『いちご100% ~名脇役は青春の主役になれるか~』 作:Gussan0
続き書けたで候。
今話から高校編です。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
第十四話 ただ、集まるだけ
卒業式から数日が経った。
受験は終わった。卒業もした。つまり今の俺には、学校へ行く理由もなければ、机に向かって過去問を解く理由もない。
朝起きて、朝飯を作って、洗濯機を回す。庭に出て軽く身体を動かし、戻って掃除を済ませる。昼前には一通り終わった。
「……暇だな」
居間で本を開く。静かだった。
少し前までは、土曜になると朝から誰かがやってきた。真中と小宮山が問題集を広げて唸り、東城がその横から教える。大草は余裕そうな顔をしているくせに質問されれば普通に答え、西野は途中で集中力を切らして台所へ逃げてくる。
それが今日はない。当然だ。受験は終わったんだから。
ページをめくる。一ページ、二ページ、三ページ。
「…………」
妙に静かだ。昔はこれが普通だったはずなんだが。
携帯が震えた。画面を見ると真中からだった。
『境野、今日暇?』
『暇だけど』
十秒もしないうちに返ってくる。
『じゃあ行っていい?』
「……何しに?」
思わず口に出してから、そのまま送る。
『何しに?』
『遊びに』
受験生だった頃には存在しなかった回答だ。
『別にいいけど』
『よっしゃ!東城たちも呼んでいい?』
「……たち?」
嫌な予感がする。
『好きにしろ』
そう返して、本へ視線を戻した。
一時間後。
「お邪魔しまーす!」
「お邪魔します」
「境野君、お邪魔するね」
「邪魔するぞ」
「お、お邪魔しまーす!」
玄関に靴が六足並んだ。俺のを含めて。
「……多くない?」
「何が?」
「なんで全員いるんだよ」
「だって境野がいいって言ったじゃん」
「東城たちとは聞いた。全員とは聞いてない」
「俺は真中に呼ばれた」
大草が言えば、小宮山も「俺も!」と手を上げる。
「私は東城さんから」
西野まで続く。
「ご、ごめん。駄目だった?」
東城が申し訳なさそうにする。
「いや、駄目じゃないけど」
「じゃあいいじゃん!」
「お前がまとめるな真中」
こいつら、本当に全員来たのか。
「それで?」
「ん?」
「何するんだよ」
五人を見る。沈黙。
「…………」
「考えてないの?」
「とりあえず集まれば何かあるかなって」
「真中」
「はい」
「帰れ」
「なんでだよ!?」
笑い声が玄関に響いた。
結局、居間へ移動した。以前なら六人で座れば、真っ先に参考書とノートが机を埋めていた。今日は菓子と飲み物だけだ。
「なんか変な感じするな」
「何が?」
「境野ん家来てるのに勉強しなくていいって」
「あ、それ分かる。何か忘れてる感じ」
西野も頷く。
「じゃあ問題集持ってくる?」
「それは嫌」
「即答かよ」
「受験終わったんだからいいでしょ」
もっともだ。
「でも、こういうの初めてだよね」
東城が言った。
「みんなで集まってるのに、何もすることが決まってないの」
「あー、確かに」
勉強会には目的があった。全員で泉坂高校に受かる。そのためにここへ集まっていた。今は違う。
「じゃあ何する?」
「ゲームとか?」
「境野ん家ゲームあるの?」
「一応」
「あるのかよ!」
「俺を何だと思ってるんだ」
「本しか持ってないと思ってた」
「失礼だな」
古いゲーム機を引っ張り出すと、そこからしばらくは騒がしかった。
「境野!お前強すぎ!」
「普通だろ」
「普通じゃねえ!」
「淳平君、後ろ!」
「えっ――うわあああ!」
「真中弱っ」
「大草うるせえ!」
「東城さん、そこそこ!」
「えっ、ここ?」
「違う違う、そっち!」
「小宮山邪魔!」
「なんで俺だけ扱いひどくね!?」
俺は途中でコントローラーを置いた。
「境野、やめんの?」
「六人でできないだろ」
「交代すればいいじゃん」
「俺は見てる方が楽しい」
「またそういうこと言う」
西野がこちらを見る。その隣で東城も俺を見ていた。
「何?」
「別に」
「東城?」
「え?な、なんでもない」
「?」
なんだこいつら。
「境野!」
「今度は何だよ」
真中がゲームを一時停止する。
「映画!」
「嫌だ」
「まだ何も言ってねえ!」
「この前と同じ流れじゃねえか」
「高校入ったら映画撮りたいって話!」
「知ってる」
「東城に脚本手伝ってもらってさ!」
「う、うん」
急に振られた東城が頷く。
「それで境野にも――」
「出ないぞ」
「最後まで聞け!」
「出演だろ」
「……なんで分かった?」
「お前が分かりやすいから」
「じゃあ裏方!」
「話が進んでるぞ」
「カメラとか詳しそうじゃん!」
「なんでそう思うんだよ」
「なんとなく!」
「雑だな」
真中は本気らしい。受験前にも聞いた話だ。高校に入ったら映画を作る。東城に脚本を手伝ってもらう。そして俺にも何かさせたい。
原作でも、真中にとって映画はずっと大切な夢だった。そこを俺が奪う気はない。
「自分で撮れ」
「手伝ってくれてもいいだろ!」
「お前の映画だろ」
「だから手伝ってほしいんだよ!」
「…………」
「な?」
妙に真っ直ぐ見てくる。
「……その時考える」
「おっ!」
「出演はしない」
「まだ分かんねえだろ!」
「そこは確定だ」
「ちくしょう!」
大草が笑う。
「なんだかんだ手伝いそうだけどな、境野」
「手伝わない」
「そうかな」
東城まで言った。
「境野君、頼まれると結局放っておけないから」
「……そんなことないだろ」
五人の視線が集まる。
「何だよ」
「いや」
「別に」
「境野だなって」
「意味分からん」
最近こういうの多くないか。
昼を過ぎた頃、台所へ立った。
「腹減った奴」
「はい!」
「はーい」
「俺も!」
「全員かよ」
聞くまでもなかった。
冷蔵庫を開ける。食材はある。以前なら一人分を基準に買っていたが、最近は肉も野菜も明らかに量が増えている。六人揃っても何とかなる程度には。
「…………」
いつからこうなった?
「境野君、何作るの?」
横から東城が覗き込む。
「焼きそばでいいだろ」
「手伝う」
「私もー」
西野も来る。
「別に座ってていいぞ」
「六人分でしょ?」
「一人でできる」
そう言った瞬間、東城が俺を見る。
「……境野君」
「何?」
「こういう時くらい、頼ってもいいと思う」
「…………」
聞き覚えがある。
「それ、この前も言ったよな」
「言った」
「覚えてたの?」
「熱出してたけど、そこまで朦朧としてない」
東城が少し恥ずかしそうに目を逸らす。
「だったら、なおさら。覚えてるなら実践してください」
「東城さん強くなったねえ」
「に、西野さん!」
西野が面白そうに笑いながら皿を出す。
「私も手伝うから」
「……分かったよ。東城、野菜頼む。西野は皿」
「うん」
「はーい」
台所に三人。居間からは男三人の声が聞こえる。
「真中!それ俺の!」
「早い者勝ち!」
「お前ら菓子全部食うなよ!」
騒がしい。
「境野君」
「ん?」
「こういうの、いいね」
「焼きそば?」
「違うよ」
東城が笑う。
「みんなで集まるの。勉強しなくても」
「ああ。そうだな」
「高校に行っても、また集まれるかな」
「全員同じ高校だろ」
「そうだけど……ここにも」
俺は包丁を動かす手を止めた。
「……別に、来たければ来ればいいだろ」
「本当?」
「今さらだろ」
東城の顔がほころぶ。
「うん」
「聞いた?東城さん」
西野が笑う。
「聞いた」
「境野君公認だって」
「勝手に話を大きくするな」
「じゃあ次いつにする?」
「もう次の話してるの?」
「駄目?」
「……駄目とは言ってない」
「やった」
何で俺の家なのに、こいつらの方が強いんだ。
夕方。
「じゃあな境野!」
「またね、境野君」
「お邪魔しました」
「次は何持ってこようかな」
「境野、今度もっと新しいゲーム買っとけよ」
「なんで俺が買うんだよ」
五人を門まで見送り、玄関の扉を閉める。
途端に静かになった。
居間へ戻れば、空になったコップに菓子の袋、少しずれた座布団。それから誰かが置き忘れた漫画。
「……誰のだ、これ」
携帯が震える。
『今日楽しかった!またやろうぜ!』
真中。
『今日はありがとう。今度何か持っていくね』
東城。
『次は私も料理作るからねー』
西野。
『次はもう少しマシなゲーム用意しとけ』
大草。
『漫画忘れた! 置いといて!』
「……小宮山か」
何しに来たんだ、こいつら。
勉強するわけでもない。何か特別な予定があったわけでもない。ただ集まって、ゲームして、飯を食って、くだらない話をして帰った。それだけだ。
携帯を置き、散らかった居間を見る。
少し前なら、誰もいなくなれば静かになったと思ったはずだ。
「……次は片付けまでさせるか」
そんなことを考えている時点で、次もここに集まることを俺自身が前提にしていた。
後、一話だけしたら入学式ですはい。
では、また∠( ゚д゚)