「ハイスクール・フリート-Anchorage」 作:海洋の橋立
しんばしの海難救助から数日後、トラック諸島近海で武蔵を始めとする行方不明艦の捜索を続ける釧路と晴風。
釧路艦橋
「さて…、武蔵たちはどこへ行ったんでしょうねぇ~?」
「さあな…目撃情報が上がった地点をしらみつぶしに探していくしかあるまい」
なかなか行方不明艦が見つからないことを疑問に思う海里と湊、緩み切ったわけではないもののどこか緊張が薄くなりつつある艦橋に艦影捕捉の報が入る。
『こちらCIC、レーダーに艦影を捕捉。大型艦です』
「こちら艦橋見張り員!艦前方に艦影を視認!これは…武蔵!?艦橋形状から武蔵と思われます!」
「武蔵だと…?CIC、晴風に退避を下令しろ」
『こちらCIC了解。目標との距離、約13マイルです』
「えっ…?13マイル?そんなはずは…」
武蔵発見の報に晴風を退避させるよう命令する海里。CICからのさらなる報告に艦橋の見張り員が再び武蔵と思わしき艦艇を確認する。
「あっ…!こちら艦橋見張り員!目標は武蔵ではありません!主砲が連装です!金剛型です!」
「金剛型…?副長、行方不明艦の中には金剛型が1隻確認されていたな?」
「ええ、横須賀校所属の金剛型2番艦の比叡がいましたね」
「なるほど…晴風には離脱を継続させろ。見張り員、発光信号で比叡と連絡を試みろ」
『了解。晴風に離脱を継続させます』
「見張り員、了解。これより比叡に連絡を試みま…比叡、こちらに主砲を指向!比叡発砲!」
見張り員からの報告から数秒後、釧路の左舷に二つの大きな水柱が上がる。
「撃ってくるか…。取舵一杯、離脱中の晴風に続く。横須賀校とブルーマーメイドに連絡を急げ」
「了解。取舵一杯!」
『了解。連絡します…。返信が早いですね、ブルーマーメイドの艦を派遣してくれるようです。我々は可能な限り比叡を捕捉するようにと…ただし晴風と釧路の安全が最優先とのことです』
「了解した。ならば比叡の後方につくぞ…碧葉、晴風に本艦の後方に控えつつ比叡の捕捉を継続するようにと伝えろ」
『了解。晴風に本艦の後方に位置するように伝えます…!?』
「どうした?」
『その晴風から通信です』
「回線をこちらにまわせ」
『了解』
ブルーマーメイドや横須賀校からの指示に従い比叡の捕捉を開始しようとした矢先、晴風からの通信が届く。
『海里さん!ココちゃんが比叡がこのままだと3時間後にはトラック諸島に到達するって…!』
「トラック諸島に…?湊、ブルーマーメイドの艦はあと何時間で到達する?」
「およそ4時間後とのことです…間に合いませんね…確実に」
「トラック諸島は海上交通の要所…。そのような所にウイルスに感染した艦が侵入すれば…」
「大惨事は避けられないかと」
「…」
晴風からの報告に重い沈黙に包まれる釧路艦橋。
『だから晴風が比叡をトラック諸島から引き離します!』
「それがどれほど危険なことか承知の上で言っているんだな?明乃艦長」
『はいっ!』
「…いいだろう」
『…っ!』
「だが、条件がある。囮を担当する晴風の後方には釧路がつく。これは譲ることができない…これで大丈夫か?」
『はい!』
比叡をトラック諸島から引き離すため奮闘する釧路と晴風。
一方、横須賀女子海洋学校の校長室では宗谷真雪と宗谷真霜が話し合っていた。
横須賀女子海洋学校 校長室
「失礼します」
「貴女がここに来るということは…余程の事ね?」
「ええ…」
校長室に入室した宗谷真霜が一冊の報告書をテーブルに置く。
「これは…?…!?実験艦が深度1500mまで沈降…制御不能…サルベージは不可能…」
「のはずが海底火山の活躍で押し上げられて浮上してしまった…」
真雪は報告書に添付された地図の実験艦が沈降した地点を記している印を指でなぞる。
「西之島新島…ここは今年の海洋実習の集合地点よ…。教官艦さるしまに研究員を乗せる手配はしたわ…西之島新島付近で海洋生物の研究をしたいという依頼があって…」
「それが実は実験艦からデータを回収して、その後自沈させるためのチームだったんです」
4月14日 回想
ブルーマーメイド付属の病院内
「予想をはるかに超える感染力だ…。さるしまだけでは済まないかもしれない…」
「うちの研究員が全員行方不明…。こんなことになるとは…。上にどう報告すればいいんだ、我々の責任問題になるぞ!」
現在
横須賀女子海洋学校 校長室
「それで私と優くん…優月一等保安監督官で秘密裏に調査したんです」
「RATt…?」
報告書に添付されたネズミに似た小動物の画像を見つつ真雪が呟く。
「海中プラントで偶然生まれた生物に彼らがつけた名称です。この生物が媒介するウイルスは生体電流に影響を及ぼします。そのため感染者同士は一つの意思に従って行動する…」
「一つの意思…まるで群体ね…蟻や蜜蜂みたいな…」
「ええ…、だから記憶があるのに行動の理由が説明できない…。付近の電子機器が狂う原因も、この生体電流の影響です」
「釧路と晴風から報告が届いたわ…【この生物が媒介するウイルスあり…。試作した抗体を送るので増産されたし…】と…」
「抗体を学生が…?」
「晴風には鏑木美波が乗っているのよ…」
「えっ…?あの海洋医大始まって以来の天才…?」
「飛び級でまだ海洋実習をしていなかったから今年済ませたいと言われて…」
「変わり者とは聞いていたけど…でも助かりましたね…」
「ええ…」
「【感染後の経過時間が短ければ、海水がウイルスに対し有効と推測される。しかし、時間経過とともにウイルスが全身に行き渡った場合、抗体の投与のみが効果的と思われる】…」
場面は戻りトラック諸島海域へ…。
晴風艦橋
「うぅ…」
『いつまで一杯なんでい!そう長くはもたせらんねぇよ!?』
『油もバカ食いしてるんだけど!?』
涙目になりながら鈴が舵を握り、機関室からは機関にかかる負担に抗議する声が聞こえる。
「もとより航続距離は向こうが上ですし、こちらは無理な動きを続けてますからね…」
「次の手を打たねばいずれ晴風も、後方で砲撃を引きつけてくれている釧路もいずれ限界が来るぞ?」
「艦長…。気持ちは分かるが、これ以上は…」
「けど…私たちが諦めたら…」
「ならば…。比叡の足を止める以外に方法はないんじゃないか…?たとえ沈めることになるとしても」
いつものましろからは出てこないような発言に驚愕する晴風の艦橋要員たち。
「比叡の舷側装甲は武蔵のおよそ半分…砲戦では無理ですが雷撃なら可能です」
「よっしゃ!来た~!来たよ~!私の時代~!西崎、謹んで沈めさせていただきます!」
「誰も沈めろとは言っていない…仮定の話で他に方法がないというだけだ」
「えぇ…」
一人盛り上がっていたところにましろからの指摘が入り消沈する芽依。
「比叡に乗ってるのは私たちの同級生なんだよ…?もしものことがあったら…」
「しかし、このままでは距離を取りながらの誘導しかないだろう…」
「…」
ましろのもっともな言い分に沈黙する明乃。
「何とかして沈めずに比叡の足を止めよう!」
「シュペーのときと同じことを…!?しかし、あのときですら無理だったんだぞ…!?」
「両舷に副砲7門ずつ、こちらの射程に入る前に…晴風も釧路も蜂の巣…ですね…」
艦橋が暗い雰囲気に包まれたとき艦橋下部に位置する海図室の伝声管から聡子の声が響く。
「あ~!もう、邪魔ぞな~!…お前も邪魔!」
海図の受け渡し口から多聞丸と五十六が出てくるが五十六はその豊満な体型によって受け渡し口に引っかかってしまう。
「はっ…!」
引っかかり脱出しようともがく五十六を見た明乃は何かを思いつく。
「比叡を止められるかも…」
艦長帽をかぶり直し、まっすぐに後方から追いかけてくる比叡を見やる。
「ココちゃん!海里さんにつないで!」
釧路艦橋
「さて、どうしたものか…」
「ええ…本艦自慢の主砲は比叡のような戦艦には効果が薄い…。相手の副砲を黙らせることはできるでしょうが主装甲を貫徹することは困難…。まあそも、沈めては本末転倒なのですが…」
「…」
釧路でも対応に頭を悩ませていたそのとき、CICの碧葉から晴風からの連絡の報が届く。
『お悩みのところ失礼します、艦長。晴風からの通信です』
「晴風から…?了解した、艦橋にまわしてくれ」
『了解』
CICから移されてきた通信で艦橋の艦長席のモニターに晴風の艦橋の映像が映し出される。
『海里さん!』
「どうした?明乃艦長?晴風で何かトラブルでも?」
『そうじゃなくて…比叡を止める方法を思いつきました!』
「本当か…?」
『はいっ!今から作戦の内容を送りますっ!』
艦橋のモニターに晴風から送られてきた作戦概要が映し出される。
「…了解した」
『…っ!』
「だが、誘導する晴風と比叡の間には釧路がつく。いいな?」
『はいっ!』
「よし、そうと決まれば横須賀校に交戦の許可を取り付けよう。作戦の詳細な説明の為に明乃艦長にも同席してもらうぞ?」
『はい!了解です!海里さん!』
横須賀女子海洋学校 校長室
校長室に設置されたモニターに釧路と晴風からの通信を示す通知が表示される。
「校長、釧路と晴風から通信です」
「つないでください」
「はい」
『こちら小型巡航艦釧路艦長、宗谷海里です。比叡追跡の任に就いておりましたが比叡がトラック諸島に接近しつつある為釧路と晴風による誘導、及び比叡の無力化の許可を頂きたいのです』
「釧路はともかく晴風は航洋艦よ…?危険すぎるわ、2隻とも退避して!」
『なにも無策というわけではありません、宗谷校長。明乃艦長が策定した作戦があります。明乃艦長、計画書の提出を頼む』
『はい、海里さ…海里艦長!宗谷校長、どうぞ!』
海里と明乃がそう言うやいなや校長室の机に備え付けられているコンソールに作戦概要が記されたデータが届く。
「この計画なら…。わかりました、計画の実行を許可します。ただし、全員無事に帰還すること」
『っ!…はいっ!ありがとうございます!宗谷校長!』
『はい、必ず』
釧路と晴風からの通信が終了する。
釧路艦橋
「しかし…明乃艦長の奇想天外さには驚かされる…」
「ええ、ましろちゃんのいい相方になりそうですね」
「ああ、そうだな…。さて、作戦を実行に移すぞ」
「了解です。航海長、増速!進路そのまま!晴風の盾になるよう意識しろ!」
「航海長、了解!」
『こちら機関長、了解!』
既に増速している晴風に追従するように加速する釧路。
トラック諸島と比叡の生徒たちを守る為の作戦が幕を開ける。