「ハイスクール・フリート-Anchorage」 作:海洋の橋立
東舞鶴男子海洋学校に入学してから初の訓練航海が成功裏に終わった釧路。釧路の生徒たちは訓練航海成功を祝しての祝勝会を旗下の航洋直接教育艦 (H431大風(おおかぜ)、H432秋風(あきかぜ)、H433沖風(おきかぜ) )の生徒たちと開く。
釧路艦内で盛大な祝勝会が開かれていた頃、東舞鶴男子海洋学校の校長室では校長机の上に設置されたモニター越しに日本の海洋学校の校長達がブルーマーメイド及びホワイトドルフィンから依頼された難題に苦慮していた。
「まさかブルーマーメイドとホワイトドルフィンから我々海洋学校に対して輸送船団の護衛に艦と人員を提供して欲しいなどと依頼される日が来ようとはな…」
呉男子海洋学校の校長が苦虫を嚙み潰したような表情で言う。それに対し横須賀女子海洋学校の校長宗谷真雪がいつものように毅然とした態度で会議を進める。
「未熟な学生たちを投入しなければならない程に前線が圧迫されているということなのでしょう。それで彼らに供出する戦力の内訳ですがーー」
「我が東舞校所属の直接教育艦釧路旗艦の第1哨戒訓練戦隊を出しましょう」
東舞鶴男子海洋学校の校長藤堂孝三郎のその言葉に会議は一瞬静まり返る。
確認をするように舞鶴女子海洋学校の校長が言う。
「本気なのですか?ですが教育艦釧路には宗谷校長のご子息の宗谷海里がいらっしゃいますが…」
舞鶴女子海洋学校の校長の配慮の言葉に横須賀女子海洋学校の校長宗谷真雪が言葉を紡ぐ。
「ご配慮痛み入ります。ですがひとたび海洋学校に入学したからには本人も覚悟は出来ているはずです。私は藤堂校長の案に賛成します。他に意見はありますか?」
異なる意見は挙がることはなく宗谷海里艦長の釧路率いる第1哨戒訓練戦隊の国際輸送船団護衛作戦への参加が決定された。
同じく護衛作戦に参加するデヴォンポート男子海洋学校では校長のオリバー・S(スコット)・ロックウッドが船団護衛に選抜された生徒たちを前に演説をしていた。
「諸君、私オリバー・S(スコット)・ロックウッドからの訓示である。この国際輸送船団護衛作戦は同盟国の日本をひいては国際海事協議機構加盟国の海上秩序を支えるという極めて重要な意味を持つ。だがしかしここデヴォンポート男子海洋学校の校長である私の望みはただ一つだ。いかなる困難が作戦中に立ちはだかろうとも決して冷静さを失わずに…作戦に参加した生徒全員がこの港に…デヴォンポート男子海洋学校に帰還することである。」
生徒たち全員の無事を祈る校長の姿に作戦に参加する生徒たちは見事な敬礼でもって答えた。
その後校長室で校長のオリバーとこの護衛作戦に投入されるイギリス側の戦隊の指揮を務めるアルバート・S(スコット)・ スターンが作戦内容の最終確認を進めていた。
「作戦の内容は以上だよ、アル。何か不明な点とかは無かったかな?」
オリバーの確認にアルバートは問題はないという意味を込めて首肯する。
「不明な点や聞いておきたい情報は今のところはありませんね。ああ…そういえば日本やドイツからは誰が派遣されるかは決まったんですか?」
「む?日本やドイツから誰が派遣されるか…かね?確か…日本からは海里君…ああ宗谷海里艦長とドイツからはテア・クロイツェル艦長が派遣される予定だよ。」
その知らせにアルバートは目を細めて聞き返す。
「ほう…オリバー叔父さん…失礼、校長が目をかけている噂の宗谷海里艦長とテアですか…これは楽しめそうです。」
「何をしでかすかは知らないがくれぐれも他国の艦長に変なちょっかいをかけたりしないこと!あとちゃんと全員無事に、誰一人の欠員もなくここデヴォンポートに帰って来なさい、いいね?」
「ええ、もちろんですよ。こんなつまらない任務で仲間を失ったりなんてしません。」
いつもの調子を崩さないアルバートに本当に分かっているのかと溜息をつきつつ送り出すオリバーの姿があった。
一方、同じく戦力の供出を求められているヴィルヘルムスハーフェン校では遠洋航海に派遣可能な艦がアドミラル・グラーフ・シュペー単艦しかなくシュペーの艦長であるテアと副長のヴィルヘルミーナは頭を悩ませていた 。
「今船団護衛に派遣が可能な艦が我々のシュペーのみとは…」
アドミラル・グラーフ・シュペーの艦長室で頭を抱えてるのはシュペーの副長のヴィルヘルミーナ・ブラウンシュヴァイクであった。艦長のテア・クロイツェルも厳しい表情で腕を組んでいた。
「ええ…いくら他国の戦隊も護衛に参加するとはいえ単艦での遠洋護衛参加はリスクが高すぎる…でもヴィルヘルムスハーフェン校の立場と国際協調の観点から、辞退という選択肢はない…」
「教官に他国の教育艦の直衛の派遣を教官に打診したが『貴様はアドミラル・グラーフ・シュペーが他国の教育艦の護衛がなければまともに戦えないと言うのかね?』と言われ断られてしまった…どうすれば…」
「それでもヴィルヘルムスハーフェン校から命令が下令された以上は…やるしかないな」
「テア…そうだな!たとえシュペー単艦でも船団を守り抜いて見せよう!」
2015年、初夏の風が吹く海。入学してそれぞれの艦に慣れたばかりの1年生たちを乗せた教育艦達が国際合同護衛作戦の合流海域に向けて、静かに錨を上げるのだった。