鬼さま&スグリ 助けてぽにぽに 作:助けてアオイ
アニポケとは違いこの作品では正々堂々とパートナー(アオイ)からオーガポンを永遠に引き剥がすけどね
ちなみにこの回でキタカミの里編最終話です
部屋を閉め切ったスグリがオーガポンを自分の腕の中に縛り付けていた頃、恐れ穴の前に残されていたゼイユがようやく疲れ果てた足取りで我が家へと帰り着いた。
引き戸を開け、絶望に染まった顔で土間に佇むゼイユをじいちゃんとばあちゃんはかける言葉もなく迎え入れた。
アオイはショックのあまり静かに宿泊先へと戻り、今この家にスグリと対峙できる人間は家族しか残されていなかった。
やがて、夜も更けた頃。ばあちゃんが重苦しい沈黙を破るように、いつものキタカミの郷土料理を食卓に並べ、全員に声をかけた。
「……みんな、ご飯ができたよ。スグリも部屋から出ておいで」
戸が静かに開き、スグリが部屋から出てきた。その腕には、ぴったりと「みどりのめん」を嵌め直されたオーガポンが、まるでぬいぐるみのようによわよわしく抱きかかえられていた。
じいちゃん、ばあちゃん、ゼイユ、スグリ、そしてオーガポン。
かつてないほど奇妙で息が詰まるようなメンバーがひとつの食卓を囲んだ。
「ほら、鬼さま。ばあちゃんが作ったご飯だよ。美味しいから、いっぱい食べなよ」
スグリはいつになく穏やかな、しかしどこか感情の抜け落ちた声でオーガポンの前に小さくちぎった大福や地元の野菜を並べた。
おめんの力を解放し、テラスタルまで使って戦ったオーガポンの身体は間違いなくエネルギーを欲しているはずだった。
しかしオーガポンは食卓の上の料理に一切目を向けようとはしなかった。
「ぽにぃ……ぽに、ぽにっ……」
おめんの隙間から大粒の涙がとめどなく溢れ出し畳へとポタポタと落ちていく。
オーガポンは自分のすぐ隣に座るスグリから逃れるように身体をぎゅっと縮め、小さな両手でおめんを顔に押し付けるようにして、ただひたすらに泣き喚いていた。
アオイから無理やり引き離され、スグリという名の悪魔が住むこの場所で出される食べ物なんて何ひとつ喉を通るはずがなかった。どれほど空腹でも全身でスグリからの施しを拒絶していた。
「ちょっとスグリ……。オーガポンちゃん泣いて嫌がってるじゃない。無理に食べさせようとしたって――」
ゼイユが耐えかねたように箸を握る手を震わせながら弟を睨みつけた。
しかしスグリはゼイユの方を見ようともせず、ただ愛おしそうにオーガポンの背中を優しく撫で続けるだけだった。
「ねーちゃんは黙っててよ。鬼さまは、お腹が空いて泣いてるだけなんだから。ねえ、鬼さま、これなら食べられる? はい、あーん」
スグリのその盲目で狂気的なまでに一方的な優しさが、かえって周囲の大人たちを戦慄させた。
じいちゃんは箸を持ったまま、深く、深く俯き、拳を強く握りしめていた。ばあちゃんもオーガポンが泣く声を耳にするたびに胸を痛め、お茶を注ぐ手がカタカタと震えていた。
「ぽにぃぃ……っ! ぽにぃっ……!」
(いやだ! 食べたくない!)
オーガポンはスグリが差し出してきたスプーンを短い腕で必死に拒絶するように払い除けた。料理が畳の上に転がる。
それでも、スグリの顔から不気味な微笑みが消えることはなかった。彼は落ちた料理を淡々と拾い上げると再び新しい料理をオーガポンの前に差し出す。
「いいよ無理しなくても。ブルーベリー学園に着いたら、もっと美味しいものをたくさんあげるからね」
拒食し、涙を流して激しく拒絶し続けるオーガポンと、それを完全に自分の都合の良いように解釈して微笑むスグリ。
そしてあまりの異常さに声を失い、ただただ涙を堪えて食卓を見つめるしかないゼイユたち。
キタカミの里の恵みが並んだはずの食卓は誰一人として味を感じることのない、冷え切った絶望の檻へと変わっていた。オーガポンの悲痛な泣き声だけが重苦しい夜の広間に、いつまでも痛々しく響き渡っていた。
冷え切った食卓での時間が終わり、スグリは食事を一切受け付けなかったオーガポンを再びその細い腕で抱きかかえ、自分の部屋へと戻ろうとした。
そのとき、スグリの目がオーガポンの顔にぴったりと嵌められている「みどりのめん」へと向けられた。
「……あ、そうだ。鬼さま」
スグリは立ち止まると、オーガポンの顔に手を伸ばした。そして躊躇うことなく、その小さな顔から「みどりのめん」をぐいっと力任せに剥ぎ取った。
「ぽにおっ……っ!?」
突然のことにオーガポンは驚き、短い声をあげて身体をすくませた。隠すべき素顔が再び夜の空気の中に晒される。
スグリは部屋の机の上に置いてあった残りの3つのおめん――いしずえのめん、いどのめん、かまどのめんの元へと歩み寄った。
そして、それら4つの大切なおめんをすべて重ね合わせ、自分の旅行カバンの奥深くへと雑に押し込んでしまったのだ。
「これからはさ、もうおめん着けなくていいよ」
スグリはカバンのチャックをジジジと閉め、鍵をかけオーガポンに向かって優しく微笑みかけた。
「だって鬼さまの本当の顔がこんなに可愛いんだもん。何百年もおめんで隠してたなんて勿体ないよ。俺、鬼さまの可愛い素顔をブルーベリー学園のみんなにいっぱい自慢したいんだ。だから、おめんは俺がまとめて預かっておくね」
「ぽに…がおっ……っ!」
オーガポンは絶望に顔を歪め、短い足を必死に走らせスグリの足元へと駆け寄った。
スグリのズボンの裾を小さな手でぎゅっと掴み、カバンを指差しながら何度も激しく首を振る。
(返して!返してっ!それは大好きなあの人が守ろうとしてくれた宝物でアオイが取り戻してくれたワタシの大切な思い出なの、返してよ!!)
ともっこたちからアオイが命がけで取り戻してくれた、自分そのものとも言える大切なおめん。
それを返してほしいとオーガポンは涙をボロボロと溢れさせながら、必死にジャンプしてスグリのカバンに手を伸ばし、健気にアピールし続けた。
しかしスグリはその哀れな訴えを全く聞き入れようとはしなかった。
「ダメだよ、鬼さま。これは俺の物でもあるから預かるの。バトルの時だけ貸してあげるから。ほら、もう夜遅いから寝ようね」
もうおめんは自分の所有物かのごとく言い切りスグリはカバンをクローゼットの奥へと完全に仕舞い込むとオーガポンを振り返ることなく、自分のベッドへと潜り込んでしまった。
「ぽにお…、ぽに、ぽに、ぽにぃぃぃーーーっ!!」
薄暗い部屋の真ん中、おめんをすべて奪われ、素顔のまま取り残されたオーガポンは冷たい畳の上にへたり込み、声を上げて泣き叫んだ。
アオイが取り戻してくれた宝物も自分のアイデンティティも、すべてをこの少年に奪い取られてしまった。
人間を恐れ今まで素顔をおめんで隠して生きてきたオーガポンだが、この悪魔の独占欲を満たすためだけにこれから出くわすであろう多くの人の前で顔を晒さなければならなくなった。オーガポンはただ大好きなアオイの隣でずっと楽しく幸せでいたいと思っていただけなのに良い子だと思っていたスグリに力づくでアオイから引き離され、これから全てを奪い取った悪魔と過ごすことになる。
暗闇のなかでオーガポンは膝を抱えて丸くなり、激しい恐怖と孤独、そしてアオイへの恋しさで胸が張り裂けんばかりに泣き続け、キタカミの長い夜はどこまでも残酷に更けていった。
ーーーーーーーーーーー
キタカミの里に残酷なほどに澄み渡った青空の朝が訪れた。
村の入り口にはパルデア地方からやってきた林間学校の生徒たちと彼らを見送るために集まった里の人間たちが並んでいた。
その最前列にアオイは立っていた。一晩中眠れなかった彼女の瞳はかすかに赤く潤んでおり、その視線は少し離れた場所に停まっている大きな長距離バスへと固定されていた。
「それではパルデアの皆さん、短い間でしたが素晴らしい交流をありがとうございました」
ブライア先生が、いつもと変わらない朗らかな笑みを浮かべてパルデアの生徒たちへとお別れの挨拶を述べる。
彼らにとって、このキタカミの里での林間学校は無事に終わった平和なイベントに過ぎない。
その裏で一人の少女と一匹のポケモンがどれほどの地獄を味わったかなど誰も知る由はなかった。
ブライア先生に続いてゼイユが一歩前に出た。
アオイと視線が合うと、申し訳なさそうにぎゅっと唇を噛み締め、小さく頭を下げた。
「……みんな、元気でね。パルデアに戻っても、あたしたちのこと忘れないでよ」
ゼイユの声は震えていた。実の弟の暴走を止められず、友達であるアオイからオーガポンを奪う結果になってしまったことへの激しい罪悪感が彼女の全身から伝わってくる。
そして、最後にスグリが前に出た。
「みんな、バイバイ。楽しかったよ」
スグリの口調は驚くほど穏やかで、昨日までの気弱な少年に戻ったかのようだった。しかし、前髪の隙間から覗くその瞳は、どこかガラス玉のように冷たく、一切の光を宿していなかった。
挨拶がすべて終わり、ブライア先生が「さあ、空港に向けて出発しましょう」と促すと、彼女に続いてゼイユも重い足取りでバスのステップを登っていった。
一人、パルデアの生徒たちの前に残ったスグリは、ゆっくりとアオイの目の前まで歩み寄ってきた。
彼はポケットの上から、オーガポンが閉じ込められているハイパーボールをそっと撫でると、アオイに向かって冷たい微笑みを浮かべた。
「……そうそう。アオイ」
スグリは声を潜め、アオイだけに聞こえるようにささやいた。
「鬼さまね、昨日からずーっと泣いて暴れててさ……まだ全然落ち着いてないんだ。だから、アオイにお別れの挨拶をさせたくても、ボールから出してあげられないんだよね。ごめんね」
その言葉は、アオイの心への容赦のない追撃だった。スグリはオーガポンが入ったボールをわざとらしく見せびらかしアオイが絶望に表情を歪めるのを確認すると満足したように頷く。
「じゃあね。ホントに友達になれてよかったよ」
と言い残して、軽快な足取りでバスへと乗り込んでいった。プシュー、と音を立ててバスの重い扉が閉まる。
大きなエンジン音が里の静寂を切り裂き、バスはゆっくりと空港に向けて走り出した。アオイは遠ざかっていく車体を、ただ涙を流しながら見送ることしかできなかった。
――そのときだった。
走り出したバスのスグリが座っている側の中央の窓ガラスが内側から激しく叩かれた。
「ぽにぃ……っ! ぽにぃぃぃーーーっ!!」
それはバスの窓ガラスを突き破らんばかりのあまりにも悲痛な叫び声だった。
スグリのポケットのなかでオーガポンが死に物狂いで抵抗し、ハイパーボールを無理やり内側からこじ開けて飛び出してきたのだ。
おめんをすべて奪われ、素顔を剥き出しにしたオーガポンがバスの窓ガラスに小さな両手をぴったりと張り付け、必死に外にいるアオイの姿を探していた。
(アオイ……っ! アオイぃぃぃっ! 置いていかないで、助けてぇぇぇーーーっ!!)
大粒の涙で顔をぐしゃぐしゃに濡らしながら、オーガポンは窓ガラスを何度も何度も叩き、外のアオイに向かって必死に手を伸ばし、狂ったように泣き叫んでいた。
大好きなアオイと引き離され、見知らぬ場所へと連れ去られていく恐怖と絶望。その叫びは、言葉にならなくともアオイをどれほど求めているかを痛いほどに物語っていた。
「オーガポン……っ!?」
アオイはハッとして、走り出すバスを追うように思わず数歩、足を前に踏み出した。
窓の向こうで必死に自分を呼んで泣き叫ぶオーガポンの姿が涙で激しく歪む。しかし非情にもバスは速度を上げ、キタカミののどかな田園風景のなかを滑るように進んでいく。
オーガポンが窓に顔を押し付け、遠ざかるアオイの姿を最後まで見つめながら声を枯らして叫び続ける。
だがどれほど手を伸ばしても、どれほど叫んでも二人の間の距離が無情にも開いていく。
やがてバスは山のふもとの急なカーブを曲がり、アオイの視界から完全にその車体を消し去った。
オーガポンの悲痛な泣き声の残響だけが澄み渡ったキタカミの青空のなかにいつまでも冷たく、虚しく響き渡っていた。アオイは誰もいなくなった道に立ち尽くし、ただ声もなく涙を流し続けるしかなかった。
「これからは俺が鬼さまのそばにいるから俺より弱いアオイのことは忘れて。」
絶望してるオーガポンに寄り添うスグリ。誰よりも鬼さまのことが好きで憧れてる自分こそオーガポンの隣にふさわしいと信じて疑わない。人間に怯えて1人で苦痛を抱えながら数百年生きてきたオーガポン。そんな人生がかわいく思える程これから大嫌いになったスグリと地獄の日々を過ごすことになった。
(助けてアオイ……)
スグリが実際にオーガポンをゲットしたらこの作品みたくダークな展開にはならないと思いますが、間違いなくスグリの前では笑うことないことがないでしょうねオーガポン。
キタカミ編終了したから次はブルーベリー編書きたい
今週のアニポケの話を元にしてスグリが登場する話を別で作ろうかな。マジで大して思い出がないナヴィたちにゲットされなくてよかったオーガポン。ゲットされるならスグリ一択だからな。パートナーがいるからゲットできない?……それはどうかな?