「――あたしの騎士さん……うう……」
ユウゼとバーサーカーはトボトボと拠点――ユウゼの自宅――へと帰っていた。バーサーカーは時折何かを叫びながら、地面や壁を強く殴りつける。それですでに、整備されたコンクリートの地面にはボコボコとクレーターのような穴が空いていた。ユウゼもそれを咎めはしない。
バーサーカーの肉体にはつい先の戦いで着いた生々しい傷がいくつも残っているが、驚異的な再生力によって深い傷も徐々にふさがりかけていた。
しかし、アサシンの宝具でいつかの運命に編み込まれた弾丸は消すことができない。
「……あのアサシンとセイバー……絶対に……また見つけ出して殺してやりますぅ……!」
「■■■■■■……!」
「ああ、ああ、ああ……ごめんなさい……あたしのせいで……くそぉっ」
ユウゼが宝具のサーベルを地面に叩きつける。持ち主の意に従って第二の刃が創り出した衝撃はドカンと爆音まで響かせ、地面が大きく陥没。
人気のない通りだったのが幸いしてか、見晴らしこそいいが騒がれることはない。
――そう、特に騒がれることはない。
「みつっけまっした〜♪ ずどぉ〜ん♪」
「63のバイカーですが――」
「っ!」
ゴォッ、と激しくエンジンを駆動させながら、空の果てから一台のバイクが突っ込んできた。
とっさにマスターをかばうようにバーサーカーが前に出る。
突如襲来したライダーはマスターをぽいっと道へ落とすと、自らも座席を離れ――バイクをまるで機械仕掛けの大剣のように振り回す!
「競争、お願いできませか?」
「っあ――! バーサーカーぁああああ!」
「■■■■■■■■■■■■――!!」
ただの大剣であったならば深い傷で済んだだろう。
だがそれは巨大なバイクだ。まるで光の如き速さを生み出すエンジンの力を、いくら頑丈でも一本の腕というポイントへ押し付ければ?
――バーサーカーの左腕が、体を離れて宙を舞った。
「やりぃ♪ ライダーそのまんまやっちゃって〜♪」
「承りました」
ここにきて初めて姿を見せたライダーのマスター――
テラコッタカラーの柔らかい髪をお団子に束ねた、糸目の美女。毛糸のセーターの上にジッパーを閉じずにライダースーツを羽織り、風を防ぐゴーグルはつけずに首に下げていて、一体なぜその格好をしているのか怪しい。
初手でバーサーカーの右腕を吹っ飛ばせたのにはどうやらタウも上機嫌なようで、ニコニコ笑顔で次はどうしたものかと思案している。
「バーサーカーっ!? バーサーカー!! ねえっ、ねえ、ねえ、バーサーカーぁ!!」
「■■■■■■■■■■■……!」
バーサーカーへ縋り付くように泣き叫ぶユウゼ。バーサーカーは腕一本失ったが、マスターを宥めるように視線を向けると、傷を意に介さぬように立ち上がる。
「■■■■■■■――」
「ふ。ずいぶんサーヴァントにご執心だったみたいね〜♪ でもザンネン♪ こっちのライダーの宝具、最強だから〜♪」
「申し訳ありませんが、戦争から降りてくれませか? バーサーカーのマスター」
「っ……!」
ライダーは慈悲に満ちた視線を向ける。この惨状を楽しんでいるようなマスターとは対象的だ。
「ライダーライダー♪ ほらそんな焦らさないでもう潰しちゃって〜?」
「承りました。では――『巡り廻る■重の宿命』」
宝具の解放に伴い、虹色の仄かなオーロラが道を作るように空中へ出現する。ライダーはバイクでそれに乗ると、無秩序な軌道でバーサーカーへと迫る――!
「まあやっぱ頑丈よね〜。不意打ちで遠くからぶっ飛んできたから腕取れたけど……っていうか、あれで腕一本で済むって相当ねえ♪ ゾクゾクしちゃう……♪」
「だ……黙れぇ! あたしの――あたしの大切な騎士さんを……よくもぉ……!」
「騎士? ふふ〜ん、かわいい♪ でもごっこ遊びは、安全なおうちでやるものよ♪」
「うっさいっ――!」
ユウゼがサーベルをもってタウへと斬りかかる。が、タウは応戦するではなくすぐに飛び退き、彼女のサーヴァントと同じように軽い調子で宙を舞う。
「それけっこう危なそうね? だから逃げちゃう〜♪ どうせ最終的にはライダーが勝つわけだし〜♪」
「ふざけっ……!」
バイク自体を剣のように扱い、同時にそれを乗りこなしもするライダー。機動力も破壊力も規格外――いくらパラメータの高いバーサーカーといえど、そう絶え続けるのには無理がある。
さらには腕が一本無くなったのも大きく、相殺しきれない深い傷がみるみるうちにその肉体へと刻まれていった。
「……異様な耐久力ですね。どのみち結末は変わりません、諦めていただけませか」
「■■■■■■■■――……!」
いっぽう、バーサーカーの攻撃はライダーへと届かない。
否、届いている。届いているが、当たらない。全ての攻撃がすりぬけ、さらには『命中した』はずの結果さえ捻じ曲げられている。
「いい機会だし、教えてあげる♪ ライダーの宝具――『巡り廻る■重の宿命』は、因果という概念そのものをレールにして走るバイクなの♪」
「因果、そのもの――!?」
「そう♪ だから攻撃は当たらない。当たっても、そんな不都合なことが『起きない』因果へ乗り換えちゃえばすむ話……♪」
「な……!」
因果を好き勝手に乗り換えられる宝具。
多少の制約はあるだろう。現在の状況を考えれば、おそらく自身にしか効果を及ぼせないと推測ができる。だがそれでも、あまりにも強力すぎる。
「だから言ったでしょ? ライダーの宝具、最強だって♪」
「っ……!」
――ありえない。許せない。絶対に。
吹っ飛んだスペックの宝具に対しての怒りではない。それよりも、ユウゼには己の大切な、大切な大切な騎士が傷つけられることが許せなかった。
自分を守るために腕さえも失い、すべての攻撃を無に帰すほどの敵を相手にしてもなお、戦い続けてくれている。
「――ふざけ、ないで」
「あら?」
ばちんと、ユウゼの中で何かが弾けた。
投げ捨てられたサーベルが地を転がる。同時に左腕を頭上へ掲げる――。
「あたしが、令呪を以て命ずる……!」
「――っ!?」
左手に刻まれている赤い文様。左右非対称で強く歪み、刺々しい形の令呪のうち、一画が消え失せる。
――そう、理性を失ったバーサーカーが本当の力を出せないのは、あたしのせい。でも、本当の力を解放できるのも、あたしだけ――。
だが、この極限状態において、ユウゼの頭には不可解な……そして鮮明なイメージが浮かんでいた。
「な……なにやって……!?」
「……」
溢れ出す力の奔流。その源は、バーサーカーかユウゼか、あるいは両方か。
まるで漆黒に染まった濁流が大地の全てを飲み込まんとするように、その魔力が溢れ出す。タウは思わず息をのんで後ずさった。
「バーサーカー……!! 宝具の解放を、命ずる――!!」
「――■■■■■■■■■■■――!!!」
宝具、『堕ちよ、そしてまた墜ちよ、■火よ』。
主の身体を、魂を削るように赤黒い力の奔流がユウゼを包み込み、そして静かに無色の澄んだ力へと変質する。
そしてそれはバーサーカーの手元に形を取って顕れ――
「っ、ライダー!!」
勝利する因果が、見えない。
無数にあったハズの数多の勝利の未来への道筋がすべて潰え、そしてことごとくが同じ結末へ塗り潰されていく。すなわち、ライダーの敗北。
定められた未来を人事るものだからこそ、定められた勝利を確信していた。ならば――定められた敗北は?
「『巡り廻る■重の宿命』――ッ!!」
ライダーは咄嗟にバイクのフルスペックを解き放つ! エンジンが異音を立てるとともに、主を巻き込んで選びうるまだ最上の結末へと突き進んでいく。
バーサーカーの宝具が完成するのが先か、あるいはライダーが逃げ切るのが先か。
「バーサーカー!!」
「ライダー! もっと速く……っ!!」
狂おしいほどの煌めきを纏った剣が完成するのと時を同じくして、かろうじてライダー達は時の狭間へと飛び込んだ――。