『いちご100% ~名脇役は青春の主役になれるか~』   作:Gussan0

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どうもΣ(゚Д゚)

続き書けたで候。

では、どうぞ∠( ゚д゚)/


第十六話 同じ学校、違う教室

 四月。

 

 新品の制服に袖を通し、鏡の前でネクタイを整える。

 

「……こんなもんか」

 

 昨日まで中学生だった人間が制服を着替えたところで、中身まで急に高校生になるわけじゃない。

 

 朝飯を食べ、食器を洗い、戸締まりを確認する。玄関で新品の革靴を履いてから、誰もいない家へいつものように声をかけた。

 

「行ってきます」

 

 返事はない。それでも昔から続いている習慣だった。

 

 門を出て、泉坂高校へ向かう。

 

 今日から高校生活が始まる。

 

 校門が見えてくると、その前に見慣れた顔があった。

 

「境野ー!」

 

「朝から声でかいぞ、真中」

 

「今日くらいいいだろ!」

 

「入学初日に校門前で騒ぐなよ」

 

「お前、本当に高校生になっても変わんねえな!」

 

「一晩で性格変わってたまるか」

 

 真中の隣には小宮山、その少し後ろには大草がいる。

 

「おはよう、境野」

 

「おう」

 

「境野、見ろ!」

 

 小宮山が胸を張った。

 

「俺もついに泉坂高校の生徒だ!」

 

「見れば分かる」

 

「もっと何かあるだろ!」

 

「制服似合ってるぞ」

 

「おお!」

 

「満足した?」

 

「適当じゃねえか!」

 

 朝から元気だな、こいつら。

 

「おはよー!」

 

 今度は後ろから声が飛んできた。

 

 振り返れば、西野がこちらへ手を振りながら歩いてくる。その隣には東城もいた。

 

「おはよう、境野君」

 

「おはよう」

 

「淳平君も、おはよ」

 

「西野!」

 

 真中の顔が分かりやすく明るくなる。

 

「制服、似合ってる!」

 

「ほんと?」

 

「うん!」

 

「ありがと、淳平君」

 

 西野が嬉しそうに笑う。

 

 その横の東城も、当然ながら泉坂の制服姿だった。髪は下ろしたままで眼鏡もない。中学三年の最初の頃と比べれば随分変わったが、今となってはこっちの姿にも慣れている。

 

 ただ、制服が違えば印象も少し変わる。

 

「境野君?」

 

「ん?」

 

「……どうしたの?」

 

「いや。制服変わると雰囲気も変わるなと思って」

 

 東城が自分の制服を見る。

 

「変じゃない?」

 

「似合ってるよ」

 

「……ありがとう」

 

 少し照れたように笑った。

 

「ちょっと境野君」

 

「何?」

 

「私には?」

 

 西野が自分を指差す。

 

「真中が言っただろ」

 

「淳平君の感想は聞いたよ。境野君は?」

 

「なんで俺まで」

 

「いいから」

 

「……似合ってるよ」

 

「よろしい」

 

「何なんだよ」

 

「境野君って、聞かないと言わないから」

 

「聞かれてないのに言う方が恥ずかしいだろ」

 

「あ、それは分かるかも」

 

 東城まで笑っている。

 

「東城さんまでそっちにつくの?」

 

「そ、そういうつもりじゃ……」

 

「朝から仲いいな、お前ら」

 

 大草が笑う。

 

 そこで改めて五人を見る。

 

 全員が泉坂高校の制服を着ていた。

 

 真中、東城、大草、小宮山。そして、西野。

 

 中学時代から何度も一緒に勉強して、全員で合格発表を見て、卒業してからも集まった。だから分かっていたことではある。

 

 それでも、泉坂の制服を着た西野が真中たちと一緒に立っている光景には、まだ少しだけ違和感があった。

 

 俺の記憶にある高校生活には存在しない光景だからだ。

 

 もっとも、今さらそれを気にしても仕方ない。

 

「行こうぜ!」

 

 真中が校門を指差す。

 

「クラス発表見よう!」

 

「ああ」

 

 六人で校門をくぐった。

 

 昇降口の近くには、新入生のクラス分けが張り出されていた。当然、人だかりができている。

 

「うわ、人多っ!」

 

「全員見るんだから当たり前だろ」

 

「境野、見てくれ!」

 

「自分で見ろ」

 

「お前背高いじゃん!」

 

「こういう時だけ頼るな」

 

「頼っていいって東城に言われただろ!」

 

「それをお前が使うな」

 

「境野君、そこ覚えてたんだ……」

 

 東城が小さく呟いた。

 

「そりゃ覚えてるよ」

 

「……そっか」

 

 なぜか少し嬉しそうだった。

 

 人の隙間から張り紙を見る。

 

 一組、二組、三組。

 

「あ、小宮山あったぞ」

 

「どこ!?」

 

「三組」

 

「マジか!」

 

「よかったな」

 

「おう!……って真中は!?」

 

「今見てる」

 

 四組へ視線を移す。

 

 名前を追って――自分の名前を見つけた。

 

「俺は四組か」

 

「境野君!」

 

 すぐ横で西野の声が上がる。

 

「私も四組!」

 

「ほんとだ」

 

 西野つかさ。確かに俺の少し下に名前がある。

 

「また一緒だね!」

 

「中二以来か」

 

「うん!」

 

 西野が嬉しそうに笑った。

 

「なんか懐かしいね。境野君と同じクラス」

 

「俺は去年も四組だったけどな」

 

「あ、そうじゃん。境野君、二年連続四組だ」

 

「そこはどうでもいいだろ」

 

「私はちょっと面白い」

 

 西野が笑う。

 

 その時、妙な視線を感じた。

 

 真中だった。

 

「どうした?」

 

「え?」

 

「こっち見てただろ」

 

「いや……別に」

 

 真中はすぐに張り紙へ視線を戻した。

 

 その隣では東城も四組の名簿を見ている。

 

「東城?」

 

「えっ」

 

「どうした?」

 

「う、ううん。境野君と西野さん、一緒なんだなって」

 

「そうみたいだな」

 

「……そっか」

 

 ほんの少しだけ間があった。けれど、それ以上は何も言わない。

 

「東城さんは?」

 

 西野が尋ねる。

 

「あ、私は……」

 

「八組にあるぞ」

 

 先に見つけた。

 

「東城、八組」

 

「ほんと?」

 

「ああ。それと――真中も八組」

 

「マジ!?」

 

 今度は真中の声が跳ね上がった。

 

「東城!同じクラスじゃん!」

 

「う、うん」

 

 東城の表情が明るくなる。

 

「高校でもよろしくな!」

 

「よろしく、真中君」

 

 嬉しそうだ。

 

 東城が真中を好きなのは今も変わっていない。同じクラスになれたのだから、喜ぶのは当然だろう。

 

 ただ――その直前、東城は俺と西野の名前が並んだ四組の名簿を見ていた。

 

「淳平君、東城さんと一緒なんだ」

 

 西野が言った。

 

「おう!」

 

「よかったね」

 

「西野とは別になっちゃったけど……」

 

「しょうがないよ。クラス分けだもん」

 

「休み時間、四組行くから!」

 

「ほんと?」

 

「当たり前だろ!」

 

「ふふ。じゃあ待ってる」

 

 西野は笑っている。嬉しそうだった。

 

 ただ、その視線が一度だけ東城へ向いた。

 

 東城もそれに気づき、二人の目が合う。

 

「……高校でもよろしくね、西野さん」

 

「うん。東城さんも」

 

 二人とも笑った。

 

 別に険悪なものは何もない。むしろ二人はもう普通に友達だ。

 

 それでも、ほんの少しだけ空気が違った。

 

「大草は?」

 

 俺が聞くと、大草は七組の名簿を指した。

 

「七組」

 

「八組の隣か」

 

「そうみたいだな」

 

「じゃあ真中のお守りは大草に任せるか」

 

「なんでだよ境野!」

 

「隣なんだから何かあったら頼む」

 

「何かある前提なの?」

 

 大草が笑う。

 

「真中だからな」

 

「お前ら俺を何だと思ってんだよ!」

 

「じゃあ俺は三組から遊びに行くぜ!」

 

「小宮山は来なくていい!」

 

「真中ぁ!?」

 

「朝からうるさい」

 

 俺が言うと、西野と東城が同時に笑った。

 

「でも、結構バラけたね」

 

 西野が名簿を見回す。

 

「小宮山君が三組。私と境野君が四組。大草君が七組で、淳平君と東城さんが八組」

 

「全員同じ学校なんだから十分だろ」

 

「そうだけどね」

 

「でも昼は集まろうぜ!」

 

 真中が言う。

 

「初日から?」

 

「いいじゃん!」

 

「場所どうするの?」

 

「それは……」

 

「決めてないのかよ」

 

「今から考える!」

 

「相変わらずだな」

 

 笑いながら、もう一度周囲を見る。

 

 真中は東城と同じクラスになって喜んでいる。その一方で、西野が俺と同じクラスだと分かった時には、こっちを見ていた。

 

 東城も真中と同じになったことを素直に喜んでいる。なのに、その前には俺のクラスを気にしていた。

 

 西野は真中と別になったことを残念がっている。けれど俺と同じ四組だと分かった時には、嬉しそうに笑った。

 

 三人とも、別に矛盾しているわけじゃない。

 

 人間の感情なんて、一つしか持てないものじゃない。

 

 好きな相手と同じクラスになれば嬉しい。仲のいい友達と離れれば寂しい。知っている相手が同じクラスにいれば安心する。

 

 全部同時にあっても、おかしくはない。

 

「境野君?」

 

「ん?」

 

 西野がこちらを見ていた。

 

「そろそろ行こ。四組」

 

「ああ」

 

「じゃあ淳平君、またあとでね」

 

「おう!」

 

「東城さんも」

 

「うん。またあとで」

 

「境野!」

 

「何?」

 

「昼!」

 

「分かってるよ」

 

「大草も!」

 

「はいはい。七組から行くよ」

 

「小宮山もな!」

 

「今さら付け足した!?」

 

「うるせえ!」

 

 最後まで騒がしい。

 

 小宮山は三組へ。俺と西野は四組へ。大草は七組へ。そして真中と東城は八組へ向かう。

 

 中学では同じ教室にいた俺と真中と東城も、今日から別々だ。

 

 少しだけ妙な感じがした。

 

 一年四組。

 

 教室へ入ると、当然ながら知らない顔ばかりだった。

 

 黒板に貼られた座席表を確認する。

 

「境野君、どこ?」

 

「窓側。後ろから二番目」

 

「いいなー。私真ん中」

 

「交換はできないぞ」

 

「分かってるよ」

 

 西野が笑い、自分の席へ向かう。

 

 途中で何人かの女子に声をかけられていた。入学初日だというのに、もう馴染み始めている。

 

 こういうところは昔から変わらない。中二で同じクラスだった頃も、西野の周りには自然と人が集まっていた。

 

 俺は席へ鞄を置き、窓の外を見る。

 

 校庭。その向こうに体育館。

 

 中学とは違う景色。

 

「境野君」

 

「ん?」

 

 西野が俺の机の横に立っていた。

 

「知ってる人、境野君しかいないからちょっと安心した」

 

「西野なら昼までに友達できてるだろ」

 

「そういう話じゃないの」

 

「違うの?」

 

「違うよ」

 

 西野は少し呆れたように笑う。

 

「知ってる人がいるってだけで安心するじゃん」

 

「まあ、それは分かる」

 

「でしょ?」

 

「ああ。俺も西野がいて助かった」

 

「……え?」

 

「知ってる奴一人もいないよりいいだろ」

 

「ああ……そっちね」

 

「他に何があるんだよ」

 

「なんでもない」

 

 西野が笑った。

 

 ただ、さっきより少しだけ楽しそうだった。

 

 一方、八組では今頃真中と東城が新しいクラスに入っているはずだ。

 

 七組の大草なら、隣だから真中の騒ぐ声くらい聞こえているかもしれない。

 

 俺が実際に何があったのか知るのは、少し後になる。

 

 入学式が終わり、昼休みに六人で集まった時だった。

 

「聞いてくれよ境野!」

 

 開口一番、真中が叫んだ。

 

「嫌だ」

 

「まだ何も言ってねえ!」

 

「声量で面倒事だと分かる」

 

「ひどくねえ!?」

 

「で、何があった?」

 

「聞くんじゃねえか!」

 

「早くしろ」

 

 真中がぐっと身を乗り出す。

 

「八組にさ、いたんだよ!」

 

「誰が?」

 

「あの女!」

 

「それで分かると思う?」

 

「前に会った奴だよ!二回も!」

 

「ああ……」

 

 詳しい話までは知らないが、入学前に何度か妙な女子と遭遇したという話は真中から聞いていた。

 

「北大路さん?」

 

 東城が横から言う。

 

「そう!北大路さつき!」

 

 その名前に、俺の動きが止まる。

 

 北大路さつき。

 

 やっぱり同じクラスになったか。

 

「知ってるの?」

 

 西野が聞く。

 

「いや」

 

「今なんか反応しなかった?」

 

「名前が珍しいと思っただけ」

 

「そう?」

 

 西野は少し首を傾げたが、それ以上は追及しなかった。

 

「で、また喧嘩したの?」

 

 大草が聞く。

 

「俺だけが悪いみたいに言うなよ!」

 

「七組まで聞こえてきそうな勢いだったけどな」

 

「嘘つけ!」

 

「さすがにそこまでは聞こえない」

 

「なんだよ!」

 

「でも喧嘩したんだろ?」

 

「……した」

 

「入学初日だぞ」

 

「向こうが突っかかってきたんだって!」

 

「真中君も言い返してたよ」

 

 東城が困ったように言う。

 

「東城まで!?」

 

「だって……」

 

「で、先生に怒られた?」

 

「…………」

 

「怒られたんだな」

 

「なんで分かるんだよ!」

 

「お前だから」

 

「境野ぉ!」

 

 小宮山が腹を抱えて笑っている。

 

「入学初日から女子と喧嘩して先生に怒られるって、お前すげえな!」

 

「うるせえ!」

 

「その北大路ってどんな子?」

 

 西野が聞く。

 

 真中が露骨に嫌そうな顔をした。

 

「気が強くて、すぐ突っかかってきて、全然人の話聞かねえ奴!」

 

「淳平君、それ本人の前で言わない方がいいよ」

 

「言われなくても分かってる!」

 

「真中君……多分言うと思う」

 

 東城がぼそっと言った。

 

「東城!?」

 

 全員が笑った。

 

 俺も笑いながら、真中を見る。

 

 北大路さつき。

 

 高校編から真中たちの関係へ加わる、もう一人の少女。

 

 記憶通りなら、これから真中との距離を急速に縮めていく。

 

 ただ、その記憶の中に今の西野はいない。

 

 西野は別の学校へ進むはずだった。

 

 俺もいなかった。

 

 それでも北大路と真中が出会い、同じクラスになった。

 

 変わったものもあれば、変わらなかったものもあるらしい。

 

「境野君」

 

 東城に呼ばれる。

 

「ん?」

 

「四組、どうだった?」

 

「普通。西野もいるし」

 

「そっか」

 

 東城が小さく笑う。

 

「よかったね」

 

「ああ。東城も真中がいてよかったな」

 

「えっ」

 

「知ってる奴が同じクラスにいると安心するだろ」

 

「……うん」

 

 東城は一瞬だけ言葉に詰まってから頷いた。

 

「そうだね」

 

 その横で、西野が俺と東城を見ている。

 

 さらに向こうでは真中もこちらを見ていた。

 

「……何?」

 

 俺が聞くと、二人ともほぼ同時に目を逸らした。

 

「別に?」

 

「なんでもねえよ」

 

「そう?」

 

 何か引っかかっていること自体は分かる。

 

 ただ、それが何なのかまで本人たちの代わりに決める必要はない。

 

「境野、飯食おうぜ!」

 

「はいはい」

 

「高校最初の昼飯だぞ!」

 

「中身はいつもの弁当だけどな」

 

「雰囲気だよ、雰囲気!」

 

 六人で笑う。

 

 教室は別々になった。

 

 三組、四組、七組、八組。

 

 新しい教室で、新しい人間関係もこれから増えていく。

 

 それでも昼になれば、こうして自然と集まっている。

 

 中学の頃と同じようで、少しだけ違う。

 

 そんな俺たちの高校生活が、今日から始まった。




主人公とにしのんを同じクラスにしました。

では、また∠( ゚д゚)
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