「ハイスクール・フリート-Anchorage」 作:海洋の橋立
間宮と明石から補給を受け横須賀女子海洋学校への航海準備が整った釧路と晴風。
晴風艦橋
晴風の生徒たちが占いやパラセーリングなどで思い思いに休息をとっている中、艦橋では
「いや~、よかったですね~、釧路から通信機を融通してもらえて~」
「ああ、明石から砲の換装と水上レーダーの修理はしてくれたがまさか通信機の在庫がないと言われるとは…」
幸子とましろが明石と釧路からの修理の内容に関して話し合っていた。
「本当ですよ~!これでやっと釧路と満足に通信できる様になりました!」
「後は無事に横須賀まで帰還出来ればいいんだが…」
一方、釧路の艦橋では通信で海里と典子が艦隊から離脱する挨拶をしていた。
釧路艦橋
「ここまで同行して頂き感謝します、平賀二等監察官」
『いえいえ、どうということはありませんよ、宗谷艦長』
「では、晴風の件よろしくお願いします」
『ええ、ちゃんと宗谷一等保安監督官に報告させていただきます』
「お願いします…では、無事の帰還を祈ります」
『そちらもね』
通信が終了すると艦隊の後方で停泊していたブルーマーメイドの哨戒艇が離脱していく。
再び釧路と晴風のみとなった艦隊ではミーナの歓迎会が開かれようとしていた。
晴風前甲板
「今からミーちゃんの歓迎会を始めます!」
「え?!、私の…なぜ…?」
ミーナの困惑をよそに二つのケーキの蠟燭に火がつけられる。
「ん…?なんでケーキが二つもあるんだ…?」
「晴風でミーちゃんの歓迎会をするって海里さんに伝えたら釧路の主計科にケーキを作る様に頼んでくれたんだっ!」
「そうか…海里艦長と釧路が…」
ケーキが二つある理由を明乃から説明されて納得するミーナ。
「じゃあ、晴風の新しい仲間になったミーちゃん、なにかひと言!」
「ん~…、ではこの艦は奇妙な艦だ…去年から交流のある釧路に比べて上下関係は曖昧だし、規律も緩い、おまけに艦長は艦長らしい覇気もへったくれもない」
「あはは…」
「まったく…」
「こんな緩い艦は見たことがない…が…ヘ…ヘッペンハイムのシュタルケンブルク城みたいで小さいが風情がある」
「あの~…たとえがわかりずらいです~…」
「じゃあ、ニュルンベルクのソーセージだ!」
「 「 「…」 」 」
「それに…、こんな風に私を歓迎してくれるとは…晴風乗員諸君、私はこの手厚い歓迎に感謝する!」
そう言いミーナは二つのケーキに刺さった蠟燭を吹き消す。晴風の生徒たちがミーナに拍手をした後にケーキが切り分けられる。
「ん~!おいし~!」
「陸(おか)を離れてから久しぶりのケーキですからね~」
目いっぱいにケーキを頬張って目を輝かせる芽衣と相づちを打つ幸子。
「釧路からもらったケーキ…チョコが濃厚で美味しいね、マロン」
「おう!クロちゃん、晴風のケーキも美味いがこのケーキに付け合わせのホイップクリームが抜群にあうんでい!」
晴風と釧路のケーキに舌鼓を打つ晴風の生徒たち。
「うむ…ザッハトルテか…。うん!ウィーンで食べたときのものと似ているな!」
「ウィーン…というとドイツの隣の…?」
そう質問するましろにザッハトルテを食べるミーナが答える。
「そうだ、国は違うが言語は大体同じでな、幼少の頃から家族と旅行に出かけたりしていた。海洋学校に入学してからはシュペーの生徒たちと行ったこともあったな」
「シュペーの生徒たちと一緒に…」
「そうだ…ええい!思い出すと腹が立ってきた!」
なにかを思い出したのかもりもりとケーキを食べながらミーナが怒り出す。
「な、何を思い出すのですか…?」
「何ももへちまもないわ!あのキツネのアルバートめ!テアといるといつもの様に出て来る!テアと一緒にウィーンへ行った時もそうだ!どこからともなく出てきて…」
「あはは…」
そのままもっきゅもっきゅとケーキを食べきるミーナに苦笑いをするましろの姿があった。そのまま歓迎会が和やかに終わるかに見えたその時ーー
『艦長!学校から緊急電です!』
電信室から鶫からの報告が届く。
「何事だ?!」
「総員、配置について!」
慌ただしくなる晴風、隣を見ると釧路も同じ電文を受信したのか甲板で生徒たちが走り回っている。
釧路艦橋
「碧葉、電文の内容は?」
『はい、北緯19度41分、東経145度0分地点で武蔵を捜索していた東舞校教員艦との連絡が途絶えた。周辺で最も近い位置にある釧路は晴風と共に現地に向かい、状況を報告せよ。尚戦闘は禁止、晴風及び釧路の安全を最優先すること。だそうです』
「そうか…了解した。達する。本艦はこれより晴風と共同して武蔵と東舞校教員艦の捜索に向かう。湊、両舷前進強速、総員第2戦闘配置」
「了解です。機関を両舷前進強速へ、総員第2戦闘配置。見張り員、見張りを厳に」
「 「了解!」 」
アスンシオン島近海
「増援8隻が到着、陣形、整いました!」
釧路艦と晴風が捜索海域に到着した時には既に増援の東舞校教員艦艦隊が武蔵の周囲に展開し武蔵と砲火を交えていた。
釧路艦橋
「こちら見張り員、教員艦艦隊と武蔵が戦闘中の模様!航行不能の教員艦多数!」
「さて…どうします?艦長。うちらの教員艦を援護しようにも相手は対46cm砲防御を施された武蔵です。こちらの15.5cm砲では碌な有効打は望めませんが…」
「そうだな。我々の任務は状況の報告だ。それに本艦後方には晴風もいる、いたずらに仕掛けて晴風に危害を加えさせるわけにもいかん。本艦と晴風は武蔵の監視及び航行不能となっている教員艦の乗組員の救助にあたる。碧葉、通信で晴風にもこの内容を伝えろ」
『こちらCIC、了解しました。晴風に釧路と連携して教員艦の救助及び武蔵の監視を伝達します』
「頼む。飛び出してくれるなよ…明乃艦長…」
教員艦に砲撃する武蔵を睨みつつ明乃が独断専行しないことを祈る海里。
晴風艦橋
「凄い…」
晴風の艦橋では教員艦を翻弄する武蔵に圧倒されていた。
「艦長!釧路から通信です!『晴風は本艦と共に損傷し航行不能となっている教員艦の乗組員の救助作業にあたれ』です!」
「了解した!艦長!通信通りに釧路と共に救助を…」
「…」
「艦長!」
明乃の心は葛藤で揺れていた。親友である知名もえかの無事を確かめたい衝動と海里から言われた言葉がせめぎ合う。
『行方不明の友人を案ずる気持ちは尊重する…だが君は晴風の艦長だ。艦長という艦の皆の命を預かる立場ならまずは晴風の生徒たちのことも気にかけてあげてほしい』
「…」
「艦長!!!」
一向に返答しない明乃にましろが声を荒げる。その声に明乃は口をぎゅっと結んだ後に言葉を発する。
「釧路…釧路の指示に従って教員艦の救助をするよ…」
「艦長…」
明乃が飛び出して行く可能性を危惧していたましろはその言葉を聞いて安堵の息をもらす。だがーー
『こちら見張り員、武蔵が副砲を本艦に向けて指向中!』
マチコから武蔵が晴風を狙っているという報告がされた直後、晴風の艦橋を大きな影が覆った。
釧路艦橋
「とうとうこちらに砲を向けて来たか…。やむを得ん、今から本艦が武蔵に対する陽動攻撃を開始する。1番、2番主砲打ち方よーい!弾種榴弾!武蔵手前に着弾させ照準を妨害する!晴風には教員艦の救助を中断し退避せよと伝えろ!航海長、増速しろ!晴風の前に出る!」
『こちらCIC!晴風への退避命令了解!』
「こちら砲術長、武蔵への妨害了解!」
「こちら航海長了解。増速します」
急激に速力を上昇させる釧路。後方で照準されている後輩たちへの攻撃を誘導するべく武蔵の前に躍り出る。
晴風艦橋
「く、釧路、増速して武蔵に向かっています!」
『こちら電信室!釧路から教員艦の救助を中断し晴風単艦で退避せよとの命令です!』
「なんだと!?な、なら釧路はどうするんだ!?」
「海里さん…」
突然の釧路からの退避命令に動揺する明乃とましろ。艦長たちが動けずにいる晴風の艦橋でミーナが檄を飛ばす。
「阿呆ぅ!旗艦から指示があったのならその通りに動かんか!」
「で、でも海里さんたちはどうすれば…」
「見て分からんのか?!釧路は晴風を護る為に武蔵の囮になっとるんだ!」
「え…?!」
「だから我々が釧路の為にできることは全速で武蔵から離脱することのみだ!」
「っ!!!リンちゃん!取舵一杯!武蔵から離脱するよ!」
「は、はぃぃぃ!」
明乃からの指示に鈴は操舵輪を目いっぱい回す。晴風は武蔵からの離脱を開始した。
釧路艦橋
「晴風、離脱を開始しました!」
「ようやくか…。副長、艦の被害は?」
「これといった被害はありませんよ、艦長。武蔵の副砲が数回至近弾として被弾しましたが艦の航行、戦闘共に支障なしです」
「よし、ならばここまで接近したんだ武蔵の艦橋の様子を調べた後に本艦も後退する」
「了解です。こちら副長から右舷見張り員、武蔵の艦橋を最大望遠で撮影しろ。ブレは許さんぞ」
「こちら見張り員、武蔵の艦橋の撮影了解!カメラ持って来い早く!」
晴風が後退したことを受けて釧路は武蔵の異常を探る為に撮影を開始する。
10分後、撮影が完了したと判断した海里から釧路も武蔵から退避する判断を下す。
「もう撮影は十分だろう。本艦もこれより武蔵から離脱する!反転しつつ煙幕を展開しろ!砲撃を攪乱する!」
「了解です。武蔵の撮影会は終わりだ!煙幕を展開しろ!離脱するぞ!」
釧路が白い煙に包まれながら武蔵から離れていく…その姿を武蔵の艦橋から見つめている者がいた。
「晴風…ミケちゃん…釧路…」
武蔵から後退した釧路が先に離脱していた晴風と合流を果たしている頃。
横須賀女子海洋学校、会議室
「東舞校教員艦16隻が航行不能…!?」
信じられない報告の内容に横須賀校の校長である宗谷真雪が驚愕の声をあげる。
「戦闘の結果武蔵の損害は軽微…追跡していた釧路と晴風は攻撃により離脱して目標をロスト…教員艦は最新鋭の艦で編成されていたはず…なのに…なぜ…」
真雪の疑問に秘書が答える。
「東舞校の艦からの報告によりますと電子機器と誘導弾が全て機能不全を起こした模様…」
「乗組員は?」
「3重の安全装置は伊達ではありませんね…。死者はゼロ、軽傷者が数名のみです」
「武蔵の燃料と弾薬はどれ程残っていますか?」
「出港時に満載状態でしたので…推定では燃料は8割以上、弾薬は東舞校教員艦艦隊や釧路と砲戦したことを踏まえると6割ほど残っているかと…」
「なぜそんなに搭載を?」
「大和型の砲弾の洋上補給は大変困難ですので…」
会議室で真雪が秘書と状況の把握に務めていたその時慌てた様子の教員が会議室に入室し報告を行う。
「校長!大変です!比叡、鳥海との通信が途絶しました!」
「なんですって!?…他に所在が不明の艦は?」
「今しがた通信の途絶が確認された比叡と鳥海、それから摩耶、五十鈴、名取、時津風、磯風、天津風並びにドイツより参加予定だったアドミラル・グラーフ・シュペーです」
「そんなに…今動かせる艦艇は?」
「補給活動中の間宮、明石、護衛の秋風、浜風、舞風と間宮達を護衛中の東舞校の大風(おおかぜ)、宵風(よいかぜ)、沖風(おきかぜ)。偵察に出ている長良、晴風、浦風、萩風、谷風、東舞校の釧路、イギリスから東舞校に留学しているシェフィールド、ジャーヴィス、ジェーナス、ジャベリンのみです」
「山城、加賀、赤城、伊吹、生駒はドックに入渠していてどんなに急いでも半年は動けません。航洋艦は多少前倒しは可能ですが、それでも最低で3ヶ月はかかるかと…」
「武蔵との遭遇地点に向かわせられる艦艇は?」
「釧路と晴風以外は他の艦艇の捜索に出ているので少なくとも…あと数日は…」
「…。わかりました、東舞校の藤堂校長に通信をつないでください」
「校長…?わ、わかりました、藤堂校長に通信をつなぎます!」
横須賀校で会議が繰り広げられている頃、武蔵から命からがら退避した釧路と晴風は濃霧の中に突入していた。
釧路艦橋
「武蔵から離脱したはいいがこの濃霧はキツいな…晴風に本艦に続く様に知らせろ」
『こちらCIC了解。伝えます…あれ?ダメです晴風からの返信がありません』
「なに…?」
返答がないことに困惑する海里と碧葉をよそに事態は刻々と進んでいく。
「こちら見張り員、晴風が艦隊から離れつつあります」
「なんだと?碧葉、もう一度通信で伝えろ。見張り員、発光信号で晴風に連絡を試みろ」
『こちらCIC了解、再度通信を試みます』
「こちら見張り員、了解。発光信号で連絡を開始します」
釧路から晴風へ発光信号が送られる。その信号にようやく気付いたのか晴風が停船する。
「気付いたようですね。しっかしなんで通信が繋がらないんでしょうねぇ?」
「さあな、わからんが発光信号で連絡が取れてよかった」
『艦長、こちらCIC、ソナーマンから最悪な報告を受けました』
「ソナーマンから?なんだ?潜水艦か?」
『だったら楽だったんですけどね、機雷です。我が艦隊は機雷原にはまった様です』
「…。…副長、晴風にも発光信号で情報を共有しろ」
「了解です、艦長。発光信号で共有させます」
海里が頭を抱えながら晴風に情報を共有する。数分後、通信が回復した晴風と機雷の掃海方法の相談をするのだった。
あまり釧路たち以外の描写が入れられなかった…。
釧路たちに主砲が向いていなかったのは東舞校の教員艦艦隊が死ぬ気で主砲の砲撃を引き付けたからです。
教え子たちがいる手前情けない所は見せられないので頑張ったんでしょう。
釧路が武蔵の副砲の砲撃を受けてほぼ無傷なのは艦艇紹介でも記載されている通り対20.3cm砲防御を念頭に置いた装甲が船体全体に満遍なく張ってあるからですね。
腐ってもニイハウ条約時代に建造された軽巡洋艦なので現代艦である教員艦より堅いです。(なおニイハウ条約適用外の模様)
描写にあった通り釧路の僚艦の大風型3隻は間宮の艦隊を護衛中です。道中なにがあるか分からないからねシカタナイネ。
ぶっちゃけ晴風単艦の護衛なら釧路だけで事足りるしなら護衛が必要なのは間宮と明石の補給艦隊の方じゃない?となりました。
流石に航洋艦3隻だけじゃ満足な護衛はできないだろうし…。