いちご100% ~名脇役は青春の主役になれるか~   作:Gussan0

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どうもΣ(゚Д゚)

続き書けたで候。

では、どうぞ∠( ゚д゚)/


第十七話 変わる日常

 入学式から数日が経った。

 

 初日はクラス分けを確認して、入学式に出て、教室で担任から一通りの説明を受ければ終わり――だったのだが、その短い時間にも印象に残ったことはいくつかある。

 

 一つは、新入生代表として壇上に立ったのが東城だったことだ。

 

 名前を呼ばれた瞬間、隣にいた西野が「あ、東城さん」と小さく声を漏らした。

 

 壇上へ向かう東城は明らかに緊張していた。歩幅は普段より少し狭く、肩にも力が入っている。

 

 それでも壇上に立ち、一礼して顔を上げてからはしっかりしていた。

 

 静かな体育館に、東城の声が響く。

 

 中学一年から知っている俺としては、少し意外でもあり、同時に納得もできる光景だった。

 

 人前に出ることは今でも得意じゃない。

 

 けれど、苦手だからできないという人間でもない。

 

 終わって席へ戻ってきた東城は、目に見えてほっとしていた。

 

「東城さん、すごかったね」

 

 式の後、西野がそう言った。

 

「ああ」

 

「境野君、なんか嬉しそう」

 

「そう見える?」

 

「ちょっとだけ」

 

 否定する理由もなかった。

 

 東城が頑張ったのだから、それを見て嬉しく思うくらいは普通だろう。

 

 そして、もう一つ。

 

 こっちは俺が直接見たわけではない。

 

 帰りに合流した真中から聞かされた。

 

「なんでよりによってあいつと美化委員なんだよ!」

 

 開口一番、それだった。

 

「知らないよ」

 

「北大路だよ!?北大路さつき!」

 

「名前はもう聞いた」

 

「あいつと一緒に仕事するとか絶対大変だって!」

 

「真中も向こうから同じこと思われてるんじゃない?」

 

「なんでだよ!」

 

 八組では委員決めがあり、真中と北大路さつきが揃って美化委員になったらしい。

 

 しかも八組の担任である黒川先生が、美化委員の担当でもあるという。

 

 入学早々、ずいぶん綺麗に縁ができたものだ。

 

 記憶にある流れと大きく外れてはいない。

 

 西野が泉坂にいることと、俺がここにいることを除けば。

 

 そんな入学初日から数日。

 

 高校生活というものは、始まってしまえば案外あっさり日常になる。

 

 朝起きて、朝飯を作って、制服に着替えて家を出る。泉坂高校までは近いから、中学時代と比べても通学に大きな負担はない。

 

 教室に入れば、

 

「おはよ、境野君」

 

「おはよう」

 

 西野がいる。

 

 最初の二、三日は少し妙な感じもしたが、それにも慣れてきた。

 

 中学二年の頃にも同じクラスだったからだろう。

 

「今日の一時間目って何だっけ?」

 

「英語」

 

「あ、そっか。ありがと」

 

「時間割くらい覚えろよ」

 

「まだ始まったばっかりじゃん」

 

「俺だって同じだよ」

 

「境野君は覚えるの得意だから参考にならないの」

 

 そう言って、西野は自分の席へ戻っていく。

 

 入学初日に言った通り、西野はあっという間にクラスへ馴染んだ。女子にはすでに何人か話す相手ができているし、男子からもよく声をかけられている。

 

 まあ、中学時代から人気はあった。

 

 高校へ進んだからといって、そこが変わる理由もない。

 

「境野君」

 

「ん?」

 

「今日、お昼どうする?」

 

「いつものところでいいんじゃない?」

 

「やっぱり?」

 

「真中が来るだろ」

 

 言った直後だった。

 

「境野!」

 

 廊下から聞き慣れた声が飛んできた。

 

「ほら」

 

「あはは……ほんとに来た」

 

 教室の入口を見ると、案の定、真中が立っていた。

 

「おはよ、境野。……西野も」

 

「おはよ、淳平君」

 

「お、おう」

 

 西野が笑う。

 

 それだけで真中の表情が少し緩んだ。

 

 分かりやすい。

 

「何しに来たんだ?」

 

「別にいいだろ。ちょっと来ただけだよ」

 

「八組から四組まで?」

 

「高校同じなんだから、それくらい普通だろ!」

 

「誰も普通じゃないとは言ってない」

 

「じゃあいいだろ!」

 

 何をムキになってるんだ。

 

「淳平君、もうすぐ授業始まるよ?」

 

「分かってるって。……あ、今日の昼どうする?」

 

「中庭でいいんじゃない?」

 

「じゃ、それで」

 

 目的あったじゃねえか。

 

 真中が戻ろうとして、ふと西野を見る。

 

「じゃあ……また昼な、西野」

 

「うん。またあとで、淳平君」

 

「おう」

 

 今度こそ真中が八組へ戻っていった。

 

 その背中を見送りながら、西野が小さく笑う。

 

「淳平君、わざわざそれ聞きに来たのかな」

 

「多分半分くらいはな」

 

「残り半分は?」

 

「西野の顔見に来たんじゃない?」

 

「……境野君」

 

「何?」

 

「そういうこと、さらっと言うよね」

 

「違うの?」

 

「違わないと思うけど……」

 

 西野が少し照れながら自分の席へ戻っていく。

 

 昼休み。

 

 俺と西野が教室を出ると、ちょうど三組の小宮山と鉢合わせた。

 

「お、境野!西野!」

 

「小宮山君」

 

「三組からわざわざ来たのか?」

 

「わざわざって何だよ!」

 

「いや、遠いだろ」

 

「友情に距離は関係ねえ!」

 

「同じ校舎内で大げさだな」

 

「境野、お前高校に入ってツッコミ厳しくなってねえ?」

 

「お前らが変わらないからだよ」

 

 三人で七組の方へ向かい、途中で大草とも合流する。

 

「今日は四人か」

 

「真中と東城は?」

 

「北大路とまた何かやってる」

 

「……また?」

 

 入学からまだ数日だぞ。

 

「何してんの?」

 

 西野が尋ねる。

 

「美化委員のことで揉めてた」

 

「ああ……」

 

 初日の真中を思い出す。

 

 どうやらあの二人、委員が同じになったことで接触する機会まで増えたらしい。

 

「淳平君、大丈夫かな」

 

「北大路の心配もしてやれよ」

 

「境野君、それどういう意味?」

 

「真中の相手する方も大変だろ」

 

「あ、それはそうかも」

 

 いないはずの真中の抗議が聞こえてきそうだった。

 

「何笑ってんだ?」

 

 大草に聞かれる。

 

「いや、何でもない」

 

 四人で八組へ向かう。

 

 教室を覗くと、真中と東城はまだ中にいた。

 

 そして少し離れたところには、北大路さつきもいる。

 

 真中と何やら言い合っていたらしく、二人とも微妙に不機嫌そうだ。

 

「淳平君」

 

 西野が声をかける。

 

「西野!」

 

 真中が振り返る。

 

 さっきまでの険しい顔が少しだけ緩んだ。

 

「何してるの?」

 

「いや、こいつが――」

 

「あんたが変なこと言うからでしょ!」

 

「言ってねぇ!」

 

「……仲いいな」

 

 俺が言う。

 

「「よくない!」」

 

 綺麗に重なった。

 

 一瞬、沈黙する。

 

「ほら、仲いいじゃん」

 

 西野が笑った。

 

「西野まで!?」

 

「違うって!」

 

 また重なった。

 

「やっぱり仲いいだろ」

 

「境野!」

 

「あんたも何なのよ!」

 

 今度は北大路の矛先がこっちに来た。

 

「境野新。四組」

 

「聞いてない!」

 

「何なのって聞かれたから」

 

「そういう意味じゃない!」

 

 なるほど。

 

 真中とぶつかるわけだ。

 

「北大路さん」

 

 東城が困ったように二人の間へ入る。

 

「みんな、お昼食べに来たみたいだから……」

 

「あ……そ」

 

 北大路が俺たちを見る。

 

 その視線が西野で止まった。

 

「その子は?」

 

「西野つかさです」

 

 西野が笑顔で答える。

 

「よろしくね、北大路さん」

 

「……あたしの名前知ってるの?」

 

「淳平君から聞いたから」

 

 北大路の目が真中へ向く。

 

「何であんたがあたしの話してんのよ」

 

「美化委員の愚痴だよ!」

 

「それ本人の前で言う!?」

 

「事実だろ!」

 

「淳平君」

 

 西野が呼ぶ。

 

「何?」

 

「お昼、行かない?」

 

「あ、行く」

 

 即答だった。

 

 北大路が呆れた顔をする。

 

「何なのよ、ほんと……」

 

「ご、ごめんね、北大路さん」

 

「だから何で東城さんが謝るの?」

 

「なんとなく……」

 

「東城も行こうぜ」

 

「う、うん」

 

 東城も弁当を持つ。

 

「じゃあ北大路さん、またね」

 

 西野が言うと、北大路は少し意外そうな顔をした。

 

「え?……うん」

 

 俺たちは八組を出る。

 

「西野、あいつには気をつけろよ」

 

 廊下へ出てから真中が言った。

 

「どうして?」

 

「すぐ怒るから」

 

「誰のせいだと思ってんのよ!」

 

 背後から北大路の声が飛んできた。

 

「ほら!」

 

「お前が聞こえるように言ったからだろ」

 

 高校生活が始まってまだ数日。

 

 八組は随分と賑やからしい。

 

 校舎に囲まれた中庭へ出る。

 

 その端には一本の木があり、木陰にはいくつかベンチが置かれていた。昼休みだから他の生徒の姿もあるが、六人で弁当を広げるくらいの場所は十分にある。

 

 入学してまだ数日。

 

 それでも何度かここで昼を食べているうちに、俺たちの間ではすでに「いつものところ」になりつつあった。

 

「それにしても」

 

 ベンチに腰を下ろした小宮山が、卵焼きを口に入れながら言う。

 

「高校入っても何も変わんねえな」

 

「クラスはバラバラになっただろ」

 

「そういう意味じゃねえよ」

 

 大草が笑う。

 

「確かに、昼になったら結局このメンバーだな」

 

「いいじゃん」

 

 真中が言った。

 

「せっかく全員同じ高校なんだし」

 

「そうだね」

 

 東城が頷く。

 

「私も……こういうの好きだし」

 

「俺も」

 

「境野が素直!?」

 

「何だよ小宮山」

 

「いや、お前なら『別にどっちでもいい』とか言うかと思った」

 

「そこまでひねくれてない」

 

「そうかなー」

 

 西野が笑っている。

 

「何?」

 

「別に?」

 

「その言い方やめろ」

 

 また笑われた。

 

 弁当を食べながら、俺は五人を眺める。

 

 小宮山は三組。

 

 俺と西野は四組。

 

 大草は七組。

 

 真中と東城は八組。

 

 中学の頃みたいに、朝から放課後まで同じ顔ぶれで過ごすわけじゃない。それぞれの教室で、それぞれ新しい知り合いができていく。

 

 それでも昼休みになれば、こうして中庭へ集まる。

 

 少し離れたからこそ、逆に分かることもあるのかもしれない。

 

「そういえば境野君」

 

 東城が俺を見る。

 

「ん?」

 

「四組、もう慣れた?」

 

「まあな」

 

「そっか」

 

「東城は?」

 

「私も……少しずつ」

 

「真中いるしな」

 

「う、うん」

 

 東城が頷く。

 

 けれど、その後で少しだけ迷ってから続けた。

 

「でも、中学の時とはやっぱり違うね」

 

「そりゃそうだろ」

 

「うん」

 

 それだけ言って、東城は弁当に視線を落とした。

 

 表情を見る限り、それだけでもなさそうだった。

 

 俺が四組になったことも、多少は関係しているのかもしれない。

 

 そう考える程度には、ここ数日の東城の視線は分かりやすかった。

 

 ただ、人間の気持ちは一つしか持てないわけじゃない。

 

 八組に真中がいることを嬉しく思うのと、俺とクラスが離れたことを残念に思うのは、別に矛盾しない。

 

 なら、無理にそれ以上の答えを出す必要もないだろう。

 

「東城さん」

 

 西野が声をかける。

 

「今度、四組遊びに来れば?」

 

「え?」

 

「休み時間。淳平君ばっかり来るし」

 

「俺、そんなに行ってねえだろ!」

 

「今日も来たじゃん」

 

「今日は昼の話しに行っただけだよ!」

 

「はいはい」

 

「信じてないだろ!」

 

 西野が楽しそうに笑う。

 

「東城さんも来ればいいじゃん」

 

「あ……うん」

 

 東城が少し笑った。

 

「行ってもいい?」

 

 なぜか俺を見た。

 

「俺に許可取る必要あるか?」

 

「そ、そうだけど」

 

「来ればいいだろ。西野もいるし」

 

「……うん」

 

 今度ははっきり笑った。

 

「じゃあ、行くね」

 

「おう」

 

「俺も行く!」

 

「真中はもう来てるだろ」

 

「じゃあ一緒に行く!」

 

「好きにしろよ」

 

「じゃあ俺も!」

 

「小宮山は三組にいろ」

 

「なんで俺だけ!?」

 

 中庭に、また笑い声が響いた。

 

 昼休みが終わる少し前。

 

「そろそろ戻るか」

 

 俺が立ち上がると、他のみんなも弁当を片づけ始めた。

 

 小宮山は三組へ、大草は七組へ。真中と東城は八組、俺と西野は四組。

 

 校舎へ戻ったところで、それぞれの教室へ分かれる。

 

「あ、境野君」

 

 八組へ向かおうとしていた東城が、足を止めた。

 

「どうした?」

 

「あの……」

 

 何か言いかけて、東城が少し迷う。

 

 真中たちは先に歩いていた。西野だけが俺の隣で足を止めている。

 

「部活のことなんだけど」

 

「部活?」

 

「うん」

 

 そういえば入学してから、部活動の案内を何枚か渡されていた。

 

「境野君は……高校でも文芸部、入る?」

 

「そのつもりだけど」

 

「……そっか」

 

 東城の表情が、ほんの少し緩んだ。

 

「東城もだろ?」

 

「うん。入りたいとは思ってる」

 

「なら一緒だな」

 

「……うん」

 

 そこで終わるのかと思ったが、東城はその場を動かなかった。

 

「あのね、境野君」

 

「ん?」

 

「今日……一緒に見に行かない?」

 

「文芸部?」

 

「うん」

 

 中学の文芸部とは違って、高校なら先輩もいるし、部員の数も多い。

 

 東城の性格を考えれば、一人で知らない部室へ行くのは多少勇気がいるだろう。

 

「いいよ」

 

「ほんと?」

 

「ああ。俺も見に行くつもりだったし」

 

「よかった……」

 

 東城がほっとしたように笑った。

 

 その反応に少し引っかかるものはあったが、理由まで決めつける必要はない。

 

 中学では同じ文芸部だった。

 

 高校でも同じ部活を考えている。

 

 だったら、一緒に見に行くのは何もおかしくない。

 

「じゃあ、また決めよう」

 

「うん」

 

「東城ー!次の授業始まるぞー!」

 

 廊下の向こうから真中の声が飛んでくる。

 

「あっ……じゃあ、またあとで!」

 

「おう」

 

 東城が小走りで八組へ向かっていく。

 

 その背中を見送っていると、

 

「ふーん」

 

 隣から声がした。

 

「何?」

 

 西野を見る。

 

「別に?」

 

「今日二回目だぞ、それ」

 

「そうだっけ?」

 

 西野は楽しそうに笑って、四組へ歩き出す。

 

「ほら境野君。私たちも戻ろ」

 

「ああ」

 

 その隣を歩きながら、ふと思う。

 

 クラスが変われば、付き合う人間も、過ごす場所も少しずつ変わっていく。

 

 それでも、全部が途切れるわけじゃない。

 

 むしろ離れたからこそ、自分から繋ごうとするものもある。

 

 高校での文芸部がどんな場所なのか。

 

 少しだけ、楽しみになった。




主人公の部活は一応、文芸部、調理部、映研の三つ掛け持ちになるかも。

では、また∠( ゚д゚)
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