――四日目、昼。
「どうぞ、こちらを。写真、追加で一杯撮らせてもらったお礼です」
カメラがセイバーへ、ひとつの盾を差し出した。
その盾は、セイバーがバーサーカーとの戦いでバキバキに壊されてしまった盾とまったく同じ。受け取ったセイバーも、すこし握った感触を確かめてから首を傾げた。
「……修復してくださったのですか」
「いや、作り直しました。わたしの特技なんです」
「しかしこれ――」
いろいろとセイバーが言いかけるも、カメラは自分の口に人差し指を当てる。
「企業秘密です♪」
「では……大人しく、受け取っておきましょう。ありがとうございます」
「いえいえ〜」
ところで。
「僕の家は伝えてないはずだが? カメラ」
何を隠そう、ここは僕の狭い家だ。もともと僕に
「魔術で隠蔽とかもしてないんですし、多分他の陣営も調べはついてたと思いますよ?」
「参加者たちにプライバシーの尊重とかいう概念はないのかい」
「聖杯戦争ってしっかり戦争ですもん。そんなこと気にしてたら自分が負けちゃいますよ」
それを承知の上で参戦したならともかくだが、巻き込まれた僕のような一般人に対してはまったく迷惑な話だ。まあ、もう今さらのことだが……。
「それで? わざわざセイバーの盾をデリバリーしに来てくれたのかい」
僕は菜無野のカップ麺に湯を注ぐ。なんとも味の濃そうなパッケージで、実際に味はたいそう濃いのだろう。
僕の質問にうなずきも首を振りもせず、笑顔で返すカメラ。菜無野が腕を組んだ。
「まさか居候させてもらおうって魂胆じゃねえだろうな?」
「どの口が言ってるんだ」
菜無野もかなり押しかけ居候なのだが。
「ふふ、居候もしてみたいところではあるんですが、今回はわたしの都合もあるので遠慮しておきます」
「それじゃ、要件は?」
「魔術の手ほどきでもしてあげようかな〜って。聖杯戦争はまだ続きそうな予感がしますし、覚えてて損はないものですよ。魔術」
魔術か。魔術……魔術ね。
思い返してみれば、あまり具体的な魔術については見ていないな。というか、ここまでで見た超常現象というのはほとんどサーヴァントたちの宝具ぐらいかもしれない。これらは……魔術に入るのかな?
「小難しい魔術の理論については割愛しておきますけど、基本的な強化魔術でもたとえば――」
カメラが手元にあった定規をスッと裏紙へ当てると、まるで鋭利なナイフでも使ったかのように裏紙はスッパリ切れてしまった。
「こういうことができます。すごいでしょ」
「すごいね」
「すげー」
定規を刃物に、か。他の応用もいくらでもできるだろうし、落ちているものをとっさに使うことが可能になるのはかなり大きいかもしれない。
とりわけ菜無野は魔術に興味があるようだ。
「でもまあ、わたしがある程度教えてもボロボロ欠けすぎ付け焼き刃ぐらいにしかなりませんけどね。魔術は天性の素質と練習が大事なので」
「素質? オレはどうなんだそれ」
「素質、まあどのくらい魔法が扱えるか、といったところです。魔術がそもそも使えるかとか、腕がいいかとかは遺伝によって決まるんですよ。こっちの世界での魔術は、名門家と一般人には天と地……んー、マントルとアンドロメダ銀河ぐらい違いがあるので」
「なかなかに残酷な世界だね」
「ですよねえ」
菜無野の前にカップ麺を置き、カメラにもランチパックを一袋あげた。僕のストックが減ってしまったが、また菜無野に奢ってもらえばいいだろう。うん。
「もぐ……お二人はそうですね、魔術は使えはしますよ。平々凡々というか、本当に魔術師として見れば能力はダメダメですけど、一般人としてなら最低限の素質はあるので」
最低限か。魔術に縁のない一般人としては十分だろう。
「どうですか? 定規で敵をスッパーンは流石に無理でも、洋服を少し丈夫にするとか、石を投げてダメージを与えるぐらいならできると思いますよ」
「やりたいやりたい」
「……」
菜無野のはしゃぎようは本当に子供っぽい。
聖杯戦争に一度関わってしまっている以上、戦いから逃げ続けることは不可能だ。魔術を覚えておけば損はないだろう。それに、上手に使えれば少し面白そうではある。
僕が頷くと、カメラはにっこり笑みを浮かべた。
「では、ちょっと魔術回路を起動するお手伝いをしますね」
「回路?」
「まあ、魔法を使うための臓器と思ってもらえれば。本来ならこれを開くだけでも一苦労ですが、時間もそんなにないのでちょっと荒業を使いますね。お手々出してください!」
「……」
荒業、話の流れからして危険な雰囲気しかしないのだが。
菜無野のほうは気にしないのか好奇心のほうが勝つのか、躊躇なくキラキラした目で手を差し出している。いつか好奇心で死因を作りそうだ、この人。
「あ、ちょっと痛いだけですよ。ビリッとしますけど、ケガしたりはしないので」
「それなら構わないか」
僕も手を出すと、カメラが両手でそれぞれの手に触れた。
「はい。じゃあやりますね。えい!」
――バチンッ!
「っ……!」
静電気……いや、ビリビリペンぐらいの強い衝撃だ! 予想の五倍ぐらいは痛いな、これ。
同時に不思議なイメージ――心臓部付近で、何か大きく精巧な機械仕掛けの扉が、ガコンと音を立てて開いたような――が感じられる。なんというか……かなり不思議な感覚だ。
菜無野のほうを見てみると、目をそれはそれは丸くして自分の手をじっと見つめていた。本当に猫だか幼児だかに見えてくる。
「これで魔術を使う準備が整ったはずです。というわけで、まずはいい感じにこう、自分のお手々に魔力を込めてみてください。強くなれ〜強くなれ〜って感じで」
「……」
あれか。カメラは多分、人に物事を教えるのは向かないタイプだね。
セイバーもちょっと困惑したような様子だったが、仕方がないのでなんとか強化魔術とやらの練習をしてみることにした。