『いちご100% ~名脇役は青春の主役になれるか~』 作:Gussan0
続き書けたで候。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
合格発表の日。
泉坂高校の校門前は、入試当日とは違う種類の緊張に包まれていた。
「……境野」
「何だ」
「俺、番号見るの怖い」
「ここまで来て何言ってんだ」
隣で真中が完全に固まっている。
「だってよ!なかったらどうすんだよ!」
「その時はその時だろ」
「簡単に言うな!」
「今さら俺にどうしろと」
掲示板へ向かう受験生たちの声が聞こえる。歓声を上げる者もいれば、黙ってその場を離れていく者もいた。
俺だって緊張していないわけじゃない。ただ、横がうるさすぎる。
「境野ぉ……」
反対側には小宮山。
「お前もか」
「俺、吐きそう」
「吐くなら離れろ」
「冷たくない!?」
「境野君」
東城が困ったように笑う。
「二人とも本当に緊張してるんだから」
「東城は?」
「……してるよ」
そう言う東城の手も、鞄の持ち手をぎゅっと握っていた。
「私もしてる」
西野が息を吐く。
「試験よりこっちの方が嫌かも」
「分かる!」
真中が勢いよく食いついた。
「試験は自分で何かできるけど、今日はもう見るだけだからな!」
「そう、それ」
西野が頷く。
「じゃあ、そろそろ見るか」
俺が言うと、四人の顔が一斉にこちらを向いた。
「境野が先に見てくれ!」
「なんでだよ」
「頼む!」
「自分で見ろ」
「境野ぉ!」
「じゃ、じゃあ……みんなで行こう?」
東城の提案で、ようやく俺たちは掲示板へ向かった。
掲示板の前は人だかりになっていた。少し待って前へ進み、自分の受験番号を探す。
上から順に追っていく。
――あった。
「……よし」
小さく息を吐く。
自己採点の感触から問題ないとは思っていた。それでも、実際に自分の番号を見つければ肩の力は抜ける。
泉坂高校、合格。
「境野!」
真中の声が飛んでくる。
「俺の!俺の番号!」
「自分で探せ!」
「目が滑る!」
「受験番号言え」
「――番!」
言われた番号を追う。
「あった」
「え?」
「あったぞ」
「……マジ?」
「ほら」
指を差す。
真中が掲示板を見る。
数秒。
「――っしゃああああああ!」
「うるさい!」
「受かった!俺、受かった!!」
「淳平君!」
西野が慌てて止めるが、本人は聞いていない。
「境野!受かったぞ!」
「見れば分かる」
「もっと喜べよ!」
「お前が俺の分まで喜んでる」
そう返しながら、俺はもう一度、真中の受験番号を確認した。
間違いなく載っている。
「…………」
そこで、前世の記憶が引っかかった。
――真中、普通に受かってるじゃん。
俺の知っている『いちご100%』では、真中は泉坂高校に補欠合格だったはずだ。そして確か、小宮山も同じだった。
だが今、真中の番号は最初の合格発表にきちんと並んでいる。
考えてみれば、不思議でもない。
中間テストをきっかけに始まった勉強会は、そのまま受験勉強へ変わった。過去問を何度も解いた。間違えた問題はやり直した。俺だけじゃなく、東城や大草、西野も教えた。
何より、真中自身が最後まで勉強した。
原作の頃より点数が上がっていても、何もおかしくない。
「境野?」
「ん?」
「どうした?」
「いや」
真中の顔を見る。
補欠じゃない。
最初から、合格者の中に入った。
「……よかったな、真中」
「おう!」
俺が少し笑うと、真中も満面の笑みを返した。
「境野君もあったの?」
東城が聞く。
「ああ」
「よかった……!」
自分のことのように笑う。
「東城は?」
「まだ……」
「探そうか」
「う、うん」
東城の番号を聞き、二人で掲示板を追っていく。
「あ」
東城が先に声を上げた。
「あった……」
指先の先に番号がある。
「本当だな」
「……受かった」
「ああ」
「私、受かった……!」
東城が胸元で両手を握る。
「おめでとう」
「境野君も。おめでとう」
「ありがと」
目が合って、二人で笑う。
「東城!」
真中が駆け寄ってきた。
「どうだった!?」
「受かったよ」
「マジで!?やったじゃん!」
「う、うん!」
東城の頬が赤くなる。
「これで高校でも一緒だな!」
「……うん」
嬉しそうだ。
やっぱり東城にとって、真中は特別なんだろう。
「淳平君!」
今度は西野。
「西野!どうだった!?」
「私もあった!」
「マジ!?」
「うん!」
「やったな!」
真中が西野の両手を取る。
「一緒じゃん!」
「ちょ、淳平君、人いるって!」
「いいじゃん!」
「よくないってば!」
そう言いながら、西野も嬉しそうに笑っている。
俺は少しだけ掲示板へ目を戻した。
西野つかさの受験番号が、確かにそこにあった。
これで四月から西野も泉坂高校へ通う訳だ。
俺の知っていた高校生活とは確実に違ってくるだろう。
――まあ、今さらか。
「境野ぉぉぉ!」
嫌な予感がする。
振り返る。
小宮山が立っていた。
震えている。
「……なかった?」
「…………」
真中達の表情が止まる。
「小宮山君……?」
東城が心配そうに呼ぶ。
小宮山がゆっくり顔を上げた。
「…………あった」
「あるのかよ!」
「受かったぁぁぁぁぁ!!」
「紛らわしいわ!」
思わず頭を叩いた。
「痛ぇ!」
「お前の間が悪い!」
「感動してたんだよ!」
「俺達全員落ちたと思っただろ!」
「小宮山ぁ!」
真中まで飛びかかる。
「お前受かったのか!」
「受かった!」
「マジか!」
「マジだ!」
「「奇跡だ!」」
二人が騒ぐ中、俺は小宮山の番号も自分の目で確認する。
――ある。
こいつも補欠じゃない。
「……マジか」
原作では補欠だった二人が、揃って最初から合格している。
西野の進学先が変わったことに比べれば、目立たない違いかもしれない。けれど、俺にはこっちの方が妙に実感があった。
西野が泉坂を選んだのは、西野自身が考えて出した答えだ。
けれど真中と小宮山のこれは、俺にも多少は心当たりがある。
勉強会を開いた。
分からないところを教えた。
東城や大草、西野にも頼った。
過去問を解いて、間違えたところを何度もやり直した。
もちろん、それだけじゃない。
最後に机へ向かったのは二人だ。点数を上げたのも二人自身だ。
俺がこいつらを合格させたわけじゃない。
それでも、あの勉強会がなかったら同じ結果になっていたかと聞かれれば――分からない。
「境野?」
小宮山が怪訝そうな顔をする。
「何ニヤついてんだよ」
「ニヤついてない」
「いや、ちょっと笑ってるぞ」
「気のせいだ」
「絶対笑ってる!」
「……まあ」
俺は真中と小宮山を見る。
「よく頑張ったな、お前ら」
「……境野」
真中が目を丸くする。
「何だよ」
「お前が素直に褒めた!」
「やっぱ熱あるんじゃねえか!?」
「帰るぞ、お前ら」
「待て待て待て!」
背中の後ろから、西野と東城の笑い声が聞こえた。
原作では補欠だった二人が、今回は最初から合格している。
俺がここにいることで変わったものは、進学先や出来事の時期みたいな分かりやすいものだけじゃない。
こういう日々の小さな積み重ねも、少しずつ結果を変えているらしい。
手続きを済ませて校門を出ると、真中がすぐ携帯を取り出した。
「大草に連絡しようぜ!」
「もうしてる」
「境野早っ!」
「さっき送った」
「なんて?」
「全員合格」
「それだけ!?」
「十分だろ」
「味気ねえ!」
ほどなく返信が来た。
『おめでとう。小宮山まで普通に受かったのか』
「大草ぁぁぁ!」
小宮山が携帯へ向かって叫ぶ。
「聞こえないぞ」
「電話する!」
「やめろ!」
真中が止める。
「でもこれで、本当にみんな泉坂なんだね」
東城がぽつりと言った。
全員が少しだけ静かになる。
「そうだね」
西野が答えた。
「なんか変な感じ」
「何が?」
「だって少し前まで、高校なんてそれぞれ別になるかもしれなかったじゃん」
確かにそうだ。
東城には泉坂より上の学校を狙える成績があった。西野は別の学校へ行くことも考えていた。大草は推薦。真中と小宮山は泉坂志望。俺は家から近いという理由で選んだ。
別々の理由で選んだ結果、全員同じ場所に集まった。
「でも」
西野が笑う。
「楽しそうじゃない?」
「絶対楽しいって!」
真中が即答した。
「映画も撮れるし!」
「もうその話?」
「当たり前だろ!高校入ったら絶対やるからな!」
真中が東城を見る。
「東城、脚本頼むぞ!」
「えっ……う、うん。私でよければ」
「境野も!」
「嫌だ」
「なんでだよ!?」
「前にも断っただろ」
「まだ入学もしてないのに断るなよ!」
「関係ある?」
「ある!」
「どういう理屈だ」
「まあまあ」
東城が笑う。
「高校に入ってから考えよう?」
「ほら!東城もこう言ってる!」
「東城、それ前にも聞いたぞ」
「え?」
「その言い方すると真中が都合よく解釈する」
「そ、そうなの?」
「おい!」
西野が吹き出した。
「でも境野君、結局手伝いそう」
「なんで」
「そういう人だから」
「最近その万能な言葉で俺を片づけてない?」
「気のせい気のせい」
絶対違う。
その日の帰り、全員で少しだけ寄り道した。
合格祝いと言っても中学生だ。駅前のファミレスで飲み物と軽いものを頼んだ程度だったが、それでも真中と小宮山はやたらテンションが高かった。
「乾杯しようぜ!」
「何に?」
「合格!」
「ファミレスのジュースで?」
「いいだろ!」
グラスは五つ。
「……大草いないけどな」
「今度またやればいいじゃん」
西野が言う。
「今日は受験組ってことで」
「じゃあ」
真中がグラスを持ち上げる。
「泉坂合格に!」
「「「「「乾杯!」」」」」
グラスが軽くぶつかる。
東城まで楽しそうに笑っていた。
俺も一口飲む。
「境野」
「ん?」
「高校でもよろしくな」
真中が突然言った。
「急に何だよ」
「いいだろ、別に」
「まあ」
「西野も、東城も、小宮山も!」
「おう!」
「うん」
「よろしくね、淳平君」
そして真中が笑う。
「六人でさ、高校で色々やろうぜ」
「大草を勝手に入れてるな」
「入るだろ!」
「まあ入るだろうな」
否定はできない。
東城が俺を見る。
「境野君もね」
「俺?」
「うん」
「今の六人に入ってるだろ」
「そうじゃなくて……」
東城は少し考える。
「高校でも、こうやってみんなで集まれたらいいね」
「……そうだな」
「境野君の家で?」
西野が付け足す。
「なんでそうなる」
「いつもの場所だし」
「高校でも使う気か」
「駄目?」
「……別に駄目とは言ってない」
「ほら」
「何が『ほら』だ」
また笑いが起きる。
受験が終わった。進路も決まった。あれだけ遠く感じていた春が、急に目の前まで近づいた気がした。
それからの日々は、それまでとは少し違っていた。
勉強会はなくなった。
真中と小宮山は露骨に解放感を満喫し、大草には「お前ら分かりやすいな」と呆れられていた。
東城は文芸部で小説を書く時間が増えた。
俺も隣で本を読む。
それは以前と変わらない。ただ、東城の机にはもう受験用の問題集が積まれていない。
「境野君」
「ん?」
「高校に入っても、文芸部って入る?」
「まだ決めてない」
「そうなんだ」
「東城は?」
「……入りたいと思ってる」
「泉坂にもあるもんな」
「うん」
東城は原稿用紙へ視線を落とす。
「もっと書きたいから」
「いいんじゃない」
「うん」
ペンが動き始める。
しばらくして、また止まった。
「境野君」
「今度は何?」
「高校でも……読んでくれる?」
「小説?」
「うん」
俺は本から顔を上げる。
「完成したらな」
「……うん」
東城が笑った。
中学一年の頃から何度も見てきた、放課後の文芸部。向かいではなく、少し斜めの席。本を読む俺と、小説を書く東城。
それも、もうすぐ終わる。
けれど以前ほど、終わることを寂しいとは思わなかった。
春になれば、また会える。
東城だけじゃない。
真中も、西野も、大草も、小宮山も。
今度は全員、同じ高校で。
「境野君?」
「ん?」
「またぼーっとしてる」
「春のこと考えてた」
「高校?」
「ああ」
「……楽しみ?」
少し考える。
「まあ、それなりに」
「ふふっ」
「何だよ」
「境野君の『それなり』って、結構楽しみにしてる時だよね」
「……そう?」
「うん」
東城は少し嬉しそうに笑った。
「最近、分かるようになってきた」
そう言って、また原稿用紙へ向かう。
俺は返事をせず、本へ視線を戻した。
――最近、分かるようになってきた。
その言葉だけが、妙に耳に残った。
次回、卒業式ですはい。
では、また∠( ゚д゚)