いちご100% ~名脇役は青春の主役になれるか~   作:Gussan0

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どうもΣ(゚Д゚)

続き書けたで候。

では、どうぞ∠( ゚д゚)/


第二十話 描きたいもの

「……まあ、見るだけ見てみるか」

 

 真中はそう呟き、目の前の扉を開けた。

 

「失礼しまーす……」

 

 恐る恐る中を覗く。

 

 まず目に入ったのは、何台か並んだパソコンだった。画面には見慣れないソフトや作りかけの画像が映り、部員らしい生徒たちがそれぞれ作業をしている。

 

 真中が想像していた光景とは、かなり違った。

 

「……カメラは?」

 

「ん?」

 

 一人の部員が振り返った。

 

「あ、いや。ここ、コンピューターグラフィック部ですよね?」

 

「そうだけど。見学?」

 

「一応……」

 

 真中は室内を見回した。

 

 映像部。

 

 その名前から、ずっと想像していたものがあった。

 

 カメラがあって、脚本があって、役者がいて。みんなで一本の映画を作る。

 

 そんな場所を思い描いていた。

 

「黒川先生に、昔は映像部だったって聞いたんですけど」

 

「ああ、そうらしいね」

 

「今は映画とか撮ってないんですか?」

 

「映画?」

 

 聞かれた部員が少し考える。

 

「映像作品なら作ることもあるけど、実写映画はほとんどやらないかな」

 

「……そうですか」

 

 真中の肩が少し落ちる。

 

 もちろん、CGが嫌いなわけじゃない。

 

 映画にもCGは使われる。それくらいは真中にも分かる。

 

 ただ――違う。

 

 自分がやりたいのは、こういう映像だけじゃない。

 

 自分でカメラを持って、自分で撮る場所を決めて、役者に演じてもらって、一本の映画を作りたい。

 

「見学してく?」

 

「あ……はい。せっかく来たんで」

 

 黒川先生にも言われた。

 

 見もしないで決めるのは違う。

 

 真中は空いている椅子へ座り、部員から簡単に説明を受けた。

 

 画像を作る。加工する。それを組み合わせ、動きをつける。映像として編集する。

 

「へえ……」

 

 説明を聞いているうちに、真中も少しずつ画面へ顔を近づけていた。

 

「これ、結構すごいですね」

 

「だろ?」

 

「ここ動かすの、どうやるんですか?」

 

「これは――」

 

 興味がないわけじゃない。

 

 むしろ面白い。

 

 映像を作るという意味では、知らなかったことも多かった。

 

 けれど見学を終えて部室を出た真中は、廊下で一度振り返った。

 

『コンピューターグラフィック部』

 

「……違うんだよなあ」

 

 面白かった。

 

 すごいとも思った。

 

 それでも、自分がやりたいこととは違う。

 

「俺は、映画が撮りたいんだよ」

 

 誰に聞かせるでもなく、真中は呟いた。

 

 翌日の昼休み。

 

「で、どうだった?」

 

 いつもの中庭。木陰のベンチ周辺に集まり、弁当を広げたところで真中に聞くと、あいつは難しい顔をした。

 

「CG部?」

 

「ああ」

 

「すごかった」

 

「おお」

 

 小宮山が反応する。

 

「じゃあ入るのか?」

 

「いや」

 

「どっちだよ」

 

「すごいのと、俺がやりたいのは別なんだよ!」

 

 真中が力説する。

 

「CGで映像作ったりしててさ。面白かったし、映画にも使えると思う。でも……俺が撮りたいのは、そういうのだけじゃなくて」

 

「実写の映画?」

 

 東城が尋ねる。

 

「そう!」

 

 真中が大きく頷いた。

 

「カメラ持って、役者がいて、脚本があって……そういう映画!」

 

「前に言ってたやつだな」

 

「ああ」

 

 受験勉強をしていた頃から、真中は何度も映画の話をしていた。

 

 高校に入ったら映画を撮りたい。

 

 そのために映像部へ入りたい。

 

 けれど、肝心の映像部はもう存在しなかった。

 

「じゃあ、淳平君どうするの?」

 

 西野が聞く。

 

「それなんだよな……」

 

 真中が箸を止める。

 

「他に映画撮ってる部活ないの?」

 

「今のところ見つかってない」

 

「そっか……」

 

「真中君……映画、撮れないの?」

 

 東城が心配そうに聞く。

 

「いや、諦める気はないよ」

 

 そこだけは真中も即答した。

 

「せっかく泉坂入ったんだし。何か方法探す」

 

「そっか」

 

 東城の表情が少し和らぐ。

 

 俺もそれでいいと思う。

 

 何をするかは真中が決めればいい。

 

 映画を撮りたいのは、真中なのだから。

 

「……映画か」

 

 不意に小宮山が呟いた。

 

「ん?」

 

「いや、何でもねえ」

 

「何だよ。気になるだろ」

 

「だから何でもねえって」

 

 小宮山はそう言って弁当へ戻る。

 

 だが、その横顔を見た瞬間、記憶の奥に引っかかるものがあった。

 

 ――そういえば。

 

 原作では、この頃だったか。

 

 真中が入ろうとしていた映像部はすでになくなっていて、その後、新しく映像研究会が作られる。

 

 そこに関わっていたのが、真中と小宮山。そして――外村ヒロシ。

 

 まだ俺は会ったことがない。

 

 だが、名前も、どんな奴だったかも覚えている。

 

 確か、表向きは映像の研究や制作。

 

 その一方で、外村には美少女を見つけて育てるだとか、随分と欲望に忠実な目的もあったはずだ。

 

 ……改めて考えると、とんでもない研究会だな。

 

「境野君?」

 

「ん?」

 

 西野に呼ばれ、意識を戻す。

 

「何か変な顔してるよ?」

 

「いや。ちょっと思い出しただけ」

 

「何を?」

 

「大したことじゃない」

 

 誤魔化しながら小宮山を見る。

 

 俺の記憶通りなら、この先あいつは外村と一緒に映像研究会の立ち上げに関わり、真中もそこへ加わっていく。

 

 ただし、同じようになるとは限らない。

 

 俺がいる。

 

 西野も泉坂にいる。

 

 真中と小宮山だって、原作とは違って最初から普通に合格している。

 

 ここまでですでに、小さな違いはいくつも生まれていた。

 

 知っている物語は、参考にはなる。

 

 けれど、答えにはならない。

 

 目の前にいるのは漫画の登場人物じゃない。

 

 俺にとっては、もう普通に付き合ってきた友人たちだ。

 

「境野、本当にどうした?」

 

 今度は真中が聞いてくる。

 

「何でもないって」

 

「怪しいな」

 

「お前に言われたくない」

 

「何でだよ!」

 

 真中が騒ぎ始める。

 

 その隣で、小宮山はまだ何かを考えているようだった。

 

 俺はそれ以上何も言わなかった。

 

 もし記憶通りなら、近いうちに分かることだ。

 

 放課後。

 

 文芸部の部室へ入ると、すでに何人かの部員が集まっていた。

 

「こんにちは」

 

「こ、こんにちは」

 

 隣の東城が少し緊張した声で続く。

 

 今日から俺たちも正式な部員だ。

 

「来たね」

 

 五十嵐部長がこちらを見る。

 

「ちょうどよかった。二人とも座って」

 

 言われた通り席につくと、俺と東城の前へ一枚ずつ紙が置かれた。

 

「新入部員には、最初に一つ書いてもらうことにしてるの」

 

「小説ですか?」

 

「そう。短いものでいいから、この課題に沿って一本」

 

 東城の表情が変わった。

 

 さっきまでの緊張が少し消え、代わりに紙へ意識が集中する。

 

 書くこととなると違うらしい。

 

「境野君もね」

 

「やっぱり俺もですか」

 

「文芸部員でしょう?」

 

「ですよね」

 

 横を見ると、東城が小さく笑っていた。

 

「何だよ」

 

「ううん。境野君が小説書くの、ちょっと楽しみ」

 

「期待するなよ。書いたことないぞ」

 

「私も読みたい」

 

「だから期待するなって」

 

「ふふっ」

 

 さて。

 

 何を書くか。

 

 課題を見ながら、頭の中で登場人物を組み立てる。

 

 主人公。その友人。置かれている状況。

 

 誰が何を知っていて、何を知らないのか。

 

 この人物なら、ここで何を言う。何を言わない。どこを見る。どう立つ。どう呼吸する。

 

 人物が嘘をつく場面を書こうとして、鉛筆が止まった。

 

 台詞だけなら、いくらでも思いつく。

 

 問題は、その時に人間がどう動くかだ。

 

 視線。呼吸。指先。声の高さ。言葉を発するまでの、ほんのわずかな間。

 

 ――こういうところは、昔から変わらない。

 

 正確には、八歳のあの日からだ。

 

 前世の記憶を思い出した時、最初はただ混乱した。

 

 知らないはずの撮影所を知っている。会ったこともない人間の顔を覚えている。台本の読み方も、カメラの前での立ち方も、声の作り方も分かる。

 

 一人の人間が一生かけて積み重ねた記憶が、八歳の俺の中へ一気に戻ってきた。

 

 だが、変わったのは記憶だけじゃなかった。

 

 それまで意識していなかったものまで、妙にはっきり捉えられるようになった。

 

 一度見た景色が細部まで頭に残る。

 

 人混みの中でも、一度意識した人間を見失わない。

 

 表情、声、歩き方。人間が無意識に見せる小さな変化まで、以前よりずっと多く拾える。

 

 何かが起こりそうな時には、周囲の状況からいくつもの可能性が勝手に頭へ浮かぶ。

 

 そして、自分の身体が今どこにあって、どう動けばいいのかも、以前とは比べものにならないほど正確に分かるようになった。

 

 前世の俺に、こんな力はなかった。

 

 役者として長く生きる中で鍛えた観察眼や記憶力はあったが、それは経験の積み重ねだ。

 

 今のこれは、それだけじゃ説明できない。

 

 おそらく前世の記憶が戻ったことがきっかけで、この身体――境野新が元々持っていた何かまで、一緒に目を覚ました。

 

 そう考えるのが一番しっくりきた。

 

 もっとも、未来が見えるわけじゃない。

 

 何でも分かるわけでもない。

 

 見ていないものは分からないし、材料が足りなければ予測も外れる。

 

 まして、人の気持ちなんて答えが一つとは限らない。

 

 ただ、人より多くの情報を拾って、覚えて、組み合わせて、自分の身体へ反映できる。

 

 それだけだ。

 

 ――その「それだけ」が普通じゃないことくらいは、俺も分かっている。

 

 鉛筆を動かす。

 

 嘘をついた男が、一瞬だけ相手から視線を逸らす。

 

 直後、誤魔化すように笑う。

 

 その笑い方を文章にして、読み返す。

 

「……やっぱり脚本っぽいな」

 

「え?」

 

「いや、何でもない」

 

 東城がこちらを見るが、誤魔化して続きを書く。

 

 演じることと、書くことは違う。

 

 頭の中には人物が立っている。声も聞こえる。動きも分かる。

 

 だが、それを文章だけで読者に見せるとなると、勝手が違った。

 

 横を見る。

 

 東城は完全に自分の世界へ入っていた。

 

 鉛筆が止まっては動き、少し考えて、また書き始める。

 

 なるほど。

 

 これは俺より、あいつの領分だ。

 

 数日後。

 

 俺と東城は、それぞれ書き上げた課題を五十嵐部長へ提出した。

 

 先に返されたのは東城の方だった。

 

「東城さん。やっぱり文章を書くのが好きなんだね」

 

「え?」

 

「読んでて分かる。情景も綺麗だし、主人公の気持ちの変化も丁寧」

 

「あ、ありがとうございます……!」

 

 東城の顔がぱっと明るくなる。

 

「ただ、ここ」

 

 五十嵐部長が原稿の一箇所を指す。

 

「少し説明しすぎかな。もう前の場面で、この子がどう感じてるかは伝わってるから」

 

「あ……」

 

「全部書かなくても、読んでる人に任せていいところもあるよ」

 

「はい」

 

 東城が真剣な顔で頷く。

 

 嬉しそうだ。

 

 褒められたからというだけじゃない。自分の文章をきちんと読んでもらい、具体的な言葉を返してもらえること自体が嬉しいんだろう。

 

「次、境野君」

 

「はい」

 

 五十嵐部長が俺の原稿を捲る。

 

「……面白いね」

 

「それはよかったです」

 

「文章そのものは、まだちょっと硬いかな。それと……ト書きっぽくなるところがある」

 

「……ですよね」

 

「分かってた?」

 

「書いてる途中で」

 

 長年読んできたのは、小説より台本の方が圧倒的に多い。

 

 癖というものは恐ろしい。

 

「でも、会話はすごく自然。それと人物の動きが細かい。台詞を言う前に指を動かすとか、視線を逸らすとか」

 

 五十嵐部長が原稿を捲っていく。

 

「よく人を見てるんだね」

 

「まあ……人を見ることは好きなので」

 

 仕事だった、とまでは言えない。

 

「ただ――境野君」

 

「はい」

 

「主人公より、この友達の方が生き生きしてない?」

 

「…………」

 

 東城が俺の原稿へ視線を落とす。

 

 俺も見る。

 

 主人公を助ける友人。

 

 物語の途中で背中を押し、最後には主人公を送り出す役だ。

 

「……言われてみれば」

 

「この人だけ人物像が妙にはっきりしてるんだよね。台詞も一番自然だし」

 

「そんなつもりはなかったんですけど」

 

「無意識か」

 

「みたいですね」

 

 思わず苦笑する。

 

 前世で何十年もやってきたことが、小説を書いてまで出るとは思わなかった。

 

 主役を食うつもりはない。

 

 主役が一番輝くように、自分の役割を果たす。

 

 それが俺の仕事だった。

 

 ――名脇役。

 

 昔、何度そう呼ばれただろう。

 

「でも、面白い個性だと思うよ」

 

 五十嵐部長が原稿を返してくる。

 

「小説なら、主人公も脇役も全部自分で作ることになるからね。境野君が主人公をどう書くようになるか、ちょっと楽しみ」

 

「……頑張ります」

 

 何となく、妙な宿題を出された気分だった。

 

 部活が終わった後、俺と東城は互いの原稿を交換した。

 

 近くの窓際で読み、先に俺が顔を上げる。

 

「……やっぱり上手いな」

 

「えっ」

 

「景色が浮かぶ。主人公の気持ちが変わっていくところも自然だった」

 

「ほ、本当?」

 

「ああ。ただ、ここは俺も部長と同じこと思った。この前でもう気持ちは伝わってるから、こっちはなくても分かる気がする」

 

「……そっか」

 

 東城が俺の指した場所を見る。

 

「うん。直してみる」

 

「参考程度にな」

 

「ううん。境野君の感想、聞きたかったから」

 

「そう?」

 

「うん」

 

 そう答えてから、東城は再び俺の原稿へ視線を落とした。

 

「私もね、五十嵐部長が言ってたこと、ちょっと分かる」

 

「脇役?」

 

「うん。でも……境野君らしいと思った」

 

「どこが?」

 

「この友達の人」

 

「そっち?」

 

「うん。主人公のこと、ずっと見てるでしょう?」

 

 言われて原稿を見る。

 

「困った時に助けるけど、代わりにはやらないし。最後も、自分が前に出るんじゃなくて、主人公に行かせてあげる」

 

「……そう書いたな」

 

「すごく優しく書かれてる」

 

「…………」

 

「だから、境野君らしいなって」

 

 東城はそう言って、俺の原稿を大事そうに揃えた。

 

 前世なら、最高の褒め言葉だったかもしれない。

 

 主役を支える人間を上手く描けた。

 

 名脇役だった俺には、これ以上ないくらい似合っている。

 

 なのに、五十嵐部長の言葉が妙に頭へ残った。

 

『境野君が主人公をどう書くようになるか、ちょっと楽しみ』

 

 主人公、か。

 

 俺はこれまで、数え切れないほどの主人公を見てきた。その隣に立ってきた。支えてきた。

 

 けれど、自分で主人公を書くとなると、どうにも勝手が違うらしい。

 

「境野君?」

 

「いや。小説って難しいな」

 

「……うん。でも、楽しいよ」

 

「それは分かる」

 

 俺も少し笑った。

 

 演じるのとは違う。台本を読むのとも違う。

 

 自分で人物を作り、自分で物語を進ませる。

 

 それも案外、悪くない。

 

 ただ――主人公より脇役の方が生き生きしている。

 

 その指摘だけは、しばらく忘れられそうになかった。




ちょっと長くなったので分けます。

またできたら投稿しますー。

では、また∠( ゚д゚)
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