『いちご100% ~名脇役は青春の主役になれるか~』 作:Gussan0
続き書けたで候。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
映像研究会ができた。
そう聞いた翌日から、真中たちは早速動き始めたらしい。顧問は黒川先生。必要な書類を揃え、活動場所についても空いている教室を使えるよう調整してもらっているという。
もっとも、研究会を作ったからといって、すぐ映画が撮れるわけじゃない。
何を撮るのか。誰が何をするのか。必要なものは何か。決めることはいくらでもある。
――俺には、そこまで関係ないけど。
少なくとも、そのつもりだった。
昼休み。
いつもの中庭へ行くと、西野、東城、小宮山、大草が先に来ていた。そして、その中には北大路もいる。
昨日までなら少し違和感があったかもしれない。今はもう、東城の隣で弁当を広げている姿も普通に見えた。
「境野君、こっち」
「ああ」
西野の隣に腰を下ろす。
「遅いぞ境野」
「まだ昼休み始まったばっかりだろ」
「俺は腹減ってんだよ」
「それと俺が遅いのは関係ないだろ、大草」
弁当を開いたところで、校舎の方から声が飛んできた。
「おーい!」
真中だ。その横には、もう一人いる。
「よう」
「外村?」
昨日紹介されたばかりの外村ヒロシだった。
「外村君も一緒なんだ」
「俺が誘ったんだ」
真中が答えながら座る。
「どうせ放課後も研究会の話するしさ。昼も一緒でいいかなって」
「お邪魔しますよっと」
外村も当然のように空いている場所へ座った。
「馴染むの早いな、お前」
「遠慮して何になる。それに――」
外村が周囲を見回す。西野、東城、北大路。その三人で視線が一瞬ずつ止まった。
「なるほど。真中が毎日ここに来る理由がよく分かった」
「お前、絶対変なこと考えただろ!」
「何のことかな」
「顔に出てんだよ!」
「朝からうるさいわね、あんたたち」
北大路が呆れたように言う。
「北大路さん、俺まで一緒にしないでくれ」
「昨日から見てたら大体同類でしょ」
「酷い!」
「外村、諦めろ。さつきちゃん相手にそのノリは通じないぜー」
小宮山が肩を叩く。
「そういう情報は先に教えてくれよ」
「昨日三回断られて分かれよ」
真中が突っ込み、西野と東城が笑う。
外村まで普通に会話へ混ざっている。北大路の時もそうだった。
誰かが「今日から仲間」と決めたわけじゃない。真中が連れてきて、同じ場所で飯を食って、くだらない話をする。それだけで、少しずつ輪の形は変わっていく。
「そういえば真中。映像研究会、本当に作ったんだって?」
大草が聞いた。
「おう!」
「早かったな」
「外村が手続きとか調べてたからな」
「そこはもっと褒めていいぞ」
「美少女目当てだけどな」
「それとこれとは別問題だ」
「否定しねえんだ……」
大草が苦笑する。
「大草もどうだ? 映像研究会」
「俺はサッカー部あるから無理。でも、時間合えば手伝うぞ。機材運びとかなら」
「十分十分」
外村が満足そうに頷く。
「やっぱり真中の人脈は使える」
「人を資源みたいに言うな!」
「でも境野も手伝うんだろ?」
「必要な時だけな」
「ほら」
「ほら、じゃない」
西野がくすくす笑う。
「境野君、もう諦めた方がいいんじゃない?」
「何をだ」
「巻き込まれること」
「まだ何も始まってないだろ」
「これから始まるんだよ!」
真中が身を乗り出した。
「それで境野。今日の放課後、空いてるか?」
「空いてない」
「即答!?」
「今日は調理部」
「え?」
真中が瞬く。
「境野、調理部入ったの?」
「言ってなかったか?」
「聞いてねえよ!」
「私も今日だよ」
隣で西野が笑う。
「え!? 二人とも!?」
「同じ部なんだから一緒になる日くらいあるだろ」
「いや、そうだけど……」
なぜか真中が俺と西野を交互に見る。
「何だよ」
「別に」
「淳平君?」
「何でもないって!」
西野が首を傾げる。
「それに今日は、新入部員の課題があるから」
「課題?」
東城が聞く。
「うん。新しく入った一年生は、一人一品作るんだって」
「何でもいいの?」
「基本はね。普段ある料理を元にしてもいいけど、材料とか味付けとか盛り付けとか、どこかに自分なりの工夫を入れること、だって」
「面白そう」
「境野君、何作るの?」
「まだ秘密」
「決めてるんだ?」
「まあな」
「西野は?」
真中が聞く。
「私はお菓子。せっかくだから作ってみたいなって」
西野の表情が少し弾む。
「普通に作るだけじゃなくて、見た時にちょっと嬉しくなるようなのがいいかなって思ってる」
「見た時?」
「同じくらい美味しいなら、可愛い方が楽しくない?」
「西野さんらしいね」
東城が笑った。
「で、境野」
「何だ」
「調理部終わったら来られないか?」
真中はまだ諦めていなかった。
「映像研究会の方?」
「おう。最初の企画会議するんだ」
「終わってまだやってたらな」
「よし!」
「行くとは言ってない」
「西野も!」
「私は……時間あったらね」
「東城は?」
「今日は文芸部ないから大丈夫」
「よし!」
そして真中の視線が北大路へ向く。
「さつきは?」
「私は関係ないでしょ」
「昨日、出演頼まれてただろ?」
「断ったわよ」
「見るだけでも――」
「……気が向いたらね」
「え?」
「何よ」
「いや。昨日は『嫌』しか言ってなかったから」
「うるさいわね! 行くとは言ってないでしょ!」
「分かったって!」
そのやり取りを外村が興味深そうに見ている。
「外村」
「ん?」
「余計なこと考えるなよ」
「境野、お前は俺を何だと思ってる」
「策士」
「褒め言葉として受け取っておこう」
否定しないのか。
六人だった昼休みの輪は、気づけば北大路が入り、外村まで増えている。
こうやって少しずつ変わっていくんだろう。
放課後。
「じゃあ始めましょうか」
調理部の先輩の声で、新入部員たちがそれぞれの調理台へ分かれた。
活動自体は週に何度かあるが、毎回参加する必要はない。最低でも週に一度きちんと参加すればいいらしい。一人暮らしの俺としてはありがたい。文芸部との両立もしやすいし、これから映像研究会にどれだけ巻き込まれるかも分からない。
――いや、映像研究会は部員じゃないけど。
「新入部員の皆には、今日は一人一品作ってもらいます」
説明は昼に西野が話した通りだった。既存の料理を参考にして構わない。ただし、どこか一つには自分なりの工夫を入れる。完成したら簡単に説明して、先輩たちに試食してもらう。
「境野君」
「ん?」
「何作るの?」
隣の調理台から西野が覗いてくる。
「もう材料出してるだろ」
「見てもまだ分かんない」
「出来てからのお楽しみ」
「えー」
「西野こそ」
西野の前には小麦粉、卵、砂糖、バター。それに果物がいくつか並んでいる。
「焼き菓子?」
「うん。小さいタルトにしてみようかなって」
「初回から結構やるな」
「せっかくだもん」
楽しそうだ。料理そのものより、完成した形を頭の中で思い描いているように見える。
俺も自分の作業へ戻った。
作るのは、鶏肉と野菜を使った炊き込みご飯。それに薄焼き卵を合わせる。
特別豪華な料理じゃない。普段から食べられて、冷めても味が落ちにくく、余った材料も別の料理に回せる。一人暮らしなら、そういう料理の方が役に立つ。
「境野君、手際いいね」
「毎日作ってるからな」
「それにしても早くない?」
「段取り決めてから始めればこんなもんだろ」
「そうかなぁ」
西野はそう言いながら、自分のタルト生地と格闘している。
「……あ」
「どうした?」
「ちょっと厚さ違う」
「本当だな」
「やっぱり揃えた方が綺麗だよね」
「味にはそこまで影響しないと思うけど」
「でも、並べた時にバラバラなの嫌じゃない?」
西野は少しずつ生地の形を整えていく。焼き上がった後も同じだった。
「イチゴ、こっちかな」
「さっきから何回動かしてるんだ」
「だってこっちの方が可愛くない?」
「俺に聞くなよ」
「境野君だったらどっち?」
「……右」
「やっぱり?」
嬉しそうに笑う。
味だけじゃない。形や色、並べ方。西野はそういう部分まで楽しんでいる。
「できた!」
完成した小さなタルトを、西野が満足そうに眺める。
「どう?」
「いいんじゃないか」
「それだけ?」
「綺麗にできてるし、美味そう」
「ふふっ。ありがと」
試食でも評判は良かった。俺の炊き込みご飯も、派手さはないが食べやすさと工夫を評価された。
「境野君らしいね」
帰り支度をしながら西野が言う。
「何が?」
「毎日食べられそうな料理」
「褒めてる?」
「褒めてるよ」
「ならいいけど」
「私のは?」
「西野らしいんじゃないか」
「どこが?」
「見た目までずっと気にしてただろ」
「あ……」
西野が自分の作ったタルトを見る。
「そうかも」
そして少し笑った。
「なんか楽しかった」
「なら調理部入って正解だったな」
「うん」
まだ、それだけだ。
将来の夢だとか、そんな大きな話じゃない。ただ今日、お菓子を作るのが楽しかった。
それで十分なんだろう。
「で、どうする?」
調理部を出た西野が俺を見る。
「何が?」
「淳平君たち」
「……まだやってるかな」
「見に行くだけ行ってみない?」
時計を見る。まだ完全下校までは時間がある。
「そうするか」
「うん」
真中から聞いていた空き教室へ向かう。廊下を進んでいると、目的の教室から声が聞こえてきた。
「だから、最初から長いのは無理だって!」
「でも映画なら長い方が――」
「経験も機材もないんだぞ!」
「そこを何とか!」
「何とかでどうにかなったら苦労しない!」
「……やってるね」
「ああ」
西野が扉を開ける。
「まだやってる?」
「西野!」
真中が振り返る。
「境野も!」
「ちょっと見に来ただけだぞ」
「おう、入れ入れ!」
「聞けよ」
中には真中、小宮山、外村、東城。
そして。
「遅かったわね」
「……北大路?」
「何よ」
「いや」
普通にいる。
「北大路さんも来てたんだ」
「たまたまよ。帰ろうとしたら真中に見つかっただけ」
「さつき、結構前からいるぞ」
「真中!」
「本当のことだろ!」
「うるさい!」
また始まる。
「それより境野」
外村が机を指した。
「ちょうどいい。意見聞かせてくれ」
「何で俺なんだ」
「真中が長編を撮りたいって聞かない」
「映画なんだから映画らしいの撮りたいだろ!」
「最初から長編は無理だ」
俺が言う。
「境野まで!?」
「人数は少ない。機材もない。撮影経験もない。編集だってこれからだろ。最初は五分か十分くらいで一本完成させた方がいいんじゃないか」
外村が俺を見る。
「俺とほぼ同じ意見だな」
「普通に考えればそうなるだろ」
「そうか?」
「そうだろ」
「……まあいい」
外村はまだ何か言いたそうだったが、紙へ視線を戻した。
「じゃあ短編。登場人物も少なめ。撮影場所も学校か近場」
「それなら……」
東城がノートを開く。
「私、考えてみる」
「東城?」
「短いお話なら、書いてみたい」
真中の顔が明るくなる。
「本当か!?」
「うん。でも脚本は初めてだから、上手くできるか分からないよ?」
「大丈夫だって!」
「真中君は、どんな話が撮りたい?」
「俺?」
「監督なんでしょう?」
真中が黙った。
映画を撮りたい。それは何度も聞いている。けれど、何を撮りたいのか。そこまではまだ形になっていないらしい。
「俺は……見終わった後に、何か残る映画が撮りたい」
「何か?」
「面白かったでも、悲しかったでも、もう一回見たいでもいい。何でもいいから……見た奴の中に何か残るやつ」
東城が真中を見る。
「……うん」
そしてノートへ何かを書き込んだ。
「考えてみる」
「頼む!」
嬉しそうな真中。それを見て、東城も嬉しそうに笑う。
真中が撮りたいものを決める。東城が物語を作る。
俺がやることはない。
そう思った。
「ところで境野」
「何だ、外村」
「撮影機材、詳しい?」
「…………」
「今の間は何だ」
「何で俺が詳しい前提なんだよ」
「何となく。カメラ触ったことは?」
ある。
前世なら、数え切れないほど。
「……多少は」
「やっぱり」
「家庭用だぞ」
「それでもいい」
外村が笑う。
「黒川先生が、旧映像部の機材が倉庫に残ってるかもしれないって言ってたんだ」
「旧映像部?」
「ああ。明日確認しに行く」
「それで?」
「境野も来い」
「何でそうなる」
「多少でも触ったことある奴がいた方がいい」
「俺は部員じゃない」
「知ってる」
「なら――」
「手伝いだろ?」
「…………」
「明日、よろしく」
「勝手に決めるな」
「境野君」
西野が隣で笑う。
「また巻き込まれてるね」
「……否定できなくなってきた」
「ふふっ」
外村は満足そうに紙へ何かを書き足している。真中は東城と映画の話を続け、北大路は興味がないと言いながら帰ろうとしない。小宮山は必要なものを整理し、西野も自然にその輪へ入っていく。
そして俺も、その中に立っている。
文芸部。
調理部。
映像研究会。
最後の一つだけは、まだ俺の部活じゃない。
――あくまで、手伝いだ。
明日、倉庫へ行って機材を見る。
それだけだ。
書けたらまた投稿しますー。
では、また∠( ゚д゚)