ワンダラーズレコード 魔法少女まどか☆マギカ逆編 作:レンコン W01
「……………………お腹すいた」少女はベッドから顔を出し、最初にそう零した。
「本当にあなた、キャラのブレが酷いわよ。昨日のあの漫画の主人公っぷりはどこ行ったのよ」もみじは新しいレジ袋を持って部屋に入る。
カーテンを開けると、明るい陽の光が部屋を満たす。
あの夜もみじは魔獣と戦い、そして全てを滅ぼした。すぐにソウルジェムを少女に戻し、彼女はすぐに目を覚ましたが、結局そこで立ち往生した。
最初こそどこか迷惑のかからない場所で寝泊まりしようとも思ったが、やっぱり言って寒かったし熱いシャワーも浴びたかったので、渋谷駅近くのビジネスホテルに不法滞在したのだ。
「あれ?もみじどうやってコンビニまで行ったの?わたしのソウルジェムはここにあるのに」
「ああ、何ていうか──魔法少女として戦ったお陰で、そのデメリットが無くなったの」
「……ふぇ?」聞き間違えかと少女は聞き返す。
「昨日私が魔法少女として貴方のソウルジェムを着けながら魔力を使いまくった結果、あなたと私の細い魔力のパスが強くなって、距離とか関係なく魔力の供給をしてもらえるようになったの」
「……それ、わたし大丈夫なんだよね」
──多分。
そうしておにぎりとチキンで空腹を満たした二人は、乱れたシーツと掛け布団を整えた後、窓から外へ移動してから入口の前で少し頭を下げてから、初めて目を覚ました渋谷駅前のベンチまで辿り着いた。
辿り着いたのだが────
「…………………………はぁ」寒い中、もみじは羽織っていたジャケットを脱いでそれを頭巾のように頭に被っていた。
「もみじ、やっぱり単純に人混みが苦手なんじゃ?」
「いえ違うのよ。生前は普通に生きてけたし、これでも昨日よりは大分マシになっているでしょう?」
「だとしても、それじゃ明らかに移動しにくいし……あ」
そこで少女はあることを思いつく。
「もみじ、ちょっとここで待ってて。わたし、いいこと思いついた」
「えっ私も一緒に──」
「ごめん、その格好で人混みの中歩かれても、多分迷子になる」
──なっそんな私を足手まといのように!?
そしてそのまま、もみじは十数分人の往来が激しい渋谷のド真ん中に置いてけぼりにされた。
少し顔を上げてみると、昨日の騒ぎがニュースになって大型モニターに写っていた。どうやら大規模なガス爆発とそれに連なる地面陥没事件となったらしい。死傷者は居た。重症者はもちろんいた。正しいか正しくないかで言ったら、昨日の私はきっと正しくないだろう。
ただ少し、こう言っちゃ恨まれると思うが、生前魔法少女はをやっていたときと比べれば、胸は楽だった。頑張ったほうだと思えた。それはきっと、生前あんなふうに生きたからだろう。
◇ ◇ ◇
「お待たせ、もみじ」
遂に少女が戻ってきた時には、もみじはしおしおになっていた。
「やっと……帰ってきた──」死体のようにベンチで寝込んでいてもみじは、反射的に声のする方へ手を伸ばす。すると触れたのは、分厚い布の生地だった。起き上がって見てみると、少女は白い被るタイプのパーカーを手に持っていた。
「え、なにそれ──まさか、あなたも盗みを!?」
「ううん。あっちで困ってた海外から来た人に道案内してあげたら貰えた」
──マジか。まさか昨日のお菓子も同じような手法で手に入れたのではあるまいな?
「このパーカー、ジャケットの上に被ってみて」
そう言って手渡されたパーカーに、もみじは袖を通してみた。少しサイズは大きいが、今のこの気温だと暖かさの恩恵で気にならない。
着終えると、少女はフードを掴んでもみじに深く被せた。
「こうすれば、他の人と目も合わないし、音も聞こえにくいでしょ?」
……確かに、少しこの方が楽である。そのことを伝えようともみじが少女の顔を見ようと上を向くと、彼女は少し、いたずらっ子っぽく笑みを浮かべていた。
「ありがとう、えっと──」そこでようやく、もみじは少女の名前を呼ぼうとした。けれど彼女を呼ぶ名なんて無い。彼女を指す言葉は固有のなにかは、どこにも無かった。
「……ねぇ」もみじは少女を隣に座らせながら話す。
「あなたの名前を考えましょ」
「名前──」
「今この世界で、幸せになりたいんでしょ?なら名前くらい持たないと。私も困るし。もし本当の名前が見つかったなら、それに戻せば良いのだし。それで、どんな名前にする?」
そう聞くと、少女は顎に手を当てて考えた。けれど思いつくのはだいたい原宿で買ったお菓子の名前しか思い浮かばない。
「もみじに決めてほしい」
「あら、いいの?それなら…………”ナナシ”はどうかしら?ちょっと安直だけれど、後々本当の名前を思い出すならこれくらいのほうがいいでしょ?」
もちろん、少女は顰め面をする。
「なによ流石に不満?」
「いや────”渡月”を考えた人にはちょっと思えなくて……」
──あれはアイツと一緒に考えたのよ。
「悪かったわね、あれは地元の名所から取ったのよ」いつの間にか、彼女の顔はそれまで通りの無表情に戻っている。ただなぜだか、もみじにはその顔が満足そうにも見えた。
そして少女は指輪を天に掲げてこう叫ぶ。
「私の名はナナシ!魔法少女だ!!」
「────────ふぇ?」
ナナシの叫びは、都会の喧騒へと飲まれていったが、もみじの耳には延々と反響していた。「な、な……な──なんでそんなの知ってるの!?」
──そういえばなんで私の刀の名前知ってるの!?
「え?昨日もみじが叫んでいるのを聞いたから。こうすれば変身できるかなって」
ウソでしょ!?あの時気を失ってたはず……いや実は少しだけ目が覚めていたの!?
「いいナナシ、その文言は忘れなさい。絶対に忘れなさい。あの夜私は名乗りなんてしていない。はい復唱」
しかしナナシは呆れながらそれを無視した。
「そんなことよりも」
「そんなことではない」
「わたし、思い出したことがある」
──本当に私の言うこと名乗りなんてどうでもよかった!
「いつの間に!?」
「今さっきもみじと合流した時。多分ここは、スタート地点でもあって集合地点でもあったんだと思う」
どういうことか、それを聞くとナナシは続けた。
「この街は──東京は私の暮らしていた所ではないけれど、行く予定だったところ何だと思う。修学旅行で」
修学旅行──もみじは魔法少女のこともあって不参加だった。それも関係しているのだろうか。
「その計画で、友達と一緒に最初に集合しようって話してたのが、この渋谷駅。ここから原宿とか、中野とか、たくさん行こうねって、そう決めてた気がする」
──となると、これはナナシの修学旅行のやり直しなのかもしれない。
「なら、次の行き先は決まりね」そしてもみじは立ち上がり、ナナシに手を伸ばす。
「他に行くところも無いし、行ってやろうじゃない。あなたの行きたかった場所。電車賃なんてないから、歩き回るわよ。覚悟しなさい」
「────うん!!」ナナシは手を取り、引っ張り上げられた。
そして人が、音が、光が飛び交うこの街で、二人は歩み始める。
これが私たちの始まり。静けさを知らないこの街で、私たちは互いに一人ぼっちで、さまよい歩き、大切なものを見つけようとする。そんな話だ。
◇ ◇ ◇
「あーあ、出遅れた。完全に出遅れた」
一人の紅い魔法少女が、渋谷駅の屋上で街を、人を、二人を見下ろしながら呟く。
「全くこれじゃ正義失格だぜ。円環の理も、もう半日早くに送ってくれりゃ魔獣なんぞに誰も殺させなかったってのに。それに悪魔野郎に直接殴り込め無いのも歯がゆくて仕方がないが──まあいいや。ここはちゃんと俺があのバグども、ぶち殺してやんよ」
やっと一区切り付きました。