鬼さまとスグリのすれ違い   作:魔王ハルト

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1話

 

 

キタカミの里を騒がせた偽りの歴史は終わりを告げた。

ともっこたちとの激しい戦いを制し、アオイとゼイユは奪われていたオーガポンのすべてのおめんを取り戻すことに成功した。スグリが村の人々に働きかけ、かつて「悪い鬼」と蔑まれていた存在こそが被害者であったのだと真実が伝わった今、村を満たしていた拒絶の空気は綺麗に霧散していた。

 

「……よかった。本当に、よかったね」

 

アオイがそう呟いて、みどりのめん、いしずえのめん、いどのめん、かまどのめんを持つオーガポンを見つめる

オーガポンは自分の宝物で大切な思い出が詰まったおめんを慈しむように小さな両手で持ちそれを胸元にきゅっと抱きしめた。そして可愛らしい顔の大きな瞳をいっぱいに輝かせ「ぽに、ぽにぃっ!」と、弾んだ声を上げる。

 

その場で小さく飛び跳ねる様子は長い間背負わされてきた孤独と誤解からようやく解放された喜びを全身で表現しているようだった。

 

「まったく、手を焼いたわ。でも……あんたがそんな風に笑うなら、あいつらをぶっ飛ばした甲斐もあったってものよ」

 

ゼイユは腰に手を当て、フッと息を吐きながらも、その口元には優しい笑みを浮かべていた。

彼女の鋭い視線も今はオーガポンを温かく見守っている。

 

アオイ、ゼイユ、そして少し離れた場所に立つスグリ。

3人と1匹はオーガポンの隠れ家であった恐れ穴の前に集まっていた。山の頂へと続く風が、彼らの髪や衣服を静かに揺らす。

真実が明かされた喜びの余韻が、心地よい静寂となってその場を包み込んでいた。

 

しかし目的を果たしたということは同時に一つの区切りを迎えたことを意味していた。

アオイは一歩前に出るとオーガポンに向かって小さく右手を挙げた。その表情には、目的を達成した達成感とそれと同じくらいの寂しさが混ざり合っている。

 

「……バイバイ、オーガポン。もう大丈夫だからね」

 

その言葉は優しく、しかし明確な別れの挨拶だった。

アオイとしてはおめんを取り戻し里の誤解が解けた以上、オーガポンはこの住み慣れた恐れ穴で、これから先は怯えることなく平穏に暮らしていくのが一番だと考えていたのだ。

だが、アオイの言葉を聞いた瞬間、オーガポンの動きがピタリと止まった。

 

「ぽに……?」

 

首を傾げ、信じられないといった様子でアオイを見つめる。

アオイがさらに一歩後ろへ下がろうとするとオーガポンは慌てて短い足を動かし、その距離を詰めてきた。

トコトコと駆け寄ってきたオーガポンはアオイのスカートの裾を小さな手でぎゅっと掴んだ。そして縋るような視線をアオイの顔へと向け、何度も激しく首を横に振る。

 

「ぽにぃ……ぽに、ぽにお!」

それは、バイバイに対して拒否する反応だった。

 

置いていかないでほしい、離れたくない、これからもずっと一緒にいたい。

オーガポンの小さな身体から溢れ出るその強い意志とアピールは、誰の目から見ても明らかだった。アオイにしがみつき、顔を擦り付けんばかりに甘えるその姿は、単なる感謝を超えた、深い愛着を示している。

 

「あ、あれ……? オーガポン……?」

 

アオイは困惑したように声を漏らし、裾を掴むオーガポンの手をそっと見つめた。

まさかこれほどまでに自分との同行を望まれるとは思っていなかったため、どう応えるべきか言葉に詰まってしまう。

 

その様子を一歩引いた位置からじっと見つめていた少年がいた。

 

 

スグリだった。

 

彼の拳はいつの間にか袖の奥で強く握りしめられていた。

爪が手のひらに食い込むほどの強さで、その瞳にはアオイに必死に懐こうとするオーガポンの姿が焼き付くように映り込んでいる。自分がずっと憧れ、誰よりもその孤独に共感し、救いたいと願っていた「鬼さま」。

それなのに鬼さまが今、その小さな手を伸ばし、心の底から求めている相手は――自分ではなく、後からやってきたアオイだった。

胸の奥からせり上がってくるドロドロとした焦燥感と嫉妬、そして理不尽なまでの絶望感がスグリの理性をじわじわと侵食していく。

 

なぜアオイばかりが選ばれるのか。

なぜ自分はいつも一番欲しいものに手が届かないのか。

 

「……んで」

 

「え? スグリ、何か言った?」

 

ゼイユが不審そうに振り返る。

しかし、スグリはその視線に答えることなく、ゆっくりと、だが確実な足取りでアオイとオーガポンの前へと歩み出た。その顔は俯きがちで前髪の影に隠れた瞳には、暗く、激しい炎が灯っている。

 

「なんで……アオイばっかり……」

 

一歩、また一歩と近づくにつれ、スグリの声に明確な感情が熱が帯びていく。

彼は立ち止まり、ついに顔を跳ね上げた。その表情は今にも泣き出しそうなほど歪んでおり、同時に抑えきれない怒りに満ちていた。

 

「俺だって……! 俺だってずっと、オーガポンと一緒にいたいって思ってたのに……!!」

 

恐れ穴の岩壁に、スグリの叫びが木霊した。

その声の痛切さにアオイはハッとして息を詰め、オーガポンも驚いたようにスグリの方を振り返った。

 

「スグリ……あんた、何を……」

 

ゼイユが制止しようと声をあげるが今のスグリの耳には届かない。

彼の視線はまっすぐにアオイへと向けられていた。

これまで胸の奥底に溜め込んできたアオイへの劣等感とオーガポンへの執着が、ついに決壊した瞬間だった




アニポケでスグリは出ない感じなので前から作りたかった作品を出してみた。
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