『いちご100% ~名脇役は青春の主役になれるか~』 作:Gussan0
続き書けたで候。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
翌日の放課後。
「よし、全員いるな!」
「何でお前が仕切ってるんだ、真中」
「いいだろ別に!」
「映画監督様だからな」
小宮山が横から茶化す。
「まだ一本も撮ってねえよ!」
「じゃあ自称映画監督様」
「悪化してんじゃねえか!」
校舎の一角で、俺は真中たちと合流していた。
真中、小宮山、外村、東城。それに俺。
北大路と西野は今日は来ていない。そもそも二人とも映像研究会の部員ではないし、俺だって同じだ。
「境野君、本当に来たんだ」
東城が少し嬉しそうに言う。
「昨日、外村に勝手に決められたからな」
「でも来た」
「……東城まで西野みたいなこと言うようになったな」
「ふふっ」
「おい境野、こっちだ」
外村に呼ばれ、廊下の奥へ向かう。
今日の目的は撮影じゃない。機材の確認だ。
泉坂高校には以前、映像部が存在していた。その後、活動内容が変わって現在のコンピューターグラフィック部になったらしいが、当時使われていた機材の一部がまだ学校に残されているという。
「使えるの残ってるといいな!」
真中が楽しそうに言う。
「カメラは絶対欲しいな」
小宮山も続く。
「あと照明とかマイクとか!」
「そして美少女」
外村が言った。
「それは機材じゃないだろ」
「でも必要だろ?」
「必要だな」
小宮山が即答した。
「何でお前まで乗るんだよ」
「何言ってんだ境野。映画だぞ?華は必要だろ」
「話が分かるな、小宮山」
「おう」
外村と小宮山が固く握手する。
「お前ら意気投合するところ間違えてるぞ」
「俺はちゃんと映画撮りたいんだからな!」
真中が怒鳴った。
「お前はお前で落ち着け」
やがて俺たちは校舎の端にある倉庫へ着いた。その前には黒川先生が立っていた。
「遅いぞ、お前ら」
「すみません!」
「まあいい。鍵開けるぞ」
黒川先生が扉を開ける。中から埃っぽい空気が流れてきた。
「うわ……」
東城が思わず一歩下がる。
「お宝の匂いがするな」
「埃の匂いだろ、小宮山」
「夢がないな境野!」
「さっき真中にも言われたよ」
折り畳み机、椅子、古い看板、文化祭で使ったらしい大道具。色々な物が押し込まれている。
「先生、本当にここにあるんですか?」
「たぶんな」
「たぶん!?」
「私が片付けたわけじゃないからな」
黒川先生は悪びれもしない。
「終わったら呼びにこい」
そう言うと、黒川先生は職員室へと戻っていった。
「奥の方に『映像部』って書いた箱があったはずだ。自分たちで探せ」
「よし!宝探しだ!」
「小宮山、目的変わってるぞ!」
「使えそうなもん全部持って帰ろうぜ!」
「学校の備品だ!」
真中と小宮山が騒ぎながら入っていく。
「東城、埃すごいから気をつけろよ」
「う、うん」
俺たちも後に続いた。
「おっ、これじゃねえか!?」
しばらくして小宮山が段ボール箱を引っ張り出した。
側面に薄く『映像部備品』と書かれている。
「あった!」
「開けようぜ!」
「待て真中!俺が見つけたんだから俺が開ける!」
「どうでもいいだろ!」
「第一発見者の権利だ!」
「遺跡じゃないんだぞ」
結局二人で箱を開く。
中にはケーブル類とテープ、ケースに入った何かがいくつか残っていた。
真中が大きめのケースを持ち上げる。
「これ、カメラじゃないか?」
「開けろ開けろ!」
留め具を外すと、中からビデオカメラが出てきた。
「おお……!」
「おおおお!」
真中と小宮山の声が重なる。
家庭用より少し大きいデジタルビデオカメラ。新しいとは言えないが、撮影に使えないほど古いものでもない。
MiniDVか。
「これで撮れるのか!?」
真中が早速手を伸ばす。
「待て」
「え?」
「無理に動かすな」
気づいた時には口が出ていた。
「何年も放置されてたんだろ。先に状態を見た方がいい」
「状態?」
「バッテリーとか、テープの駆動部分とか。端子も見たい」
「……お、おう」
真中からカメラを受け取る。
重さを確認する。
懐かしい。
形こそ俺が特に使っていた機種とは違う。それでも、基本的な作りはそう変わらない。
バッテリーを外す。端子を見る。レンズに傷やカビがないか確認する。テープ部分は――。
「境野君?」
「ん?」
東城の声で顔を上げた。
全員が俺を見ていた。
「何だよ」
「いや……」
真中がカメラと俺を交互に見る。
「お前、普通に使ってない?」
「まだ使ってない。確認してるだけだ」
「そういう意味じゃねえよ」
「境野、お前カメラ屋でバイトしてたのか?」
小宮山が聞いてくる。
「中学生を雇うカメラ屋がどこにある」
「じゃあ実家がカメラ屋!」
「違う」
「親戚!」
「違う」
「前世!」
一瞬、手が止まった。
「…………」
「……境野?」
「何だ」
「いや、今一瞬止まらなかったか?」
「気のせいだ」
「適当に言っただけなのに!?」
危ない。
外村が俺の手元を見ている。
「境野。カメラ触ったことあるって言ってたよな?」
「ああ」
「家庭用を多少、だったな」
「言ったな」
「……多少?」
「多少だ」
「ふーん」
「俺も親父のビデオカメラ触ったことあるけど、そんな確認したことねえぞ」
小宮山まで余計なことを言う。
「お前の場合、壊しそうだから触らない方がいい」
「酷くない!?」
「ちょっと納得」
「真中まで!?」
東城が小さく笑っている。
俺はもう一度カメラを見る。
「バッテリーは期待しない方がいいな」
「壊れてるのか!?」
「まだ分からない。でも長期間放置されてたなら劣化してる可能性が高い。ACアダプターが残ってれば、そっちで動作確認できる」
「えーしー……?」
「コンセントから電源取るんだよ」
「ああ!」
「真中、お前本当に大丈夫か」
「これから覚える!」
「大丈夫だ真中。俺は今の説明すら半分分からん!」
「お前は少しくらい危機感持て、小宮山」
「境野がいるから何とかなる!」
「俺を当てにするな」
「もうされてるぞ」
外村が笑った。
さらに探すと、三脚が二本見つかった。
「おお、これテレビで見るやつ!」
小宮山が一本を広げようとする。
「待て。そこじゃない」
「え?」
「ロック外してから」
手を伸ばし――止まる。
またやった。
「……境野?」
「何だ」
「続けて?」
「何でちょっと可愛く言った」
「壊したら怒られるだろ」
「分かってるなら雑に触るな」
「お願いします、境野先生!」
「誰が先生だ」
仕方なく三脚を受け取る。脚を伸ばし、固定を確認する。雲台を軽く動かした。
少し引っ掛かる。
「一本は使えそうだな。こっちは動きが硬い」
「分かるのか?」
「触れば」
「俺にも触らせろ」
小宮山が雲台を動かす。
「…………」
「どうだ?」
「分からん!」
「だと思ったよ」
「何で聞いたんだよ!」
真中が吹き出した。
「でも境野、やっぱ慣れてるよな」
「多少はな」
「その『多少』、便利すぎないか?」
外村が言う。
「気のせいだ」
「そっちも便利だな」
その後も箱を漁り、使えそうな備品を集めていく。
ビデオカメラ一台。三脚二本。MiniDVテープが数本。各種ケーブル。ACアダプター。古いバッテリーが二つ。
十分とは言えない。だが、最初の一本を撮るならどうにかなる。
「ライトとかマイクは?」
真中が聞く。
「ないみたいだな」
外村が箱を覗き込む。
「買う?」
「金あるのか?」
「ない」
真中が即答した。
「俺もない!」
「小宮山には聞いてない」
「一応言っとこうと思って」
「何の報告だよ」
「じゃあ美少女に出資してもらうというのは――」
「外村、お前は黙ってろ」
「いい案だと思ったんだが」
「どこがだ」
真中が肩を落とす。
「ライトないと映画撮れないのか?」
「最初はなくても撮れるだろ」
また口が動いた。
「え?」
「外で撮るなら自然光を使えばいい。室内でも窓から入る光は使える。足りなければ白い板か布で返せば多少は変わる」
「返す?」
「光を」
そこまで説明してから気づいた。
静かだ。
「…………」
「何だよ」
真中、東城、外村。
そして小宮山まで俺を見ている。
「境野」
「何だ」
「お前、実は映画オタクか?」
「違う」
「じゃあテレビ局の息子?」
「違う」
「秘密組織の撮影班?」
「どういう組織だよ」
「怪獣とか撮ってる」
「特撮じゃねえか」
「俺ちょっと入りたい」
「小宮山」
「何だ?」
「話が逸れてる」
「おう」
外村が肩を震わせている。
「何笑ってんだ」
「いや。お前ら面白いなと思って」
「お前も原因の一人だろ」
「それより境野。それも家庭用カメラを触ったら覚える知識なのか?」
「……テレビとか見てれば分かるだろ」
「俺は知らないぞ」
「俺も!」
真中と小宮山が即答した。
「私も……知らなかった」
東城まで。
「ほら」
外村が楽しそうに笑う。
「何が『ほら』だ」
「やっぱりお前、面白いな」
「意味が分からん」
「そのうち分かる」
何を企んでるんだ、こいつ。
機材を空き教室へ運び、ACアダプターを繋ぐ。
電源を入れる。
少し間を置いて、液晶画面に光が灯った。
「おおっ!」
「ついた!」
「映画だ!」
「まだカメラの電源入れただけだぞ、小宮山」
「細かいことはいいんだよ!」
「お前がそれ言うのか」
テープを確認してから一本入れる。駆動音。エラー表示は出ない。
「とりあえず動くな」
「よっしゃあ!」
「まだ喜ぶのは早い。録画して再生できるか確認する」
「はい!」
「境野先生、お願いします!」
「小宮山、その呼び方やめろ」
「先生!」
「やめろ」
「師匠!」
「悪化してる」
東城が口元を押さえて笑っている。
「真中、お前が覚えろ。監督やるんだろ」
「監督ってカメラの使い方も覚えないとダメなのか?」
「知ってて困ることはない」
カメラを真中へ渡す。
「ほら。撮ってみろ」
「俺が?」
「お前の映画だろ」
真中が黙った。
それからカメラを見る。
「……おう」
今度は少しだけ真剣な声だった。
「うわ、思ったより重い」
「脇締めろ」
「こう?」
「力みすぎ。肩の力抜け」
「注文多いな!」
「映像ブレてもいいなら好きにしろ」
「教えてください!」
「監督、弱っ!」
「うるせえ小宮山!」
真中がカメラを構え直す。
まだぎこちない。
それでいい。最初から上手くできる必要なんてない。
「何撮ればいい?」
「何でもいいだろ。動作確認なんだから」
「じゃあ――東城!」
「えっ、私!?」
「ちょっとそこ立って!」
「おおっ、いきなり美少女撮影!」
小宮山が食いついた。
「うるさいよ!」
「いいぞ真中!映像研究会らしくなってきた!」
「外村まで乗るな!」
「私、どうすればいいの?」
困った東城が俺を見る。
「普通でいいんじゃないか」
「普通って言われても……」
真中が東城へカメラを向ける。
「真中」
「何だ?」
「近すぎる」
「え?」
「その距離なら顔ばっかりになるぞ」
「それはそれでアリじゃないか?」
「小宮山」
「はい」
「黙ってろ」
「はい」
「素直だな!?」
真中が液晶を見る。
「あっ、本当だ」
「一回自分で画面見て決めろ。何を映したいのか考えてから撮れ」
「何を……」
真中が少し考えて、一歩下がった。さらに位置を変える。
「……これくらい?」
画面を横から確認する。
「いいんじゃないか」
「よし!」
録画が始まる。
数秒だけ撮って停止。巻き戻して再生する。
小さな液晶画面に、少し緊張した東城が映った。
「……映ってる」
真中が呟く。
たった数秒。何の物語もない。ただ東城が立っているだけの映像だ。
それでも真中は、しばらく画面を見ていた。
「撮れた……」
「ああ」
「俺たちでも撮れるんだな」
「撮るだけならな」
「一言多い!」
「映画にするのはここからだろ」
「分かってるよ」
そう言いながら、真中は笑っていた。
「なあなあ、もう一回東城さん撮ろうぜ!」
「小宮山、お前は映画よりそっちが目的になってないか?」
「何言ってんだ境野。映画も美少女も両方大事だ!」
「お前、外村と相性良すぎるだろ」
「話の分かる男は貴重だからな」
外村が頷く。
「お前ら二人、後で黒川先生に聞かせてやろうか」
「境野。それは卑怯だぞ」
「裏切り者!」
「何に対する裏切りだよ」
「もうちょっと撮ってみようぜ!」
案の定、真中のスイッチが入った。
「動作確認は終わっただろ」
「せっかく使えるんだぞ!練習だよ、練習!」
「まあ、それは必要だな」
「だろ!?」
「次はつかさちゃん呼ぼうぜ!」
「いねえよ」
「じゃあさつきちゃん!」
「いねえって」
「くそっ! 映像研究会なのに美少女が足りねえ!」
「東城が目の前にいるだろ!」
「えっ!?」
東城が真っ赤になる。
「そういう意味じゃねえ!練習台一人じゃ足りないって意味だ!」
「小宮山、お前もう少し言い方考えろ」
「境野、助けてくれ!」
「自業自得だ」
「冷たい!」
「じゃあ小宮山、お前が歩け」
真中が言った。
「何で俺が!?」
「練習台足りないんだろ?」
「俺は美少女じゃねえ!」
「知ってるよ!」
「即答するな! ちょっと傷つくだろ!」
「何を期待してたんだよ」
結局、小宮山が教室の端へ移動する。
「ここから向こうまで?」
「おう!」
「カッコよく歩けばいい?」
「普通に歩け!」
「映画なんだから演技必要だろ」
「ただのカメラ練習だ!」
「注文多いな監督!」
文句を言いながらも、小宮山が歩き始める。
真中がカメラで追う。
「速い」
「え?」
「カメラ振るのが速い。小宮山追い越してる」
「マジ?」
「画面見ろ」
「あっ、本当だ」
「おい真中! 俺をちゃんと撮れ!」
「黙って歩け!」
「主演俳優への扱いが雑!」
「いつ主演になった!」
「今!」
「勝手に決めるな!」
騒がしい。
でも、悪くない。
「被写体を追いかけるんじゃなくて、動く先を少し意識した方が――」
そこまで言って、口を閉じる。
「…………」
「境野先生?」
「小宮山、その呼び方やめろ」
「今完全に教えようとしただろ」
外村だ。
「気のせいだ」
「出た」
「便利だな、それ」
「うるさい」
真中がカメラを下ろす。
「境野、ちゃんと教えろよ。知ってるんだろ?」
「多少な」
「じゃあ頼む!」
「……分かったよ」
結局こうなる。
「まず、動いてる相手を画面の真ん中に置き続けようとするな。進む方向に少し空間を作る」
「空間?」
「小宮山が右に歩くなら、画面の右側を少し広めに残す」
「俺をカッコよく撮るためだな?」
「違う」
「違うの!?」
「これからそっちへ動くって、見てる側が感じやすくなるんだよ」
「へえ……」
真中が液晶を見る。
「小宮山、もう一回頼む!」
「今度こそカッコよく撮れよ!」
「普通に歩け!」
二回目。
さっきよりマシになった。
「おお!」
「本当だ。全然違うな」
小宮山まで画面を覗き込む。
「俺が三割増しでカッコいい」
「撮り方のおかげだな」
「俺自身は!?」
「変わってない」
「境野、酷くない!?」
東城がとうとう声を出して笑った。
「じゃあ今度、外で撮ってみない?」
東城の提案で、俺たちは中庭へ移動した。
まだ日が高い。部活動中の生徒も多く、グラウンドから声が聞こえてくる。
「よし、東城そこ!」
「また私!?」
「脚本担当なんだから画面に映った時の感じも知っといた方がいいだろ!」
「それ関係あるのかな……」
「あるある!」
「小宮山が言うと急に怪しくなるな」
「何でだよ!」
言いながらも東城が立つ。
真中がカメラを向けた。
「どう?」
「暗い」
「え?」
「東城の顔」
俺が答える。
真中が画面を見る。
「本当だ。何で?」
「後ろが明るすぎる」
「綾ちゃんは暗くても美少女――」
「小宮山」
「はい」
「ちょっと黙ろうか」
「境野が最近俺に冷たい!」
「最近知り合ったみたいに言うな」
「じゃあどうすればいい?」
「場所変える」
「東城を?」
「カメラでもいい。ちょっと貸せ」
真中からカメラを受け取る。
――受け取ってから、しまったと思った。
まあいい。
少し位置をずらす。
東城の立ち位置を確認する。
「東城、半歩こっち」
「こう?」
「もう少し右。そこでいい」
カメラを構える。
画面を見る。
背景。
光。
東城の顔。
余計なものが入り込んでいないか。
「…………」
ほんの数秒だった。
「境野君?」
「ん?」
「何か……急に雰囲気変わった」
「は?」
「分かる」
今度は小宮山が妙に真剣な顔で頷いた。
「さっきまでの境野じゃないみたいだった」
「どういう意味だよ」
「なんかこう……プロっぽい!」
「急に語彙力なくなったな」
「だって俺そういうの分かんねえし!」
「威張るな」
外村は黙って俺を見ている。
「構えた瞬間だな」
「何が?」
「変わったの」
「同じだろ」
「いや。慣れてる」
「だから多少は触ったことあるって言っただろ」
「その『多少』、どんどん怪しくなってるぞ」
「しつこい」
「なあ境野」
小宮山が急に俺の肩へ腕を回す。
「何だ」
「俺をカッコよく撮ってくれ」
「断る」
「何で!?」
「今の流れでどうしてそうなった」
「綾ちゃんが綺麗に撮れるなら俺だって!」
「素材が違う」
「それどういう意味!?」
「そのままの意味だろ」
「外村まで!?」
騒ぐ小宮山を押し退ける。
「境野、そのまま一回撮ってみてくれ」
外村が言った。
「俺が?」
「比較したい。真中が撮ったのと、境野が撮ったの。何が違うのか」
「動作確認だぞ」
「練習だろ?」
こいつ。
さっきの真中の言葉を使いやがった。
「境野、頼む!」
「一回だけだぞ」
「よし!」
仕方なくカメラを構え直す。
「東城、そのままでいい」
「うん」
録画ボタンを押す。
何も特別なことはしない。
数秒。
少しだけ画角を変える。
東城がこちらを見たところで止める。
「終わり」
「早っ!」
「比較するだけなら十分だろ」
教室へ戻り、二つの映像を続けて再生する。
最初は真中が撮ったもの。
次に俺が撮ったもの。
「…………」
「…………」
「…………」
また静かになった。
「何だよ」
最初に口を開いたのは東城だった。
「同じ場所だよね?」
「そうだけど」
「私も、同じところに立ってたよね?」
「ああ」
「何か……違う」
「俺にも分かるぞ!」
小宮山が勢いよく手を上げる。
「境野の方が綾ちゃんが可愛い!」
「……小宮山」
「何だ?」
「言い方」
「あ」
東城が真っ赤になっている。
「でも、言いたいことは分かる」
外村が画面を見る。
「東城がちゃんと目に入るんだ」
「そう、それ!」
「最初からそう言え」
「俺にそんな気の利いた言葉が出ると思うか?」
「自分で言うな」
真中は何度も二つの映像を見比べている。
「何で?」
「位置変えただろ」
「それだけ?」
「光も違う」
「それだけ?」
「画面の中を整理した」
「それだけ?」
「……それだけだよ」
「絶対嘘だ!」
「何でだよ!」
「だって違うもん!」
「子供か!」
「俺も嘘だと思う」
「小宮山まで乗るな!」
「俺を撮ったらもっと違いが分かる!」
「まだ諦めてなかったのか!」
真中はもう一度再生する。
それから、俺を見る。
「境野。もう一回撮ってくれ」
「嫌だ」
「何で!?」
「自分で撮れ」
「参考にしたいんだよ!」
「俺の真似するな」
「え?」
「お前が撮りたいんだろ」
真中が止まる。
「だったら、自分で考えろ。どう撮ればいいか分からないなら聞けばいい。でも最初から誰かの真似してたら、お前が何を撮りたいのか分からなくなるぞ」
「…………」
少し言いすぎたか。
だが真中は怒らなかった。むしろ、画面を見ながら考え込んでいる。
「……じゃあさ」
「ん?」
「境野なら、俺が撮りたい感じにするにはどうしたらいいか、一緒に考えてくれる?」
今度は俺が黙った。
なるほど。
そう来るか。
「それなら、まあ」
「よし!」
「ただし決めるのはお前だからな」
「分かってる!」
「じゃあ俺をカッコよく撮る方法も一緒に――」
「小宮山は黙ってろ」
「境野ぉ!?」
――監督は真中だ。
俺じゃない。
それでいい。
「境野君」
帰り支度をしていると、東城に呼ばれた。
「何?」
「さっき、ありがとう」
「何が?」
「撮ってくれたから」
「試し撮りだろ」
「うん。でも……」
東城が少し考える。
「私、カメラ向けられるの苦手だと思ってた」
「そうなのか?」
「緊張するから。でも境野君が撮ってた時は、あんまり緊張しなかった」
「……そうか」
「うん。不思議だね」
東城が笑う。
俺には理由が分かる。
前世でもそうだった。
演技に慣れていない役者。カメラを怖がる新人。緊張して動けなくなる子役。そんな人間を何人も見てきた。
だから、無意識に威圧感を与えない位置や距離を選んだだけだ。
――そこまで考えて、やめた。
昔の話だ。
「境野」
今度は外村。
「何だよ」
「お前、本当に何者だ?」
「高校生」
「それはもう聞いた」
「じゃあ何て答えればいいんだ」
「たとえば、実は昔から撮影現場に出入りしてました、とか」
「十五歳だぞ、俺」
「子役だったとか」
「おお!」
横から小宮山が食いつく。
「それだ! 境野、実は元天才子役だったんじゃねえか!?」
「違う」
「じゃあ現役?」
「違う」
「秘密の芸能人?」
「何で秘密にするんだよ」
「実はテレビでは別人の顔で――」
「変装前提なのか」
「声優とか!」
一瞬、言葉に詰まる。
「…………」
「おい」
外村の目が細くなった。
「今のは何だ?」
「何が」
「また止まったぞ」
「気のせいだ」
「境野、声優なのか!?」
「違う」
「じゃあモノマネしてくれ!」
「何でそうなる!」
「いいじゃん、一個だけ!」
「嫌だ!」
「ケチ!」
「お前に言われる筋合いない!」
真中と東城が笑っている。
外村だけは笑いながらも、まだ俺を観察していた。
やっぱりこいつは油断ならない。
「境野!」
「今度は何だ」
「明日も来いよ!」
真中がカメラを持って笑っている。
「だから何でだよ」
「撮り方教えてくれ!」
「自分で覚えろ」
「一緒に考えてくれるって言っただろ!」
「それと毎日来るのは別だ!」
「俺も境野先生に教えてもらう!」
「お前はまず真面目にやれ、小宮山」
「真面目に美少女を撮る!」
「黒川先生呼ぶぞ」
「すみませんでした!」
「弱っ!」
東城が声を上げて笑った。
「いいじゃん境野君」
「東城?」
「楽しそうだよ」
「誰が?」
「境野君が」
「…………」
そんなつもりはない。
ない、はずなんだが。
机の上には、古いビデオカメラ。その周りで、真中たちが今日撮った映像を見ながら騒いでいる。
前の人生では、当たり前だった光景。
けれど今は、少し違って見えた。
仕事じゃない。役をもらうためでもない。評価されるためでもない。
ただ、友達と何かを作ろうとしている。
それだけだ。
「……時間が合えばな」
そう答えると、真中が笑った。
「よし!」
「まだ行くとは言ってない」
「来るだろ、お前」
外村が当然のように言う。
「何で断言するんだよ」
「今日だって来た」
「それは――」
「昨日も来た」
「俺も待ってるぞ、境野先生!」
「お前は待たなくていい」
「酷い!」
「明日も来る」
外村が言い切った。
「うるさい」
笑い声が教室に響く。
俺はため息をつきながら、机の上のカメラをケースへ戻した。
――本当に、少し手伝うだけだからな。
たぶん。
また投稿しますー。
では、また∠( ゚д゚)