一般的でちょっと病んでる褪せ人、テイワットに迷い込む 作:デス麦茶
軽い跳躍、身を翻して放たれる黄金の刃。
彼女は本気で殺しに来ている。
掴みを受ければ刀身の反った短剣が皮膚を破り、肉を掻き進む。
地面に引き倒され、地面に届くほど強く刺される。
「どうして…狂い火を受領したの…」
肺を突き抜けるような傷、吐く言葉が濁って湿った音しか出ない。
死なせたくなかった
私を殺して
次は……
死の瞬間は常に一瞬で、祝福でやり直せた。
死から生は地続きで、どこで死のうとそれも生のワンシーンでしかない。
だけど、この死は永遠に続く、連続した次はないだろう。
………
……
…
「おーい旅人ぉ! オイラはここだぞー!」
知らない少女の声が痛む鼓膜を通り脳を揺さぶった。
斬撃、刺突を受けた部位がひどく痛み、咳き込みながら起きる。
目の前に広がる見知らぬ自然。
「た、旅人……?」
草むらの向こうから声の主がひょっこり、という表現の通り飛び出す。
白い髪、白い服の宙に浮く小さな少女。
どこか疲弊した様子はあるが、綺麗な服に艶のある流れのある整えられた髪、浮いているのに履いた靴はほつれがない。
「ひぃ! 誰だよお前! うわぁ、血がついてる!」
「……」
喉に詰まった物が凝固しないうちに口から吐き捨て、トドメを受けた箇所を探る。
確かに傷口はいくつも存在し、血も滲む以上に流れてはいるが、どれも内臓に達しておらず致命傷たりえない。
彼女が私を見逃した? そんなことがあり得るだろうか、使命を全うするためなら自己犠牲も厭わない彼女が? 生まれることを否定して全てを一つにしようとした私を見逃すなんてないだろう。
「これは返り血、問題はない。君は、誰か探しているんだろう、早く行った方がいいんじゃないか?」
「……そ、そうだ、旅人を見なかったか?」
傷口に指を埋めながら言うのは説得力に欠けると思ったが、どうもそういう状態を機にできる状況ではないらしい少女は”旅人”と呼称する人物を探しているらしい。
「……知らん、誰も見てない」
少女はあからさまにがっくりと肩を落とす。
きっと大事な人なのだろう、それに旅人……という呼称から察するに共に旅をしていた仲間なのだろうか、傷口に突っ込んだまま居座らせていた指を引き抜き、着込んでいた旅巫女のローブで拭う。
「手伝おうか? その、君がよければだけど……」
「い、いいのか!? オイラ、一人じゃなにもできなくて……もう3日経つのに……」
旅巫女の上下に黒団子を被っておきながら提案しても無理があると思ったが、小さい少女はその容姿相応に幼いのか、はたまた疲れ果てているのか、あっさり提案に乗った。
いいのか?