『いちご100% ~名脇役は青春の主役になれるか~』 作:Gussan0
続き書けたで候。
では、また∠( ゚д゚)/
卒業式からしばらく経った春休み。
朝飯を食べ終え、洗った食器を片付けていると、居間に置いていた携帯が震えた。西野からのメールだった。
『境野君、今日って暇?』
『暇だけど』
返信して数分。
『じゃあ駅前集合ね!一時!』
「……何で?」
肝心な部分がない。
『何するんだ?』
『買い物!高校で使うもの見に行くの。東城さんも一緒だよ』
なるほど。なら俺は必要ない気がする。
『二人で行けばいいだろ』
送信すると、すぐに返ってきた。
『淳平君も来るよ』
『余計に俺いらないだろ』
『大草君と小宮山君も誘ったから』
「全員じゃねえか」
最近こいつら、集まる人数の規模がおかしくなってないか?
少しして、さらに一通。
『一時ね!』
拒否権はないらしい。
一時少し前に駅前へ着くと、すでに東城がいた。
春物の上着にスカート。学校で見る制服姿とは違う。
「境野君」
「早いな」
「境野君も」
「待たせるよりいいだろ」
「私もそう思って早く来たの」
「じゃあ同じだな」
「うん」
東城が笑う。
卒業してからまだ大して経っていない。それなのに、制服じゃない東城を昼間に見るだけで少し妙な感じがした。
「眼鏡、もうほとんど使ってないんだな」
「うん。コンタクトにも慣れてきたから」
「そうか」
東城が自分の髪に触れる。
「……変じゃない?」
「変じゃないよ。もう見慣れてきたし」
「そっか」
「でも、最初の頃より自然になったな」
「え?」
「眼鏡外して髪下ろした時、結構気にしてただろ。今は普通にしてる」
「……見てたんだ」
「そりゃ見るだろ」
東城が少し黙る。頬がわずかに緩んだ。
「どうした?」
「ううん。なんでもない」
声も少し弾んでいる。俺が自分の変化を見ていたことが嬉しかったらしい。
そういう反応をされると、こっちも少し照れくさい。
「おーい!」
声の方を見ると、真中と西野が歩いてきていた。
「境野!東城!」
「ごめん、待った?」
「五分くらい」
「二人とも早いね」
西野が俺と東城を交互に見る。
「二人で待ってたんだ?」
「そうなるな」
「ふーん」
「何だよ」
「別に?」
その笑い方は別にじゃないだろ。
「西野、今日どこ行く?」
「まず文房具かな。高校で使うの新しくしたいし」
「俺も!」
「淳平君はノートちゃんと取るところから始めようね」
「取ってるって!」
「受験前、境野君のノート借りてなかった?」
「……取ってます」
「声小さいよ」
相変わらずだ。
やがて大草と小宮山も到着し、六人で駅前の商業施設へ向かった。
「広いな」
「境野、何買うんだ?」
「特にない」
「じゃあ何しに来たんだよ」
「俺も知りたい」
横を見ると、その西野は東城と文房具を見ていた。
「東城さん、これ可愛くない?」
「ちょっと派手じゃない?」
「高校生なんだから、このくらい平気だよ。そうだ。おーい、境野君!」
「ん?」
呼ばれて近づく。
西野が二本のシャープペンを持っていた。
「どっちが東城さんに合うと思う?」
「俺に聞く?」
「聞いてる」
片方は淡い色。もう片方は少し華やかな柄。
「こっち」
淡い方を指す。
「即答だね」
「東城ならそっちだろ」
「……そう?」
東城が手に取る。
「うん。私もこっちの方が好きかも」
「じゃあ決まり」
西野が満足そうに頷いた。
「境野君は?」
「何が?」
「新しく買わないの?」
「今使ってるので困ってない」
「出た。実用性しか考えない人」
「文房具に何を求めるんだよ」
「高校生活へのワクワクとか」
「シャープペンに?」
「そういうところだよ、境野君」
東城まで笑っている。
「……納得いかない」
結局、西野に半ば押し切られてノートを何冊か買うことになった。
次に向かったのは服を扱う店だった。
「俺たち必要?」
入口で大草が呟く。
「奇遇だな。俺もそう思ってた」
「境野まで!?」
真中だけは彼女と買い物できるからか乗り気だった。
「淳平君」
「何?」
「東城さんと服見てくるから、ちょっと待ってて」
「えっ」
「すぐ戻るから」
「俺も一緒じゃ――」
「女の子の買い物についてきたい?」
「……待ってます」
「よろしい」
西野が東城の腕を取って店の奥へ消える。
残された男四人。
「…………」
「ゲーセン行かね?」
小宮山が言った。
「却下」
「なんでだよ!」
「戻ってきた時いなかったら面倒だろ」
「境野、真面目だな」
「大草も行く気だった?」
「ちょっと」
「お前ら」
仕方なく店の近くで時間を潰す。真中は時々、二人が消えた方向を気にしていた。
「気になるなら見てくれば?」
「いや、西野に待ってろって言われたし」
「素直だな」
「彼女だからな!」
「何でそこで胸張るんだよ」
「境野には分かんねえよ、この気持ちは!」
「そうかい」
「その余裕ある感じ腹立つ!」
大草が笑う。
「でも境野、彼女できたら意外と振り回されそうだよな」
「俺が?」
「頼まれたら断れないし」
「断ってるだろ」
「最終的には付き合ってるじゃん。今日も」
「…………」
否定しようとして、やめた。確かに来ている。
「ほらな」
「うるさい」
その時、店の奥から西野が顔を出した。
「境野君、ちょっと来て!」
「なんで俺?」
「いいから!」
「彼氏そっちだぞ」
「淳平君はあと!」
「あと!?」
真中がショックを受けている。
「行ってこいよ」
大草に背中を押された。
「なんで楽しそうなんだよ」
「面白そうだから」
最悪だ。
店の奥へ行くと、西野が待っていた。
「こっち」
「何?」
「見れば分かる」
連れていかれたのは試着室の前だった。
「東城さん、いいよー」
「ほ、本当に?」
「大丈夫」
カーテンが開く。
東城が出てきた。
普段より少し明るい色の春物の服。派手ではないが、いつもの東城より雰囲気が柔らかく見える。本人は落ち着かないらしく、裾を気にしていた。
そして、出てきて最初に俺を見る。
「……どう?」
俺の感想を気にしている。それくらいは見れば分かる。
「似合ってるよ」
「……!」
「色も東城に合ってると思う」
「そ、そう?」
「ああ」
東城の肩からわずかに力が抜ける。声も少し明るくなった。
「ほら」
西野が笑う。
「私が言った通りでしょ?」
「……うん」
東城が俺から目を逸らす。耳が少し赤い。
照れている。
服装を異性に褒められれば、それだけで照れることはある。俺とは一年の頃から付き合いがあるし、普段から遠慮なく感想を言う相手だと思われている可能性もある。
ただ、卒業式の第二ボタン。あの時の言葉まで含めれば、別の可能性を考えないほど鈍くはない。
それでも、それだけで自分への恋愛感情だと決めつけるのは違う。
「じゃあ淳平君も呼んでくるね」
西野が言う。
「えっ」
東城の反応が変わった。
さっきとは違う緊張が身体に走る。視線が一瞬鏡へ向かい、髪を確認する。
真中にも見てほしいんだろう。
やっぱり東城の真中への気持ちは、今もある。
だからといって、さっき俺の感想を気にしていたことまで無かったことになるわけじゃない。
人間の気持ちは、一つしか持てないわけじゃない。誰かを好きだからといって、それ以外の誰かを大切に思わないわけでもない。
今の俺に分かるのは、東城が真中を好きだということ。そして、俺の言葉も以前より気にするようになっているということ。
それが何を意味するのかは、まだ分からない。
なら、無理に答えを出す必要もないだろう。
「境野君?」
「ん?」
「どうしたの?」
「いや、ちょっと考え事」
「そっか」
俺はもう一度、東城を見る。
「その服、本当に似合ってると思うぞ」
「……!」
「じゃ、俺は戻るから」
「あ……うん」
東城は少し驚いたあと、嬉しそうに笑った。
「ありがとう、境野君」
「ああ」
男三人のところへ戻ろうとすると、背後から西野の声が聞こえた。
「東城さん、顔赤いよ?」
「に、西野さん!」
聞かなかったことにした。
しばらくして真中も呼ばれた。
「東城、似合ってるじゃん!」
「あ……ありがとう、真中君」
東城が嬉しそうに笑う。頬も赤い。
東城はまだ真中が好きだ。その認識を変える必要はない。
ただ、さっき俺に見せた反応とは少し種類が違った。
真中に向けるものは、これまで何度も見てきた分かりやすい好意。
俺に向けるものは、まだ判断できない。
信頼なのか。親しさなのか。それとも、そこに別の何かが混ざり始めているのか。
少なくとも、何もないと決めつけるのも違う気がする。
「境野」
「ん?」
大草が小声で言う。
「お前、今なんか考えてただろ」
「まあな」
「珍しく認めた」
「人の頭の中まで読むな」
「顔に出てたぞ」
「それは困るな」
「何考えてた?」
「秘密」
「余計気になるな」
「気にするな」
大草が笑う。
その向こうでは、西野が真中の横顔を見ていた。
真中は東城が屋上の少女だと知っている。そして西野も、真中の視線が以前とは少し違うことに気づき始めている。
俺が気づく程度のことを、西野が気づかないとも思えない。
それでも今、西野は普通に笑っている。
口を挟む話じゃない。
見えているものが多いからといって、全部に手を出していいわけじゃない。
買い物を終えた頃には夕方になっていた。
六人ともそれぞれ袋を持っている。俺まで予定になかったノートを買わされていた。
「疲れたー!」
小宮山が伸びをする。
「お前ほとんど何もしてないだろ」
「歩いた!」
「全員歩いてる」
「境野は冷たい!」
「知ってる」
「認めるなよ!」
駅前で足を止める。
「じゃあ、次は入学式か」
真中が言った。
「そうだね」
西野が頷く。
「次会う時、みんな泉坂の制服なんだ」
「大草はもう見慣れてそう」
「推薦で行っただけで制服はまだ着てないって」
「そっか」
東城が少し笑う。
「なんか不思議だね」
「何が?」
「中学では、みんな同じクラスだったわけじゃないのに」
東城は俺たちを見回す。
「高校では、またみんな同じ学校なんだなって」
「クラスは分かれるかもしれないけどな」
「境野君、そういう現実的なこと今言う?」
「事実だろ」
「でも学校は一緒じゃん!」
真中が俺の肩を叩く。
「高校でもよろしくな!」
「卒業式でも聞いたぞ、それ」
「何回言ってもいいだろ!」
「まあな」
俺は五人を見る。
真中。東城。西野。大草。小宮山。
中学一年の頃には、この六人で高校へ行くなんて考えたこともなかった。
そもそも俺の知っている物語なら、西野は泉坂高校へ進学しない。真中と小宮山も、最初から合格者として番号を見つけるはずではなかった。
それでも今は、六人とも同じ春を待っている。
「じゃあ入学式の日、校門前で集合しようぜ!」
「何時?」
「八時!」
「早くない?」
「初日だぞ!」
「遅刻するよりいいだろ」
「境野君が淳平君の味方した!」
「珍しい!」
「お前ら俺を何だと思ってる?」
笑い声が夕方の駅前に響く。
別れ際、西野が手を振った。
「じゃあ、また高校で!」
「またね」
「おう!」
「じゃあな」
それぞれ違う方向へ歩き出す。
俺も家へ向かう途中、買わされたノートの入った袋を見る。
「……高校生活へのワクワク、ね」
そんなものがシャープペンやノートに宿るとは思わない。
ただ、四月から始まる生活を以前より少し楽しみにしている自分はいた。
次に六人が揃う時。
俺たちは、泉坂高校の一年生だ。
次回、入学式。
では、また∠( ゚д゚)