鬼さま&スグリ 助けてぽにぽに   作:助けてアオイ

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ちなみに作者はスグリのこと嫌いです。子どもだからしょうがないと許したい気持ちもありつつ嫌いです。


5話

 

 

 

恐れ穴の前で行われたアオイとスグリの決闘は夕闇が周囲を包み込むなか、互いの持てるすべてをぶつけ合う壮絶な泥沼の長期戦へと発展していた。

 

激しい攻防の末、両者ともに手持ちの5匹が戦闘不能となり、ついにフィールドに残されたのは最後の一体ずつ。

 

フィールドの外側で固唾を呑んで見守るオーガポンの視線の先、アオイが最後に送り出したのは最初から苦楽を共にしてきた相棒、ウェーニバル。

対するスグリが血の滲むような執念とともに引きずり出したのは彼の真の相棒であるカミッチュだった。

 

「絶対に負けない!ウェーニバル、アクアステップ!」

 

アオイの鋭い号令とともにウェーニバルが華麗なステップを踏みながら前進する。

その脚から激しい水流の渦が巻き起こり、恐れ穴の乾いた地面を濡らしながらカミッチュへと襲いかかった。ウェーニバルは激しい水しぶきを周囲に撒き散らしながら、一瞬の隙を突いてカミッチュの懐へと滑り込み、強烈な蹴り技をその林檎の身体へと叩きつける。

 

ズガァン!と重い衝撃音が響き、カミッチュの身体が大きく後ろへと弾け飛んだ。

 

「ぽにお! ぽにぃっ!」

 

アオイの後ろでオーガポンが嬉しそうに小さな手を叩いて跳ね上がる。

ウェーニバルの動きは完全にスグリのカミッチュを圧倒していた。ステップを踏むたびにウェーニバルの素早さは引き上がり、残像を残すほどの速度でフィールドを支配していく。

 

「一気にきめる!そのままインファイト!」

 

アオイの追撃の指示。ウェーニバルは音を置き去りにするほどの踏み込みで倒れかけたカミッチュに肉薄した。

防御を完全に捨て去り、全力を込めた怒涛の強烈な打撃の連打が容赦なくカミッチュを襲う。打撃の風圧が周囲を揺らし、カミッチュは防戦一方のまま岩壁に背中を激しく打ち付けた。

 

誰の目から見てもアオイの優勢は明らかだった。

あと一撃まともな技が入れば、カミッチュは確実に戦闘不能になる。オーガポンはアオイの勝利を確信し、その瞳をキラキラと輝かせていた。

 

しかし、スグリの瞳の奥に宿る暗い炎はまだ微塵も消えていなかった。

 

「……まだだ!まだ、終わらせない……!」

 

スグリの喉の奥から、獣のような掠れた声が漏れる。

 

彼の手のひらは強く握りしめられすぎて白く血の気が引いていた。

憧れのオーガポンと離れたくない、アオイにだけは絶対に負けたくないという泥臭いまでの執念が敗色濃厚だったカミッチュの身体に異常なまでの活力を注ぎ込む。

 

岩壁にめり込んでいたカミッチュがカタカタと林檎の身体を震わせながら、執念だけでその場に踏みとどまった。その目はスグリと全く同じ、狂気にも似た闘志を宿している。

 

「カミッチュ……みずあめボム……!!」

 

スグリの絶叫に近い叫び。

 

カミッチュの口から粘着性の極めて高いドロドロとした濃密な蜜の爆弾が大量に発射された。インファイトを終えた直後で防御が下がり、わずかに体勢を崩していたウェーニバルは、その回避不能な物量の蜜を正面から浴びてしまう。

 

ベト、と音を立ててウェーニバルの美しい羽毛に絡みつく不快な蜜。

 

「クワッ……!?」

 

ウェーニバルが困惑の声を漏らす。みずあめボムの追加効果により、それまでアクアステップで限界まで引き上げられていたウェーニバルの圧倒的な素早さが急激に奪われていく。

足元が重く泥に捕まったかのように鈍り、先ほどまでの華麗なステップが完全に封じ込められてしまった。

 

形勢は、一瞬にして混沌へと叩き落とされる。

 

「今だ……! おどろかす!!」

 

スグリは間髪入れずに命じた。

足が鈍ったウェーニバルが体勢を立て直そうとするよりも早く、カミッチュが影から飛び出すような不可視の速度で突撃する。ウェーニバルが身構える直前、その胸元へカミッチュの渾身のおどろかすが激しく突き刺さった。

 

「ウェーニバル!?」

 

アオイが悲鳴のような声をあげる。優勢だったはずのバトルが、スグリの狂気的な執念によって、完全に巻き返されようていた。インファイトの反動で防御が下がっていたウェーニバルにとって、その一撃は致命的なダメージとなって身体をへし折る。

 

「うおおおああっ! りゅうのいぶき!!」

 

髪を振り乱し、完全に我を忘れたようにスグリが腕を振るう。

カミッチュの口から、紫色の禍々しい竜のエネルギー波が放射された。華麗なステップを封じられたウェーニバルは、それを避ける術を持たない。

 

轟音と共に放たれた光線がウェーニバルの巨体を真っ向から飲み込み、恐れ穴の前に激しい爆発の煙が立ち込めた。

 

「ぽに……っ!?」

 

オーガポンは歓声から一転、恐怖に顔を歪ませてアオイとウェーニバルを見つめる。煙の向こうから、大きくよろめきながらウェーニバルが姿を現した。その身体は深く傷つき、呼吸は激しく乱れている。

 

アオイは冷や汗を流しながら、「まだ、まだいけるよ……!アクアステップ!」と自分に言い聞かせるように声を絞ったがスグリの猛攻はそれを完全に上回っていた。

 

「これで……終わりだ! ギガドレイン!!」

 

スグリの容赦のない決定打の号令。

カミッチュから放たれた無数の緑色の光が、満身創痍のウェーニバルの身体を容赦なく絡めとった。ウェーニバルの中に残されていたわずかな体力が凄まじい勢いで吸い上げられていく。光を通じてエネルギーを奪ったカミッチュの傷が、みるみるうちに癒えていくのが見えた。

 

「クワ……ッ……」

 

限界を迎えたウェーニバルの膝が、ついに地面へと崩れ落ちる。そのまま、大きな音を立ててうつ伏せに倒れ込み、ピクリとも動かなくなった。

 

「ウェーニバル……戦闘不能。……カミッチュの勝ち」

 

審判を務めていたゼイユの信じられないものを見るような震えた声が山に響く。

 

アオイの敗北だった。

 

いつも自分の先を行き、決して届かないと思っていた最強の壁。そのアオイをスグリは己の執念とドロドロとした感情だけで、ついに叩き伏せてみせたのだ。

 

静寂が恐れ穴の前を支配する。

ウェーニバルをボールへと戻したアオイは、その場に呆然と立ち尽くし、自分の手のひらを見つめていた。

 

勝てなかった。

 

スグリの、あの凄まじい気迫に押し切られてしまった。

スグリは肩を激しく上下させながら、勝利の余韻に浸るように俯いていたが、やがてゆっくりと顔を上げた。その顔には勝利の喜びなどは微塵もなく、ただただ狂気に満ちた歪んだ達成感だけが張り付いていた。

彼の視線の先にはフィールドの外側で恐怖にガタガタと震えているオーガポンへ、ゆっくりと移っていく。

 

 

 

 

 

アオイの相棒であるウェーニバルが倒れ、静まり返る恐れ穴の前。

勝利したスグリは狂気的な光を宿した瞳をまっすぐにオーガポンへと向けた。

 

「……さあ。約束通り、こっちにきてよ、鬼さま」

 

スグリが濁った声で手を差し伸べる。

 

だがオーガポンは、その手を激しく拒絶した。アオイが負けてしまったなら、今度は自分が戦う。

大好きなアオイと離れたくない、ずっと一緒にいたい――その一念が先ほどまで人間に怯えていたオーガポンの小さな身体に絶望を跳ね返すほどの闘志を呼び起こした。

 

トコトコとアオイの前に躍り出たオーガポンは、みどりのめんを顔にぴったりと嵌め直し、スグリを鋭く睨みつける。

小さな両拳を握りしめ、「ぽにぃーーーっ!!」と山々に響き渡るほどの雄叫びをあげた。それは、スグリに対する明確な敵意と最後の抵抗の意思表示だった。

 

「……やるんだ。アオイのために、俺と戦うんだね」

 

スグリの顔から一切の感情が消え失せる。

彼は懐からキタカミの里の万能薬を取り出すと、先ほどの激戦で傷ついていた手持ちのポケモンたちすべてに手際よく与え、その体力を完全に回復させた。万全の布陣となったスグリの手持ちがオーガポンの前に立ちはだかる。

 

「がお!ぽにおぉーーーんっ!!」

 

オーガポンはおめんに右手をかざした。

おめんの表面が眩い光を放ち、キタカミの結晶の輝きがオーガポンの全身を包み込んでいく。まばゆい光の柱が立ち昇り、オーガポンの正面に巨大なテラスタルの仮面が顕現した。

 

おめんの力を解放した、起死回生のテラスタル。

かつて昔、共にいた男の仇撃ちのため、ともっこを葬る際にみどりのめんのテラスエネルギーを使い果たしたがアオイとゼイユ、スグリのじいさんのおかげで修復したおめんに新たに追加されたエネルギーを解き放つ。何としても勝って、アオイの隣に居続けるんだというオーガポンの執念がフィールドの空気を激しく震わせる。

 

 

 

だがスグリの戦術はあまりにも冷徹で巧みだった。

 

オーガポンの凄まじいテラスタルの力を真正面から受け止める愚を今のスグリは犯さない。

 

「ダイノーズ、でんじは……!」

 

スグリの冷たい号令。ダイノーズの放った鋭いでんじはがオーガポンの身体を射抜くと結晶化されたオーガポンの身体にバチバチと黄色い電撃が走り、激しい麻痺が襲った。素早さがガクリと落ち、身体が思うように動かなくなる。

 

「グライオン、どろかけ……!」

 

動きの鈍ったオーガポンへ、次のポケモンのグライオンの命中率を下げる泥が容赦なく襲う。

オーガポンの動きをスグリの徹底したデバフ戦術によって、見る見るうちに引き下げられていった。

 

「ぽにっ……ぽにぃ……っ!」

 

オーガポンは麻痺に苦しみながらも、必死に右腕を振り上げ、ツタこんぼうを放とうとする。しかし、身体が痺れて技が発動しない。その隙をスグリは見逃さない。

 

「メガヤンマ、むしのさざめき。……それから、ちょうおんぱだ」

 

メガヤンマの放った音の波がオーガポンの耳に鳴り響く。オーガポンの視界がぐにゃりと歪み、激しい混乱状態に陥る。

 

「ぽにぃ!? ぽに、ぽにっ……!」

 

大好きなアオイの姿さえも見失い、パニックになったオーガポンは自分の頭を激しく振り回して岩壁にぶつけ、自傷ダメージで自らを深く傷つけていってしまう。

麻痺で身体は引きつり、混乱で思考は遮断され、ステータスは容赦なく低下される。スグリの容赦のない絡め手はオーガポンの力をじわじわと確実に削ぎ落としていった。

 

「ぽにぃ……! ぽにぽに!ぽにおぉぉぉっっ!!」

 

負けたくない!負けたくないよっっ!!と言葉にならない、悲痛な泣き叫びが恐れ穴にこだまする。

 

涙で視界を濡らしながら、オーガポンはボロボロの身体で必死に耐えていた。だがスグリの手により、ついに最後の相棒、カミッチュがフィールドへと引きずり出される。

 

「カミッチュ、みずあめボム」

 

スグリの淡々とした、決定的な指示。

カミッチュの口から放たれたドロドロの蜜の爆弾が満身創痍のオーガポンの身体を容赦なく直撃した。ベトベトとした不快な液体がテラスタルの輝きを覆い隠し、ただでさえ低下していたオーガポンのステータスを、さらに絶望的なまでに引き下げていく。

 

(いやだ……いやだっ! アオイ助けて、離れたくないぃぃぃっ!!)

 

可愛らしい顔から大粒の涙を流し、アオイに向かって必死に小さな手を伸ばして泣き叫ぶオーガポン。すでに戦意は完全に喪失してまともにバトルする力は残ってない。だがいまだにアオイを求めるオーガポンを見てスグリは容赦なくトドメの一撃を繰り出す。

 

「……これで終わり。カミッチュ、りゅうのいぶき」

 

スグリの冷徹な声が響く。

カミッチュの口から放たれた紫色の衝撃波が完全に動きを止められ絶望し泣き叫ぶオーガポンの身体を真っ向から飲み込んだ。ドゴォンと激しい音が響き渡り、オーガポンの正面に輝いていたテラスタルの巨大なおめんがガラスが割れるような高い音を立てて粉々に砕け散る。

 

「がお……っ……」

 

「いけっ……!!」

 

光を失ったオーガポンの身体がゆっくりと泥の上に倒れ込み力尽きた。

 

その瞬間、スグリの腕が電光石火の勢いで振り抜かれた。

放たれたハイパーボールが放物線を描いて倒れたオーガポンの身体へと正確に吸い込まれていく。

 

 

 

カタカタ……カタカタ……カタカタ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カチッ

 

 

揺れる金属音と共にボールの中心のランプが赤く消灯した。

抵抗する力さえ残されていなかったオーガポンは一発でその球体のなかに閉じ込められ、完全にスグリのものとなった。

 

静寂が戻った恐れ穴の前。

 

スグリは地面に転がるボールへと歩み寄り、それを愛おしそうに、しかし狂気に満ちた手つきで拾い上げた。

 

「あは……あはははは……やったあああああああ!!」

 

最初は小さな漏れ出るような声だった。それが、次第に大きくなっていく。スグリはボールを握りしめたまま、天を仰いで声を張り上げた。

 

「勝った……! 俺が勝ったんだ……!! アオイに勝って、鬼さまを俺のものにしたんだ……!! あははははははははははっ!!」

 

夕闇のなか、狂ったようなスグリの高笑いだけがいつまでもキタカミの山々に冷たく木霊し続けていた。アオイとゼイユはそのあまりの光景に、ただ息を呑んで立ち尽くすことしかできなかった。





オーガポン待望のスグリルート。
出してないポケモンもありますが、ちゃんと6対1でオーガポンを分からせたスグリ。

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