『いちご100% ~名脇役は青春の主役になれるか~』 作:Gussan0
続き書けたで候。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
入試当日の朝は、よく晴れていた。
目覚ましが鳴る数分前に目が覚める。時計を確認して布団から出ると、洗面所で顔を洗い、朝食を作った。ご飯、味噌汁、卵焼き。普段と大して変わらない。
受験だからといって、特別なものを食べる必要もないだろう。
制服に着替え、鞄の中身をもう一度確認する。受験票、筆記用具、消しゴム、時計、昼飯。
「……よし」
玄関を出て鍵を閉める。
冷たい空気を吸い込むと、頭が一気に冴えた。
今日は泉坂高校の入学試験だ。
駅へ向かう途中、見慣れた後ろ姿を見つけた。
「東城」
「え?」
振り返った東城が俺を見て、ほっとしたように笑う。
「境野君。おはよう」
「おはよう。早いな」
「境野君も」
「寝坊するよりいいだろ」
「それはそうだけど」
並んで歩き始める。
普段なら学校へ向かう時間と大差ない。それなのに東城はどこか落ち着かない様子で、鞄の持ち手を何度も握り直していた。
「緊張してる?」
「……分かる?」
「多少」
「やっぱり」
東城が苦笑する。
「昨日、ちゃんと寝ようと思ったんだけど……なかなか眠れなくて」
「何時間?」
「六時間くらいは寝たよ」
「なら大丈夫だろ」
「境野君は?」
「普通に寝た」
「やっぱり」
「何がやっぱりなんだ」
「境野君らしいなって」
最近、それで全部済ませてないか?
駅が近づくにつれ、同じような制服姿の受験生が増えていく。
「……境野君」
「ん?」
「今日、頑張ろうね」
「ああ」
少し考えてから付け加える。
「一緒に受かろう」
「……うん」
東城が笑った。
駅前には既に真中がいた。
「おっ、境野!東城!」
「おはよう、真中君」
「早いな」
「寝坊したら終わると思って六時に起きた!」
「何時に家出たんだよ」
「予定より三十分早い!」
「早すぎるだろ」
「家にいたら落ち着かなかったんだよ!」
分からなくもない。
「淳平君!」
今度は西野の声がした。
「西野!」
真中の顔が一瞬で明るくなる。
西野は俺たちのところまで来ると、まず真中を見て、それから俺と東城へ視線を向けた。
「おはよ、境野君、東城さん」
「おはよう」
「お、おはよう、西野さん」
東城はまだ西野に少し緊張することがある。それでも以前と比べればずっと自然だ。
「東城さん、緊張してる?」
「ちょっと……」
「私も」
「西野さんでも?」
「するよー。自分で受けるって決めたんだもん。落ちたら嫌だし」
そう言って西野は笑う。
「でも、みんな一緒ならちょっと楽かも」
「……うん」
東城も笑った。
「おーい!」
聞き覚えのある大声。
振り向く。
「間に合ったぁぁぁ!」
小宮山が全力で走ってきた。
「朝から走るな!」
「寝坊した!」
「お前昨日あれだけ言われただろ!?」
「目覚まし止めた記憶がない!」
「知らん!」
真中が頭を抱える。
「受験票は?」
「ある!」
「見せろ」
「なんで!?」
「いいから」
小宮山が鞄を漁る。
「ほら!」
「あるな」
「俺を信用しろよ!」
「寝坊して走ってきた奴をどう信用しろと」
「ぐっ……」
西野が吹き出し、東城も口元を押さえて笑った。
少なくとも緊張は少し抜けたらしい。
電車を降り、泉坂高校へ向かう。
校門が見えてくると、さすがに全員の口数が減った。
「……ここか」
真中が呟く。
これから三年間通うことになるかもしれない高校。
俺がこの学校を選んだ理由は単純だ。公立で、家から近くて、学力的にも問題がない。生活のことまで考えれば、俺にとってかなり条件がいい。
最初は、それだけだった。
隣を見る。
緊張した顔の真中。受験票を何度も確認する小宮山。静かに校舎を見上げる東城。いつもより少しだけ表情の硬い西野。
今は、理由が一つ増えている。
こいつらもここを目指している。
「よし!」
真中が突然、自分の頬を叩いた。
「絶対受かるぞ!」
「声でかい」
「気合いだよ!」
「周り見ろ」
他の受験生がこっちを見ている。
「……すみません」
小さくなるの早いな。
「行こうか」
西野が笑う。
「ああ」
俺たちは校門をくぐった。
試験会場は当然ながら全員同じではなかった。
受験番号ごとに教室が分かれている。
「じゃあ、昼な!」
「おう」
「東城、西野も頑張って!」
「真中君も」
「淳平君、見直しちゃんとするんだよ?」
「分かってるって!」
「小宮山」
「なんだよ」
「問題文最後まで読めよ」
「分かってるよ!」
「本当に?」
「東城まで!?」
最後まで騒がしい。
それぞれの教室へ向かう。
自分の席を確認して座ると、鞄を置いた。
周囲を見渡す。
知らない顔ばかり。
当たり前だ。
ここから先は一人でやるしかない。
試験監督が入ってくる。
説明が始まり、問題用紙と解答用紙が配られる。
空気が変わった。
舞台なら開演直前。撮影なら本番直前。
何度経験しても、この瞬間には独特の静けさがある。
「始めてください」
問題用紙を開く。
――さて。
やるか。
気付けば、あっという間に午前の試験が終わった。
「境野ぉぉぉ!」
昼休み、合流するなり小宮山が泣きそうな顔でやってきた。
「どうした」
「数学!」
「何問落とした」
「分からん!」
「じゃあ今考えるな」
「冷たくない!?」
「終わった科目の答え合わせして次の科目まで引きずる方がまずい」
「……確かに」
「昼飯食え」
「はい」
素直だ。
「境野!」
今度は真中。
「英語の最後ってさ――」
「答え合わせ禁止」
「まだ何も言ってねえ!」
「顔に書いてある」
「お前エスパーかよ!」
「違う」
東城と西野も合流する。
「どうだった?」
西野が聞く。
「普通」
「境野君に聞いた私が馬鹿だった」
「なんでだよ」
「東城さんは?」
「数学で一問、自信ないところがあって……」
「東城でもあるんだ」
「あるよ」
「なら俺たちが分からなくても仕方ないな!」
真中が元気になる。
「そういう意味じゃないと思うよ、淳平君」
西野の突っ込みが入る。
五人で昼飯を食べる。
試験会場なのに、いつもの昼休みに少し似ていた。
違うのは制服の違う受験生が周りに大勢いることくらいだ。
「そういや大草、今頃何してんだろ」
真中が言う。
「家で寝てたりして」
西野が笑う。
「推薦組め……!」
小宮山が拳を握る。
「八つ当たりやめろ」
携帯は電源を切って鞄に入れている。終われば大草から何か来ているかもしれない。
「午後も頑張ろ」
東城が言った。
「うん」
西野が頷く。
「全員で受かろうね」
「おう!」
「真中、声」
「……おう」
小さく言い直した。
笑いが起こる。
さっきまでの緊張が少しだけ軽くなった。
そして、午後の試験も無事終わった。
校舎を出た瞬間、真中が大きく伸びをする。
「終わったぁぁぁ!」
「だから声」
「もういいだろ!」
「まあ今日はいいんじゃない?」
西野が笑う。
「小宮山、生きてる?」
「……燃え尽きた」
「結果出る前に燃え尽きるなよ」
「境野は余裕そうだな……」
「疲れてるよ」
「見えねえ!」
「知らん」
東城も大きく息を吐いた。
「終わったね」
「ああ」
「なんか……あっという間だった」
「始まればそんなもんだ」
「うん」
東城が校舎を振り返る。
「また来られるといいな」
その言葉に、真中がすぐ反応した。
「来るだろ!」
「え?」
「全員受かって、四月からここ通うんだよ!」
「淳平君、まだ結果出てないよ」
「分かってるけどさ!」
真中は笑う。
「そのつもりでいようぜ」
「……うん」
東城も笑った。
「そうだね」
「私も賛成」
西野が言う。
「俺も!」
小宮山が復活した。
四人の視線が俺へ向く。
「なんで俺を見るんだよ」
「境野は?」
真中が聞く。
俺はもう一度、泉坂高校の校舎を見上げた。
前世で読んだ物語なら、この先の展開をある程度知っていた。
けれど、もう同じにはならない。
だから今さら、知っている未来と比べても仕方がない。
「……そうだな」
校門へ向かって歩き出す。
「四月にまた来よう」
「おう!」
真中が笑った。
駅までの帰り道。
試験から解放された反動か、真中と小宮山が急に元気になっていた。
「俺、今日ゲームする!」
「勉強しなくていいって最高だな!」
「君達、結果出るまでそのテンションなの?」
西野が呆れる。
「今日くらいいいだろ!」
「まあ、それはそうだけど」
「境野は?」
「帰って飯作る」
「いつも通りすぎる!」
「腹減るだろ」
「じゃあ境野ん家行こうぜ!」
「嫌だ」
「即答!?」
「今日は帰れ」
「ケチ!」
「お前ら何回来てると思ってんだ」
東城が笑う。
その時、俺の携帯が震えた。
電源を入れたことで届いたらしい。
大草からだった。
『試験どうだった?全員生きてる?』
画面を見せる。
「大草ぁ!」
「完全に他人事じゃねえか!」
真中と小宮山が同時に叫ぶ。
「返事どうする?」
西野が聞く。
「全員生存、でいいんじゃない?」
東城が笑いながら言う。
「だな」
俺は短く打ち込む。
『全員生存。結果待ち』
送信。
それで、本当にやることはなくなった。
あとは待つだけだ。
五人で駅へ向かう。
いつもと同じように真中が騒ぎ、小宮山が乗っかり、西野が突っ込み、東城が笑っている。
俺もその隣を歩く。
合格発表の日まで、答えは分からない。
それでも今は――五人で同じ校門を出られたことが、少し嬉しかった。
原作じゃ入試時に小宮山、真中、東城と席順が続いてましたが、現実的に考えてそんな事は早々ないだろうということで全員バラバラにしました。
では、また∠( ゚д゚)