「むぐもぐ……つっても妙だな、やっぱ」
買い物帰り、購入したかなり大きなテリヤキバーガーを頬張る
「なにがさ」
「ニュース」
歩きスマホをしている菜無野が、僕にもスマホ画面を見せてくる。映っていたのはこの周辺の最近のニュースだ。一番上は、最近ブドウの収穫がさかんという内容である。
「おかしくね? オレとかけっこうドンパチやってたけど、そういうのなにひとつ記事になってねぇぜ。ほら、こないだボロ屋が吹っ飛んだやつとか」
「そうなのかい? 妙だな」
情報統制……だろうか? とはいえ、それにしては僕の身の回りの人たちも、なにも普段と変わらなさすぎるし、多少なりと噂は耳にするはずだ。
となると……。
「セイバー、もしかして聖杯には聖杯戦争のことを隠す力があったりするのかい?」
「いえ……少なくとも私の持つ知識では、そのようなことはありません」
「ふむ」
「むしろ、通常の聖杯戦争は『神秘』を守るため、人目につかない夜間に交戦することが多いのです」
神秘。魔術などの力の根源。神秘が多くの人に知られて神秘ではなくなると、とたんにそれは力を失い、ただの知識になる……という風にセイバーから聞いた。
「つまり、この情報がない状況は、聖杯とは関係ない力によるものか」
「おそらくは。私も微かに違和感は感じていましたが――」
ぴた、とセイバーが言葉を止めた。
僕がどうしたのか尋ねるよりも前に、セイバーは瞬時に鎧と剣、盾を顕現させ――
「来ます――バーサーカー!!」
「な……仕返しに来たってわけか!?」
刹那、砂埃がすべての光を奪うほどの衝撃がセイバーの盾を殴りつける。微かにセイバーの苦悶の声が聞こえたが、ひとまずは大丈夫なようだ。
この本能的な、恐怖。死や痛みとは関係なく、ただ存在として恐怖をもたらす威圧――間違いない、バーサーカーだ。でもあの時会ったのとは、比べ物にならないぐらい……!
「ねえ〜セイバーの人ぉ? アサシンがどこにいるか知らない?」
バーサーカーのマスターもいるらしい。砂埃の奥から、この状況に見合わないほどの間延びした声が聞こえる。
「知らないな……やれやれ。街中だよ、ここは。交戦には向かないんじゃないかね」
僕は砂埃を払いながら立ち上がる。砂塵がようやく晴れた。左右にいくらか大きな建物もありまあまあ整った道ではあるが、周辺に自分達以外の人影はない。
ここが田舎だからか……あるいは。
「おや、片腕……」
「……■■■■■■■……!」
バーサーカーは左腕がなくなっていた。セイバーとアサシンでなんとか対抗した時は五体満足だったはずだが……あのあとまたどこかと交戦したのだろうか?
マスターは茶色の長い髪をくるくると指でいじりながら、大げさなまでに肩を落とす。
「そう、あたしの大事な大事な騎士さんの片腕はね、ライダーに斬られちゃった」
「ライダーっつったらアイツか、サングラスの」
ライダーか。最初にアサシンと交戦していた……弾丸がすり抜けていたな。やはりかなりの強者だったらしい。が、どうやらバーサーカーは戦いから生還したようだあるいは、ライダーももう倒されたのかもしれない。
「アサシンの居場所が知りたいのかい?」
「うん。呪い、解いてもらわなくっちゃ。できないなら、ぐしゃぐしゃに殺してあげるのぉ……そうしたら、きっと騎士さんの呪いも解けるでしょお?」
矢紛にあの宝具の解除はできるかな……。とはいえそんなことを言ったら怒り出しそうだ。まあどの道交戦を避けられそうな雰囲気ではない。バーサーカーのマスターは恍惚とした表情で無邪気に笑っているが、こちらを見ている視線は人間に向けるものというより、くだらないおもちゃを見るそれに近い。
菜無野は肩を竦めた。
「ふっ、悪ぃが知らねえな」
「セイバー」
「はい――63の剣士ですが、よろしくお願いします」
動きの兆候を見せたバーサーカーに先んじてセイバーが剣を振るう。
以前戦いを観察していた限り、アサシンと手を組んだ状態で拮抗という様相だったが……片腕がない今なら、単独でも多少なりと勝ち目はあるはずだ。
「バーサーカー!!」
「■■■■■■■■■■――!!」
バーサーカーの胴体に鋭く赤い線が走り、血が舞う。僕の予想通り、迎撃が上手くいかないようだ。
同様に、バーサーカーの拳はセイバーの盾で防がれる。かなり重い衝撃音が周囲を走るも、盾はびくとも――
「うふ……ふふふ。あたしの騎士さんを、見くびっちゃダメ……」
「な――!?」
――バキンッ……!
盾に一瞬で亀裂が入り、金属の破片が舞う。セイバーの盾が――割られた!?
セイバーはもはや盾が使い物にならないと判断したようで、すぐさま砕けた盾を捨て去り剣のみとなる。
「あたしの騎士さんは、本当の力に目覚めたの! 今まではあたしが、あたしのせいで全力を出せなかった……でもぉ、ふふ、今は本気で戦えるの……!」
「■■■■■■■……!」
なるほど、あれが本気ではなかったとはね……。
よく見ると、バーサーカーのマスターの手に浮かび上がる赤い文様は以前と比べ、一部が欠けていた。
「令呪を使ったのか……」
「そお! うふふふ……どうする? バーサーカー? もう一画使う? ふふふ……」
令呪でサーヴァントを強化、か。セイバーによると令呪はサーヴァントへ命令を矯正するというものだが、同時に純粋で膨大な魔力塊でもあるという。
やれやれ、まいったな。
「セイバーどうする? 勝てそうかい」
「厳しいです。分の悪い賭けですね」
「なら――」
僕が指示を下そうとした時、それを遮るように彼方から、微かな風切り音がした。どこからか飛んできたその『弾丸』は、まっすぐバーサーカーとセイバーへ一発ずつ向かう。
「っ!」
「■■■……!」
すぐにセイバーは剣で切り捨て、バーサーカーは腕で弾き飛ばす。ひしゃげた二発の弾丸が地面を転がり、二騎は同時に同じ方向を向いた。
その先にいたのは――
「こんにちは、交戦中ですか? わたしも混ぜてください、セイバーさんとバーサーカーさん!」
猫耳と、長く滑らかな銀髪。その両手には二丁の拳銃。この場に明らかにそぐわない、ふわふわとした雰囲気の少女。
「わたし、アーチャーのカメラです。よろしくお願いしますね、みなさん」