鬼さま&スグリ 助けてぽにぽに 作:助けてアオイ
恐れ穴から弾むような足取りで夜の山道を一人、下りていったスグリ。
彼の右手には先ほどオーガポンを閉じ込めたばかりの、まだ微かに熱を持ったハイパーボールがしっかりと握られていた。暗い山道のなかでスグリはそのボールを何度も愛おしそうに撫で、時には顔に近づけて、その感触を確かめていた。
「あは……あはは……。俺のものだ。俺だけの鬼さま……」
暗闇に響く自分の声すら、今のスグリには心地よかった。
いつもアオイのそばにいて自分を見てくれなかった鬼さまが今は自分の手のなかにいる。アオイに勝ったという高揚感と一番欲しかったものをようやく手に入れたという歪んだ万能感がスグリの全身を支配していた。
やがて見慣れた我が家の明かりが見えてくる。
スグリは勢いよく引き戸を開け、家に駆け込む。
「ただいまーっ!」
いつもより明らかに大きく弾んだ声。
その異様なテンションの声に驚いたように奥からじいちゃんとばあちゃんが顔を覗かせた。
「スグリ。ずいぶんと遅かったの。……おや、ゼイユはどうしたんじゃ? 一緒じゃなかったのか?」
鬼さまを見送りに一緒に行ったゼイユがおらずスグリしかいない。
スグリは靴を乱雑に蹴り飛ばすように脱ぎ捨てるとニタニタとした、どこか壊れてしまったような笑みを浮かべたまま、じいちゃんとばあちゃんの前へと歩み寄った。
「ねえ、じいちゃん、ばあちゃん! 見てよ、これ……!」
スグリは右手に握りしめていたハイパーボールを二人の目の前へと突き出した。
その剥き出しの瞳には異様なほどの狂気と抑えきれない興奮の光がギラギラと灯っている。
「俺さ、やったんだよ。アオイに勝負で勝ったんだ! あの強いアオイに、俺勝ったんだよ!」
「なんじゃと……? アオイちゃんに勝った?」
じいちゃんが目を見張る。しかし、スグリの報告はそれだけでは終わらなかった。スグリはボールを宝物のようにもう片方の手で包み込み、頬ずりせんばかりの勢いで二人に顔を近づけた。
「そう! 勝ったからさ、アオイと一緒に行こうとしてた鬼さまを俺のものにしたんだ! 俺、鬼さまをこのボールでゲットしたんだよ!!」
広間の空気が一瞬で凍りついた。
「な、なんじゃと……!?」
「スグリ……あんた、今なんて……? 鬼さまを捕まえたと……!?」
じいちゃんは言葉を失い、あまりの衝撃に身体を硬直させた。
ばあちゃんも短い悲鳴を上げて口元を両手で覆い、信じられないものを見るような目で我が孫を見つめた。
「そうだよ! 俺が自分の力で鬼さまをねじ伏せて捕まえたんだ! じいちゃんたちも嬉しいでしょ? 俺、ずっと鬼さまに憧れてたんだもん! これからはずっと鬼さまと一緒さ!」
スグリは声を弾ませ、純粋な子供のように無邪気に笑った。
しかし、その笑みの裏にあるのはアオイへの劣等感が生み出した、独占欲という名のどす黒い執念だった。自分の部屋に行く前に、この最高の「成果」を家族に自慢したくてたまらなかったのだ。
じいちゃんは震える手を伸ばし、スグリの肩を掴む。
「スグリ……! お前、一体何を考えておるんじゃ! 鬼さまは、何百年も恐れ穴で寂しく暮らしておられたお方。それを力ずくでボールに閉じ込めるなど……そんなの鬼さまを本当に想う者のすることではないぞ……っ!」
じいちゃんの、悲痛に満ちた叱責の声。
だが、その言葉は今のスグリの耳には全く届かなかった。じいちゃんに否定された瞬間、スグリの顔から無邪気な笑みがスウッと消え失せ、冷酷で底冷えするような暗い瞳が祖父母を射抜いた。
「……じいちゃんには、関係ないじゃん」
低く突き放すような声。
「じいちゃん、俺に鬼さまの真実を喋らず、ずっと嘘ついて仲間外れにしてたもんね。アオイとねーちゃんばっかり信用してさ。……だから俺が自分で手に入れたんだ。誰にも文句は言わせない」
スグリはボールをきゅっとポケットに仕舞い込むと、じいちゃんを冷たく睨みつけた。
「あとさ、明日ブライア先生の急用で俺ブルーベリー学園に戻るから。この里には、もう用は無いし。……アオイにも明日見送りに来いって言っておいたからさ」
オーガポンをゲットした以上恐れ穴に行く必要もなくなり吐き捨てるようにそう告げるとスグリはドカドカと激しい足音を立てて廊下を歩き、自分の部屋の襖を乱暴にピシャリと閉めて閉じこもってしまった。
残されたじいちゃんとばあちゃんは広間の真ん中で、ただただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
あんなに優しくて気弱だったスグリが鬼さまへの歪んだ執着とアオイへの劣等感の果てに別人のように変わってしまった。そのあまりの恐ろしさと絶望の深さに二人はただ冷え切った空気のなかで震えることしかできなかった。
乱暴に戸を閉め、自分の部屋に閉じこもったスグリは、すぐに部屋の鍵をカチリと閉めた。
薄暗い部屋のなか、スグリは机の前にどさりと腰を下ろすと、ポケットからハイパーボールを取り出した。
手のひらに収まる球体を見つめる彼の瞳には狂おしいほどの愛着と昏い独占欲が渦巻いている。
「……出てきて、鬼さま」
スグリがボタンを押すと、カチリと音がしてボールが開き、白い光の束が畳の上に降り立った。
光が収まると、そこには先ほどの激戦で満身創痍となり、ぐったりと横たわるオーガポンの姿があった。みどりのめんは外れ、剥き出しになったその素顔は、かつてないほどの疲弊と絶望に染まりながら気を失ってる。それをいいことにオーガポンの懐の中を弄り勝利した物が手にする鬼さまの一部であり大切な思い出が詰まった「いしずえのめん」、「いどのめん」、「かまどのめん」を強引にゲットしその身で堪能した後、机の上に置いた。
スグリは懐からキタカミの里のかいふくのくすりを取り出すと、横たわるオーガポンの小さな身体に優しく、丁寧に吹きかけ始めた。
シュウゥ、と心地よい音を立てて薬霧がオーガポンの傷口を癒していく。麻痺で引きつっていた筋肉がほぐれ、混乱していた脳の霧が晴れ、奪われていた体力がみるみるうちに回復していく。
しかし傷が癒え、意識がはっきりとクリアになればなるほど、オーガポンを包む現実の残酷さが浮き彫りになっていった。
「ほら、起きて鬼さま」
「ぽに……っ……!?」
スグリに頬をパンっ、パンっと叩かれオーガポンはガバッと跳ね起きるようにして周囲を見回した。
そこに、自分を命がけで守ってくれた大好きなアオイの姿はなかった。ぶっきらぼうだけど優しかったゼイユの姿もない。
あるのは見知らぬ薄暗い部屋の壁と、自分の目の前にしゃがみ込み、じっとこちらを見つめている男の子――スグリの顔だけだった。
オーガポンは恐怖のあまり短い悲鳴をあげ、畳の上をずるずると後ずさりして部屋の隅へと逃げ込もうとした。しかし、部屋は狭く、すぐに背中が冷たい壁にぶつかってしまう。おめんのない剥き出しの大きな瞳から、ぽろぽろと大粒の涙が溢れ出た。
「怖がらなくていいんだよ鬼さま」
スグリは床に膝を突き、逃げるオーガポンを追い詰めるようにゆっくりと距離を詰めてきた。
彼の声は驚くほど優しく、そしてどこまでも不気味だった。スグリは両手を広げ、泣きじゃくるオーガポンの小さな肩を拒絶を許さない強さできゅっと抱きしめた。
「痛くしてごめんね。でもあれは勝負だから……俺が勝ったから、これでいいんだ。もうアオイのところに行かなくていいからね。アオイのことなんて、忘れちゃいなよ」
「ぽにぃ……っ! ぽにぃっ!!」
(いやだいやだっっ!帰してっ、アオイの所に帰してっ!!)
オーガポンはスグリの胸の中で狂ったように暴れ泣き叫んだ。小さな拳でスグリの肩を何度も叩き、必死に彼の手を振り払おうとする。
アオイのところへ帰してほしい、大好きなアオイと一緒にいたい、どうしてこんな怖い目に遭わせるのかと言葉にならぬ悲痛な叫びが狭い部屋のなかに木霊する。
しかし、オーガポンがどれほど泣き叫び、自分を拒絶してもスグリの顔から笑みが消えることはなかった。むしろ、自分の腕のなかに鬼さまの確かな体温と鼓動があるという事実が、彼の歪んだ心を極上の幸福で満たしていく。
「あはは……。泣かなくても大丈夫だよ、鬼さま。俺が村の皆よりも、ねーちゃんよりも、アオイよりも……誰よりも鬼さまのことを大切にして強く育ててあげるから」
スグリは暴れるオーガポンの背中を、あやすように何度も何度も執拗に撫でまわした。
「これからずっと、ずーっと一緒だよ、鬼さま。明日、一緒にブルーベリー学園に行こうね。俺たちの邪魔をできない、遠いところへ行こう……」
「ぽにぃぃぃーーーっ!! 」
(アオイ、アオイぃぃぃっ!!)
スグリの一方的な、狂気的なまでの愛の言葉を受けながら、オーガポンは天を仰ぎ、届くはずのないアオイの名前を必死に叫び続けた。
涙で素顔をぐしゃぐしゃに濡らし、絶望のなかで激しく拒絶の声をあげるオーガポンと、それを恍惚の表情で見つめ、決して腕を離そうとしないスグリ。閉ざされた部屋のなかで、二人の決して交わることのない悲痛な叫びと歪んだ笑い声が夜の静寂の中に深く、重く沈んでいった。
オーガポンゲット後のイベント
アオイ/ハルトは オーガポンから「いしずえのめん」と「いどのめん」と「かまどのめん」をたくされた!
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スグリは 倒して気を失ってるオーガポンの懐から「いしずえのめん」と「いどのめん」と「かまどのめん」を奪い取った!!