢を抱えて飛び立とう』」
その想い、その矜持、その願いを謳い上げる。
「『再誕の門よ開け。今ここに
白夜高生にとっては見慣れた――それ故に認めたくない白光が模擬剣を包む。だが、断じて認めたくはない。だって、彼女は『選ばれなかった』のだから――
――などと言う周囲の戯言を、蹴り飛ばすかのように。
「――『抜剣。エクスカリバー』」
――その剣は、彼女を『選んだ』。
「はっ」
周囲からの愛憎入り混じる視線を鼻で笑い飛ばしながら、寄藤環はなお謳う。
「――『集え円卓。かの剣に覚えがあるならば』」
その憧れ。その夢を触媒に、己の過去を振り返りながら。
そこに至るまでの自分を思い返しながら。
「『我が轍。憧憬に至る路、今ここにその歩みを示せ』」
くすんだ十二の狼の群れ――の如き輝剣の群れを周囲に展開し――
「――『召集。ナイツ・オブ・ラウンズ』」
――己がすべてを――かの『白夜の聖剣』への憧憬を、ここに、白夜の生徒達に見せつける。
それから、寄藤は『聖剣』の切っ先を白夜高生たちに向けた。
寄藤環、多少は丸くなったとはいえ、上級生に『上級生だから』などという敬意はまるでない。
彼女の思想は至ってシンプル。『強いか』『弱いか』――そして――
「ほら、来なさいよ――月に吼える度胸も捨てた、牙を抜かれた犬畜生共」
『強くてもなお、高みに挑む気概』を忘れた者共など、この狼には文字通り臆病者に過ぎないのだ。
……とはいえ、さすがに『一年生にそこまで言われては』、『白夜生の面子』に刺さる。
そこではないが、などと思いながらも、迫る上級生たちに――
「は〜あ……まずは『
赤く燃え上がる滅びの魔剣が、寄藤を気にせず寄藤の正面に爆音を起こす。
とはいえ所詮――いかに寄藤の魔力量が規格外とは十二分の一だ。直撃すればともかく、地面に刺した爆発程度では誰も脱落ブザーはならない。
――それでも、ほとんどの白夜生は『それだけ』で怯んで止まる。
飛んでくるのは――
「――『この剣は邪悪を殺す聖光なり』」
煙の中から詠唱が聞こえる――まさに正統、王道を行く剣の謳。暴虐を許さぬ秩序の矜持。
「『指輪よ歌え。ここにて邪竜を撃ち落とす』」
その声を聞きながら、寄藤は距離を取るが――
「――『抜剣。バルムンク』」
『エクスカリバー』ほどの知名度はなくとも――しかしそれに並ぶ『竜殺しの聖剣』が襲いかかる。
『白夜の竜殺し』司馬辰巳――二年生の剣は、とにかく重い。
こと腕力に限れば諸星二年を上回る。それに加えて『竜殺し』ついで『邪悪殺し』――つまり『悪』に特攻が乗り、加えてその斬撃は『竜を両断できるほどに伸びる』。
「よく煽ってくれたなぁ、寄藤……!」
その剣の対処を無名の輝剣に任せつつも。しかし恨まれたものだと寄藤は思う。
仮に寄藤が白夜に入らなければ、司馬二年は確かに選抜に選ばれる程の実力者だ。
加えて同じく『憧憬の剣』――逸見明音に師事されていた時間は、彼女のほうが一年多い。
だが――
「――唄が整ってませんね。『ダインスレイヴ』」
『指輪よ歌えってなんだよ』などと思いつつ、左手に『ダインスレイヴ』を逆手持ちしながら、『聖剣』で司馬二年の『バルムンク』を払いつつ回転を加えて逆手持ち『ダインスレイヴ』で斬る。ついでにそのまま蹴り飛ばす。
「がっ……!」
とはいえ、『そこ』で終わるほど、『白夜』の層は薄くない。
「――『我は詩人。我は戦士。我は勝利の神ならば』」
続けて謳われる詠唱。今度もまた二年生だ。
「『歯向かうならば、応えよう。これは勝利の剣である』」
その歌を聞きながら、ぽいっと『ダインスレイヴ』を投げ捨てつつ、寄藤は距離を取る――
「――『抜剣。フラガラッハ』」
飛んでくる『自動追尾の剣』に対し――
「『
下から同じく自動追尾の剣で、無理矢理軌道を逸らす。
しかし向こうの聖剣使いは、どうも『自動的に手元に戻ってくる』らしい。
相手は先の司馬と同じく白夜の二年、『勝利の剣』上見類。
「ちっ……そこはちゃんと当たっとけよ、一年生!」
「上見先輩の軌道が、分かりやすいんですよ……!」
実に実直、勝利に向けて一直線だ。
故に、そんなのは四足の狼はすり抜ける。
――とはいえ上見先輩もやはり実力者。キラキラしすぎて、ちょっと人によっては眩しすぎる諸星と違い、自然と人を集めるタイプの弱い光属性。
ついでにしっかり剣も習っている――故に寄藤も躊躇わず迫るが――!
「――はっ! とはいえ、こっちも今のお前相手に一人では挑まん!」
そう言って大きく距離を取る上見二年。
その背後から、一人の一年生が現れる。
……名前は、誰だったか。
基本的に寄藤は、自分より弱い人間に興味が薄い。
「――『この財宝を持ってして、我は復讐の王となる』」
――歌われるのは『王』の歌。
しかし、明らかに正統な王ではない。彼女を取り巻く漆黒は、どちらかといえばあの吸血鬼の闇に近く――
「『駆けた轍を振り向くな。我は今より――』」
――ああ、とやっと思い出す。
彼女の名前は岩尾衣。その『異能』は――
「――『襲名。モンテ・クリスト』」
――『復讐の王』が、闇を纏って迫る。
魔力量に関わらず、その他の殆ども寄藤より数段落ちる岩尾一年。
しかしその剣は、今寄藤と拮抗している。なぜならばそれは『復讐鬼』故――
「――なんで、あんただけが……!」
「……はっ」
……『恨みの対象ほど、身体強化が強まる。文字通り格上殺しのルサンチマン』。
「おっと。……はあ。一旦爆撃――!」
なるほど、この三名か――『バルムンク』に『フラガラッハ』に『モンテ・クリスト』。
来年新しい一年生待ちでもあるが、十分な有名どころ――
――十分、『謳われた名前たち』だ。
『白夜』に入る時点で、そうだろうとは思うのだが……。
「――『名もなき者、謳われぬ者、選ばれざるわたしたちよ』」
狙いは拡散するだろう。その分基礎的な威力は落ちる。
「『ならばここにそれを謳おう。全ての星屑のために』――」
――落ちるだろうが、問題ない。だって向こうは、ああも有名ドコロばかり。
ああも『己こそ白夜にふさわしい』と謳ってくれているのだから――
「――『咆哮。ノーバディ・ロア』」
赤黒い光が拡散して、三名まとめて吹き飛ばした。
「んじゃ――爆撃」
あとは適当に爆撃しておしまい。である。
残りのメンツは……もう向かってくる気合いすら感じない。
ううむ……と悩む白夜の狼。しかし綺羅星は快活にケタケタ笑う。
「はは! まあ実力はこれでよくわかったな! まあ来年まではこのメンツでいくか!」
「そういう問題ですかぁ……?」
やっておいてなんだが、本気で退部者が増えんかと心配する寄藤に、しかし現部長は笑っていた。
「折れたら折れたでその時だ! なぁに、うちの部員はそんなに弱くないぞぉ!」
多分、そんなことはないが。
とはいえ――『白夜の綺羅星』の人を惹きつける才能は確かだ。
ならばもう、この後のフォローは諸星に任せようと寄藤は思う。新部長なのだから。
「うーん……来年どうなるかなぁ……」
結局のところ、未来がわからんのは白夜も同じなのだった。