鬼さまとスグリのすれ違い   作:魔王ハルト

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スグリの闇を感じ取るオーガポン


3話

 

 

おめんがない素顔のままのオーガポンにとって禍々しいオーラを放つともっこたちの襲来は抗いようのない絶望そのものだった。

おめんの持つ力がない今、かつてのように立ち向かうことなど到底できず、ただ容赦なく襲いかかってくる彼らに手も足も出ずにいた。

 

(だれか……だれか……!)

 

心の中で悲痛な叫びをあげたそのとき、目の前の光景を切り裂くようにして一人の少女が駆けつけてくれた。

 

昨日お祭りで出会った、あのアオイだった。

 

アオイはともっこの前に立ちはだかると少しの躊躇いもなく頼もしいポケモンたちを繰り出し、オーガポンを執拗に追い詰めていたともっこを見事に撃退してくれたのだ。

 

目の前で繰り広げられたアオイの勇敢な戦いぶりと自分を必死に守ろうとしてくれたその姿にオーガポンの胸は震えた。

本当に助けにきてくれたんだ――言葉にできないほどの嬉しさと安心感がオーガポンの小さな身体を満たしていった。山道を登ってスグリとゼイユの二人が合流し、ともっこたちはオーガポンの3つのおめんを持ったまま逃げていった。

 

三人の人間たちは何やら深刻そうな様子で言葉を交わしていたが、やがてスグリがゆっくりとオーガポンの方へと歩み寄ってきた。

 

彼の両手には昨日の祭りの夜に落としてしまった大切な「みどりのめん」が握られていた。

スグリはそれをオーガポンに返そうと目の前に差し出してきた。

 

しかし、オーガポンはその仮面を素直に受け取ることができなかった。

むしろ差し出された瞬間にヒヤリとした冷たい汗が流れ、思わず後ずさりしてしまった。

 

(この、おとこのこ……)

 

オーガポンは至近距離でスグリの顔をじっと見つめ、ハッと気づいた。

間違いない。自分の隠れ家である恐れ穴に何度も何度もやってきては自分を恐怖させていたあの男の子だ。

なぜ、あの「恐ろしい訪問者」がここにいるのか。

 

それだけではない。

 

昨日、階段でおめんを拾い、優しい表情で渡そうとしてくれたのはアオイという女の子のはずだった。

 

 

アオイが最後(・・)に持ってたはずのおめんが、なぜおめんを落としたあの場(・・・)にいなくて、何度も穴にやってきたスグリという男の子が自分のおめんを持っているのか。

 

(どうして……? アオイから、うばい取ったの……?)

 

怯えたオーガポンの脳内は強い困惑と、それ以上の恐怖で支配された。

 

スグリがどんなに純粋な善意でおめんを戻そうとしていても、オーガポンにとっては「自分の家を脅かした存在」であり「アオイからおめんを奪ったかもしれない不気味な存在」として映ってしまい、怯えが止まらなくなってしまったのだ。

 

頑なに受け取ろうとしないオーガポンの様子を見て、何かに気づいたアオイがそっと間に入ってくれた。

アオイはスグリの手から一度おめんを受け取ると昨日と同じように柔らかく、温かい微笑みを浮かべてオーガポンへと手渡してくれた。

 

『ほら、オーガポン。もう大丈夫だよ』

 

アオイのその手から差し出された瞬間、オーガポンの心に渦巻いていた霧が一気に晴れた。

 

アオイが返してくれるなら、何も怖くない。

オーガポンは完全に安心しきって、アオイの手から宝物である碧の仮面をきゅっと受け取った。おめんが自分の元に戻ってきた嬉しさと、アオイへの絶対的な信頼感で、オーガポンは「ぽにぃっ!」と声をあげて、心からの喜びを爆発させた。

――だが。

 

 

そのとき、オーガポンを優しく見つめるアオイも、ホッとした表情を浮かべたゼイユも誰も気づいていなかった。アオイの手からおめんが渡され、オーガポンがそれ以上ないほどの笑顔で喜ぶ姿を。

 

すぐ横で直視させられていたスグリの顔が見る影もなく暗く曇っていたことに。

 

自分が差し出したおめんは怯えて拒絶されたのにアオイが差し出したおめんは満面の笑みで受け取られた。

その決定的な差が、どれほどスグリの心をズタズタに切り裂いていたか。その場で一人、暗い影に落ちていくスグリの絶望の深さに、そのときの誰も気づくことはできなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

アオイの手からおめんを受け取り、喜びを爆発させた直後のこと。

 

ともっこたちに奪い去られてしまった残りの3つのおめんを取り戻すため、アオイとゼイユはすぐに「あいつらからオーガポンちゃんのおめんを取り戻そう!」と立ち上がった。

当然、一緒に来てくれるものだと思っていた紫色の髪の男の子――スグリは、なぜか暗い顔でポツリと告げたのだ。

 

「……俺、行かない」

 

スグリはそのまま、アオイたちの輪から離れ、一人でどこかへ去っていってしまった。

おめんを奪われて一番悲しんでいる自分を置いて、なぜ行ってしまうのか。言葉を持たないオーガポンにはスグリのその拒絶するような態度が、どうしても理解できなかった。

 

(一緒におめん取り戻してくれないのかな……。何を考えているのか、よく分からない子……)

 

オーガポンの心にスグリに対する小さな不信感と距離感が、この時に明確に刻まれた。

 

けれど悲しんでいる暇はなかった。

オーガポンの目の前には、自分をともっこたちの魔の手から救い出してくれた、大好きなアオイがいる。そして、最初は怖かったけれど、今は一緒になって拳を握りしめて怒ってくれている背の高い女の子、ゼイユがいる。

 

二人が力強く頷き合って歩き出すのを見て、オーガポンはスグリのことをそれ以上深く考えるのをやめた。トコトコと小さな足で行進するようにアオイたちの後ろを一生懸命に追いかけていった。

 

 

そこからの旅路はオーガポンにとって、これまでの長い孤独をすべて埋め尽くすほどに温かく、眩しいものだった。

キタカミの里のあちこちに散らばったともっこたちを見つけ出すたび、アオイは一歩も引かずに頼もしいポケモンたちと共に戦ってくれた。激しいバトルの末、ともっこたちを撃破し、一つ、また一つとおめんを取り戻していく。

 

その勇敢な背中を見るたびに、オーガポンの胸は熱くなり、アオイへの信頼は確固たるものへと変わっていった。

さらに、一緒に旅を続ける中で、最初は威圧的で怖かったゼイユの本当の優しさにも気づいていった。

 

移動の途中でアオイたちが足を止めると、アオイは「ほら、お腹空いたでしょ」と言って特製のサンドウィッチを作ってくれた。

ちょっと不恰好で挟んでる食材のバランスはおかしかったけど自分のために作ってくれたサンドウィッチをアオイから受け取った。

 

「ぽに!ぽにお!パクッ、モグモグ・・・ぽにぃ〜!」

 

アオイの優しさと真心がこもったサンドウィッチを美味しく食べれてとても嬉しかった。汚れた身体をシャワーで洗ってくれて優しく拭いてくれたりもした。

 

「オーガポンって本当はこんなに笑って人懐っこい子だったのね。今まで悪い鬼だなんて言ってごめんね」

 

ぶっきらぼうだけど、そう言って頭を撫でてくれるゼイユの大きな手のひらがオーガポンはいつしか大好きになっていた。

アオイとゼイユ、二人の人間の温もりに触れながら、オーガポンは少しずつ、人間に開く心を確かなものにしていったのだ。

 

 

そして――ついに、すべてのともっこを倒し、みどりのめん、いしずえのめん、いどのめん、かまどのめんという4つの大切なおめんがすべてアオイたちの手によって揃った。

 

「ぽに……ぽにぃ……っ!」

 

自身の前に並べられたおめんを見つめ、オーガポンは胸がいっぱいになった。

 

長い、本当に長い間、自分を縛り付けていた孤独の呪縛が完全に解き放たれたのだ。

オーガポンは両手を空に突き上げ、その場でぴょんぴょんと何度も飛び跳ねた。瞳からは、嬉しさのあまり大粒の涙がポロポロと溢れ落ちていた。

 

「やったね、オーガポン! 全部、全部取り戻せたね!」

 

アオイが自分のことのように顔をクシャクシャにして笑い、オーガポンの小さな身体を優しく抱きしめた。

その温かい胸の中で、オーガポンは「ぽにぃーっ!」と甘えた声をあげる。自分を救い、宝物を取り戻してくれたアオイのことがオーガポンは、もう世界で一番大好きになっていた。

 

「まったく、本当に大仕事だったわよ。でも……おめでとう、オーガポン。これからはもう、誰に怯えることもないんだからね」

 

ゼイユもまた、腰に手を当てて満足そうに微笑みオーガポンの頭を優しく小突いた。

 

偽りの伝説は終わり、おめんはすべて戻り、心から信頼できる仲間ができた。アオイたちの祝福に包まれながら、オーガポンは今、人生で最高の幸福を噛み締めていた。

 

 

――そう、この時までは。

 




おめん受け取って貰えなくてスグリ可哀想と思ってる人は大勢いたと思うけど私は素直に受け取りづらいのは当然だと思った。

オーガポン視点から見たらスグリがおめんを持ってること自体、普通におかしいからね。おめんを落として山に逃げ去る直前にアオイがおめんを持ってることはオーガポンはバッチリ確認してますから。あの場にいなかったスグリが当然のようにおめんを返してきたら不信感を抱くのは当然ですよ。
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