「アーチャー……!」
「また、邪魔ぁ……ふふ。でも、バーサーカーなら大丈夫だよぉ」
アーチャー、か。最初の四騎ものサーヴァントの乱戦で、唯一姿を見せずに遠くから狙撃した、と聞いていた。おそらくライダーのバイクを吹き飛ばしたのも彼女。
だが。
「成田博幸じゃない……!?」
「はい、カメラです! あっ、カメラっていうのが名前ですよ。首から下げてるのも一眼レフカメラですけどね」
明らかに他のサーヴァントとは一線を画した見た目。銀色の艷やかな長髪、わずかに動く一対の猫耳、リボンの多い白シャツとスカート……明らかに成田博幸ではない。
そして同時に、彼女は自身をカメラと名乗った。つまり真名……もちろん、ブラフの可能性もないわけではないが。
つまりそこから推察するに――彼女は、成田博幸たちとは異なり、正常な歴史から生み出された本物の英霊か。
「……菜無野、カメラという名前の人物に心当たりは?」
「んー、ないな。強いて言うならブラックチャンネルのカメラちゃん」
「それについては詳しく知らないが、サーヴァントになるのかい……?」
どうやら、彼女も何やら正常なサーヴァントとは違いそうだ。
カメラは小さく鼻歌――カーペンターズのトップ・オブ・ザ・ワールド――を歌いながら、両手でジャグリングでもするように拳銃を回している。
さて、どうしよう。混戦に乗じて退避するか、あるいはいっそカメラに協力を申し込むのも手ではある。まあ、バーサーカーとの戦いに乱入してきて開口一番に『混ぜてください』なんて言う人が同盟に応じるかは怪しいが……。
「まあまあ――難しいことはナシナシ。ぱーっと戦っちゃいましょ! それが聖杯戦争じゃないですか?」
「やれやれ……セイバー、無理だったら機を見て撤退するよ」
「お願いします」
セイバーが剣を構え、バーサーカーも拳を強く握る。カメラも拳銃を構え――
「真名解放……『
――シュバァンッ!
音圧だけでよろめきそうなほどだ。猛烈な速度で飛び出した二発の弾丸が、再びそれぞれセイバーとバーサーカーへ向かう。
この人、二騎をまとめて相手する気か。とはいえ、バーサーカー陣営とはまともに手を組めそうにない……完全に三つ巴だ。しかもこちらが圧倒的に不利な。
「宝具――『■陽差す運命の時』!」
「バーサーカー、やっちゃえぇ!!」
セイバーの剣に白い炎が浮かび上がり、カメラへと斬りかかる。同時にバーサーカーも再びその隻腕をカメラへと向けた!
しかし、二人のターゲットを一身に集めたカメラはそれでも余裕そのものといった様子だった。
「ふーむ、やっぱり霊基が少し欠けてますね、セイバーさん」
「……!」
それぞれの手に持った銃で両方の攻撃を軽くいなして弾く。
同時にお返しとばかりにさらなる弾丸を放ち、バーサーカーの肉体へ次々とかなり深い銃創を穿っていく。セイバーはなんとかその速度で躱しきれているが、速度も遅く体も大きいバーサーカーには回避は無理らしい。
まともに攻撃が通用してない……バーサーカー以上の脅威だ。あれ以上に強いサーヴァントが参戦しているとは。
「えい」
カシャッ、と軽いシャッター音がして、カメラが首にかけている一眼レフがフラッシュを焚く。
「あ、心配しなくて大丈夫ですよ。これはただのカメラで、わたしの宝具とかじゃないですから。写真が趣味なんです」
「■■■■■■■■……!!」
再び飛びかかるバーサーカー。だが、それもやはり軽く弾き飛ばされる。蹴りの一発であの筋肉を吹っ飛ばすとか、どうなっているんだ。
バーサーカーのマスターは……。
「な……っ、なんで……!? なんであたしの騎士さんがぁ……本気を出してるのに……!?」
「あー……」ちょっと気まずそうに頬をかくカメラ。「まあ、なんかすみません」
「っ、ふざけないでぇ……! まだ、あたしの令呪は二画残ってるんだから!!」
バッ、と腕を掲げる! まさかまた令呪を――!
カメラが銃を構えるも、再びバーサーカーが拳を振るった!
「させませ――うわっと!」
「■■■■■■■■■■■!!」
「セイバー!!」
「間に合いません――!!」
「令呪を以て命ずる――宝具を解放して、バーサーカーぁあああ!」
キンッ――と白い光が、あたりを包みこんだ。
そしてその光は徐々に引き――最後に、バーサーカーのなくなったはずの左腕へ、収束する。
「義腕……!?」
「わお」
バーサーカーの左腕が、再生していた。いや、再生してはいない……かわりに、微かに光を弾く黒色の結晶のような素材で、大きく刺々しい義手が肩から嵌められている。
義手はぼんやりと黒いモヤのようなものを纏っており、明らかにそれがかなりマズいものであることを本能的に察した。
カメラも、ここにきてようやく眉間に小さなシワを寄せた。
「宝具は……武器を作り出す能力? かなり強そうなオーラですね……」
「これで、騎士さんの勝ち。ライダーと戦ったときもぉ、こうやって本気を出したらすぐに終わったの……ふふ、ふふ、ふふ、ごめんね、バーサーカー。最初から頑張ってもらったら、傷つかなくてよかったのに」
武器を作る能力……。
「さあ!! バーサーカー、今度こそぜーんぶ! 潰しちゃえええっ!!」
「■■■■■■■■■――!!!!」
来る!
「くうっ、手加減……お願いできませか……!」
セイバーがなんとか義手の攻撃と切り結ぶ。しかし拮抗でさえない。これはもう、明白に劣勢だ……!
それなら――。
「アーチャー!!」
「はい?」
「手を組む気は!?」
僕の言葉にカメラは一瞬きょとん、とした後、小さく笑った。
「いいですよ」
「助かる」
「でも条件がひとつだけ――」
カメラは小さく笑った。
「あとでちょっと三人の写真、撮らせてくれません?」
「それぐらいならいくらでも構わない」
「交渉成立ですね! じゃあわたしも頑張りましょ〜っと――『
銃弾を放ちつつ、同時に稲妻の如く鋭い蹴りをバーサーカーへと叩き込むカメラ。その蹴りは、一撃でバーサーカーの巨大な義手をひび割れさせ――
「効かない効かない効かない……! あたしの騎士さんはもう無敵なんだからぁ!!」
「えぇ!?」
まるで萎んだ風船に空気を吹き込むかのように、軽く瞬時に欠けた部分が再生。そして逆にカメラの右足を捉えると、軽々持ち上げて地面へと強く叩きつけた!
「あいたぁ〜……」
「宝具……『■陽差す運命の時』!」
セイバーの白い炎がバーサーカーへ迫る!
だが、それすらも義手へ触れた直後、またたく間に消え去り、軽く引っかき傷をつけるだけに終わってしまった。
「まさか……義手の効果は、再生と攻撃の吸収……!?」
「みたいですね……けほっ、ちょっと埒が……」
突然、バーサーカーの拳が空中で何かに阻まれたように止まる。
「とりあえず簡易な結界を……あいててて。このままだと埒が明きません」
「今右足がありえねー方向に曲がってなかったか? オマエ」
「うー、すごく痛かったですよ。でも治しました」
「サーヴァントってのは便利だなぁ」
セイバーもかなり疲労困憊、といった様子だ。目立って大きな傷こそまだないが、盾がなくなってしまったのは非常に手痛い。
カメラは……回復力は如何ほどか分からないが、ひとまずはこれ以上の深手を負っても治せそうだ。あまり心配はしなくていいだろう。
そしてバーサーカー。はやくも亀裂の入りだした結界を、義手で激しく殴りつけている。
「どうする? 義手をどうにかくぐり抜けてバーサーカーの頭を吹き飛ばせば勝てるかい?」
「いえ、わたしがキャパオーバーを起こします」
「キャパ……なるほど」
つまり、カメラの銃の攻撃がすべて吸収されることを前提に、あえて義手へ猛烈な攻撃を叩き込むことで容量を超えさせるということか。
「詳しい理論は割愛しますけど、わたしが見たところあの腕は、攻撃から吸収した魔力を腕の回復に半分ぐらい費やして、残りはバーサーカー本体へゆっくり回してます。バーサーカー本体に回されるとそちらも回復してしまいますが、それ以上のスピードで攻撃すれば、義手のキャパオーバーで爆発するはず。セイバーさんには、宝具でわたしと同時に攻撃を仕掛けてほしいです」
「戦力に足りるか怪しいですが、了解しました」
「つってもだぜ、できなかったら?」
「撤退かな」
「撤退ですかね。その場合は……まあ、わたしが時間稼ぎしますよ。安心してください」
とりあえず、今はその策を選ぶしかなさそうだ。
もはや九割方壊れたような結界をカメラが自分で消し去ると、彼女とセイバーが同時に飛びかかる!
「バーサーカー! トドメ刺しちゃってぇ!」
「■■■■■■■――!!」
「63の剣士ですが、決闘お願いできませか!」
「ふふん――頑張りますよ!」