RAINY CROWN(Re:make)   作:KAMENRIDER

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( ˙-˙ )…フゥ


2.第二の人生

 

 

目を覚ました瞬間、最初に視界へ入ってきたのは見知らぬ天井だった。

 

白い。

 

ただし、前にいた何もない真っ白な空間とは違う。天井には照明が取り付けられており、少し視線をずらせば壁との境目も見える。どこか遠くから生活音も聞こえてきて、窓から差し込む柔らかな陽射しが部屋の中を照らしていた。

 

つまり、ここは間違いなく誰かが暮らしている場所なのだろう。

 

法(……知らない天井だ)

 

一度は言ってみたかった台詞が頭に浮かんだところで、俺は身体を起こそうとした。

 

しかし動かない。

 

いや、正確にはまったく動かないわけではない。両腕を動かそうとすれば動くし、脚にもきちんと感覚がある。ただし、自分が思い描いた動きと実際の動作がまるで噛み合わなかった。

 

身体を起こそうとしているのに、出来るのは手足をもぞもぞさせるくらい。首も満足に支えられず、視界の高さも妙に低い。

 

そこでようやく、俺は自分の手を見た。

 

小さい。

 

とんでもなく小さい。

 

指なんて、前世の俺と比べれば玩具のような大きさしかない。

 

「……ぁー」

 

声を出してみる。

 

ちゃんと喋ろうとしたはずなのに、口から出てきたのは意味のない幼い声だった。

 

数秒。

 

俺は無言で天井を見つめた。

 

そして、確信した。

 

法(……赤ん坊からスタートかぁ)

 

転生という言葉から、てっきりある程度成長した状態で目覚める可能性も考えていたのだが、どうやら神様は随分と律儀に人生の最初からやり直させてくれたらしい。

 

第二の人生。

 

文字通り、生まれたところから開始である。

 

法(いやまあ、転生って本来そういうもんなんだろうけどさ)

 

せめて首くらい据わったところから始めてくれても良かったんじゃないかと思いつつ、周囲を確認しようと身体を動かす。

 

ところが、これがなかなか難しい。

頭では「右を向く」と分かっているのに、身体の方がまともについてこない。少し力を入れただけで全身がぐらつくし、前世では意識すらしなかった動作一つに苦労する。

 

身体の操作方法を知っているのに、その身体がまだ操作へ耐えられない。

思った以上に不思議な感覚だった。

そんな俺が布団の上でもぞもぞしていると、部屋の外から足音が近付いてきた。

 

「あら?」

 

柔らかな女性の声がする。

 

「起きちゃったのかしら?」

 

扉が開き、一人の女性が姿を現した。

 

若い。

 

最初に抱いた感想は、それだった。

 

長い髪を後ろへ流した、穏やかな顔立ちの女性だった。寝起きの赤ん坊を驚かせないようにしているのか、ゆっくりと歩いてくるとベッドの側へ身を屈め、こちらの顔を覗き込む。

 

「どうしたのかなー、天之助?」

 

(……天之助)

 

その名前を聞いた瞬間、胸の奥へ小さな安堵が広がった。

 

どうやら名前は前世と同じらしい。

 

神様が気を利かせてくれたのか、単なる偶然なのかは分からないが、自分が自分のままでいられるものが一つ残っていたことは素直にありがたかった。

 

女性は俺をそっと抱き上げる。

身体が浮く感覚に一瞬驚いたものの、腕に包まれるとすぐに安心感の方が勝った。

 

母「お腹空いた? それとも寂しかった?」

 

法「あぅ(いや、状況確認してただけです)」

 

違うと言いたいが、ちゃんとした返事は出来ない。

 

法「ふふ、元気ねぇ」

 

意思疎通が出来ないとは。

転生早々、最大級の壁にぶつかった気分だった。

 

とはいえおそらくこの人が。

 

法(母親、か)

 

頭の中だけで呟く。

後々知ることになるが、彼女の名前は法雨美空。

この世界における俺の母親だ。

 

前世の記憶がある以上、最初から何の抵抗もなく「母親」と認識出来たかと言えば、そうではなかった。

 

俺には既に一度人生がある。

 

一度生まれ、一度育ち、一度死んだ。

 

だから、今目の前にいる女性を突然「母親です」と言われても、記憶と感情がすぐに切り替わるわけではない。

 

それでも。

 

美空さん――この頃の俺は心の中でそう呼んでいた――がこちらへ向ける表情には、疑う余地のない愛情があった。

 

赤ん坊の俺が少し動けば様子を見に来る。

泣けば抱き上げ、笑えば嬉しそうに笑い返す。

俺がその中身だけは妙に年食った赤ん坊だなんて、知る由もない。

 

ただ純粋に自分の息子として大切にしてくれている。

 

法(……第二の人生、ね)

 

神様の言葉を思い出す。

もし本当にもう一度生きるのなら。

いつまでも「転生先の母親」なんて他人行儀な見方をしているのも違うのかもしれない。

 

そんなことを考えていると。

玄関の方から扉の開く音がした。

 

「ただいまー」

 

今度は男性の声だ。

 

「あ、おかえりなさい」

 

俺を抱いたまま、美空さんが部屋を出る。

 

リビングへ向かうと、仕事帰りらしいスーツ姿の男性が鞄を置いているところだった。

 

こちらに気付いた瞬間。

男の顔がとんでもなく緩んだ。

 

「おっ、天之助起きてるじゃないか!」

 

(あ)

 

嫌な予感。

 

「ただいま美空! そして天之助ぇ〜、今日も可愛いなぁ〜!」

 

男性が一直線に近付いてきた。

後に父親だと分かる男、法雨勇人である。

 

そして、この父。

息子に対してまあまあ親馬鹿だった。

 

父「よーしよしよし」

 

頬へ指が伸びてくる。

 

むに。

 

むにむに。

 

法(痛い痛い)

 

赤ん坊の頬が柔らかいからといって、好き放題していいわけではない。

 

母「あなた、あんまり強くしちゃ駄目よ?」

 

父「分かってるって」

 

むに。

 

父「可愛いなぁ」

 

法(絶対分かってない)

 

すると、何を思ったのか。

美空さんまで反対側から俺の頬へ指を伸ばした。

 

母「じゃあ私も」

 

法(何故!?)

 

むに。

 

左右同時にむにむに。

 

法「あぅあ〜!?(俺の顔は練り物じゃないんですが!?)」

 

しかし俺は喋れない。

抵抗らしい抵抗も出来ない。

 

父「ほら、喜んでるぞ」

 

母「元気ねぇ」

 

法(抗議だよ!)

 

夫婦はしばらく俺の頬を弄って満足すると、ようやく解放してくれた。

俺は美空さんの腕の中で、非常に疲れた気持ちになりながら二人を見る。

 

仲が良い。

 

それはすぐに分かった。

 

勇人は大手企業に勤めており、若いながらかなり良い立場にいるらしい。仕事は忙しいようだったが、帰宅すればまず美空と俺へ声を掛け、休日には家族との時間を取る。

 

美空もまた、そんな勇人を支えながら俺の世話をしていた。

 

前の人生とは違う。

知らない家、両親、世界。

なのに不思議と居心地は悪くなかった。

むしろ日を重ねるごとに。

俺の中から「転生先の」という言葉が

少しずつ抜けていった。

 

◇

 

そんなある日の夜だった。

 

食事を終えた両親が、俺を近くへ寝かせたまま話をしていた。

 

当然ながら、この時の俺には大人と同じ食事など出来ないので、両親の会話を聞きながら暇を潰していたのだが。

 

母「…ねぇ、あなた」

 

美空の声が、いつもより少しだけ静かだった。

 

勇人が顔を上げる。

美空は眠っていると思っている俺の方へ一度視線を向けると、小さく息を吐いた。

 

母「この子のこと……どう思う?」

 

法(……俺?)

 

俺は目を閉じたまま、耳だけを会話へ向けた。

 

どう思う。

 

随分と漠然とした質問だ。

 

勇人も、すぐには答えなかった。

 

しばらく考えた後。

 

父「……可能性は、あまり期待しない方がいいかもしれないな」

 

法(…………はい?)

 

俺の中で警報が鳴った。

 

可能性は期待しない方がいい。

 

 

 

法(待って待って待って)

 

赤ん坊の身体は元気だ。

少なくとも、自分で感じる限り何か異常があるようには思えない。

だが自覚症状のない病気なんて、いくらでもある。

 

法(俺、何かヤバい病気でも持ってんの!?)

 

転生成功からの五歳までに余命宣告とか絶対嫌なんですが。

 

法「……そうよね」

 

美空の声も沈んでいる。

 

法(おいおいおいおい怖えよ。具体的に言ってくれ、何の可能性だ。

生存率か。治療可能性か。)

 

父「俺達の子だからな」

 

勇人が続ける。

 

法(まさかの遺伝性!?)

 

恐怖が一段上がった。

 

対して勇人の声は穏やかだった。

 

父「勿論、もし無くても、この子はこの子だ」

 

美空もすぐに頷く。

 

母「うん。私もそう思ってる」

 

父「それに、健康に育ってくれれば、それで充分だろ?」

 

母「……そうね」

 

法(いや健康に育てるかどうかの話してたんじゃないの!?)

 

この時俺だけが盛大に勘違いしていた。

当然、この時点では両親が何について話していたのか知る由もなかった。

 

◇

 

それから五年。

 

俺は順調に成長した。

 

転生直後は首一つ満足に動かせなかった身体も、寝返りを覚え、立つことを覚え、歩くことを覚え、やがて走れるようになった。

 

言葉を話せるようになった時は、本気で感動した。

 

何しろようやく明確な意思疎通が出来る。

それを思うと赤ん坊時代本当に長かった。

 

もっとも、中身が前世の記憶を持つ人間だからといって、いきなり流暢に喋り始めれば流石に両親から怪しまれるだろう。

 

そのため、最初の数年は意図的に年齢相応へ寄せていた。

最初は単語。それから短い文章と少しずつ自然に。

これに関しても非常に面倒だった。

 

だが、おかげで今のところ「うちの息子、実は二度目の人生歩んでます??」などと疑われずに済んでいる。

 

そしてこの五年間ここがヒロアカ世界であることも嫌というほど実感した。

テレビを点ければヒーロー。

街を歩けば個性。空を飛ぶ人間。

身体の一部が動物になっている人間。

炎を出す人間。

身体を伸ばす人間。

 

前世ならニュースになるどころではない光景が、この世界では日常の一部になっている。

 

それを見るたび思う。

 

法(本当に来たんだなぁ)

 

漫画やアニメで見ていた世界に今俺自身がいる。

 

そして五歳になったある日、天之助は両親に連れられ病院へ来ていた。

 

法「……」

 

待合室。天之助は椅子へ座りながら若干緊張していた。

五年前聞いたあの会話が未だに頭の片隅に残っている。

 

可能性は期待しない方がいい。

 

あの言葉は一体何だったのか。

 

法(遂に病気の検査か……?)

 

五年間何事もなく育ったので。

途中違うとは思い始めていたがそれでも完全に忘れたわけではない。

 

難しい顔をしていたのか隣に座る美空が声を掛けた。

 

母「天之助、緊張してる?」

 

法「……ちょっとだけ」

 

母「大丈夫よ」

 

美空は優しく笑う。

反対側に座る勇人も頷いた。

 

父「結果がどうであっても、父さん達がついてるからな」

 

法(やっぱ重い話なの!?)

 

不安が復活した。やがて名前を呼ばれ、診察室へ入る。

医師からいくつか簡単な質問をされ

身体などを診られ、

手足の反応を確認される。

そして天之助は遂に我慢出来ず思い切って聞いてみた。

 

法「あの〜」

 

「ん?」

 

医者がこちらを見る。

 

法「今日って、何の検査なんですか?」

 

医者が一瞬止まる。

両親も止まる。

 

「……聞いてないの?」

 

法「はい」

 

美空が口元へ手を当てた。

 

母「あら」

 

勇人が苦笑する。

 

父「ありゃ。てっきり母さんから聞いてるものだと」

 

母「私はあなたが話したと思ってたわ」

 

(連携ィ!)

 

医者も少し笑う。

 

「はは、今日は病気の検査じゃないよ」

 

法「……え?」

 

「個性の検査だ」

 

法「…………個性?」

 

頭が一瞬空白になり、瞬間理解が追いついた。

 

法(あ、そっち!?五年前の話って、これ!?)

 

ようやく全部繋がった。

 

「君くらいの年齢なら、もう個性が発現していてもおかしくない。御両親から相談を相談を受けてね」

 

医者は両親へ視線を向ける。

 

「念のため、詳しく確認することになったんだ」

 

法(なーんだ病気じゃなかったんかい)ε-(´Д`;)

 

身体から力が抜ける。

五年間時々不安になってた俺の時間返して欲しいが

すぐ別の緊張が湧く。

 

個性検査。

 

つまり転生時、神様から貰った《雨冠》が

本当にこの世界に持って来られたのか確認する時が来た。

理屈上はあるはずだが、少しだけ不安があった。

もし、神様の設定に失敗してたらどうしようかと。

あの神様は一度俺の人生記録破いてしまっている。

 

法(頼むぞ神様。ここで二度目のミスは笑えんぞ)

 

そこからいくつかの診察と検査を受けた。

そして結果が出るまでの時間は妙に長く感じた。

両親は天之助以上に緊張していた。

 

美空は両手を膝の上で組み、

勇人も普段より口数が少ない。

 

天之助はそんな二人を横目に少し不思議に思う。

 

個性があるかないか。

それ自体そこまでして重要なのか?

この世界の人口の約八割は個性持って産まれる。

でも無個性の人も当然いる。

現に緑谷出久も最初そうだった。

俺の前世も全員無個性みたいな世界で生きてた。

だから感覚も少し違うのかもしれない。

 

やがて医師が資料を手に戻ってきて、俺達の前へ座る。

 

「お待たせしました」

 

美空と勇人の背筋が同時伸び、勇人が先に口を開いた。

 

父「先生。結果は……」

 

医師は二人を見る。

それから天之助を見る。

 

そして穏やかに笑った。

 

「個性は確認出来ましたよ」

 

一瞬。

 

時間が止まったように感じた。

 

俺は目を見開く。

 

法「……!」

 

ある。

 

ちゃんとある。

神様から貰った力が。

 

《雨冠》。

 

この世界で俺の個性して定着している。

胸の奥から一気に嬉しさが込み上げた。

 

法「……よしっ」

 

小さく拳を握る。

それ同時に横に居た二人も勢いよく立ち上がった。

 

「「ほ、本当ですか!?」」

 

見事に声が揃った。

医師が少し驚きながらも頷く。

 

「はい。間違いありません。」

 

美空と勇人が顔を見合わせる

 

「……ゃ」

 

法「や?」

 

何か聞こえた天之助は首を傾げる。

 

次の瞬間

 

「「やったあぁぁぁぁぉぁぁぁ!!」」

 

診察室が若干揺れたような気がした。

 

法「うおっ!?」

 

二人同時に大歓声を上げる。

 

美空は泣きながら勇人と両手握る。

勇人も目を潤ませてる。

 

父「良かった……!」

 

母「あなた!」

 

父「ああ!」

 

母「ホントに…良かったぁ……!」

 

医者と天之助完全に固まる。

 

法(声デッカ)

 

数秒後。

廊下の看護師が。

何事かと顔を覗きに来た。

流石に両親も我に返り

 

「「あ…………すみません」」

 

二人揃って顔が真っ赤になった。

 

俺はそんな二人を見ながら少し笑ってしまった。

 

嬉し過ぎだと。

 

 

 

◇

 

 

 

病院を出た後、

俺達は三人で家へ向かって歩いていた。

 

美空目元はまだ少し赤い。

勇人も明らかに上機嫌だった。

 

そこで俺は気になっていたことを聞いた。

 

法「ねえ、何で二人とも、あんなに喜んでたの?」

 

美空と勇人が一度顔を見合わせ、勇人が笑う。

 

父「……そういえばちゃんと話してなかったな」

 

 

三人は歩きながら、勇人はゆっくり口を開く。

 

父「父さんも」

 

自分を指す

 

父「母さんも」

 

美空を見る

 

父「無個性なんだ」

 

法「……え?」

 

天之助の足が少し止まる。

 

法「二人とも?」

 

父「…ああ」

 

勇人が頷いた。

 

美空も少し懐かしむように笑う。

 

母「今の時代ってね。大半の人が何かしら個性を持って生まれてくるでしょう?でも、お母さんには何も無かったの。」

 

勇人も続ける。

 

父「父さんも同じだ」

 

それを聞いて五年前の会話を完全に理解した。

 

『可能性は余り期待しない方がいいかもな』

 

病気ではなく、天之助の個性の発現する可能性の話だった。

 

「無個性だと」

 

美空が少し言葉を選ぶ。

 

母「子供の頃はね、やっぱり周りと違うって感じることもあったの」

 

学校の周囲で個性が発現する。

 

誰々から火が出た。

 

誰々の身体が変化した。

 

そんな話で盛り上がる中、

自分には何もないと。

 

母「別に、それだけで不幸だったっていう意味じゃないのよ?」

 

美空はすぐに付け加える。

 

母「ちゃんと友達もいたし、大人になってからは困らないことの方が多かった」

 

勇人も頷く。

 

父「父さんも仕事をする上では特に問題なかった。個性が無いから出来ないことばかりってわけでもない」

 

そこで勇人少し笑う。

 

父「ただ、自分達の子供も、無個性になる可能性が高いだろうと思ってた」

 

美空が天之助の手を取る.

 

母「でも、天之助に個性が無かったとしても、私達にとっては何も変わらないよ」

 

その声に迷いはなかった。

 

母「個性があっても、無くても、天之助は私達の子供だから」

 

勇人も俺の頭を軽く撫でる。

 

父「父さん達が心配してたのは、むしろお前自身が辛い思いをしないかってことだ」

 

法「俺が?」

 

父「あぁ。」

 

勇人の表情が少し真面目になる。

 

法「今のこの社会は、良くも悪くも個性を中心に回ってる」

 

道の向こうに空を飛ぶヒーローが見えた。

 

「ヒーローを目指さなくても、個性について話す機会なんていくらでもある。子供の世界なら尚更だ」

 

美空は少し目を伏せ

 

母「私達が子供の頃、ちょっと寂しい思いをしたこともあったから」

 

だから自分達の息子には同じ思いしてほしくない。

 

それで今日、個性の確認され、一気に安心に変わった。

 

父「だから、あんな大騒ぎしちゃったんだ。」

 

法「……なるほど」

 

ようやく納得した。

 

そして少し胸が温かくなる。

 

この二人は自分達の子に個性が出たから喜んだだけじゃなく、天之助の心配もしてた。

 

法「でも」

 

天之助は二人を見て

 

法「もし無個性でも、俺は別に二人を嫌いになったりしないよ。嫌いになる理由もないし。」

 

母「……」

 

美空が目を瞬く。

勇人も少し驚く。

五歳児の台詞にして歯ちょっとだけ大人過ぎたかもしれない。

 

 

天之助は慌てて少し子供らしく笑う。

 

法「だってお父さんもお母さんも、普通にすごいじゃん」

 

勇人は大手企業で働き、美空は家で支えながら俺を育てる。

 

個性があるかないとかは関係ない。

 

法「個性が無いだけでしょ?」

 

二人は何も言わない。

天之助は続けて

 

法「だったら、別にいいじゃん」

 

短い。

 

でも本心だった。

天之助は前世で個性。超能力の無い世界生きた。

だから余計にそう思う。

 

人間の価値は個性で決まる訳じゃない。

少なくとも天之助は思った。

 

母「……天之助」

 

突然美空が天之助を抱きしめた。

 

法「ちょ、母さん?」

 

母「いい子に育ったぁ……!」

 

泣き声が聞こえる。

 

法「いやさっき病院で泣いたばっかでしょ!?」

 

勇人まで天之助の頭を再び撫でる。

 

父「父さんは嬉しいぞ!」

 

法「父さんも!?」

 

道端で親子三人何やってるんだろう。

恥ずかしながらも嫌ではなかった。

 

むしろ。

 

法(……家族か)

 

五年前に目覚めた時には

 

「この世界の両親」。

 

そう思っていた二人。

けど今は違う。

 

美空.

 

俺の母さん.

 

勇人.

 

俺の父さん.

 

前の人生が消える事はない。前世の記憶を抱えたまま今の人生を謳歌する。

 

でもこの二人が今の天之助の大事な家族。

それが初めてはっきりした瞬間であった。

 

 

◇

 

 

家へ帰ると天之助は自室へ入り、机の椅子へ座った。

 

窓の外を見ながら改めて考える。

 

個性《雨冠》。

 

ちゃんとある。

 

法「……よし」

 

これは既に確認出来た。

 

なら次にやることはとっくに決まってる。

 

雄英高校。

 

日本トップクラスのヒーロー養成校

 

原作を中心に

 

緑谷出久

 

爆豪勝己

 

轟焦凍

 

彼らの通うに場所に天之助も行く。

まずはそこを目指す。

 

それは単に原作キャラに会いたいという理由だけではない。

 

神様から貰った《雨冠》の可能性がどこまであるのか自分でもまだ分からない。

 

なら最高峰の環境で鍛えるのが一番良い。

 

それにヒーローという職業は昔から画面越しに見てた。

自分が実際になれる可能性はある。

ヴィランとも戦う危険も当然ある。

人を助ける責任もある。

決して簡単な仕事じゃないのは分かりきってる事だ。

 

それでも。

 

法「やってみたいんだよなぁ」

 

自然と声に漏れる。

 

第二の人生、せっかく始まったなら

前世で出来なかったことをやってみたい。

 

自分に貰った力がどこまで伸びるか確かめたい。

 

そしてどうせ強くなるなら、その力は誰かを助けること使えるのなら悪くない。

 

法「多くの人を助けて」

 

机を指で軽く叩く。

 

法「ヴィラン倒して、ヒーローとして生きる…。」

 

口にすると少し現実味が出る

言ってまだ五歳。

雄英に入学のは十年近く先だ。

 

時間はたっぷりある。

なら今始めるしかない。

 

法「まあ」

 

椅子へ深くもたれる。

 

法「他にこの世界でやりたいことが、まだそんなに思い付いてないってのもあるけど」

 

それが本音だ。

 

でもそれでいい.。

 

目標は最初から完璧である必要もない。

やってるうち見つけるかもしれないし。

 

天之助は立ち上がり拳を握る。

 

《雨冠》。

 

神様が言った。

 

雨冠の漢字の意味や現象を再現出来ると。

 

なら最初に何を試すべきだ。

 

分かりやすい.

 

雨、雷、雲、雪、霧なんかは使える。

 

候補は山ほどある。

 

でも五歳の身体故に無茶は危険。

まずは小さい規模で試す。

 

自然と口角が上がる。

 

法「そんじゃ、個性の修行、始めるか」

 

言葉にした瞬間、妙にわくわくした。

 

しかしこの時の天之助はまだ知らない。

 

《雨冠》という個性が

自分が思っている以上に

遥かに広く、深く

 

そしてとんでもなく。

 

規格外の能力だったことに。

 

それを知る第一歩が翌日

 

 

 

始まる。

 

 

――修行じゃあァァァ!!

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