『いちご100% ~名脇役は青春の主役になれるか~』   作:Gussan0

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どうもΣ(゚Д゚)

続き書けたで候。

では、どうぞ∠( ゚д゚)/


第十話 同じ高校へ

 風邪は二日で治った。

 

 日曜の朝には熱も下がり、月曜日には普通に学校へ行けたのだが――教室に入った瞬間、真中に肩を掴まれた。

 

「境野!生きてるか!?」

 

「見れば分かるだろ」

 

「熱は!?」

 

「平熱」

 

「ほんとか!?」

 

「朝からうるさい」

 

「だってお前、昨日の連絡『下がった』だけだったじゃん!」

 

「必要十分だろ」

 

「足りねえよ!」

 

 何をそんなに怒っているのか。

 

 席へ鞄を置いていると、東城もこちらへやってきた。

 

「境野君、もう大丈夫?」

 

「ああ。昨日から平熱」

 

「無理してない?」

 

「してない」

 

「本当に?」

 

「……なんで疑うんだ」

 

「境野君だから」

 

「どういう意味だよ」

 

 東城が小さく笑う。

 

「でも、よかった」

 

 それだけ言って自分の席へ戻っていく。その背中を見送りながら、俺は首を傾げた。

 

 最近、東城まで西野みたいなことを言うようになってないか?

 

 昼休みには三年二組から西野までやってきた。

 

「境野君、ちゃんと来てる」

 

「来るだろ」

 

「昨日は?」

 

「寝てた」

 

「ご飯は?」

 

「食った」

 

「薬は?」

 

「飲んだ」

 

「よろしい」

 

「だからなんでお前は上からなんだ」

 

「心配かけた罰」

 

「理不尽だろ」

 

 西野は笑って、いつものように俺たちの輪へ入った。

 

 たった二日休んだだけなのに、妙に大げさな連中だ。

 

 そう思いながらも、不快ではなかった。

 

 十二月は、そのまま一気に過ぎていった。

 

 期末テストが終わり、冬休みに入り、年が明ける。勉強会は毎週必ずという形ではなくなり、それぞれが自宅で進めた上で、必要な時だけ集まるようになった。

 

 俺と東城は過去問でも合格圏を安定して取れている。大草は推薦が決まっている。それでも時々顔を出して、真中や小宮山に英語を教えていた。

 

 西野も順調だった。

 

「八十一点」

 

「お、上がったな」

 

「でしょ?」

 

 泉坂の過去問を採点した西野が得意そうに答案を見せてくる。

 

「前より十点くらい上がってる」

 

「ちゃんと勉強してるからね」

 

「その調子なら問題なさそうだな」

 

「……境野君って、こういう時もうちょっと褒められないの?」

 

「上がったって褒めただろ」

 

「もっとこう、『すごいじゃん西野!』とか」

 

「すごいじゃん西野」

 

「棒読み!」

 

 西野が答案で俺の腕を叩く。

 

「痛い」

 

「絶対痛くないでしょ」

 

 その向こうで、真中が頭を抱えていた。

 

「……六十三」

 

「前より下がってるじゃん、淳平君」

 

「言うなぁ!」

 

「真中、ここの大問ほぼ落としてるぞ」

 

「分かってる!」

 

「分かってるなら直せ」

 

「境野が冷たい!」

 

「じゃあ私が見るよ」

 

 東城が真中の答案を覗き込む。

 

「ここ、途中までは合ってるから――」

 

「マジ?」

 

「うん。たぶん途中で符号を間違えてる」

 

「あ、本当だ!」

 

 真中が身を乗り出し、東城も答案へ顔を近づける。

 

 その様子を見ていた西野が、一瞬だけ二人へ目を向けた。

 

 ほんの一瞬だった。

 

「西野?」

 

「ん?」

 

「どうした」

 

「別に?」

 

 いつもの笑顔。

 

 ただ、声の調子がほんの少し違った気がした。

 

 視線、呼吸、表情。そういうものから違和感を拾うこと自体は難しくない。

 

 だが、その理由までは分からない。

 

 ……いや。

 

 真中と東城を見ていたんだから、ある程度は想像できるか。

 

「次これやろ」

 

 西野が別の過去問を開いた。

 

「まだやるのか?」

 

「やる。私、泉坂受けるって決めたんだから」

 

 軽い口調だったが、その目は真剣だった。

 

「落ちたら格好悪いじゃん」

 

「そういう問題か?」

 

「そういう問題でもあるの」

 

「なら付き合うよ」

 

「ありがと」

 

 西野は笑った。

 

 俺はそれ以上聞かなかった。

 

 一月も後半になると、さすがに真中と小宮山の顔から余裕が消えた。

 

「境野……」

 

「今度は何点だ」

 

「聞かないでくれ」

 

「見せろ」

 

「嫌だ!」

 

「見せろ」

 

「鬼!」

 

「お前が頼ってきたんだろ」

 

 答案を奪う。

 

「……五十八」

 

「うわああああ!」

 

「騒ぐな。今回は問題との相性も悪い」

 

「境野……!」

 

「ただし、この三問は取れた」

 

「境野ぉ……」

 

「抱きつくな」

 

 押し返す。

 

 隣では小宮山が東城に答案を見せていた。

 

「東城!俺は!?」

 

「えっと……」

 

 東城が困っている。

 

「正直に言っていいぞ」

 

「境野!?」

 

「……もう少し、頑張ろう?」

 

「東城ぉ!」

 

「ほら勉強するぞ」

 

 泣き崩れる小宮山の襟を大草が掴む。

 

「お前なんでいるんだよ!推薦組!」

 

「暇だったから」

 

「帰れ!」

 

「教えてやってんだろ」

 

「ありがとうございます!」

 

 忙しい奴だ。

 

 それでも、小宮山も確実に伸びている。最初の頃なら解けなかった問題を、今では時間をかければ解けるようになった。

 

 真中も同じだ。

 

 少なくとも、二人とも「運が良ければ」ではなく、ちゃんと合格を狙える位置には来ている。

 

 ここから先は本人次第だ。

 

 入試が近づくにつれ、学校でも進路の話ばかりになった。

 

 そんなある日の放課後。

 

「境野君」

 

 文芸部の部室で、東城が原稿用紙から顔を上げた。

 

「ん?」

 

「もうすぐだね」

 

「入試?」

 

「うん」

 

「そうだな」

 

 俺は読んでいた本を閉じる。

 

「緊張してる?」

 

「多少は」

 

「境野君でも緊張するんだ」

 

「俺を何だと思ってるんだよ」

 

「なんでも平気そうな人」

 

「最近そればっかり言われるな」

 

 東城がくすっと笑った。

 

「東城は?」

 

「……ちょっと怖い」

 

「過去問なら十分取れてるだろ」

 

「そうなんだけど」

 

 東城は原稿用紙の端を指で撫でる。

 

「もし駄目だったらって考えちゃう」

 

「それはみんな同じだろ」

 

「境野君も?」

 

「ああ」

 

「……そっか」

 

 少し意外そうだった。

 

「試験なんだから絶対はない。でも、今までやったことまでなくなるわけじゃないだろ」

 

「うん」

 

「当日やれることやればいい」

 

「……うん」

 

 東城はもう一度頷いた。

 

「境野君と話すと、ちょっと落ち着く」

 

「そう?」

 

「うん」

 

 そう言って笑う。

 

 以前なら、ここで俯いていた気がする。

 

 眼鏡を外したとか、三つ編みをやめたとか。そういう外見だけじゃない。

 

 東城は少しずつ変わっている。

 

「それに」

 

「ん?」

 

「境野君も受けるし」

 

「まあな」

 

「真中君も、西野さんも、小宮山君も」

 

「大草はもう決まってるけどな」

 

「うん」

 

 東城が笑う。

 

「みんなで受かりたいね」

 

「そうだな」

 

 それは俺も同感だった。

 

 そして入試前日。

 

 なぜか全員、俺の家にいた。

 

「……お前ら」

 

「何?」

 

「前日に集まる必要あった?」

 

 俺の問いに、真中と小宮山が揃って目を逸らす。

 

「家で一人でいると落ち着かねえんだよ!」

 

「俺も!」

 

「知らん」

 

「まあまあ」

 

 大草が笑う。

 

「俺は明日受けないから気楽だけど」

 

「帰れ推薦組!」

 

「今日は特に腹立つ!」

 

「ひどくね?」

 

 西野と東城まで笑っている。

 

 結局、最後の確認という名目で集まったものの、今さら新しいことを詰め込む意味はない。苦手な部分を軽く確認して、早めに切り上げることにした。

 

「今日は八時まで。帰ったら風呂入って寝ろ」

 

「先生!」

 

「誰が先生だ」

 

「境野先生、明日の持ち物は!」

 

「受験票、筆記用具、時計。あと昼が必要なら昼飯。忘れ物するな」

 

「はい先生!」

 

「小宮山まで乗るな」

 

「境野君、本当に先生みたい」

 

 東城が笑う。

 

「お前まで言う?」

 

「だって、みんな境野君に聞くから」

 

「自分で確認しろって話だよ」

 

「でも境野なら忘れなさそうじゃん」

 

 真中が当然のように言った。

 

「困った時に聞けば大体答えてくれるし」

 

「そうそう」

 

 西野まで頷く。

 

「境野君に聞けばなんとかなる感じ」

 

「なんだそれ」

 

「分かる」

 

 大草も同意した。

 

「お前、なんだかんだ全部見てるしな」

 

「俺は!?」

 

 小宮山が聞く。

 

「お前はまず受験票を鞄に入れろ」

 

「入れた!」

 

「確認した?」

 

「……してくる!」

 

「ほらな」

 

 全員が笑った。

 

 俺はため息をつく。

 

 いつの間にこんな役になったんだ。

 

 前世でも似たようなことはあった。主演が本番に集中できるように周囲を見て、若い役者が緊張していれば声をかける。スタッフと役者の間を取り持つこともあった。

 

 名脇役。

 

 そう呼ばれていた俺にとって、人を支えるのは珍しいことじゃない。

 

 ただ――。

 

「境野君」

 

 東城に呼ばれて顔を上げる。

 

「境野君は、大丈夫?」

 

「俺?」

 

「うん」

 

「何が?」

 

「みんなのことばっかり気にしてるから」

 

 言われて、少し言葉に詰まった。

 

「俺は大丈夫だよ」

 

「受験票は?」

 

「ある」

 

「筆記用具」

 

「ある」

 

「時計」

 

「ある」

 

「緊張は?」

 

「……多少」

 

「じゃあ」

 

 東城が微笑む。

 

「境野君も今日は早く寝ないとね」

 

 西野がすぐ乗ってくる。

 

「そうだよ。私たちに偉そうに言って、自分だけ夜更かししたら駄目だからね」

 

「しないよ」

 

「本当に?」

 

「お前ら最近俺を信用してないだろ」

 

「信用してるから言ってるの」

 

 意味が分からない。

 

「境野」

 

 真中が笑う。

 

「明日、一緒に受かろうぜ」

 

「……おう」

 

「俺も!」

 

「小宮山は特にな」

 

「なんで俺だけ!?」

 

 また笑い声が上がった。

 

 八時前。

 

 全員を玄関まで見送る。

 

「じゃあ明日な!」

 

「ああ」

 

「寝坊しないでよ、淳平君」

 

「しねーよ!」

 

「小宮山も」

 

「なんで俺も!?」

 

「お前はしそうだから」

 

「境野まで!」

 

「東城も気をつけて帰れよ」

 

「うん。境野君もちゃんと休んでね」

 

「分かってる」

 

 大草だけは明日、俺たちと同じ試験会場へ向かわない。

 

「頑張れよ、お前ら」

 

「おう!」

 

 真中が拳を上げる。

 

「全員受かって、高校でもよろしくな!」

 

 一瞬、誰も何も言わなかった。

 

 東城が最初に笑った。

 

「うん」

 

「もちろん」

 

 西野も続く。

 

「俺も絶対受かる!」

 

「だから小宮山は声がでかい」

 

「境野!」

 

「……まあ」

 

 俺は玄関に並ぶ五人を見る。

 

「高校でもこの面子ってのも、悪くないな」

 

 口にしてから、少しだけ驚いた。

 

 真中がにやっと笑う。

 

「だろ?」

 

「その顔やめろ」

 

「境野君がそんなこと言うなんてねー」

 

「西野まで」

 

 東城は何も言わなかった。ただ、嬉しそうに笑っていた。

 

 やがて全員が帰り、門の向こうへ姿が消える。

 

 明日は泉坂高校の入学試験。

 

 机の上には受験票。筆記用具も確認した。時計も問題ない。

 

 準備はできている。

 

 あとは受けるだけだ。

 

 前世では、数え切れないほど本番前夜を経験した。舞台、ドラマ、映画、アフレコ。どれだけ経験しても、本番前に何も感じなくなることはなかった。

 

 それでいい。

 

 緊張するのは、失敗したくないと思っているからだ。

 

 今回も同じだった。

 

 俺は受験票を手に取る。

 

 自分が受かりたい。

 

 それだけじゃない。

 

 真中も。東城も。西野も。小宮山も。

 

 全員で受かりたい。

 

 いつの間にか、そう思うようになっていた。

 

 受験票を鞄へ戻し、部屋の電気を消す。

 

「……寝るか」

 

 明日の朝は早い。




中学編はもう少しで終わります。

では、また∠( ゚д゚)
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