『いちご100% ~名脇役は青春の主役になれるか~』 作:Gussan0
続き書けたで候。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
入学式から数日が経った。
初日はクラス分けを確認して、入学式に出て、教室で担任から一通りの説明を受ければ終わり――だったのだが、その短い時間にも印象に残ったことはいくつかある。
一つは、新入生代表として壇上に立ったのが東城だったことだ。
名前を呼ばれた瞬間、隣にいた西野が「あ、東城さん」と小さく声を漏らした。
壇上へ向かう東城は明らかに緊張していた。歩幅は普段より少し狭く、肩にも力が入っている。
それでも壇上に立ち、一礼して顔を上げてからはしっかりしていた。
静かな体育館に、東城の声が響く。
中学一年から知っている俺としては、少し意外でもあり、同時に納得もできる光景だった。
人前に出ることは今でも得意じゃない。
けれど、苦手だからできないという人間でもない。
終わって席へ戻ってきた東城は、目に見えてほっとしていた。
「東城さん、すごかったね」
式の後、西野がそう言った。
「ああ」
「境野君、なんか嬉しそう」
「そう見える?」
「ちょっとだけ」
否定する理由もなかった。
東城が頑張ったのだから、それを見て嬉しく思うくらいは普通だろう。
そして、もう一つ。
こっちは俺が直接見たわけではない。
帰りに合流した真中から聞かされた。
「なんでよりによってあいつと美化委員なんだよ!」
開口一番、それだった。
「知らないよ」
「北大路だよ!?北大路さつき!」
「名前はもう聞いた」
「あいつと一緒に仕事するとか絶対大変だって!」
「真中も向こうから同じこと思われてるんじゃない?」
「なんでだよ!」
八組では委員決めがあり、真中と北大路さつきが揃って美化委員になったらしい。
しかも八組の担任である黒川先生が、美化委員の担当でもあるという。
入学早々、ずいぶん綺麗に縁ができたものだ。
記憶にある流れと大きく外れてはいない。
西野が泉坂にいることと、俺がここにいることを除けば。
そんな入学初日から数日。
高校生活というものは、始まってしまえば案外あっさり日常になる。
朝起きて、朝飯を作って、制服に着替えて家を出る。泉坂高校までは近いから、中学時代と比べても通学に大きな負担はない。
教室に入れば、
「おはよ、境野君」
「おはよう」
西野がいる。
最初の二、三日は少し妙な感じもしたが、それにも慣れてきた。
中学二年の頃にも同じクラスだったからだろう。
「今日の一時間目って何だっけ?」
「英語」
「あ、そっか。ありがと」
「時間割くらい覚えろよ」
「まだ始まったばっかりじゃん」
「俺だって同じだよ」
「境野君は覚えるの得意だから参考にならないの」
そう言って、西野は自分の席へ戻っていく。
入学初日に言った通り、西野はあっという間にクラスへ馴染んだ。女子にはすでに何人か話す相手ができているし、男子からもよく声をかけられている。
まあ、中学時代から人気はあった。
高校へ進んだからといって、そこが変わる理由もない。
「境野君」
「ん?」
「今日、お昼どうする?」
「いつものところでいいんじゃない?」
「やっぱり?」
「真中が来るだろ」
言った直後だった。
「境野!」
廊下から聞き慣れた声が飛んできた。
「ほら」
「あはは……ほんとに来た」
教室の入口を見ると、案の定、真中が立っていた。
「おはよ、境野。……西野も」
「おはよ、淳平君」
「お、おう」
西野が笑う。
それだけで真中の表情が少し緩んだ。
分かりやすい。
「何しに来たんだ?」
「別にいいだろ。ちょっと来ただけだよ」
「八組から四組まで?」
「高校同じなんだから、それくらい普通だろ!」
「誰も普通じゃないとは言ってない」
「じゃあいいだろ!」
何をムキになってるんだ。
「淳平君、もうすぐ授業始まるよ?」
「分かってるって。……あ、今日の昼どうする?」
「中庭でいいんじゃない?」
「じゃ、それで」
目的あったじゃねえか。
真中が戻ろうとして、ふと西野を見る。
「じゃあ……また昼な、西野」
「うん。またあとで、淳平君」
「おう」
今度こそ真中が八組へ戻っていった。
その背中を見送りながら、西野が小さく笑う。
「淳平君、わざわざそれ聞きに来たのかな」
「多分半分くらいはな」
「残り半分は?」
「西野の顔見に来たんじゃない?」
「……境野君」
「何?」
「そういうこと、さらっと言うよね」
「違うの?」
「違わないと思うけど……」
西野が少し照れながら自分の席へ戻っていく。
昼休み。
俺と西野が教室を出ると、ちょうど三組の小宮山と鉢合わせた。
「お、境野!西野!」
「小宮山君」
「三組からわざわざ来たのか?」
「わざわざって何だよ!」
「いや、遠いだろ」
「友情に距離は関係ねえ!」
「同じ校舎内で大げさだな」
「境野、お前高校に入ってツッコミ厳しくなってねえ?」
「お前らが変わらないからだよ」
三人で七組の方へ向かい、途中で大草とも合流する。
「今日は四人か」
「真中と東城は?」
「北大路とまた何かやってる」
「……また?」
入学からまだ数日だぞ。
「何してんの?」
西野が尋ねる。
「美化委員のことで揉めてた」
「ああ……」
初日の真中を思い出す。
どうやらあの二人、委員が同じになったことで接触する機会まで増えたらしい。
「淳平君、大丈夫かな」
「北大路の心配もしてやれよ」
「境野君、それどういう意味?」
「真中の相手する方も大変だろ」
「あ、それはそうかも」
いないはずの真中の抗議が聞こえてきそうだった。
「何笑ってんだ?」
大草に聞かれる。
「いや、何でもない」
四人で八組へ向かう。
教室を覗くと、真中と東城はまだ中にいた。
そして少し離れたところには、北大路さつきもいる。
真中と何やら言い合っていたらしく、二人とも微妙に不機嫌そうだ。
「淳平君」
西野が声をかける。
「西野!」
真中が振り返る。
さっきまでの険しい顔が少しだけ緩んだ。
「何してるの?」
「いや、こいつが――」
「あんたが変なこと言うからでしょ!」
「言ってねぇ!」
「……仲いいな」
俺が言う。
「「よくない!」」
綺麗に重なった。
一瞬、沈黙する。
「ほら、仲いいじゃん」
西野が笑った。
「西野まで!?」
「違うって!」
また重なった。
「やっぱり仲いいだろ」
「境野!」
「あんたも何なのよ!」
今度は北大路の矛先がこっちに来た。
「境野新。四組」
「聞いてない!」
「何なのって聞かれたから」
「そういう意味じゃない!」
なるほど。
真中とぶつかるわけだ。
「北大路さん」
東城が困ったように二人の間へ入る。
「みんな、お昼食べに来たみたいだから……」
「あ……そ」
北大路が俺たちを見る。
その視線が西野で止まった。
「その子は?」
「西野つかさです」
西野が笑顔で答える。
「よろしくね、北大路さん」
「……あたしの名前知ってるの?」
「淳平君から聞いたから」
北大路の目が真中へ向く。
「何であんたがあたしの話してんのよ」
「美化委員の愚痴だよ!」
「それ本人の前で言う!?」
「事実だろ!」
「淳平君」
西野が呼ぶ。
「何?」
「お昼、行かない?」
「あ、行く」
即答だった。
北大路が呆れた顔をする。
「何なのよ、ほんと……」
「ご、ごめんね、北大路さん」
「だから何で東城さんが謝るの?」
「なんとなく……」
「東城も行こうぜ」
「う、うん」
東城も弁当を持つ。
「じゃあ北大路さん、またね」
西野が言うと、北大路は少し意外そうな顔をした。
「え?……うん」
俺たちは八組を出る。
「西野、あいつには気をつけろよ」
廊下へ出てから真中が言った。
「どうして?」
「すぐ怒るから」
「誰のせいだと思ってんのよ!」
背後から北大路の声が飛んできた。
「ほら!」
「お前が聞こえるように言ったからだろ」
高校生活が始まってまだ数日。
八組は随分と賑やからしい。
校舎に囲まれた中庭へ出る。
その端には一本の木があり、木陰にはいくつかベンチが置かれていた。昼休みだから他の生徒の姿もあるが、六人で弁当を広げるくらいの場所は十分にある。
入学してまだ数日。
それでも何度かここで昼を食べているうちに、俺たちの間ではすでに「いつものところ」になりつつあった。
「それにしても」
ベンチに腰を下ろした小宮山が、卵焼きを口に入れながら言う。
「高校入っても何も変わんねえな」
「クラスはバラバラになっただろ」
「そういう意味じゃねえよ」
大草が笑う。
「確かに、昼になったら結局このメンバーだな」
「いいじゃん」
真中が言った。
「せっかく全員同じ高校なんだし」
「そうだね」
東城が頷く。
「私も……こういうの好きだし」
「俺も」
「境野が素直!?」
「何だよ小宮山」
「いや、お前なら『別にどっちでもいい』とか言うかと思った」
「そこまでひねくれてない」
「そうかなー」
西野が笑っている。
「何?」
「別に?」
「その言い方やめろ」
また笑われた。
弁当を食べながら、俺は五人を眺める。
小宮山は三組。
俺と西野は四組。
大草は七組。
真中と東城は八組。
中学の頃みたいに、朝から放課後まで同じ顔ぶれで過ごすわけじゃない。それぞれの教室で、それぞれ新しい知り合いができていく。
それでも昼休みになれば、こうして中庭へ集まる。
少し離れたからこそ、逆に分かることもあるのかもしれない。
「そういえば境野君」
東城が俺を見る。
「ん?」
「四組、もう慣れた?」
「まあな」
「そっか」
「東城は?」
「私も……少しずつ」
「真中いるしな」
「う、うん」
東城が頷く。
けれど、その後で少しだけ迷ってから続けた。
「でも、中学の時とはやっぱり違うね」
「そりゃそうだろ」
「うん」
それだけ言って、東城は弁当に視線を落とした。
表情を見る限り、それだけでもなさそうだった。
俺が四組になったことも、多少は関係しているのかもしれない。
そう考える程度には、ここ数日の東城の視線は分かりやすかった。
ただ、人間の気持ちは一つしか持てないわけじゃない。
八組に真中がいることを嬉しく思うのと、俺とクラスが離れたことを残念に思うのは、別に矛盾しない。
なら、無理にそれ以上の答えを出す必要もないだろう。
「東城さん」
西野が声をかける。
「今度、四組遊びに来れば?」
「え?」
「休み時間。淳平君ばっかり来るし」
「俺、そんなに行ってねえだろ!」
「今日も来たじゃん」
「今日は昼の話しに行っただけだよ!」
「はいはい」
「信じてないだろ!」
西野が楽しそうに笑う。
「東城さんも来ればいいじゃん」
「あ……うん」
東城が少し笑った。
「行ってもいい?」
なぜか俺を見た。
「俺に許可取る必要あるか?」
「そ、そうだけど」
「来ればいいだろ。西野もいるし」
「……うん」
今度ははっきり笑った。
「じゃあ、行くね」
「おう」
「俺も行く!」
「真中はもう来てるだろ」
「じゃあ一緒に行く!」
「好きにしろよ」
「じゃあ俺も!」
「小宮山は三組にいろ」
「なんで俺だけ!?」
中庭に、また笑い声が響いた。
昼休みが終わる少し前。
「そろそろ戻るか」
俺が立ち上がると、他のみんなも弁当を片づけ始めた。
小宮山は三組へ、大草は七組へ。真中と東城は八組、俺と西野は四組。
校舎へ戻ったところで、それぞれの教室へ分かれる。
「あ、境野君」
八組へ向かおうとしていた東城が、足を止めた。
「どうした?」
「あの……」
何か言いかけて、東城が少し迷う。
真中たちは先に歩いていた。西野だけが俺の隣で足を止めている。
「部活のことなんだけど」
「部活?」
「うん」
そういえば入学してから、部活動の案内を何枚か渡されていた。
「境野君は……高校でも文芸部、入る?」
「そのつもりだけど」
「……そっか」
東城の表情が、ほんの少し緩んだ。
「東城もだろ?」
「うん。入りたいとは思ってる」
「なら一緒だな」
「……うん」
そこで終わるのかと思ったが、東城はその場を動かなかった。
「あのね、境野君」
「ん?」
「今日……一緒に見に行かない?」
「文芸部?」
「うん」
中学の文芸部とは違って、高校なら先輩もいるし、部員の数も多い。
東城の性格を考えれば、一人で知らない部室へ行くのは多少勇気がいるだろう。
「いいよ」
「ほんと?」
「ああ。俺も見に行くつもりだったし」
「よかった……」
東城がほっとしたように笑った。
その反応に少し引っかかるものはあったが、理由まで決めつける必要はない。
中学では同じ文芸部だった。
高校でも同じ部活を考えている。
だったら、一緒に見に行くのは何もおかしくない。
「じゃあ、また決めよう」
「うん」
「東城ー!次の授業始まるぞー!」
廊下の向こうから真中の声が飛んでくる。
「あっ……じゃあ、またあとで!」
「おう」
東城が小走りで八組へ向かっていく。
その背中を見送っていると、
「ふーん」
隣から声がした。
「何?」
西野を見る。
「別に?」
「今日二回目だぞ、それ」
「そうだっけ?」
西野は楽しそうに笑って、四組へ歩き出す。
「ほら境野君。私たちも戻ろ」
「ああ」
その隣を歩きながら、ふと思う。
クラスが変われば、付き合う人間も、過ごす場所も少しずつ変わっていく。
それでも、全部が途切れるわけじゃない。
むしろ離れたからこそ、自分から繋ごうとするものもある。
高校での文芸部がどんな場所なのか。
少しだけ、楽しみになった。
主人公の部活は一応、文芸部、調理部、映研の三つ掛け持ちになるかも。
では、また∠( ゚д゚)