「ハイスクール・フリート-Anchorage」 作:海洋の橋立
伊-201からの襲撃を退け安全な海域まで移動することに成功した釧路と晴風。
周囲の安全が確保された為、再び海里が明乃とましろに晴風艦内の教室で聴取を行う傍ら釧路の機関科から移乗して来た釧路の機関長とその補佐達が晴風の機関科の応援として晴風の機関の応急修理にあたる。
晴風艦内、教室
「さて…。二人ともどうだ…?疲労は取れているだろうか?本当は横須賀に到着するまで目いっぱい休ませてやりたいのだが前回は十分な聴取が出来なかったからな…」
「ううん…じゃなくて…いえ!少し眠いですけど大丈夫です!晴風の無実を証明する為ですから!」
「ええ、その通りです。いつまでも反乱艦扱いで追われ続けるわけにもいきませんから」
釧路が護衛する安全な誘導により晴風で余裕を取り戻した明乃とましろが言う。
「ふふ…そうか。ならすぐにでも終わらせるためにも始めてしまおう。録音機を起動するぞ?では、晴風艦長岬明乃及び副長宗谷ましろ、貴様らが操艦する晴風が教官艦さるしまからに雷撃を行いさるしまを損傷させたのは事実か?」
「じ…事実です。だけど晴風から攻撃はしていません。演習に遅刻して合流してすぐにさるしまが実弾を使って砲撃して来たんです」
「そうか…。晴風副長宗谷ましろ、岬艦長が言っていることは事実か?」
「はい、事実です。教官艦さるしまは機関の不調で遅刻した晴風に実弾での砲撃を加えました。さるしまからの砲撃中に私が通信でさるしまに遅刻の理由を説明したものの、返答はありませんでした。砲撃の精度が高まりつつあり本艦の航行能力が喪失する可能性を懸念して艦長と副長両名の同意の上で射撃装置の解除を行い模擬魚雷による雷撃を敢行しました。雷撃がさるしまに命中後に安全の為海域を離脱しました」
海里が粛々と聴取を始める。聴取中の海里から無意識に滲み出る圧に緊張する明乃とましろ。さるしまに対する雷撃の確認の後はアドミラル・グラーフ・シュペーへの攻撃の聴取に移る。
「さるしまへの攻撃の事情は確認した。では次に小型直接教育艦アドミラル・グラーフ・シュペーへの攻撃に関する聴取を行う。岬艦長、アドミラル・シュペーに攻撃を加えた事は事実か?」
「はい、事実です。でもアドミラル・シュペーも晴風が近づいたらいきなり砲撃してきて、こっちが白旗を揚げても砲撃をしてきて…。また晴風のみんなが傷つくかもしれないからシュペーから逃げる為に攻撃しました」
「なるほど…。確かに医務室のカルテによるとさるしまとの戦闘の際に見張り員の野間マチコが負傷しているな。副長宗谷ましろ、アドミラル・シュペーとの戦闘の理由は相違ないか?」
「はい、相違ありません。白旗を掲げてもなお本艦に砲撃を続けるアドミラル・シュペーから逃走する際にアドミラル・シュペーの速力を低下させる必要があった為砲撃を加えました」
「ふむ…。アドミラル・シュペー副長のヴィルヘルミーナ・ブラウンシュヴァイクもアドミラル・シュペーの生徒たちの異常行動を報告しているな…。さるしま及びアドミラル・シュペーとの戦闘の経緯は理解した。聴取はこれにて終了とする」
海里は聴取の終了を宣言して録音機の電源を切る。圧が消えいつもの姿になった海里を見て安堵の息を吐く明乃とましろ。
「二人とも、よく頑張ったな。後はこの録音と議事録をもとにした報告書を作成して宗谷校長に送れば終了だ。校長に届きさえすれば晴風の反乱艦の指定が解除されるだろう」
「よかった…。」
安心しきって机に脱力する明乃に笑みを浮かべる海里。聴取の際に感じた張りつめた空気からどこか緩んだ空気が教室を包んでいたその時教室の扉が開いて応急委員の和住媛萌と青木百々が切羽詰まった表情をしながら入室してきた。
「どうしたの?ひめちゃん、モモちゃん?聴取はもう終わったから入ってきて大丈夫だと思うけど…」
「ああ、問題はない。何があった?」
「ト…トイレットペーパーがありません!」
「 「ええ~!!??」 」
媛萌からの衝撃的な報告に明乃とましろの絶叫が教室に響き渡る。
一方その頃、晴風の機関室ではへそを曲げた高圧缶の整備を支援する為釧路から派遣されてきた釧路機関長内海蓮也(うつみ れんや)は晴風の機関長たちと挨拶を交わしていた。
「俺は内海蓮也、ご存知の通りうちの艦長から晴風の機関に出張して来いって言われた機関長だ。よろしく頼むよ、晴風の機関長殿」
「おうおうおう!あんたが釧路から来た増援の機関士かい?!あたいはこの晴風の機関長の柳原麻侖ってんでい!」
「私は黒木洋美、麻侖の機関助手をしているよ。」
「お~…これはこれはどうもご丁寧に。まぁ、お手柔らかにお願いします」
蓮也と麻侖二人の機関長が握手を交わす。
この後、蓮也は晴風の機関のあまりの複雑さとじゃじゃ馬っぷりに白目をむくのは別のお話。
場面を戻して晴風の教室では海里も含んだ晴風クラスの面々が集められトイレットペーパーを始めとする消耗品の節制について話し合いが行なわれていた。
「モモちゃん、トイレットペーパーの他に足りないものはある?」
「ええっと…飲用水はまだ余裕があるけど調味料とかも残り少ないかも…」
「うーん…なんとか補給したいけど…。シロちゃん、流石に通販はだめだよね?」
「ああ、兄さんからの聴取は終わっているがその報告書はまだ学校に提出すらされていない。だから晴風の反乱艦扱いは解けていない…。その様な状況で電波を出すなんていくら兄さんの釧路がそばにいるとはいえ危険だな…」
「どうしよう…」
どう消耗品を補給しようかと悩む明乃たちに海里が提案する。
「流石に弾薬の補給や損傷箇所の修理はできないが…釧路から燃料やトイレットペーパーなどの各種消耗品を融通することは可能だ。元々釧路は旗下の航洋艦と艦隊を組むことを前提としている都合上、航洋艦用の燃料や消耗品は常に満載しているからな」
「なら…。海里さん、釧路からトイレットペーパーを貰ってもいいですか…?」
「ああ、構わないぞ明乃艦長。後で必要な物品をリストにまとめておいてくれ手配しておこう。だが…生憎と香辛料まで融通できるかは分からないな…」
「ではあと必要なのは香辛料などの生鮮食品と生徒たちの私物か…。どこから調達するか…。」
釧路からトイレットペーパーなどの消耗品を補給することに成功した晴風だが残りの不足している生鮮食品や生徒たちの私物をどう補給するかを相談していた時、スマートフォンで何かを検索していた鶫が声を上げる。
「あっ!ここ近くにオーシャンモール四国沖店があるみたいです!」
「オーシャンモール…。海里さん、晴風から人を出してオーシャンモールで足りないものを買ってきてもいいですか?」
「オーシャンモールへの買い出しか…。発見されるリスクはあるが生鮮食品の補給などはせざるを得ない…か。了解した、オーシャンモールへの買い出しの許可を出そう。だが条件として私を含めた釧路の生徒を数名晴風の買い出し要員の護衛としてついていくが…構わないな?」
「はい!大丈夫です!」
「よし、そうと決まれば私は一度釧路に帰還して護衛の人員を見繕って来よう。合流時刻はーー」
「その、艦長!もう一つ問題が…」
「え?」「む?」
オーシャンモールへの買い出しで決定の直前、晴風の主計科員等松美海が話し出す。
「その、お、お金が…足りません!」
「 「 「 「ええええ~!!!!」 」 」 」
「ああ~、金銭の問題か…。盲点だったな…」
そういえば、と言わんばかりの海里の台詞にましろが指摘する。
「兄さん、盲点って…。かなり深刻な問題なのですが…」
「ふむ、まあ、そういうことなら私が出すから心配しなくても大丈夫だぞ?ましろ」
事もなげに自身のポケットマネーで支払うと宣言する海里に心配して確認を取る明乃とましろにミーナ。
「私が出すって…。兄さん、大丈夫なのですか?艦の生鮮食品や生徒たちの私物の購入となりますとかなりの額になりますよ?」
「そうだよ、海里さん、無理に出さなくても私たちがなんとかするから…」
「問題はないだろう。学生の身ではあるがこれでも少なからず収入はあるからな。むしろあまり使う機会がなくて貯まる一方だったからこういう時くらい後輩たちの為に使わせてくれ」
「まぁ、当人である海里艦長がそう言うなら否やはないが…。」
生鮮食品や私物の支払いを海里が担当することが決まった後は釧路と晴風でそれぞれ2隻、合計4隻のスキッパーを駆りオーシャンモール行きのバス停に向かう海里と明乃たち買い出し班。
「流石に艦載艇のスキッパーで直接買い付けに行くわけにはいかんから最寄りの停泊場にスキッパーを停めてオーシャンモール行きの水上バスを使用する。異議のある者は?」
海里が確認を取る。特に異議は無いようで海里の言葉通り水上バスに乗り一同はオーシャンモール四国沖店に入店する。
「ああ、そうだ。明乃艦長、少しあらかじめ決めておきたい事があるのだが大丈夫か?」
「決めておきたい事?大丈夫だけど何ですか?」
「いや、なんてことはない。オーシャンモールの中で万が一ブルーマーメイドや海上安全整備局の隊員と遭遇した場合に逃走したりせずに私たち護衛班に任せてもらいたい。それと…周りから我々の身分を推測させない為に敬称は省略させてもらう。」
「あ…わ、わかりました。もし見つかった時は海里さんたちと一緒にいます。あ、あと敬称も大丈夫です」
「まぁ万が一というだけだ。明乃艦長、そう怯えなくともいい。ただ、いざという時は我々の後ろにいてほしい。」
「はい…」
海里を筆頭とする護衛に囲まれながら明乃たち買い出し班は順調に晴風で不足している物資を購入していく。どうやら購入額で福引券が貰えるのか私物の購入を担当していた生徒たちが福引券を携えて集合場所に戻って来た。
「おや、それは福引券か。せっかくだ誰か回してみるか?」
「え?で、でもお金を出してくれたのは海里さんだから海里さんが回すべきじゃ…」
「遠慮はしなくていいぞ、明乃。ただ回したいと思う者がやればいい。そも、私は君たちの護衛だから福引に集中するわけにもいかんしな。」
海里のその言葉に晴風の買い出し班で福引券を回すことになり会議の結果明乃が回すことになった。結果は…。
「特賞、特賞!旅行券ペアセット!おめでとうございます!」
「えええっ!!!」
「ほう、二等のトイレットペーパーではなく特賞を引き当てるか。流石だな、明乃」
「ど、どうしよう…。と、とりあえず海里さんに…」
「いや、当てた本人である明乃が持っておけ。いつか使う機会があるだろう」
「わ、分かりました」
特賞の旅行券を明乃が自身のポーチに入れて一同が水上バスに戻ろうとしたその時、複数の影が海里と明乃たちを取り囲む。
「あなたたち、晴風の生徒たちね?私はブルーマーメイドの平賀といいます。あなたたちを安全の為に拘束させてもらいます」
そう包囲網の一角から平賀が言い放ち包囲の輪を狭めていくブルーマーメイドの隊員達。突然の包囲に固まり身を寄せ合う明乃たち買い出し班。それを護るように周囲を固める釧路の護衛班から海里が一歩進み出る。
「それ以上こちらに近づかないで頂きたい、平賀倫子二等監察官。」
「何を言って…って宗谷海里艦長?!どうして晴風の生徒たちと一緒に?!」
「お久しぶりです。釧路に横須賀女子海洋学校校長宗谷真雪と東舞鶴男子海洋学校校長藤堂孝三郎から晴風の生徒たちを保護するようにとの命を預かっているからです。本当に晴風の安全確保が目的ならどうか包囲を解いて頂きたい。晴風の生徒たちが怯えていますので」
「分かったわ…総員、包囲を解きなさい。」
平賀の命令に包囲を解くブルーマーメイドの隊員達。その姿を横目に海里が平賀の前に歩み寄る。
「感謝します、平賀さん。確認の為に姉さんに…宗谷真霜一等保安監督官に連絡しても?」
「ええ、大丈夫よ。私達は宗谷一等保安監督官から晴風保護の命令を受けて派遣されてきたので」
「では…お言葉に甘えて」
そう言い海里は自身のスマホから姉である宗谷真霜に電話をかける。数コールが鳴った後に真霜の声が聞こえる。
『海里?こんな時にどうしたの?もしかしてあなたの艦も何かに巻き込まれたの?』
「いえ、釧路は行方不明になったり反乱艦扱いされたりはしていません。真霜姉さん、ただ確認したいことがあって連絡を」
『確認したいこと?何?』
「今目の前に平賀二等監察官がいるのだが彼女が晴風の保護を任務としていると言っているのですが本当ですか?」
『本当よ?私が彼女達に下令したもの。っていうか海里あなたもしかして晴風の生徒たちと一緒にいるの?!』
「ええ、共にいます。宗谷真雪校長から晴風保護の命令を釧路が拝命してから捜索して一週間前になんとか合流に成功しました」
『母さん…いや、真雪校長は一言も…。まあ、いいわ。とりあえず彼女達は味方だから安心して。あとあなたのことだからもうできてるかもしれないけど平賀達と一緒に晴風のさるしまやアドミラル・シュペー攻撃の聴取した報告書の作成と晴風を横須賀まで護衛を続けてくれると助かるわ』
「了解。報告書は既に作成済みだから釧路に戻り次第平賀二等監察官に提出します。晴風の護衛も宗谷校長からも命令を受けています、必ず横須賀まで送り届けます」
『頼んだわよ、海里。それじゃあ気を付けてね』
「姉さんも」
そう言って通話を終えると海里は平賀達に向き直る。
「宗谷真霜一等保安監督官からの確認が取れました。お疲れ様です、平賀さん」
「ええ、こちらこそまた宗谷校長につき合わされているようね宗谷艦長」
「まぁ、職務ですので」
「あなたはまだ学生でしょう?何度も修羅場を経験してきているのは承知しているけれど」
にらみ合いから一転してどこか和やかな会話をしている海里と平賀二等監察官。その姿を見て味方と認識したのか明乃が平賀に話しかける。
「あの、海里さんのお知り合い…ですか?」
「あら…?あなたは…ええ、そうよ海里艦長と釧路とは何度か海で会ったこともあるし聞いていたとは思うけど私の上司である宗谷真霜一等保安監督官は彼のお姉さんなの」
「そうだ、だからもう安心して大丈夫だ明乃。気を取り直して釧路と晴風との合流ポイントに急ごう」
ブルーマーメイドの平賀達と共に釧路と晴風との合流地点に向かう海里と明乃たち。その夜、釧路と晴風は間宮を旗艦とする艦隊と合流を果たしていた。
晴風艦橋
「か、囲まれた?!」
「おや?まったく艦長の留守中に来るかい。あ~、慌てなさんなましろちゃ…ましろ副長。艦隊の中にはうちの航洋艦たちもいるし…ほら、主砲も仰角を最大まで上げてこっちに向けてもいないでしょう?なら間宮と明石もいますしこちらに対する補給艦隊だと思いますよ?」
「そ、そうですか…ほっ…。ってみ、湊副長!私のこと家で言ってる様に言わないでちゃんと副長と…!」
艦隊に包囲された事で浮足立つ晴風の艦橋要員たちを落ち着かせる湊。
「あら?ああ~、すみませんね。つい、いつもと同じ様に呼んでしまいました」
湊の弁明の内容に芽依が反応する。
「えっ?!副長っていつもは湊副長にちゃん付けで呼ばれてるの?!」
「い、いや!そうではない!そうでは…」
「いや~…ましろ副長は小さい頃から我が海里艦長や私の後ろをついてきていましてね?それはそれはもう可愛ーー」
「ああ~!!!もうそれ以上は言わないでください!!!」
芽衣の質問に悪ノリした湊がましろの過去を赤裸々に語ろうとするも赤面したましろに阻止される。
『こちら見張り員!艦長たちが乗ったスキッパーが戻ってきます!ブ、ブルーマーメイドの哨戒艇も一緒です!』
「おや、ブルーマーメイドも一緒ですか…。まぁ艦長たちが無事に帰ってこられている時点で味方でしょうけどねぇ…」
「ほっ…なんだ…味方なんだ…」
見張り員のマチコからブルーマーメイドの哨戒艇接近の報に再び浮足立つ艦橋だったが湊の見解を聞き安心する鈴。だがーー。
「ゔぅ゙〜」
そこには唸りながら真紅の目を爛々と輝かせている志摩の姿があった。
「ど、どうしたの…?もう大丈夫だって湊副長が…」
「何言ってんだ!何が大丈夫だこの野郎!攻撃だ~!」
「やめろ!戦闘禁止だ!」
「う~ん…味方かもしれないのに撃つのはちょっと…」
「そも、立石砲術長はこんなに好戦的な性格でしたっけ?」
突如として豹変した志摩に困惑する湊たち。困惑のあまり駆け出す志摩の対応に後れてしまう。艦橋を飛び出した志摩は艦後部の機関砲に飛びつくと釧路をはさんで反対側に停船している間宮と明石に射撃を開始する。
「明石!間宮!オメーらにやられるタマじゃあねぇーんだ!こっちはー!」
「ほんとに撃つ気だ!」
「志摩砲術長!落ち着け!!、晴風、釧路の乗員は伏せろ!!」
同時刻、釧路甲板
「ふう、ようやく味方と合流できた~…。これで少しは楽になるかな~?」
釧路の甲板から合流した間宮艦隊と旗下であった第1哨戒戦隊の航洋艦たちを見つつ背を伸ばす釧路の砲術長藤堂澪仁。艦隊が合流したことで気が抜けたその瞬間
『志摩砲術長!落ち着け!!、晴風、釧路の乗員は伏せろ!!』
「んぇ?さっきの声はましろちゃん?伏せろって…え゛」
澪仁が声の方向である晴風の方を向くとこちらに機関砲を向けている志摩と目があった。
「そ、総員伏せろぉ!!!噓でしょ?!噓でしょ?!噓でしょ?!」
澪仁の切羽詰まった声を聞き伏せる釧路の乗員たち、その直後ダン、ダンと機関砲の重い発砲音が響き渡り釧路の舷側や上部構造物に着弾し火花を散らせる。
「ひ、ひぃぃ!ナンデ?!晴風撃ってくるナンデ?!」
釧路の舷側で伏せている澪仁が悲鳴をあげる。
同時刻、晴風艦橋
「撃っちゃった…釧路に撃っちゃった…」
「なんてことをしてくれたんだ…」
「あらら…これは…これは…」
三者三様の反応を見せる晴風艦橋。機関砲の残弾がなくなったのを確認した志摩が他の機関砲にとりつきに行こうとするその瞬間、
「この阿呆の馬鹿者が~!!!」
いつの間にか志摩に近づいていたミーナが志摩を海に投げ捨てる。
「しまった!」
『ああもう!いきなり立石砲術長から撃たれたと思ったらその立石砲術長が海に投げ飛ばされるしなんなんだもう!こちら澪仁!立石砲術長の救助に入ります!』
晴風の隣接して停泊していた釧路から澪仁が志摩の救助の為に飛び込む。
「や…やってしまった…」
「ぷはっ!捕まえた!大丈夫ですか?!立石砲術長?!」
「うぃ…」
海に飛び込んだ澪仁が海中に沈みかけていた志摩を抱きかかえて水面に上がる。
「何をやっているんだ貴様らは…?」
「タマちゃん!大丈夫?!掴まって!」
水面に上がった所を海里と明乃が乗ったスキッパーに引き上げられる。
「ありがとうございます、艦長」
「うぃ」
「あれ?いつもの調子に戻ってる?」
晴風の甲板から志摩の様子を見ていた芽衣が呟く。
「みんな~!来てくれた艦隊は味方だよ~!!!」
「夜で見づらいだろうが味方を示す信号旗が上がっているはずだ」
海里の言う通り間宮を始めとする艦隊のマストには自身が味方であることを示す旗が掲げられていた。
翌朝、晴風甲板
「平賀二等監察官に兄さ…海里艦長、誠に申し訳ございませんでしたぁ!」
朝一番に昨夜の晴風の責任者であったましろの謝罪の声が響く。
「まあまあ、幸い我々ブルーマーメイドや補給艦隊の生徒たちにけが人は出なかったですから…」
「釧路も乗員の損害らしい損害は伏せた際にできたすり傷くらいのものだ。艦の被害も軽微だった、気に病むことはない」
ましろの謝罪に応じる平賀と海里。
「昨夜、海里艦長から晴風の行動に関する聴取の報告書を受け取りました。これで正式に晴風の反乱艦扱いが解除されるでしょう」
「よかった…」
「ほっ…」
平賀の言葉を聞いて安心する明乃とましろ。その隣では海里と間宮の艦長藤田優衣明石の杉本珊瑚が釧路と晴風の補給と修理に関して話し合っていた。
「藤田艦長、杉本艦長、晴風と釧路の補給及び修理を感謝する」
「いえいえ、そんな…。我々は宗谷校長から依頼を受けただけなので…」
「宗谷校長から依頼…か」
「はい、私たちもなにが起こっているのか把握できなかったんですけれど遠洋航海が中止になって横須賀に帰還しようとしたら海上安全委員会から出された帰還禁止命令で立ち往生してて…。どうしようってしていたらアルバート艦長のシェフィールドと第1哨戒戦隊の大風たちが護衛してくれてやっと横須賀校に寄港できたんです。その後横須賀校で燃料と食料を補給していたら宗谷校長から晴風と釧路に補給と修理をする依頼をされました」
「その後は我々の第1哨戒戦隊の航洋艦と共にこちらに?」
と優衣の補足に海里が質問すると
「いいえ、アルバート艦長の水雷戦隊も護衛に加わってくれていたのだけれど東舞校の藤堂校長から武蔵やアドミラル・シュペーを始めとする行方不明の航洋艦の捜索を依頼されたみたいで私たちが晴風たちと合流する直前で離脱したわ」
そう海里の疑問に珊瑚が答える。
「そうか…アルバートは行方不明艦の捜索に…」
「武蔵も…」
「…」
海里がアルバートの動向を入手し暗い表情をしている明乃を見つめていた頃、晴風の機関室では釧路と晴風の機関科の活躍と明石から派遣されてきた応急班の助けもあり応急修理が完了しつつあった。
「ようやく、この機関の修理が完了するなぁ…」
「ほんとにお前さんら釧路と明石の機関科には感謝してもしきれんぜ!ありがとうな!」
そう礼を言う麻侖に蓮也が返す。
「いやいや、こっちは艦長の指示で来ただけだよ。こいつを整備できたのはいい経験になったぜ」
「そう言ってもらえるとありがたいってもんでい!」
「ああそうだ、麻侖お前機関室で寝てるって言ってたろ?だからこれを持ってきたぞ。最低限消臭はしてあるから匂いはないはずだが…」
そう言い蓮也は麻侖に寝袋を渡す。
「な、なんでいなんでい。いいのか?蓮也だって使うんだろ?」
「おう、もってけもってけ。流石に椅子を並べてベッドにしてるなんて聞いちまったら放っとけねぇよ。機関長なんだから最低限の寝具はもっときな」
その言葉に感極まった麻侖は蓮也に体当たりをするように抱きつく。
「おうおうおう!本当にありがとうなぁ!蓮也!大事に使わせてもらうぜぃ!」
「おいこら、麻侖抱きつくな!暑いだろうが。見てるからお前の助手がおっそろしい目で見てるから!」
わちゃわちゃと賑やかな機関室とは裏腹に晴風の士官室ではこれからの行動を決める会議が開かれていた。
「さて、補給と損傷箇所の修理が終わった今どう行動する?予定通り横須賀に帰還するの最善だと思うが…」
「うん、海里さん。それで大丈夫です。早く皆を陸(おか)に上がらせてあげたいですし…ただ…」
「武蔵の捜索をしたい気持ちはわかるが…」
「えっ?!な、なんでそのことを…?」
「私が明石の杉本艦長と話していた時に武蔵の話題が出ていただろう?その時の明乃艦長の表情を見ればわかるさ」
「…///」
自身の醜態を見られていた恥ずかしさから赤面する明乃だが海里の表情は硬い。
「行方不明の友人を案ずる気持ちは尊重する…だが君は晴風の艦長だ。艦長という艦の皆の命を預かる立場ならまずは晴風の生徒たちのことも気にかけてあげてほしい」
「はい…わかりました」
海里から艦長の立場を説かれ落ち込む明乃。その不安を晴らすように明乃の頭を撫でつつ海里は言う。
「大丈夫だ、明乃艦長。武蔵を始めとする行方不明となった航洋艦の捜索には横須賀校や東舞校の教官艦が出動している。」
「海里さん…」
「我々は一足先に横須賀校に帰投しよう」
明乃を案じ頭を撫でる海里、親友である知名もえかを心配しつつ海里に撫でられるがままの明乃。二人の想いをよそに事態は思わぬ展開に転がっていくーーー。
描写にはないですがネズミモドキはちゃんと美波さんの医務室にドナドナされています。