RAINY CROWN(Re:make) 作:KAMENRIDER
☔️(´-`)
神様から《雨傘剣天雨》を受け取った翌日、天之助は朝から自宅を離れ、いつもの修行場所として使っている山奥まで足を運んでいた。
昨日までなら、ここへ来て最初に行うのは走り込みや筋力トレーニングだった。しかし今日は事情が違う。天之助の左手には、昨日空から隕石よろしく降ってきたばかりの新しい相棒――虹色というよりオーロラをそのまま形にしたような、不思議な輝きを纏う一本の傘が握られている。
法「それでは早速……やってみますか」
《雨傘剣天雨》
神様の説明では、この傘は《雨冠》を使用する際に必要となる天之助のイメージを補強してくれるらしい。つまり、昨日まで何度挑戦しても明確な像を掴めなかった「自分自身が雷になる」という現象も、この傘を介せば実現できる可能性がある。
もちろん、持っただけで何でも出来る魔法の杖ではない。実際に何を起こすのかを決め、個性を発動するのはあくまで俺自身だ。ならば天雨がしてくれるのは、頭の中にある曖昧な設計図を現実に引き出せる形へ整えてくれるようなものだろう。
法「……スゥ――」
ゆっくり鼻から息を吸い込み、肺いっぱいに空気を溜める。
法「ハァ――……」
吐き出しながら目を閉じ、雑念を消していく。
思い浮かべるのは雷だ。
昨日までは「身体から電気を出す」という段階までしか辿り着けなかった。正座による痺れを利用して電流をイメージし、肉体の表面へ纏わせることには成功したものの、それはあくまで雷を身体の外側へ発生させただけだが、今回は違う。
皮膚の上へ雷を纏うのではなく、皮膚そのものを雷へ変える。血液を電流へ、骨を稲妻へ、筋肉や神経という物質そのものを、一瞬だけ自然現象へと置き換える。
人間の身体という形だけを残し、その中身を全て電気へ――。
法「雷……俺自身が、雷になる……」
左手で天雨の柄を握り締めた瞬間、頭の中でぼんやりとしていたイメージが急速に輪郭を持ち始めた。
昨日までは「雷になる」と考えるたびに、肝心の肉体がどう変化するのか分からず思考が止まっていた。しかし今日は違う。雷雲から伸びる一筋の閃光、その内部を膨大な電荷が走り抜け、一瞬だけ空と地上を繋ぐ様子が、まるで実際に目の前で観察しているかのように鮮明に浮かぶ。
次いで、そのイメージが自分自身へ重なった。
法「……お?」
右腕に微かな違和感を覚えた。
痛みではない。昨日経験した痺れとも違う。もっと軽く、しかし圧倒的に力強い何かが、皮膚の内側を駆け抜けていくような感覚だった。
視線を落とすと白銀の火花が指先を走っていた。
法「……来てる」
胸が高鳴る。
昨日までなら、ここから身体の表面を電流が覆うだけだった。しかし今は明らかに違う。火花は皮膚の上から発生しているのではなく、俺自身の身体の内側から漏れ出している。
ならば、後は押し切るだけだ。
法「もっとだ……」
天雨を強く握り、頭の中にある雷の像へ全神経を集中させる。
ピシャァァァァァォァアン!!!
瞬間、視界が白く弾けた。
轟音と共に、身体中から凄まじい量の電流が迸る。周囲の空気が焼けるような独特の臭いを帯び、足元の小石が細かく振動し、髪や服が静電気に煽られて大きく浮き上がった。
法「うおっ!?」
思わず声が漏れる。
だが痛くない。
むしろ身体が信じられないほど軽い。
恐る恐る腕を見ると、俺はその場で完全に固まった。
法「………マ?」
腕が光っていた。
単純に電気を纏っているという意味ではない。輪郭こそ人間の腕を保っているものの、その内部は白青色の光へと変化し、無数の雷光が絶え間なく走り回っている。
脚も同じだった。
胸も腹も首も、鏡がなくても頬や頭部まで同じ状態になっていることが感覚で分かる。
肉体が電気を纏っているのではない。
俺自身が、電気になっている。
法「……出来た」
その事実を理解した途端、何とも言えない達成感が込み上げてきた。
法「出来たぁぁぁぁぁぁッ!!」
山中であることも忘れ、思い切り叫ぶ。
ここ数日、痺れを利用したり、身体から電気を出そうと延々試行錯誤したり、雷とは何なのかを必死に考え続けてきた。その結果が今こうして実を結んだのだから、嬉しくないはずがない。
もっとも――。
法「……いや待てよぃ?」
手元の天雨へ視線を落とす。
昨日まで散々苦労していたことが、この傘を使った途端に成功した。
法「俺のあの苦労……何だったんだ?」
一瞬だけ途方もない虚無感に襲われる。
数時間正座して脚を痺れさせたり、庭で延々と雷について悩んだりしていた自分の姿が脳裏を過ぎると、何となく地面へ膝をつきたくなってきた。
しかし、すぐに首を振ってその考えを追い出す。
法「いや、違う違う。あれがあったから今のイメージに繋がったんだ」
天雨はあくまでも補助をしてくれる道具だ。昨日までの試行錯誤が一切無駄だったわけではない。天之助自身が電気というものをある程度理解していたからこそ、天雨もそのイメージを形へ変えることができたと考えるべきだろう。
何より、これほど便利な相棒が手に入ったのだ。
落ち込んでいる場合ではない。
法「よっしゃ! 俄然やる気出てきた!」
雷と化した両手を握り締め、天之助は目の前の山道へ視線を向けた。
法「まずは、どこまで動けるか試してみるか」
そう口にした直後、軽い気持ちで一歩踏み込んだ。
次の瞬間、景色が消えた。
法「――へ?」
正確には消えたのではない。
天之助の視覚が周囲の変化へ追い付かなかっただけだった。
一歩前へ進んだつもりだったのに、気付けば先ほど立っていた場所から数百メートル以上も離れた森の中にいる。背後を振り返っても通ってきた道など見えず、その代わりに焦げた土と倒れた草が一本の線となって俺の進路を示していた。
法「……速っ」
思わず口元が引き攣る。
これまで《雨冠》で風を操り、身体を押し出すことである程度の高速移動は出来ていた。しかし今の速度は、それらとは明らかに次元が違う。
当然といえば当然だ。
天之助は今、雷そのものなのだから。
法「んじゃもう一回……今度はちゃんと意識して」
姿勢を低くし、進行方向を確認する。
そして今度は少しだけ力を抑えて地面を蹴った。
森の景色が猛烈な勢いで後方へ流れていく。
木と木の間を通過するたびに視界へ幹が迫るが、雷となった状態では身体の反応速度そのものまで飛躍的に高まっているらしく、不思議と恐怖はなかった。曲がりたいと思った瞬間には既に身体が軌道を変え、僅かな隙間さえあればその間へ滑り込むように通過していく。
法「うひょぉぉぉぉ!」
楽しい。純粋に、滅茶苦茶楽しい。
ジェットコースターなど比較にならない速度で山中を駆け回りながら、天之助は少しずつ雷化した状態の身体へ慣れていった。
その途中、進行方向に人の背丈を遥かに超える大岩が見えた。
普段なら当然避ける。
しかし今の自分がどの程度の衝撃へ耐えられるのか、そして雷化した肉体がどれほどの威力を生み出すのか確かめたいという好奇心が勝った。
法(……行けるか?)
肩を前へ出し、そのまま速度を上げる。
激突の瞬間、身体へ衝撃らしい衝撃はほとんど感じなかった。
代わりに雷鳴にも似た轟音が響き、巨大な岩が中心から爆ぜるように砕け散る。大小無数の破片が周囲へ飛び散り、その幾つかが近くの木へ深く突き刺さった。
法「おぅふ……」
急停止して振り返る。
先ほどまで確かに存在していた岩は、跡形もなく瓦礫へ変わっていた。
法「これは……使い方を間違えたら普通に洒落にならんな」
速さだけではない。
雷化した状態での突進は、単純な体当たりでさえ凄まじい破壊力を持っている。もし同じことを人間相手に行えば、怪我では済まないだろう。
そう考えると、浮かれてばかりもいられない。
俺が目指しているのはヒーローだ。
敵を倒せれば何をしてもいいわけではない。ヴィランであろうと命を奪うことが目的ではなく、犯罪行為を止め、可能ならば無力化して逮捕へ繋げるのが基本になる。
法「威力の調整も覚えないとな」
新しい課題が一つ増えた。
その後も何度か雷化を繰り返し、移動距離や出力を少しずつ確認していった。
結果から言えば、この形態は予想以上に凄まじかった。
全力で移動すれば県境を跨ぐ程度の距離など数秒単位で到達できる。理論上は、北海道や沖縄ですら大した時間を掛けず辿り着けるだろう。
ただし、当然ながら今の俺は五歳児であり、ヒーロー免許も持っていない。
街中でこんな速度を出せば誰かと衝突する可能性があるし、物を壊せば普通に大問題だ。何より遠出して両親へ「ちょっと北海道まで走ってきた」などと言えば、雷になるより先に母さんから雷を落とされる未来が見える。
法「使うのは基本、この山の中だけだな」
便利だからといって何でも試していいわけではない。
自分へそう言い聞かせながら、俺は修行を続けた。
雷化の維持時間、出力調整、加速と減速、急停止、方向転換。それらを一つずつ確認しているうちに時間はあっという間に過ぎ、気付けば空が茜色へ染まり始めていた。
法「ふぅ……今日はここまでかな」
雷化を解除すると、身体へ僅かな疲労感が戻ってくる。
思ったより消耗は少ないが、五歳児の肉体である以上、無制限に使えるわけではない。個性そのものが強力でも、それを扱う身体が追い付かなければ意味がないということを考えれば、基礎的な体力作りも今まで以上に続けた方が良さそうだ。
法「さぁて、時間もちょうどいいし下山するか。今日の晩飯何かなぁ~」
夕日に照らされた山道を歩きながら、俺の思考は早々に修行から夕食へ切り替わった。
今日は朝からかなり身体を動かしたため腹が減っている。肉でも魚でも何でもいいが、出来れば母さんの唐揚げが食べたい。いや、カレーも捨て難い。
そんな平和なことを考えながら山を下っていた時だった。
法「……ん?」
少し先にある藪が、不自然に揺れた。
風ではない。
草木の奥から重量のある何かが地面を踏み締める音が聞こえ、続いて低く唸るような声が響く。
グルルルル……
姿を現した存在を見て、天之助の足が止まった。
「………マ?」(二回目)
熊だった。
それも可愛らしい小熊などではない。
立ち上がれば三メートル近くありそうな巨体で、太い前脚の先には俺の指など比較にならないほど長い爪が並んでいる。全身を覆う毛の隙間から覗く筋肉だけでも、その身体能力が普通の人間を遥かに上回っていることは容易に想像できた。
何より問題なのは――。
法「俺、五歳なんだけど」
改めて確認するまでもなく、圧倒的な体格差である。
前世の記憶があるせいで精神的には大人に近いが、身体は紛れもなく幼児だ。いくら個性が強力とはいえ、真正面から巨大な熊の爪を受ければどうなるか分かったものではない。
頭の中で何故か「ある日、森の中、熊さんに出会った」という呑気な童謡が流れ始めたが、即座に追い出した。
法「いやいや、歌ってる場合じゃない」
熊はこちらをじっと見ている。
逃げるべきか。
雷化してしまえば簡単に距離を取れる可能性は高い。しかし、急激な動きが相手を刺激しないとも限らない。
何より、この山は家の私有地だ。
普段なら他の人間が入り込んでいる可能性は低いものの、熊がこの付近まで降りてきているという事実そのものが気になる。
グルル……
熊が一歩近付く。
天之助は刺激しないよう、ゆっくり後退する。
法「落ち着けよ……俺もそっちを襲う気はないから。そのまま森へ帰ってくれれば、お互い何事もなく終われるんだけどなぁ」
当然、人間の言葉など通じない。
低い唸り声が徐々に大きくなり、熊の身体が前傾姿勢へ変わっていく。
法「……あ、これ駄目なやつだ」
直感した直後、熊が地面を蹴った。
グアァァァッ!
法「うおっと!」
大きく振り下ろされた前脚を横へ飛んで回避する。
爪が空を切り、そのまま地面へ叩き付けられた。
鈍い音と共に土が抉れ、小さな亀裂が走る。
法「コイツァ……当たったら洒落にならんな」
さっきまでとは空気が完全に変わっている。
一度攻撃を仕掛けてきた以上、こちらが何もしなければ安全という状況ではなくなった。
勿論熊を殺したいわけではない。
そもそも野生動物が縄張りや恐怖心から行動しているだけなら、人間の善悪を当てはめること自体が間違っている。
それでも、自分の命を差し出すつもりもなかった。
法「悪いけど……襲ってくるなら追い払わせてもらうぞ」
背中へ差していた天雨を抜く。
ただし雷化は使わない。
あの状態で体当たりでもすれば、先ほどの岩と同じことになりかねない。
ならば、殺さずに追い払う方法を選ぶ。
天之助は傘を閉じたまま前へ向け、柄を両手で支えるように構えた。
イメージするのは雨粒。
しかし、ただ空から落ちる柔らかな水滴ではない。
小さな一点へ圧力を集め、高速で撃ち出す。
水は柔らかい。されど速度と圧力を与えれば、決して侮れる存在ではなくなる。
グルァァァッ!
熊が再び突進してきた。
天之助は熊から視線を外さず、後方へ距離を取りながら天雨の先端をその顔へ向ける。
胴体は狙わない。
殺傷するつもりなどない。
狙うなら、熊にとって弱点になりやすい鼻だ。
法「悪く思うなよ」
傘の先端へ、一滴の水が生まれ、それを限界まで圧縮する。
「――《
発射した。
水が弾けたような破裂音が山道へ響く。
肉眼では追えない速度で撃ち出された水滴は一直線に飛び、狙い通り熊の鼻先へ直撃した。
グオォォッ!?
熊が悲鳴に近い声を上げ、その場で大きく仰け反った。
鼻を前脚で押さえるような仕草をしながら首を激しく振り、混乱したようにその場を何度も踏み鳴らしている。
法「効いた……!」
熊は嗅覚が非常に優れており、その分、鼻先も敏感だと以前本で読んだ記憶がある。知識が役に立った。
もっとも、本当に命の危険が迫っていれば目を狙うことも考えていたが、そこまでせずに済んだことには素直に安堵する。
グルル……!
熊はこちらを睨むように顔を向けた。
天之助も天雨を構え直す。
再び来るなら、今度は少し威力を上げなければならない。
数秒ほど、互いに動かなかった。
やがて熊は敵意よりも警戒を優先したのか、一歩だけ後退する。
それから突然身を翻し、巨体からは想像できない速度で木々の奥へ走り去っていった。
枝が折れる音と地面を踏み締める音が徐々に遠ざかり、完全に聞こえなくなる。
法「…………」
しばらく天雨を構えたまま待つ。
戻ってくる様子はない。
そこでようやく肩の力を抜いた。
法「っはぁぁぁぁぁ……!」
長く息を吐き、その場へ座り込みそうになるのを堪える。
法「あぁぁぁっぶなかっったぁ……!」
勝った、という気分ではない。
とにかく怖かった。
前世の記憶があろうと、強力な個性を持っていようと、三メートル近い熊が真正面から襲ってくれば怖いものは怖い。
むしろ熊という生き物がどれほど危険なのか知識として知っている分、余計に恐ろしく感じたくらいだ。
法「遠距離技、作っといて本当に良かった……」
天雨の先端を見る。
今使った《
法「……にしても、これ威力高過ぎないかな?」
熊の鼻先へ命中した瞬間を思い返す。
狙った場所が比較的柔らかかったことを差し引いても、かなりの衝撃が発生していた。
おそらく今の出力なら拳銃に近い威力が出ている。
法「駄目だな、これ」
ヴィランとの実戦だけを考えれば強力な武器になる。
だが天之助が将来入ろうとしている雄英高校では、当然ながら同級生との戦闘訓練も行われるはずだ。
そこで同じ威力の《雫弾》を人間へ撃ち込んだらどうなるか。
答えは考えるまでもない。
法「下手したら普通に死ぬ」
ヒーロー志望が訓練相手を殺してどうする。
そもそも実戦でも、毎回致命傷を与えなければヴィランを止められないようでは話にならない。
必要なのは最大出力だけではない。
状況に合わせて一から百まで自由に調整できる技術だ。
法「もっと弱く撃てるようにしないとな」
試しに人差し指を前へ向け、指先へ小さな雫を作る。
先ほどより遥かに圧力を抑えて発射すると、近くの木の幹へ小さな音を立てて命中した。
法「こっちは……パチンコ玉くらいかな?」
この程度ならまだ扱いやすい。
天雨から撃つ場合も同じくらいまで落とせるよう練習した方がいいだろう。
最大威力を高めるのは後でも出来る。
今はむしろ、「倒し過ぎない力」を身に付ける方が重要だった。
法「……よし、次からの課題は決まりだな」
新しい技を覚えるたびに、新しい問題も増える。
けれど、それでいい。
何も考えず強い力だけを求めるより、どう使えば人を守れるのか考えながら鍛える方が、ヒーローを目指す俺にはきっと必要なはずだ。
そこでふと、先ほどの熊のことを両親へ報告するべきか考える。
法「…………」
母さんが卒倒する姿が容易に想像できた。
父さんも間違いなく血相を変える。
法「…今日の出来事は黙っておこう」
少なくとも「五歳の息子が山で三メートル級の熊と遭遇し、個性で撃退した」などという話をそのまま伝える勇気は天之助にはなかった。
後で熊が出たという事実だけは、場所をぼかして大人へ知らせておこう。
それからも天之助の日々は、大きく変わることなく続いていった。
朝起きて飯を食い、勉強をして、身体を鍛え、《雨冠》の可能性を一つずつ探っていく。雨を降らせるだけだった個性は、いつの間にか風や雲、雷を操り、自身を雷へ変え、水滴を弾丸のように撃ち出すところまで成長していた。
もちろん、一度出来たからといって完成ではない。
雷化は速度を細かく調整できるよう何度も反復し、《雫弾》も相手を傷付けない程度から強固な物体を撃ち抜く出力まで段階的に使い分けられるよう練習した。《雨傘剣天雨》そのものを使った接近戦や、防御、個性との組み合わせも試し、失敗するたびに原因を考えて改善していった。
その合間には、当然ながら普通の子供として学校にも通った。
勉強も疎かにはしなかった。
将来ヒーローになるなら、戦闘能力だけ高ければいいわけではない。災害時の判断、法律、応急処置、地理、物理学や気象学まで、知識がそのまま人命へ繋がる場面はいくらでもある。
特に天之助の《雨冠》は天候を扱う。
気象に関する知識は、そのまま個性の精度へ直結した。
だから学び、鍛え、試し、失敗し、また学ぶ。
よく食べ、よく眠り、両親に心配を掛け過ぎない範囲で修行を続ける。
そんな毎日を重ねているうちに、五歳だった俺の身体は少しずつ成長していった。
季節が巡り、一年が過ぎる。
さらに一年。
そしてまた一年。
かつて「いつか行きたい」と思っていた場所が、徐々に現実的な目標へ変わっていく。
天之助が転生したこの世界において、最高峰のヒーロー養成校。
数多くのプロヒーローを世へ送り出し、象徴たるオールマイトさえ卒業した名門。
雄英高校。
そして時は流れ――。
天之助は今、その雄英高校の正門前に立っていた。
周囲には同じように受験へ訪れた少年少女が大勢集まっている。誰もが自分の個性へ自信を持っているのか、それとも緊張を隠しているのか、表情は様々だった。
そんな受験生達の間を、冬の冷たい風が吹き抜ける。
天之助は一度だけ空を見上げた。
幼い頃から何度も見てきた空。
雨を降らせ、雷を操り、自分自身が雷になるために何度も見上げてきた空だった。
法「……ようやく来たな」
自然と口元が緩む。
背中には、長年共に修行を続けてきた《雨傘剣天雨》がある。
五歳の頃とは身体も違う。
個性の扱いも、あの頃とは比べ物にならない。
ここから先は、家の山で一人黙々と続ける修行ではなくなる。
天之助と同じようにヒーローを志す者達と競い、学び、時には戦うことになるだろう。
前世では見ることしかできなかった物語の世界へ、今度は天之助自身が一人の人間として踏み込んでいく。
法「よし」
一度だけ深く息を吸う。
吐き出す頃には、胸の奥にあった僅かな緊張も楽しみへ変わっていた。
法「行きますか」
そう呟き、――法雨天之助は、雄英高校の入学試験会場へ向かって歩き出した。
(´-`)