「ハイスクール・フリート-Anchorage」   作:海洋の橋立

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「第7話 掃海!機雷原突破!」

武蔵から退避に成功したのも束の間、機雷原に突入した釧路と晴風。機雷原から抜け出し武蔵の捜索を再開する為にも掃海を開始する。

 

釧路艦橋

 

「碧葉、周囲に敷設されている機雷はどの種類だ?」

 

『ええ、ソナーマンによると係維機雷、浮遊機雷、短係止機雷、沈底機雷…の4種類だそうです』

 

「航路阻止の為に敷設された代物だろうがまた厄介な物を…」

 

「どうされます?艦長。掃海しようにも既に我々は機雷原の中です。下手に艦を動かせばどんな被害を被るか予想がつきませんよ?」

 

「うむ…」

 

掃海方法に悩む海里、沈黙が支配しかけていた釧路の艦橋に一本の通信が入る。

 

『艦長、お悩みの所申し訳ありませんが晴風から通信が入っています』

 

「晴風から…?繋げろ」

 

『了解。通信をそちらに送ります』

 

碧葉が晴風からの通信をCICから艦橋に中継すると明乃の声が響き渡る。

 

『海里さん!周りにある機雷の掃海方法について思いついたんですけど…』

 

「聞かせてくれ、明乃艦長」

 

『はいっ!釧路と晴風で掃海するのは危険なので代わりにスキッパーを使ってみるのはどうでしょう…?』

 

「スキッパーで…掃海を…?」

 

『スキッパーなら晴風より小さいので機雷に反応しづらいかな~って思って…』

 

「なるほど…。了解した、その案でいこう」

 

『了解ですっ!あっ!シロちゃん海里さんからの許可が降りたよ~!』

 

「…」

 

明乃のましろを呼ぶ声を最後に通信が終了する。まさか艦載艇であるスキッパーを掃海に利用しようとする明乃の提案に瞠目する海里。海里は突飛かつ効果的な案を思い付く明乃に畏敬の念を抱いたのも束の間、矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 

「さて、聞いたな?釧路もこれよりスキッパーによる掃海を開始する。スキッパーで機雷を切り離した後に副砲で機雷を処理する」

 

「いやはや、岬艦長もなかなか奇抜な案を思い付きますねぇ…。確かに航洋艦よりは反応は鈍くなるでしょうが…」

 

「ああ、だが万が一機雷に触雷してしまっても搭乗員の被害が最小限となるように重安全具の装着を義務付ける」

 

「了解です、艦長。して…誰がスキッパーに搭乗するんですか…?釧路に在籍している生徒たちにスキッパーの搭乗資格を持つ者は希少ですが…」

 

「そうだな…スキッパーに搭乗するのは艦を離れても支障のない者になる。よって艦を動かす必要はないから凪と…私だな」

 

自然と艦の最高責任者である自身を選択する海里に湊が苦言を呈する。

 

「いやいや、艦長…。【私だな】はないでしょう【私だな】は…。艦の頭が率先して危険な作業に従事してどうするんですか。ここは副長である私に…」

 

「そうは言うが湊、私の方がスキッパーの操縦は卓越していることはお前も知っているだろうに…。大丈夫だ、重安全具は着用する。何も問題はあるまい」

 

「ならいいんですが…」

 

渋りつつも艦長命令を受諾する湊をよそに釧路と晴風のスキッパーを用いた掃海が開始される。

 

「よし、掃海の前に周囲にある機雷を除去するぞ」

 

「了解です、艦長。砲術長!目標、本艦周囲に浮遊する機雷群!副砲と機関砲を用いて破壊せよ!」

 

「こちら砲術長、了解!目標、周囲に浮遊している機雷群!副砲、機関砲撃ち方よ~い!」

 

砲術長である澪仁の号令をもって釧路の副砲と機関砲が自身を囲んでいる機雷を次々と破壊していく。

 

「撃ち方やめ。これよりスキッパーを投入する」

 

「撃ち方やめ~!スキッパー投入用意!本当に気を付けてくださいよ?」

 

「無論だ。晴風の護衛すら満足に果たせていないんだ。こんな所で下手は打たんよ」

 

周囲の機雷が十分に掃討されたのを見て海里はスキッパーの投入を指示する。

 

「こちら海里。艦橋、聞こえるか?スキッパーに搭乗した。掃海具の接続も確認した…これよりスキッパーによる掃海を開始する」

 

『こちら艦橋、バッチリ聞こえます。おっ、どうやら晴風の方でもスキッパーで掃海を始めたようです』

 

「そうか…。凪、我々も掃海を始めるぞ」

 

「了解!」

 

海里たちがスキッパーで掃海を開始する。機雷に感知されないように慎重にスロットルを動かして機雷のワイヤーを切断していく海里と凪。

 

「しかし、ここまでスキッパーによる掃海は神経を使うとはな…。そちらはどうだ、凪?」

 

『ええ、まぁ…なんとかです。早く終わらせてアイスでも食べたいですね…』

 

「そうだな、この掃海が完了したら主計科に甘味でも配給させるか…。ん…?」

 

疲れた様子の凪を見やり掃海後の甘味の配給について思案していた海里の視界に速度を上げつつあるスキッパーが映る。

 

「っ!?晴風のスキッパー!速度を落とせ!触雷するぞ!」

 

「えっ?…うわっ!!!」

 

案の定速度を上げたスキッパーに反応した機雷が爆発し、スキッパーも機雷の爆発と水柱に巻き込まれる。

 

「言わんこっちゃない。こちら海里より釧路。スキッパーが触雷。繰り返す、スキッパーが触雷。これより本艇が救助に入る」

 

『こちら釧路、了解。掃海作業を一時中断します。救難信号を受信…安全装置が機能したようです』

 

「了解した。要救助者は2名の為凪も動員する。聞こえたな?凪」

 

『こちら凪、救助命令了解!ただちに向かいます』

 

「よし。湊、晴風にこちらが救助する旨の共有を頼む」

 

『了解です。晴風に状況を共有します』

 

海里と凪のスキッパーが救助に入り、触雷した理都子と果代子の救出にあたる。

晴風に理都子たちを送り届けた後、掃海作業は滞りなく進行し夜までに艦隊は機雷原からの脱出に成功する。

 

「なんとか脱出できたか…。晴風はついてきているか?」

 

「ええ、ちゃんとついてきていますよ」

 

『その晴風から通信ですよ、艦長。どうも通信相手は晴風の艦長ではなく衛生長からですが』

 

「晴風の衛生長から…?繋げ」

 

『了解』

 

明乃やましろではなく衛生長の鏑木美波からの通信に首をかしげる海里だがそうしているうちにCICから通信が中継される。

 

『釧路の艦長、そちらの衛生科に余裕はあるだろうか?』

 

「衛生科か?負傷者も皆無だから手隙になっているだろうが…そちらが対応できない程の負傷者が…?」

 

『そういうわけではないがウイルスに対する抗体らしきものの作成が完了した』

 

「ウイルス…。ああ、電波障害を引き起こすという」

 

『そう、機雷原に進入したときに晴風に通信が届かなかったのもこのウイルスが原因』

 

「そうか…それで我々の衛生科に何をさせたい?」

 

『抗体のデータを送るから釧路の衛生科でも抗体を増産して欲しい』

 

「なるほど…確かに釧路でも抗体を生産すれば枯渇する心配はなくなるか…。了解した、鏑木衛生長。すぐに抗体のデータの送信を頼む」

 

『了解。データを送る』

 

美波からウイルスの抗体のデータを受け取る海里。そのデータを元に釧路の衛生長 藤田航(ふじた わたる)は衛生科総出で抗体の増産を行う。

 

4月22日

 

洋上で停泊している釧路と晴風。晴風に移動した海里と晴風の艦橋要員たちで会議が行なわれていた。

 

晴風艦橋

 

「…以上が今まで所在が確認された航洋艦の発見された位置です」

 

「さて、いったいどこに向かっているのやら…」

 

「これほどの数の航洋艦が行方不明とは…」

 

各々意見を言いながら艦橋で会議を進めていると伝声管から悲鳴が届く。

 

『艦長!み…水がっ!水がありません!』

 

しばらくして。

 

「まさか、晴風の蒸留装置が故障するとは…」

 

「ええ、どうしましょう…」

 

「致し方ない、こちらの工作班を派遣しよう」

 

「ありがとうございます、兄さん…」

 

宗谷兄妹が対応を話し合う。その横で幸子に明乃が尋ねる。

 

「ねぇ、ココちゃん補給艦と合流できるのって…」

 

「補給艦との合流まであと数日はかかります…」

 

「だよね…」

 

節水生活が確定となり絶望が明乃たちを包みかけていたとき海里が言う。

 

「流石に放ってはおけんな…まだ無事な装置に釧路から真水を補給しよう」

 

「そこまでしてくれるのは嬉しいんですけど釧路の分は足りるんですか?」

 

「心配するな、明乃艦長。前にも言ったが釧路は旗下の航洋艦に対する補給の為に燃料や真水などの必需品は常に満載している。晴風の貯水槽に数回は補給できる程の量は確保してある」

 

「釧路から補給がされるならなんとかなりそうです…とはいえ節水するのは変わりないですけど…」

 

「うむ、そもそも蒸留装置が故障しているから致し方なしか…」

 

釧路から真水の補給を受けられると知るも蒸留装置が故障している為節水することになる言う幸子とそれに同意するましろ。

 

「そうだな…納沙書記。質問なのだが晴風に補給する真水を洗濯のみに使用した場合、余剰分は晴風内で飲用水にまわせるだろうか?」

 

「宗谷艦長…?ええと…確約はできませんが多分、可能だと思いますが。それは、どういう…?」

 

「なんてことはない、晴風で食事と入浴に制限されるならば釧路で肩代わりをすれば済む話だと思ったまでだが…」

 

「釧路で肩代わり…って兄さん、釧路は…」

 

「釧路が男所帯であることは承知しているよ、ましろ。だが釧路と晴風の生徒たちが利用する時間をずらすことで施設を使うことは可能だろう?その点についてはこちらとしても最大限配慮はさせてもらう」

 

「それは…どうしますか?艦長?」

 

「とりあえず皆を教室に集めて意見を聞こうと思うんだけど海里さんとシロちゃんもそれでいい?」

 

「ああ、構わない。なら私は釧路に一度戻って工作班と真水の補給の準備をしてこよう」

 

「ええ、大丈夫です」

 

一旦晴風の教室で釧路の設備を利用するか否かの会議を始めると同時に海里は工作班と真水の補給の手配の為に釧路に帰還する。

 

晴風教室

 

「報告ですっ!蒸留装置が故障して真水の精製ができません!」

 

「 「 「え~!!!」 」 」

 

「釧路から真水は補給できるようになるんだけど…」

 

「そもそも蒸留装置が壊れているから満足に真水が使えない。だからー」

 

明乃とましろが蒸留装置が故障して節水することになることを説明しつつ、釧路の設備を利用することに賛否を募ると…。

 

「えぇ…?釧路の…だ、男子がいる艦に行くの…?」

 

「うぃ…」

 

艦橋要員である鈴と志摩が拒否感を示す。

 

「うーん、私は賛成かな~?宗谷艦長も時間は分けるって言ってたし。それよりも釧路はお風呂が広いらしいよ?」

 

「私も賛成だな!機関科はただでさえ汗をかきやすいんだ、風呂にすら入れないんじゃ話にもならねぇ!」

 

同じく艦橋要員の芽依と機関科の長である麻侖が賛成に票を投じる。

 

「もちろん、女子専用の利用時間を作ってもらって、釧路の生徒たちとは会わないように海里さんが調整してくれるよ?」

 

「まぁ、風紀の面でも釧路なら大丈夫だろう私も見張る」

 

「うぅ…岬さんがそこまで言うなら…」

 

「大きい…お風呂…」

 

明乃とミーナの説得により鈴と志摩が納得したことで釧路の設備の利用が決定される。一方、釧路では海里が晴風の状況をそれぞれの科長たちに説明していた。

 

釧路士官室

 

「なるほど…。晴風で蒸留装置の故障ですか…。それで釧路の大浴場と食堂を使用させると…私はいいんじゃないかと思いますけど主計科はどうです?」

 

「はい、副長。主計科としても真水の補給も含めて晴風への支援は賛成です。真水が使えないというのはつらいですからね。大浴場や食堂も釧路と晴風で利用可能な時間を調整して対応しましょう」

 

「頼む」

 

釧路の晴風の生徒たちの受け入れ準備が粛々と進み錨を下した釧路と晴風は完全に接舷する。1時間後、晴風の生徒たちが釧路に乗艦する。

 

「これが釧路の中か…」

 

「廊下が大きいね…シロちゃん」

 

「ああ…」

 

「食堂はこちらだ。艦内で食堂と大浴場以外につながる通路は封鎖しているから迷うことはないだろうが一応気を付けてくれ」

 

「はいっ!海里さん!」

 

「ああ…。明乃艦長、食後で構わないが行方不明艦の捜索について確認したいことがある。先程は修理騒ぎで中断されてしまったからな…。夕食後に釧路の士官室で話を詰めたいのだが…構わないか?」

 

「大丈夫です、ご飯を食べたあとに会議ですよね?わかりました!」

 

「すまない…なるべく時間を消費しないようにする」

 

海里の案内で釧路の食堂に通される晴風の生徒たち。食後晴風の生徒たちが釧路の大浴場で入浴している中海里は明乃と共に中断されてしまった会議の続きをしていた。

 

「ーーー報告によれば武蔵以外の艦は横須賀校やブルーマーメイドが担当している。よって我々は引き続き武蔵の捜索をする」

 

「はい…モカちゃん…」

 

「…」

 

「あっ!!!」

 

「っ!?どうした?明乃艦長?」

 

会議が終わり解散しようかという所で明乃が何かに気付いた様に声をあげる。

どうしたのかと聞く海里に明乃は士官室に備え付けられた時計に指を指す。

 

「海里さん、大浴場の時間が…すぎちゃってて…」

 

「なに?本当だ…。すまない、明乃艦長会議が長引いたばかりに…」

 

時計を見ると晴風の生徒たちが入浴可能な時間はとうに過ぎており、既に湯が抜かれ清掃されているだろう時間になっていた。

 

「だ、大丈夫です!晴風に帰れば釧路からもらった水でシャワーでも…」

 

「う~む…。そうは言うが晴風に補給した真水の量は蒸留装置の故障の関係で半分以下しかない。移動する関係上いたずらに消費はできない…」

 

「うう…」

 

進退窮まる明乃の反応に海里が苦渋の提案をする。

 

「致し方ない…か。明乃艦長、ならば私の艦長室に備え付けられている浴室を使うといい」

 

「えっ?海里さんの部屋の…ですか?」

 

「そうだ。大浴場が使用できず、晴風の浴場も使用するのは憚られる。何よりこの状況を招いたのは明乃艦長を会議に拘束した私だ」

 

「で、でも…いいんですか…?海里さん?」

 

「構わない。むしろ会議が長引いた挙句に身を清めさせずに晴風に返したとなっては私がましろに怒られてしまう。どうか私を助けると思って遠慮なく浴室を使ってほしい」

 

「なら…海里さんの部屋のお風呂を使ってもいいですか?」

 

「無論だ。こちらだ明乃艦長、案内しよう」

 

海里の説得に折れた明乃。そんな明乃を連れて艦長室に向かう海里。

艦長室へ到着すると、海里は浴室につながる扉を開けた。

 

「ここが浴室だ。そこの棚にバスタオルがある。湯加減が合わなかったら適宜調整してくれ」

 

「あ、ありがとうございます……!じゃあ、お言葉に甘えてお借りします…」

 

少し照れくさそうに頭を下げた明乃が浴室へと消え、それを確認した海里は艦長室の机に置かれた書類に目を通していると、壁の艦内電話が鳴る。

 

『艦長、湊です。CICに東舞校本校から武蔵の捜索に関する続報が入りました。確認をお願いできますか?』

 

「武蔵の…?了解した。すぐに向かう」

 

海里は一言メモを机に残し、艦長室を後にした。

 

——数十分後。

 

湯上がりの温かさに包まれた明乃が浴室から出てきた。

 

「海里さ〜ん、お風呂ありがとうございました…って、あれ?いない…?」

 

ポツンと一人取り残された明乃は、海里の帰りを待とうと、ソファーへ腰を下ろした。

 

湯上がりの心地よい体温、ここ数日の極限状態からの解放感、そして賑やかな晴風とは違い落ち着いて静かな雰囲気が明乃を包む。

 

「あっ…海里さんが書いたのかな…。【所用の為部屋を空ける、すぐに戻るから浴室から上がったらそのまま待機していてほしい】…」

 

耐えがたい睡魔がまぶたを重くし、明乃の意識はゆっくりと沈んでいった。

 

——それから30分後。

 

CICでの用事を済ませて艦長室に戻った海里は、ドアを開けた瞬間、その場で固まってしまう。 艦長室には応接用のソファーの上で小さく丸くなり、すやすやと規則正しい寝息を立てて寝ている明乃の姿があった。

 

「明乃艦長?…寝ているのか…無理もないが…。明乃艦長、起きてくれ。」

 

海里が明乃に声をかけたり、肩を揺らしたりするものの一向に起きる気配がなく困り果てる海里。

 

「はぁ…困ったな…。流石に抱えたまま晴風に戻すわけにもいかんか…」

 

海里はため息をつくと明乃を晴風に送り届けることが困難である事を悟り、熟睡している明乃を起こさぬように慎重に横抱きにして持ち上げる。抱え上げた明乃を艦長室に備え付けられているベッドへと運ぶ。

 

「おやすみ、明乃艦長」

 

毛布を首元まで掛け未だに起きる様子がないことを確認すると部屋の照明を落とし、艦長室の扉に【入室禁止】の札をかけてから自身の今夜の寝床となるCICの仮眠室へと向かうのだった。

 

晴風艦橋

 

「艦長、遅いですね~?」

 

「艦長…。いったいどこで油を売って…」

 

「そんな豪胆な性格でもなかろう、ましろ。おおかた、会議が長引いているのだろう」

 

「ミーナ先輩…」

 

明乃がなかなか帰ってこないことを心配する晴風の艦橋要員たち。連絡がつかないことに苛立つましろを窘めるミーナ。そこに一本の通信が入る。

 

「あれ…?はい、こちら晴風艦橋です。宗谷艦長!はい、はい…。副長ですか?了解しました、代わりますね」

 

「兄さんから私に?」

 

幸子が通信に出ると相手は海里でありましろに代わってほしいという。自身の艦長が帰還したていない中での海里からの通信に困惑しつつもましろは通信を代わる。

 

「こちらましろです。代わりました」

 

『ましろか?夜分遅くにすまない。明乃艦長のことだが…会議が長引いた上、湯上りの疲労が出たのだろう…。こちらの艦長室で熟睡してしまった』

 

「えっ…?艦長が…?」

 

『ああ、相当疲れが溜まっていたのだろう…。そんな状態だ…晴風に送り返すことが困難だと判断した。よって今夜は本艦の艦長室を貸し出して静養させることにした。明日、そちらの朝食の時間に合わせて送り返す。以上だ。おやすみ、ましろ』

 

「え?おやすみなさい、兄さん…」

 

通信が切断される。受話器を持ったまま、ましろの動きが止まる。

 

「その~…。宗谷艦長はなんて…?」

 

「…まる、そうです」

 

「え?」

 

「我が艦の艦長は兄さんの艦長室に泊まるそうです」

 

「え?」「うぃ?」「む?」

 

衝撃的な発言がましろの口から飛び出たことに思わず聞き返す幸子たち。

 

「ですからっ!艦長は兄さんの部屋に泊まると!」

 

「 「 「 「 「え~!!!」 」 」 」 」

 

真夜中の晴風の艦橋に幸子たちの悲鳴のような絶叫が響き渡る。

 

「海里艦長が…まあ邪念はないのだろうが、な…」

 

「岬さんが宗谷艦長の所で…お泊まり…?!」

 

「わぁ…」

 

「兄さん…艦長も…何をしてるんですか…」

 

困惑と興奮が混ざり合う晴風の艦橋の惨状なんて露知らず、釧路の艦長室にはこんこんと眠り続ける明乃の姿があった。

 

4月23日

釧路 艦長室 朝

 

「ん…んぅ…」

 

窓から朝日が差し込み、目が覚める明乃。手触りの良い毛布、ふかふかのベッド。見覚えのない天井を見上げ、明乃は瞬きをする。

 

「あれ…?ここ…?…!?」

 

跳ね起きる明乃。急いで昨日の記憶を辿る。

 

「!?っ~~~!!!」

 

昨日の自身の行動を思い出しベッドの中で赤面しながら悶える明乃。その時、艦長室の扉がノックされ海里が入ってくる。

 

「おはよう、明乃艦長。よく眠れただろうか…?」

 

「か、海里さんっ!お、おはようございます!そのごめんなさい!私、海里さんのことソファーで待ってようと座ってたら寝ちゃって…!」

 

「その件は気にしなくていい、だがそろそろ朝食の時間だ。じきに晴風からも来るだろう、食堂で合流して晴風に戻るといい」

 

「はいっ!、ありがとうございますっ!」

 

釧路艦内 食堂

 

朝食の為に釧路に来艦したましろたちと合流した明乃は共に朝食をとりつつも昨夜の出来事を問い詰められていた。

 

「みんな、おはよう」

 

「おはようございます、艦長。昨夜は兄さんの部屋で休まれたそうで…」

 

「シ、シロちゃん…?その、怒ってる…?あのね、海里さんは仮眠室で寝てくれてたみたいだし本当に何も…」

 

「たとえそうであったとしても不用心過ぎますっ!会議が長引いてしまったのは仕方ありませんが他艦の…よりによって男子校の艦で意識を手放すなんて」

 

「まあそこまでにしよう、ましろ。明乃も反省しているようだし、な」

 

「ミーナ先輩…わかりました…」

 

「あはは…」

 

「だが私もましろと同じ意見だぞ、明乃。確かに海里は信頼できるが今回の件はいささか不用心だ」

 

「はい…ミーナさん…」

 

「わかればいい。さあ、朝食を食べてしまおう。他艦のーー晴風以外の艦で食事をとれる機会なんてそうそうないぞ?」

 

「はいっ!」

 

釧路の食堂で賑やかな歓談をする晴風の生徒たち。そんな和やかな雰囲気とは裏腹に釧路と晴風、二つの艦が停泊している水平線の彼方から暗雲が少しづつ立ち込め始めていた。

 

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