『いちご100% ~名脇役は青春の主役になれるか~』   作:Gussan0

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どうもΣ(゚Д゚)

続き書けたで候。

では、どうぞ∠( ゚д゚)/


第十二話 春からも一緒に

 合格発表の日。

 

 泉坂高校の校門前は、入試当日とは違う種類の緊張に包まれていた。

 

「……境野」

 

「何だ」

 

「俺、番号見るの怖い」

 

「ここまで来て何言ってんだ」

 

 隣で真中が完全に固まっている。

 

「だってよ!なかったらどうすんだよ!」

 

「その時はその時だろ」

 

「簡単に言うな!」

 

「今さら俺にどうしろと」

 

 掲示板へ向かう受験生たちの声が聞こえる。歓声を上げる者もいれば、黙ってその場を離れていく者もいた。

 

 俺だって緊張していないわけじゃない。ただ、横がうるさすぎる。

 

「境野ぉ……」

 

 反対側には小宮山。

 

「お前もか」

 

「俺、吐きそう」

 

「吐くなら離れろ」

 

「冷たくない!?」

 

「境野君」

 

 東城が困ったように笑う。

 

「二人とも本当に緊張してるんだから」

 

「東城は?」

 

「……してるよ」

 

 そう言う東城の手も、鞄の持ち手をぎゅっと握っていた。

 

「私もしてる」

 

 西野が息を吐く。

 

「試験よりこっちの方が嫌かも」

 

「分かる!」

 

 真中が勢いよく食いついた。

 

「試験は自分で何かできるけど、今日はもう見るだけだからな!」

 

「そう、それ」

 

 西野が頷く。

 

「じゃあ、そろそろ見るか」

 

 俺が言うと、四人の顔が一斉にこちらを向いた。

 

「境野が先に見てくれ!」

 

「なんでだよ」

 

「頼む!」

 

「自分で見ろ」

 

「境野ぉ!」

 

「じゃ、じゃあ……みんなで行こう?」

 

 東城の提案で、ようやく俺たちは掲示板へ向かった。

 

 掲示板の前は人だかりになっていた。少し待って前へ進み、自分の受験番号を探す。

 

 上から順に追っていく。

 

 ――あった。

 

「……よし」

 

 小さく息を吐く。

 

 自己採点の感触から問題ないとは思っていた。それでも、実際に自分の番号を見つければ肩の力は抜ける。

 

 泉坂高校、合格。

 

「境野!」

 

 真中の声が飛んでくる。

 

「俺の!俺の番号!」

 

「自分で探せ!」

 

「目が滑る!」

 

「受験番号言え」

 

「――番!」

 

 言われた番号を追う。

 

「あった」

 

「え?」

 

「あったぞ」

 

「……マジ?」

 

「ほら」

 

 指を差す。

 

 真中が掲示板を見る。

 

 数秒。

 

「――っしゃああああああ!」

 

「うるさい!」

 

「受かった!俺、受かった!!」

 

「淳平君!」

 

 西野が慌てて止めるが、本人は聞いていない。

 

「境野!受かったぞ!」

 

「見れば分かる」

 

「もっと喜べよ!」

 

「お前が俺の分まで喜んでる」

 

 そう返しながら、俺はもう一度、真中の受験番号を確認した。

 

 間違いなく載っている。

 

「…………」

 

 そこで、前世の記憶が引っかかった。

 

 ――真中、普通に受かってるじゃん。

 

 俺の知っている『いちご100%』では、真中は泉坂高校に補欠合格だったはずだ。そして確か、小宮山も同じだった。

 

 だが今、真中の番号は最初の合格発表にきちんと並んでいる。

 

 考えてみれば、不思議でもない。

 

 中間テストをきっかけに始まった勉強会は、そのまま受験勉強へ変わった。過去問を何度も解いた。間違えた問題はやり直した。俺だけじゃなく、東城や大草、西野も教えた。

 

 何より、真中自身が最後まで勉強した。

 

 原作の頃より点数が上がっていても、何もおかしくない。

 

「境野?」

 

「ん?」

 

「どうした?」

 

「いや」

 

 真中の顔を見る。

 

 補欠じゃない。

 

 最初から、合格者の中に入った。

 

「……よかったな、真中」

 

「おう!」

 

 俺が少し笑うと、真中も満面の笑みを返した。

 

「境野君もあったの?」

 

 東城が聞く。

 

「ああ」

 

「よかった……!」

 

 自分のことのように笑う。

 

「東城は?」

 

「まだ……」

 

「探そうか」

 

「う、うん」

 

 東城の番号を聞き、二人で掲示板を追っていく。

 

「あ」

 

 東城が先に声を上げた。

 

「あった……」

 

 指先の先に番号がある。

 

「本当だな」

 

「……受かった」

 

「ああ」

 

「私、受かった……!」

 

 東城が胸元で両手を握る。

 

「おめでとう」

 

「境野君も。おめでとう」

 

「ありがと」

 

 目が合って、二人で笑う。

 

「東城!」

 

 真中が駆け寄ってきた。

 

「どうだった!?」

 

「受かったよ」

 

「マジで!?やったじゃん!」

 

「う、うん!」

 

 東城の頬が赤くなる。

 

「これで高校でも一緒だな!」

 

「……うん」

 

 嬉しそうだ。

 

 やっぱり東城にとって、真中は特別なんだろう。

 

「淳平君!」

 

 今度は西野。

 

「西野!どうだった!?」

 

「私もあった!」

 

「マジ!?」

 

「うん!」

 

「やったな!」

 

 真中が西野の両手を取る。

 

「一緒じゃん!」

 

「ちょ、淳平君、人いるって!」

 

「いいじゃん!」

 

「よくないってば!」

 

 そう言いながら、西野も嬉しそうに笑っている。

 

 俺は少しだけ掲示板へ目を戻した。

 

 西野つかさの受験番号が、確かにそこにあった。

 

 これで四月から西野も泉坂高校へ通う訳だ。

 

 俺の知っていた高校生活とは確実に違ってくるだろう。

 

 ――まあ、今さらか。

 

「境野ぉぉぉ!」

 

 嫌な予感がする。

 

 振り返る。

 

 小宮山が立っていた。

 

 震えている。

 

「……なかった?」

 

「…………」

 

 真中達の表情が止まる。

 

「小宮山君……?」

 

 東城が心配そうに呼ぶ。

 

 小宮山がゆっくり顔を上げた。

 

「…………あった」

 

「あるのかよ!」

 

「受かったぁぁぁぁぁ!!」

 

「紛らわしいわ!」

 

 思わず頭を叩いた。

 

「痛ぇ!」

 

「お前の間が悪い!」

 

「感動してたんだよ!」

 

「俺達全員落ちたと思っただろ!」

 

「小宮山ぁ!」

 

 真中まで飛びかかる。

 

「お前受かったのか!」

 

「受かった!」

 

「マジか!」

 

「マジだ!」

 

「「奇跡だ!」」

 

 二人が騒ぐ中、俺は小宮山の番号も自分の目で確認する。

 

 ――ある。

 

 こいつも補欠じゃない。

 

「……マジか」

 

 原作では補欠だった二人が、揃って最初から合格している。

 

 西野の進学先が変わったことに比べれば、目立たない違いかもしれない。けれど、俺にはこっちの方が妙に実感があった。

 

 西野が泉坂を選んだのは、西野自身が考えて出した答えだ。

 

 けれど真中と小宮山のこれは、俺にも多少は心当たりがある。

 

 勉強会を開いた。

 

 分からないところを教えた。

 

 東城や大草、西野にも頼った。

 

 過去問を解いて、間違えたところを何度もやり直した。

 

 もちろん、それだけじゃない。

 

 最後に机へ向かったのは二人だ。点数を上げたのも二人自身だ。

 

 俺がこいつらを合格させたわけじゃない。

 

 それでも、あの勉強会がなかったら同じ結果になっていたかと聞かれれば――分からない。

 

「境野?」

 

 小宮山が怪訝そうな顔をする。

 

「何ニヤついてんだよ」

 

「ニヤついてない」

 

「いや、ちょっと笑ってるぞ」

 

「気のせいだ」

 

「絶対笑ってる!」

 

「……まあ」

 

 俺は真中と小宮山を見る。

 

「よく頑張ったな、お前ら」

 

「……境野」

 

 真中が目を丸くする。

 

「何だよ」

 

「お前が素直に褒めた!」

 

「やっぱ熱あるんじゃねえか!?」

 

「帰るぞ、お前ら」

 

「待て待て待て!」

 

 背中の後ろから、西野と東城の笑い声が聞こえた。

 

 原作では補欠だった二人が、今回は最初から合格している。

 

 俺がここにいることで変わったものは、進学先や出来事の時期みたいな分かりやすいものだけじゃない。

 

 こういう日々の小さな積み重ねも、少しずつ結果を変えているらしい。

 

 手続きを済ませて校門を出ると、真中がすぐ携帯を取り出した。

 

「大草に連絡しようぜ!」

 

「もうしてる」

 

「境野早っ!」

 

「さっき送った」

 

「なんて?」

 

「全員合格」

 

「それだけ!?」

 

「十分だろ」

 

「味気ねえ!」

 

 ほどなく返信が来た。

 

『おめでとう。小宮山まで普通に受かったのか』

 

「大草ぁぁぁ!」

 

 小宮山が携帯へ向かって叫ぶ。

 

「聞こえないぞ」

 

「電話する!」

 

「やめろ!」

 

 真中が止める。

 

「でもこれで、本当にみんな泉坂なんだね」

 

 東城がぽつりと言った。

 

 全員が少しだけ静かになる。

 

「そうだね」

 

 西野が答えた。

 

「なんか変な感じ」

 

「何が?」

 

「だって少し前まで、高校なんてそれぞれ別になるかもしれなかったじゃん」

 

 確かにそうだ。

 

 東城には泉坂より上の学校を狙える成績があった。西野は別の学校へ行くことも考えていた。大草は推薦。真中と小宮山は泉坂志望。俺は家から近いという理由で選んだ。

 

 別々の理由で選んだ結果、全員同じ場所に集まった。

 

「でも」

 

 西野が笑う。

 

「楽しそうじゃない?」

 

「絶対楽しいって!」

 

 真中が即答した。

 

「映画も撮れるし!」

 

「もうその話?」

 

「当たり前だろ!高校入ったら絶対やるからな!」

 

 真中が東城を見る。

 

「東城、脚本頼むぞ!」

 

「えっ……う、うん。私でよければ」

 

「境野も!」

 

「嫌だ」

 

「なんでだよ!?」

 

「前にも断っただろ」

 

「まだ入学もしてないのに断るなよ!」

 

「関係ある?」

 

「ある!」

 

「どういう理屈だ」

 

「まあまあ」

 

 東城が笑う。

 

「高校に入ってから考えよう?」

 

「ほら!東城もこう言ってる!」

 

「東城、それ前にも聞いたぞ」

 

「え?」

 

「その言い方すると真中が都合よく解釈する」

 

「そ、そうなの?」

 

「おい!」

 

 西野が吹き出した。

 

「でも境野君、結局手伝いそう」

 

「なんで」

 

「そういう人だから」

 

「最近その万能な言葉で俺を片づけてない?」

 

「気のせい気のせい」

 

 絶対違う。

 

 その日の帰り、全員で少しだけ寄り道した。

 

 合格祝いと言っても中学生だ。駅前のファミレスで飲み物と軽いものを頼んだ程度だったが、それでも真中と小宮山はやたらテンションが高かった。

 

「乾杯しようぜ!」

 

「何に?」

 

「合格!」

 

「ファミレスのジュースで?」

 

「いいだろ!」

 

 グラスは五つ。

 

「……大草いないけどな」

 

「今度またやればいいじゃん」

 

 西野が言う。

 

「今日は受験組ってことで」

 

「じゃあ」

 

 真中がグラスを持ち上げる。

 

「泉坂合格に!」

 

「「「「「乾杯!」」」」」

 

 グラスが軽くぶつかる。

 

 東城まで楽しそうに笑っていた。

 

 俺も一口飲む。

 

「境野」

 

「ん?」

 

「高校でもよろしくな」

 

 真中が突然言った。

 

「急に何だよ」

 

「いいだろ、別に」

 

「まあ」

 

「西野も、東城も、小宮山も!」

 

「おう!」

 

「うん」

 

「よろしくね、淳平君」

 

 そして真中が笑う。

 

「六人でさ、高校で色々やろうぜ」

 

「大草を勝手に入れてるな」

 

「入るだろ!」

 

「まあ入るだろうな」

 

 否定はできない。

 

 東城が俺を見る。

 

「境野君もね」

 

「俺?」

 

「うん」

 

「今の六人に入ってるだろ」

 

「そうじゃなくて……」

 

 東城は少し考える。

 

「高校でも、こうやってみんなで集まれたらいいね」

 

「……そうだな」

 

「境野君の家で?」

 

 西野が付け足す。

 

「なんでそうなる」

 

「いつもの場所だし」

 

「高校でも使う気か」

 

「駄目?」

 

「……別に駄目とは言ってない」

 

「ほら」

 

「何が『ほら』だ」

 

 また笑いが起きる。

 

 受験が終わった。進路も決まった。あれだけ遠く感じていた春が、急に目の前まで近づいた気がした。

 

 それからの日々は、それまでとは少し違っていた。

 

 勉強会はなくなった。

 

 真中と小宮山は露骨に解放感を満喫し、大草には「お前ら分かりやすいな」と呆れられていた。

 

 東城は文芸部で小説を書く時間が増えた。

 

 俺も隣で本を読む。

 

 それは以前と変わらない。ただ、東城の机にはもう受験用の問題集が積まれていない。

 

「境野君」

 

「ん?」

 

「高校に入っても、文芸部って入る?」

 

「まだ決めてない」

 

「そうなんだ」

 

「東城は?」

 

「……入りたいと思ってる」

 

「泉坂にもあるもんな」

 

「うん」

 

 東城は原稿用紙へ視線を落とす。

 

「もっと書きたいから」

 

「いいんじゃない」

 

「うん」

 

 ペンが動き始める。

 

 しばらくして、また止まった。

 

「境野君」

 

「今度は何?」

 

「高校でも……読んでくれる?」

 

「小説?」

 

「うん」

 

 俺は本から顔を上げる。

 

「完成したらな」

 

「……うん」

 

 東城が笑った。

 

 中学一年の頃から何度も見てきた、放課後の文芸部。向かいではなく、少し斜めの席。本を読む俺と、小説を書く東城。

 

 それも、もうすぐ終わる。

 

 けれど以前ほど、終わることを寂しいとは思わなかった。

 

 春になれば、また会える。

 

 東城だけじゃない。

 

 真中も、西野も、大草も、小宮山も。

 

 今度は全員、同じ高校で。

 

「境野君?」

 

「ん?」

 

「またぼーっとしてる」

 

「春のこと考えてた」

 

「高校?」

 

「ああ」

 

「……楽しみ?」

 

 少し考える。

 

「まあ、それなりに」

 

「ふふっ」

 

「何だよ」

 

「境野君の『それなり』って、結構楽しみにしてる時だよね」

 

「……そう?」

 

「うん」

 

 東城は少し嬉しそうに笑った。

 

「最近、分かるようになってきた」

 

 そう言って、また原稿用紙へ向かう。

 

 俺は返事をせず、本へ視線を戻した。

 

 ――最近、分かるようになってきた。

 

 その言葉だけが、妙に耳に残った。




次回、卒業式ですはい。

では、また∠( ゚д゚)
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