鬼さま&スグリ 助けてぽにぽに   作:助けてアオイ

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11話 鬼さま泣いてハイチーズ 災いの予兆


11話

 

部室に入ってからずっと部員たちの視線を逸らし涙を流してるオーガポンに違和感を感じ心配になってスグリに近づくアカマツ。

 

「なあスグリ、この子さっきから泣いてるけど大丈夫か?」

 

「今は初めての人にあまり慣れてなくて怯えてるだけだから。まだゲットしたばかりだし、これから俺と一緒に過ごしていけば……絶対に安心するから。だから何も心配いらない、大丈夫だよ」

 

スグリは怯えて涙を流し続けるオーガポンの頭を撫でながら、集まった部員たちに向かって、自分に言い聞かせるような平然とした口調で説明を続けた。

その言葉は目の前でガタガタと震えているオーガポンの拒絶を完全に無視した独りよがりの理屈だった。スグリの頭の中ではオーガポンが泣いているのはアオイを求めているからではなく、単に初めての場所、初めての見慣れない大勢の生徒に動揺しているだけだということに強引に書き換えられていたのだ。

 

それを聞いて部員たちはオーガポンの態度を見ても特に気にしなくなった。バトルでゲットしたポケモンは必ずしもトレーナーとすぐに仲良くなるとは限らない。

最初は指示を無視したり、近づかなかったり、怯えられたりすることは、そんなに珍しいことではない。ここにいる部員たちも少なからず、それを経験してるトレーナーなのでオーガポンの泣いてる様子を見ても、まだスグリと上手くいってないんだなと思う程度の問題としか捉えていなかった。

そんなスグリの異様な雰囲気に圧倒されながらも目の前にいる見たこともない伝説のポケモンの圧倒的な珍しさにリーグ部員たちの好奇心はさらに煽られていった。

 

「ねえ、スグリ、もっとその……鬼さまのこと、よく見せてよ!」

 

「本当!もっと近くで見たいな」

 

「うん……いいよ」

 

部員の一人が身を乗り出すようにして声をあげる。その声に同調するように、周囲の生徒たちもざわめき始めた。

 

スグリの口元に歪んだ満足感の笑みが広がる。彼はオーガポンの背後に回ると彼女の脇の下に両手を差し込み、小さな身体を後ろからガシッと抱え上げた。そして、部員たち全員にその素顔がはっきりと見えるように自分の胸の高さから頭上へと誇らしげにオーガポンを高く掲げて見せびらかした。

 

「ぽにっ……!? ぽにぃぃぃーーーっ!!」

 

突然、宙に吊り上げられ、衆目に晒されたオーガポンはパニックになって激しく手足をバタつかせた。

おめんをすべて奪われ、ただでさえ剥き出しの素顔が恥ずかしくてたまらないのに大勢の知らない人間たちの視線のド真ん中へと無理やり押し出されたのだ。オーガポンは顔を手で隠そうと必死にもがいたが、宙に浮いた状態では体勢を保つこともできず、ただ涙をボロボロと飛び散らせながら、悲鳴のような声をあげて泣き叫ぶことしかできなかった。

 

「わあ、すごい……! 近くで見ると本当に不思議な姿だね!」

 

「スグリ!俺たちにも見せてくれよ!」

 

「しょうがないなあ。」

 

面倒そうに言いながらも自身が捕まえたオーガポンが見たいと部員たちに言われ内心喜んでるスグリ。以前まではゼイユの後ろでコソコソとしててリーグ部では、あまり相手にされなかったが、今この瞬間の名声がたまらなく嬉しく思い興奮しているスグリ。その気持ちが暴走し、さらにオーガポンを傷つける行動に出る。

 

「ほら皆、かわいい鬼さまのお通りだぞ〜♪」

 

「ぽにっ!?……がおっ、がおっ!? ぽにぃーーっっ!!」

 

オーガポンを抱えたまま部屋中を移動するスグリ。部室の奥の方にいる部員たちにも見えるように泣いてるオーガポンを見せびらかし愉悦に浸るスグリ。満足したスグリは元いた位置に戻りオーガポンを自身の胸の前に抱え直す。

 

「ねえスグリ、その子の写真、撮ってもいい!?」

 

「……うん、いいよ。いっぱい撮ってよ」

 

一人の生徒が興奮した様子でスマホロトムを取り出しながらスグリに尋ねた。

 

スグリは躊躇うことなく即座に許可を出し、オーガポンを持ったままカメラに向かって突き出す。パシャ、パシャ、と冷徹なシャッター音が不気味に響き渡る。フラッシュの眩しい光が、おめんを奪われ、絶望と恐怖で顔をくしゃくしゃにして泣き叫ぶオーガポンの素顔を無慈悲に切り取っていく。

オーガポンは光に怯えて目を細め、「ぽにぃーっ!?ぽにおぉぉっっ!!」と自分に向けられてるカメラに向かって 嫌だっ、嫌だっっ!と顔を必死に逸らそうと叫びながら、ただ泣き続けた。

 

「う〜ん、イマイチ良い写真が撮れないなあ。掲示板に貼って宣伝しようと思ったけど、また今度にしようかな。」

 

「ねえ、ちょっと撮った写真見せて。………この写真載せてよ。俺は構わないから」

 

スグリはオーガポンを撮った生徒からスマホを受け取り、撮影した画像の画面を見ながらスライドしていき、気にいった写真を見つけスマホを返すと同時に写真を貼るようにお願いする。

 

「この写真でいいの? まあ、また落ち着いた頃に撮り直せばいいか。ありがとうスグリ! 早速この写真、掲示板に貼ってくるね!」

 

写真を撮影した生徒は、すぐさま部室の外へと走っていった。学園の生徒たちが最も頻繁に行き交う、ロビーの一番目立つ場所にある電子掲示板。そこに、怯えながら涙を流す鬼さまの顔と、『リーグ部所属、スグリの新相棒の伝説の鬼さま!』という残酷な見出しと共に、大きな写真が堂々と貼り出されたのだ。

 

「あは……あはは……」

 

部室の中でオーガポンを性懲りも無く、また高く掲げスグリは自分の手の中に確かにある『鬼さま』の存在感と周囲からの羨望の視線に酔いしれるように再び低く、歪んだ笑い声を漏らしていた。おめんを奪われ、アイデンティティを完全に壊されて泣き叫ぶオーガポンの悲痛な叫び声は、学園の賑やかな歓声のなかに、どこまでも虚しく掻き消されていった。

 

 

 

 

 

「じゃあ俺、学園の中を鬼さま案内するから、またじっくり見せに来るから、じゃあね」

 

部室での見せびらかしと写真撮影が一段落すると、スグリは集まっていた部員たちと別れてオーガポンを連れて部室を後にした。

スグリに向かってトコトコと力なく付いていくしかないオーガポン。先程スグリによって大勢の人間の前に晒され、かなり疲弊しているオーガポン。剥き出しの素顔は涙の跡でカピカピに乾き始めていた。

 

「…ぽに?……ぽにっ!?」

 

オーガポンは歩きながら近くの壁を見てみると、掲示板に貼ってある自身の顔が映った写真があるのを見つけた。写真全体がオーガポンの泣き叫ぶ顔で埋め尽くしており、その写真が掲示板の真ん中あたりに貼られて、掲示板を見ればすぐに分かる程に目立っていた。

 

「あはは、いいでしょう?俺が選んだ写真を貼ってもらったんだ。これで鬼さまのことは、この学園皆に知れ渡るから。鬼さまもこれで人気者になっていっぱい注目浴びるし明日になったらリーグ部だけじゃなく、もっと大勢の人が見に来るかもね。」

 

スグリは誇らし気に自身が選んだ写真を見ながら、明日になれば自分やオーガポンが先程以上に注目を浴びることを想像しながら嬉しそうに語り出す。だが自身の写真を見ながらスグリの言葉を聞いて恐怖と不安が増していくオーガポン。

 

「ぽにぃ!? ぽに、ぽにおぉっ!!」

 

「あっ!?こら、何してんのさ鬼さま、勝手に剥がしちゃダメだよ!」

 

オーガポンは掲示板に近寄り貼ってる写真を剥がそうと行動に出るが、スグリがそれを阻み、掲示板から遠ざける。そしてオーガポンの手を力強く掴み、移動を再開する。

 

「ほら行くよ。明日になったら学園の掲示板全部に鬼さまの写真が載るんだから、余計なことはしないの? 気に入らないならまた今度撮り直せばいいんだから」

 

「ぽにぃ……がお……っ」

 

オーガポンは自身の泣き叫んでる写真を今すぐ剥がして人間の目に触れられたくないのにスグリはオーガポンの気持ちを理解せず、写真の映りが悪いからオーガポンが嫌がってると思い込み、気にも止めずオーガポンを無理やり連れて行く。その間も行き交う生徒に見られながらオーガポンは精神的苦痛を浴び続け、心の安息は一生訪れることはなかった。

 

 

二人がエレベーターに乗り込み、長い通路を抜けた先、目の前に圧倒的なスケールの空間が広がった。ブルーベリー学園の心臓部である、巨大なテラリウムドーム。

 

「……ほら、鬼さま。見てごらんよ」

 

スグリはドームを見渡せる高いキャットウォークの柵の前に立ち、オーガポンの背中をそっと押して、強引にその景色を見せつけた。

天井に吊り下げられた巨大な『テララリウムコア』から、人工的な結晶の光がドーム全体へと降り注いでいる。ドーム内は4つのエリアに区切られており、一面の銀世界が広がるポーラエリア、乾燥した岩場と砂漠のサバンナエリア、南国の砂浜が広がるコーストエリア、そして荒々しい岩肌のキャニオンエリアが、すべて人工的に作り出され、一つの空間に押し込められていた。

 

「すごいでしょ? ここならさ、鬼さまの大好きな草木もあるし、岩山や海……全部揃ってるんだよ。キタカミの狭い山の中に隠れてるより、ずっと楽しいよ」

 

スグリはドームの景色を見つめながら、陶酔したような声でオーガポンに語りかける。彼の瞳には、この最新鋭のドームの中で手に入れた『鬼さま』と共に頂点へと登りつめるという、果てしない野心と独占欲だけがギラギラと反射していた。

 

「ぽに……ぽにぃ……っ……」

 

しかし、オーガポンはその壮大な人工の絶景を目にしても、ただただ絶望に身体をすくませるだけだった。

緑があっても、そこには大好きなアオイと過ごした、あの温かい空気はない。オーガポンは柵を掴む小さな手をカタカタと震わせ、再びその場にペタンと座り込んでしまった。いくら景色が広くても、自分はスグリのハイパーボールに縛り付けられた囚人なのだ。キタカミでアオイと出会ってから満面の笑みで笑っていた輝きは完全に失われ、素顔のまま虚ろな瞳で地面を見つめ、声にならない悲痛な息を漏らすオーガポン。

 

「あは……これからここで、毎日一緒に特訓しようね、鬼さま。俺、もっともっと強くなるから。……鬼さま?」

 

オーガポンの絶望など一切気にする様子もなく、スグリは満足そうに微笑み、彼女の小さな頭を何度も優しく、しかし強固に撫でまわしていた。ドームを満たす人工の風が二人の体を冷たく通り抜けていく。

 

だがスグリもずっとオーガポンの気持ちを理解してない訳ではなかった。ゲットされてから、ずっと笑っておらず、自身の差し伸べる手を拒絶し与える物、見せたい物も尽く受け入れてもらえない。そんなオーガポンの態度にスグリの心が徐々に崩れ始めてるのをオーガポンはまだ知らない。

 

「…んで……っ」





バトルでゲットされたポケモンは必ずしも皆幸せになるとは限らない。アニポケだけ見てもそれは十分に分かる。友情ゲットでもない限りポケモンがトレーナーを選ぶことはできない。
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