「ハイスクール・フリート-Anchorage」   作:海洋の橋立

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「第3話 防衛!輸送船団護衛戦!」

シンガポールから出港した輸送船団と護衛艦隊は日本本土へと向けて航行を開始した。天候による遅延や機関のトラブルなどは特になく順調に進み艦隊はバシー海峡へ差し掛かる。

 

釧路艦橋

 

「艦長、間もなくバシー海峡です。ここさえ越えれば太平洋に出てブルーマーメイドの哨戒艦と合流できます」

 

「ありがとう航海長、さて…ようやくここまで来られたな…だがこの海域は付近に暴力団船が潜むのに適した岩礁地帯が多い。副長、観測員を増やして周囲の警戒を厳とさせよ」

 

「了解です、艦長。こちら艦橋から待機室へ、前部と後部の艦橋の見張り員を増員せよ。いやぁ~艦長、シンガポールからここまでずっと警戒体制で気絶するかと思いましたけどようやく解放されそうですねぇ~」

 

「湊…油断するなよ?さっきも言った通りここらは暴力団船の襲撃艇を用いた奇襲に適した障害物が多いしレーダーの通りも悪い。実際船団への襲撃の報告だってあるんだ」

 

「ええ、ええ存じておりますよ。ですがブルーマーメイドの艦艇ではないとはいえ装甲艦1隻に巡洋艦2隻が周囲を固めている船団にわざわざちょっかいをかける物好きなんてーー」

 

釧路の副長である古庄湊が軽口を口にしていたその時艦橋のレーダーが船団の後方に現れた所属不明艦を捉えるのと同時に艦隊の最後尾に展開していたアドミラル・グラーフ・シュペーから不明艦からの砲撃の報が届く。

 

『こちらアドミラル・グラーフ・シュペー、後方から接近してきた軽巡洋艦が発砲してきた為現在応戦中!応援を求む!』

 

「応援要請了解した。艦隊後方の教育艦2隻をそちらの増援に向かわせる!総員第1戦闘配置!各員持ち場に付け!船団前部の艦艇は陣形を維持せよ!敵船のさらなる増援に備える!噂をすればなんとやらだ…」

 

「聞こえたな!第1戦闘配置だ!主砲、副砲要員、配置急げ!両舷の機関砲群も同様だ!起動急げ!見張り員、戦闘中のシュペーの動向に注意しつつ見張りを厳としろ!潜望鏡一つ見逃すな!チッ…哨戒艦と合流まであと少しだってのに…」

 

先ほどまでの静けさから一転、敵艦の襲撃により慌ただしくなる護衛艦隊。船団後方に位置する教育艦がシュペーの援護に向かう為転進を開始したその時釧路のレーダーが船団右舷方向から突撃してきた複数の艦影を捕捉する。

 

「艦長!レーダーにさらなる感あり!これは…襲撃艇です!襲撃艇が合計で8隻、本戦隊の右舷から急速接近中!」

 

「やはり軽巡洋艦は囮か。右舷に主砲と副砲を指向させろ!砲術長、主砲の旋回を待つな!目標、敵襲撃艇!副砲で仕留めろ!機関砲群は各個に射撃!弾幕を張れ!襲撃艇を船団に近づかせるな!」

 

「こちら砲術長了解!副砲旋回終了!敵襲撃艇を補足!照準よし!」

 

『こちら機関砲指揮所了解!各個射撃開始します!』

 

「よし、撃て!」

 

「撃ちー方ー始めー!」

 

主砲の旋回を待たずして副砲の精密射撃と機関砲による弾幕による迎撃が始まる。輸送船団右側は襲撃艇に弾幕を張る巡洋艦、巡洋艦の迎撃をすり抜けようと回避機動をとる襲撃艇、すり抜けた襲撃艇を追撃する駆逐艦の三つの艦種が激しく入り乱れる乱闘の様相を呈していた。

 

シェフィールド艦内

 

「艦長、船団右舷にて釧路戦隊と暴力団船の戦闘が始まりました!指示を!」

 

「うん、了解だよ副長。ならこちらは船列を維持して左舷からの攻撃に備えよう。右舷からこっちに抜けてきた敵襲撃艇は副砲と機関砲で撃沈して構わない。我々の初の実戦だ、気張らずに行こう」

 

「了解しました。船列を維持しろ!左舷は見張りを厳に、右舷は副砲と機関砲の射撃準備せよ!釧路戦隊から抜けてきた敵襲撃艇を迎撃する!」

 

「了解!副砲、右舷側機関砲群を起動!旋回させます!」

 

「まあ、正直襲撃艇程度が釧路と大風型からの副砲と機関砲の嵐を抜けてくるとは思わないけど…副長、シュペーはどうなっているかな?事前の作戦通りにこちらからも教育艦を向かわせたけれど…」

 

「ええ、通信によりますとそこまで戦況は悪くはないようですがーー」

 

『こちら後部艦橋見張り員!アドミラル・シュペーが被弾!繰り返す!アドミラル・シュペーが被弾!』

 

「なっ…!」

 

報告を受けたアルバートの顔から血の気が引いていく。全員が初の実戦で己の役割を果たしていくなか、戦況は良くも悪くも変化の兆しを見せ始めていた。

 

アドミラル・グラーフ・シュペー艦橋

 

「ぐっ…被弾したか…被害を報告しろ!浸水があれば応急工作班を向かわせろ!」

 

『艦長!こちら機関長、どうやら機関室上部に被弾した模様!』

 

「機関科は無事か?!負傷者は?!」

 

『負傷者はナシ、機関にも損害はありません!』

 

「よし、良かった…反撃するぞ!砲術長、主砲で敵軽巡洋艦の機関部を狙え!副砲は敵の主砲を撃ち抜け!暴力団船の戦闘能力を奪う!」

 

「砲術長了解!主砲、目標敵軽巡洋艦機関部!副砲は主砲を破壊する!照準完了…撃て!」

 

アドミラル・グラーフ・シュペーの28.3cm三連装砲2基6門が自身を傷つけた下手人の軽巡洋艦に向け砲を放つ。放たれた徹甲弾は理想的な放物線を描いて軽巡洋艦のバイタルパートである機関部に直撃し破壊する。機関部という心臓を破壊され旋回が止まった主砲にシュペーの15cm砲が炸裂し沈黙させ機関と砲を破壊し撃破に成功した。

 

「こちら見張り員!艦長!敵軽巡洋艦を撃破しました!」

 

「よくやった…!後は…!」

 

『こちら釧路。敵襲撃艇の撃滅に成功した。各艦損害状況を知らせ』

 

シュペーが軽巡洋艦を撃破するのと同時に釧路から襲撃艇殲滅の知らせが届く。戦闘が終わり辺り一帯の海域に静寂が訪れた。

 

釧路艦橋

 

「レーダー、ソナー共に敵影なし…か戦闘用具収め!第1戦闘配置を引き下げ第2戦闘配置へ。引き続き見張り員は警戒を厳にせよ!」

 

「 『了解!』 」

 

「さて…確かシュペーは被弾していたな…船務長!シュペーに通信をつなげろ!」

 

「了解しまーー…艦長、シュペーから通信です!」

 

「つなげろ」

 

「ハッ!」

 

『海里艦長こちらアドミラル・シュペー、まずいことになった』

 

「なにがあった?負傷者か?」

 

『いいや、幸い負傷者は出なかったが戦闘でシュペーの燃料精製プラントが破壊されてしまった。燃料の不足により横須賀までの航行が不能になった。だからシュペーは単艦で艦隊から離脱してーー「却下だ」 え?』

 

「貴艦の提案を却下すると言っている。ここで単艦で離脱するだと?最寄りのブルーマーメイド管轄の港までどれ程離れていると思っている?それとも近くの島に停泊して自沈でもするつもりか?航海長、艦を反転させろ。本艦はこれよりアドミラル・グラーフ・シュペーの曳航作業に入る。シェフィールドのアルバート艦長にーー『ま、待って欲しい!』む?」

 

『シュペーの曳航に艦を取られたら船団護衛に支障が出るはずだ。ヴィルヘルムスハーフェン校の生徒として、ブルーマーメイドの卵としてその様な事は容認できない。だからーー「そもそも」っ!』

 

「そもそも、貴艦を含めた我々護衛艦隊の帰還も任務の成功条件だ。つまり貴艦がこの艦隊から離脱することは任務の失敗を意味する。そうだろう、アルバート艦長?」

 

通信回線を開いたまま会話を聞いていたアルバートに海里は尋ねる。

 

『そうだね、その通りだよ海里艦長。釧路が抜けた穴は心配しないでくれシェフィールドとの残りの日英の教育艦4隻なら輸送船の3隻くらいちゃんと護衛できるよ。だからテアも安心して釧路に曳航されるといい。流石にシェフィールドじゃあシュペーの曳航は厳しいからね…』

 

『アル…』

 

「そういうことだ。釧路は既に反転して貴艦に接近しつつある。そちらも曳航の受け入れ作業に入ってくれ」

 

『了解した。これよりシュペーは曳航の受け入れ準備に入る…感謝する海里艦長、アル』

 

「協力することは海洋学校の生徒として当然の義務だと言ったはずだ。気にすることはない」

 

『そうだよテア、気に病むことなんてないんだ。なにせ我らが海里艦長が指揮を執る釧路がいるんだから大船に乗ったつもりで行こう』

 

「大船…といってもたったの12,000トン程度だがな、アルバート艦長」

 

『フフッ…』

 

「戦闘での緊張は解けた様だな、テア艦長。何よりだ」

 

『さあ、あともうひと踏ん張りだ。ここまで来たんだ日本に堂々凱旋しようじゃないか』

 

シェフィールドを臨時旗艦とする護衛艦隊と釧路と曳航されているシュペーとその周囲を護衛する教育艦2隻に分離した艦隊がバシー海峡を通過する。海峡を通過した先には広大な太平洋ーーフィリピン海が彼らの前に広がっていた。太平洋上に出ると日本の横須賀から派遣されてきたブルーマーメイドの哨戒艦隊と合流する。

 

釧路艦橋

 

「ブルーマーメイドの哨戒艦隊旗艦から発光信号です。『コレヨリ貴艦隊ノ護衛ヲ開始スル。任務ノ達成ゴ苦労』とのことです」

 

「そうか、返信を送れ『教育艦ニ損害アレドモ輸送船ニ被害ナシ。ワレラノ護衛感謝ス』だ」

 

「了解しました。返信します」

 

「いやぁ~、ようやく本業のブルーマーメイド艦隊がご登場ですか。長い道のりでしたねぇ~艦長?」

 

「そうだな。ここまで来れば暴力団船からの襲撃もそうあるまい。副長、総員の配置を通常配置に戻せ、見張りは怠るな」

 

「了解しました艦長、総員第2戦闘配置から通常配置へ移行せよ。見張り員は引き続き厳となせ」

 

「 『了解!第2戦闘配置から通常配置に移行します!』 」

 

浦賀水道を抜けブルーマーメイドのタグボート群の先導を受けながら輸送船団と護衛艦隊はブルーマーメイドが管轄している港湾区画に入港する。

 

「艦長、ブルーマーメイド側との合流が完了。これよりシュペーの曳航索を解除し曳航をタグボートに移管します」

 

「委細承知した、副長。ふう…。なんとか、全員で帰ってこれたな」

 

作戦が完了し1隻の損失も出なかったことに安堵する釧路艦長宗谷海里。

シンガポールから日本までの長大な距離を航海する国際合同輸送船団護衛任務は損失艦なしという初陣として完璧な戦果をもって幕を閉じるのだった。

 

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