いちご100% ~名脇役は青春の主役になれるか~   作:Gussan0

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どうもΣ(゚Д゚)

続き書けたで候。

では、どうぞ∠( ゚д゚)/


第二十五話 相手役

 主演が決まった。

 

 ――俺に。

 

 昨日の昼休み、真中に押し切られる形で引き受けたわけだが、改めて考えてみると、やっぱり何かがおかしい気がする。

 

「で、次は相手役だな!」

 

 翌日の昼休み。中庭のいつもの木陰で、外村が当然のように次の問題を口にした。

 

「気が早くないか?」

 

「何言ってんだ境野。主演が決まったなら次は共演者だろ」

 

「脚本まだ完成してないぞ」

 

「だからこそ早めに考えておくんだよ」

 

 外村が東城を見る。

 

「東城、今のところ登場人物は?」

 

「主人公以外は……まだちゃんとは決めてないよ」

 

 東城が膝の上のノートを開く。

 

「ノートを書いた人を最後に出すかどうかも迷ってるし。主人公の友達を出した方が、変化が分かりやすいかなって」

 

「なるほど」

 

 外村が頷く。

 

 嫌な予感がする。

 

「つまり、まだいくらでも美少女を出せる」

 

「お前は結局そこか」

 

「当然だ」

 

「俺は賛成!」

 

 小宮山が勢いよく手を上げる。

 

「せっかく映画撮るんだぞ!華がいるだろ!」

 

「お前ら、一本完成させるって目的忘れてないか?」

 

「忘れてない。映像作品の研究だ」

 

 外村は涼しい顔だ。

 

「その過程で魅力的な被写体を発掘する」

 

「言い方だけ綺麗にしたな」

 

「策士ね」

 

 北大路が呆れた顔をする。

 

「褒め言葉として受け取っておこう」

 

「褒めてないわよ」

 

「じゃあ北大路」

 

「嫌」

 

「まだ何も言ってない!」

 

「どうせ映画に出ろって言うんでしょ?」

 

「話が早くて助かる」

 

「嫌」

 

「二日連続!」

 

「明日聞かれても同じこと言うわよ」

 

「手強いな……」

 

「諦めろ」

 

「境野、お前は主演決まった途端に冷たくないか?」

 

「俺も捕まった側だからな」

 

「境野君、本当に主演するんだね」

 

 西野が楽しそうに笑う。

 

「一本だけな」

 

「それ、一本撮り終わったら二本目頼まれるやつじゃない?」

 

「やめてくれ」

 

「嫌なの?」

 

「そういうわけじゃ……」

 

 言葉に詰まる。

 

 昨日、自分でも気づいてしまった。

 

 演じること自体は、今でも好きだ。

 

 それと映像研究会へ入るかどうかは別問題だが。

 

「ほら」

 

「何がだよ」

 

「境野君、やっぱりちょっと楽しそう」

 

「気のせいだ」

 

「そうかな?」

 

 西野が笑う。

 

「それで」

 

 真中が東城のノートを覗き込んだ。

 

「相手役って絶対必要なのか?」

 

「うーん……」

 

 東城が少し考える。

 

「今の話なら、ノートを書いた人を最後まで出さなくても成立すると思う。でも誰かと話す場面はあった方が、主人公の変化が分かりやすいかも」

 

「友達とか?」

 

「うん」

 

「だったら小宮山でいいじゃん!」

 

「俺!?」

 

「何で驚くんだよ」

 

「いや、俺はもっとこう……重要な役を!」

 

「主人公の友達なら重要だろ」

 

「……確かに!」

 

「納得するの早いな」

 

「任せろ境野!俺がお前を支えてやる!」

 

「その台詞だけなら頼もしいんだけどな」

 

「だけって何だ!」

 

 笑いが起きる。

 

 その中で東城はノートへ視線を落としたままだった。

 

「でも……もう一人くらいいた方がいいかも」

 

「女の子?」

 

 西野が尋ねる。

 

「まだ決めてないけど」

 

「よし」

 

 外村が立ち上がる。

 

「出番だ、西野、北大路」

 

「だから嫌だって言ってるでしょ!」

 

「私は内容次第って昨日言ったよ?」

 

 西野の返事に、外村の目が光った。

 

「問題ない」

 

「ただし調理部優先ね」

 

「もちろんだ」

 

「即答だな」

 

「交渉では譲歩が重要だからな」

 

「本当に高校一年か、お前」

 

「境野にだけは言われたくない」

 

「何でだよ」

 

 西野は少し考えてから、俺を見る。

 

「でも、ちょっとならやってみてもいいかも」

 

「西野が?」

 

「うん。読み合わせだけ」

 

 意外だった。

 

「昨日、境野君の演技見たでしょ?」

 

「ああ」

 

「私が相手でも、昨日みたいになるのかなってちょっと気になって」

 

「俺は実験材料か」

 

「そういう意味じゃないよ」

 

 西野が笑う。

 

「演技なんてやったことないから、少し面白そうだなって思っただけ」

 

「じゃあ放課後やってみよう!」

 

 真中が即座に乗ってくる。

 

「何でお前が一番嬉しそうなんだ」

 

「監督だから!」

 

「便利だな、その言葉」

 

「昨日お前が俺を監督だって言ったんだろ!」

 

 それを言われると弱い。

 

「さつきも来いよ」

 

「嫌」

 

「一回だけ!」

 

「嫌」

 

「読み合わせだけでいいから!」

 

「嫌」

 

「頼む!」

 

「…………」

 

 北大路の箸が止まった。

 

 ほんの一瞬。

 

 外村が何を言っても変わらなかった反応が、僅かに揺れる。

 

「東城の話、ちゃんと映画にしたいんだよ。でも人が足りないんだ」

 

「小宮山がいるじゃない」

 

「俺は男だぞ!」

 

「知ってるわよ」

 

「何だその反応!」

 

「さつき」

 

 真中がもう一度呼ぶ。

 

「一回だけでいいからやってくれよ」

 

「…………」

 

 北大路が真中を見る。

 

 少し長い。

 

 やがて視線を逸らした。

 

「……試すだけよ」

 

「え?」

 

「だから!一回だけ。読み合わせするだけだからね」

 

「マジで!?」

 

「まだ出るとは言ってない!」

 

「分かった!」

 

「絶対分かってないでしょ!」

 

 真中が嬉しそうに拳を握る。

 

 北大路はそんな真中を見て、すぐに顔を逸らした。

 

 その横顔が僅かに赤い。

 

 あの一件から、北大路の真中に対する反応は少し変わっている。

 

 それが何を意味するのか。

 

 今の俺が勝手に答えを出す必要はない。

 

 放課後。

 

 昨日使った空き教室には、真中、東城、外村、小宮山、俺。そして西野と北大路が集まっていた。

 

 北大路の顔が少し固くなっている。

 

 それに気づいたのか、西野が声をかけた。

 

「北大路さん、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」

 

「べ、別に緊張なんかしてないわよ?」

 

「そう?」

 

「読み合わせするだけでしょ?」

 

「そうだね」

 

 東城が用意してきた紙を取り出す。

 

「まだ仮なんだけど、主人公がノートを拾って何日か経った後、クラスメイトと話す場面を書いてみたの」

 

 最近、主人公が放課後になると同じ場所へ行くことに気づいたクラスメイトが、そのことを尋ねる。主人公は否定するが、無意識にノートのある方向を気にしてしまう。

 

「まず西野さんにやってもらって、その後、北大路さんにも同じ場面をお願いしていい?」

 

「うん」

 

「……分かったわよ」

 

 西野が紙を受け取る。

 

「境野君、よろしくね」

 

「何でそんな改まってるんだ」

 

「だって演技なんてしたことないし」

 

 紙を見ながら何度か台詞を繰り返す。

 

「……やっぱりちょっと緊張するなあ」

 

「読み合わせだぞ?」

 

「境野君は慣れてるからそう言えるんだよ」

 

「別に上手くやる必要ないだろ」

 

「でもみんな見てるし」

 

 確かに全員揃ってこちらを見ている。

 

「じゃあ俺だけ見てればいい」

 

「え?」

 

「普段話してるのと同じでいい。俺と喋ってると思えば」

 

「境野君と?」

 

「ああ」

 

「……それなら、できるかも」

 

 西野の肩から少し力が抜けた。

 

 俺も台本を置く。

 

「境野、台本は?」

 

「覚えた」

 

「またかよ」

 

「短いだろ」

 

「その基準がおかしいんだって」

 

「始めるぞ、真中」

 

「あ、ああ!」

 

 机を一つ挟んで向かい合う。

 

「じゃあ……始め!」

 

 真中の声。

 

 役へ入る。

 

 ただし昨日とは違う。

 

 今日は相手がいる。

 

「最近さ」

 

 西野が口を開く。

 

 少し硬い。

 

「放課後になると、いつも同じところ行ってない?」

 

「……そうか?」

 

「うん」

 

 西野の視線が一瞬、台本へ落ちそうになる。

 

 急がない。

 

 目が戻ってくるまで待つ。

 

「何かあるの?」

 

「別に」

 

「本当に?」

 

 そこで西野の言葉が止まった。

 

 俺は視線だけを廊下の方へ向ける。

 

 ほんの僅かに。

 

「…………」

 

 西野がそれを見る。

 

「……やっぱり何かあるじゃん」

 

「ないって」

 

「今、あっち見た」

 

「見てない」

 

「見たよ」

 

「気のせいだろ」

 

「ふーん?」

 

 西野が少し身を乗り出した。

 

 さっきまでの硬さが消えている。

 

「じゃあ、何でそんなに隠すの?」

 

「隠してない」

 

「怪しい」

 

「西野」

 

「え?」

 

 役を切る。

 

「台詞」

 

「あっ」

 

 西野が慌てて紙を見る。

 

「ご、ごめん!途中から普通に喋っちゃった」

 

「いいんじゃないか?」

 

「え?」

 

「東城」

 

「う、うん」

 

 東城が何度も頷く。

 

「台本とは違ったけど……今の方が自然だった」

 

「本当?」

 

「うん」

 

 西野が少し驚いたように俺を見る。

 

「私、途中から演技してるの忘れてた」

 

「そのくらいでいいよ」

 

「でも境野君、途中で台詞変えたでしょ?」

 

「西野が変えたから合わせただけ」

 

「……できるものなの?」

 

「相手が違えば返しも変わるだろ」

 

「そういうもの?」

 

「そういうものだ」

 

「いや」

 

 外村が口を挟んだ。

 

「普通はそう簡単にできないと思うぞ」

 

「また始まった」

 

「境野。今、西野が詰まった時にわざと待っただろ」

 

「急かしたら余計出てこないだろ」

 

「その後、視線を動かした」

 

「役として自然だろ」

 

「西野が反応したら、そのままアドリブに付き合った」

 

「会話なんだから普通だろ」

 

「…………」

 

「何だよ」

 

「お前の『普通』は信用しないことにした」

 

「勝手にしろ」

 

 西野が俺と外村を交互に見る。

 

「でも……確かにやりやすかったかも」

 

「そう?」

 

「うん。最初すごく緊張してたのに、途中から本当に境野君と喋ってるみたいになった」

 

「だったら良かった」

 

 西野は少しだけ笑う。

 

「何か、楽しかった」

 

「だろ?」

 

 何故か真中が嬉しそうだ。

 

「映画面白いだろ!」

 

「まだ読み合わせしかしてないよ、淳平君」

 

「これから撮るんだよ!」

 

「調理部もあるからね?」

 

「分かってる!」

 

「本当に?」

 

「たぶん!」

 

「淳平君……」

 

 西野が苦笑する。

 

「でも、時間が合う時なら手伝うよ」

 

「本当!?」

 

「うん。今日みたいなのなら、またやってみたいかも」

 

「よっしゃ!」

 

「毎回出られるとは限らないからね」

 

「それで十分だ!」

 

 西野は正式に映像研究会へ入るつもりはないらしい。

 

 それでいい。

 

 調理部で楽しそうにしているのも知っている。わざわざ全員が同じ場所に所属する必要はない。

 

「じゃあ次」

 

 真中が北大路を見る。

 

「さつき」

 

「……分かってるわよ」

 

 北大路が立ち上がる。

 

 西野と入れ替わり、俺の前へ来た。

 

「よろしく、北大路」

 

「何で急に普通なのよ」

 

「じゃあ何て言えばいいんだ」

 

「知らないわよ」

 

「もう始まってるみたいだな」

 

 外村が笑う。

 

「始まってない!」

 

「北大路さん、これ」

 

 東城が台本を渡す。

 

「ありがとう、東城さん」

 

 北大路が紙を見る。

 

「……これ言えばいいの?」

 

「うん。最初はそれで」

 

「最初は?」

 

「気にするな」

 

「何であんたが答えるのよ」

 

 西野とは違う。

 

 緊張しているというより、警戒している。

 

 失敗したくない。

 

 そういう顔だ。

 

「じゃあ、始めるぞ」

 

 真中の声。

 

「最近」

 

 北大路が台本を見る。

 

「放課後になると、いつも同じところ行ってない?」

 

「……そうか?」

 

「うん。何かあるの?」

 

「別に」

 

「本当に?」

 

「何もないって」

 

「…………」

 

 終わり。

 

「どう?」

 

 北大路が真中を見る。

 

「えーっと……」

 

「何よ」

 

「何か、さつきが台詞読んでる感じ」

 

「初めてなんだから当たり前でしょ!」

 

「いや、そうなんだけど!」

 

「じゃあどうしろっていうのよ!」

 

「もっと自然に!」

 

「だから自然って何よ!」

 

「ほらな」

 

 思わず口から出た。

 

「何がよ」

 

「真中。それじゃ北大路も分からない」

 

「じゃあどう言えばいいんだ?」

 

「俺に聞くな。お前はこの場面で、北大路の役に何をしてほしい?」

 

「え?」

 

 真中が台本を見る。

 

「何を……」

 

「笑ってほしいのか。主人公を心配してほしいのか。ただ何となく声をかけただけなのか」

 

「…………」

 

 真中が考える。

 

「気になってるんだと思う」

 

「何が?」

 

「主人公が最近ちょっと変だから。でも別に心配ってほどじゃなくて……何か隠してるなら知りたい、みたいな」

 

「じゃあそれを言えばいい」

 

「さつき」

 

「何?」

 

「今の感じで頼む!」

 

「今の感じって何よ!」

 

「だから、境野が何か隠してると思って聞いてくれ!」

 

「……最初からそう言いなさいよ」

 

 北大路が俺を見る。

 

「もう一回?」

 

「ああ」

 

「今度はちゃんとやるわよ」

 

「別にさっきも間違ってないだろ」

 

「でも真中が違うって言ったじゃない」

 

「…………」

 

「何よ」

 

 少し力が入りすぎている。

 

「北大路」

 

「何?」

 

「台詞、見なくていいぞ」

 

「は?」

 

「大体覚えただろ」

 

「まあ……短いし」

 

「じゃあ俺だけ見てろ」

 

「…………何で?」

 

「俺が何か隠してると思ってるんだろ?」

 

「役の話?」

 

「それ以外に何がある」

 

「……分かったわよ」

 

 北大路が紙を置く。

 

 真中を見る。

 

「いい?」

 

「おう!」

 

 始まる。

 

 今度はこちらから少しだけ仕掛ける。

 

 机の上の鞄を閉じる。

 

 北大路がこっちを見るより先に、僅かに廊下へ視線を向ける。

 

「最近」

 

 声が来る。

 

「放課後になると、いつも同じところ行ってない?」

 

「……そうか?」

 

「行ってるでしょ」

 

 台本とは違う。

 

 いい。

 

「何でそう思う?」

 

「だって、あんた――」

 

 俺が立ち上がる。

 

「ちょっと」

 

 北大路が反射的に腕を伸ばした。

 

 手首を掴まれる。

 

「……何?」

 

「何って……」

 

 北大路自身が一瞬驚いている。

 

 たぶん台本にはない動きだ。

 

「どこ行くのよ」

 

「帰るけど」

 

「嘘」

 

「何で」

 

「だって今、またあっち見たじゃない」

 

「気のせいだろ」

 

「気のせいじゃない」

 

 北大路が一歩近づく。

 

「何隠してんのよ」

 

「別に」

 

「じゃあ言いなさいよ」

 

「何を?」

 

「だから――」

 

 俺が一瞬だけ視線を外す。

 

「…………」

 

 北大路の目が細くなった。

 

「やっぱり何かあるじゃない」

 

「ないって」

 

「ある!」

 

「何でそんなに気になるんだよ」

 

「それは……!」

 

 止まる。

 

「…………」

 

「…………」

 

 北大路の顔が少し赤くなる。

 

「知らないわよ!」

 

 手を離された。

 

「はい」

 

 役を切る。

 

「ここまで」

 

「…………」

 

 北大路が固まっている。

 

「北大路?」

 

「……何よ」

 

「終わったぞ」

 

「分かってるわよ!」

 

「何で怒ってるんだ」

 

「怒ってない!」

 

「怒ってるだろ」

 

「うるさい!」

 

 教室の後ろから笑い声が聞こえる。

 

「おい真中!」

 

 小宮山が興奮している。

 

「今の良くなかった!?」

 

「うん!」

 

 真中も目を輝かせていた。

 

「さつき、今のすげえ自然だった!」

 

「……本当?」

 

「ああ!途中から台本と全然違ったけど!」

 

「それダメじゃない!」

 

「でも良かった!」

 

「どっちなのよ!」

 

 東城も何度も頷いている。

 

「私も良かったと思う」

 

「東城さんまで……」

 

「最初よりずっとその子らしく見えた」

 

「…………」

 

 北大路が俺を見る。

 

「ねえ」

 

「何?」

 

「途中からわざとやった?」

 

「何を」

 

「急に立ったり、帰ろうとしたり」

 

「ああ」

 

「やっぱり!」

 

「北大路が反応しやすいかなと思って」

 

「先に言いなさいよ!」

 

「先に言ったら反応変わるだろ」

 

「…………」

 

「何?」

 

「何でもない!」

 

 北大路が顔を背ける。

 

「でも境野」

 

 外村が口を挟む。

 

「西野の時と全然違ったな」

 

「相手が違うんだから当たり前だろ」

 

「西野には待った。北大路には仕掛けた」

 

「西野は自分のペースで喋った方が自然だったからな」

 

「北大路は?」

 

「考えるより反応した方が自然だった」

 

「…………」

 

「何だよ」

 

「いや」

 

 外村が笑う。

 

「やっぱりお前、自覚ないんだなと思って」

 

「何の?」

 

「いい。今は」

 

「気持ち悪いな」

 

 北大路が腕を組む。

 

「でも……確かに」

 

「何?」

 

「さっきよりやりやすかった」

 

「だろ?」

 

「何であんたが得意そうなのよ」

 

「別に得意そうにはしてない」

 

「してる」

 

「してない」

 

「してる!」

 

「はいはい、そこまで」

 

 真中が二人の間に入る。

 

 そして北大路を見る。

 

「さつき」

 

「何よ」

 

「やってくれない?」

 

「…………」

 

 さっきまでとは違う声だった。

 

「この映画。俺、今の見て、さつきに出てほしいって思った」

 

「……私に?」

 

「ああ」

 

 真中は真っ直ぐ北大路を見る。

 

「東城の話、ちゃんと映画にしたいんだ。境野が主人公で、さつきが相手なら面白くなると思う」

 

「…………」

 

 北大路が黙る。

 

 ほんの少しだけ、頬が赤い。

 

「……一回だけって言ったでしょ」

 

「うん」

 

「私は映像研究会に入るなんて言ってないからね」

 

「分かってる」

 

「撮影だって、毎日付き合えるわけじゃないし」

 

「大丈夫」

 

「それに――」

 

 北大路が言葉を探す。

 

 真中は待っている。

 

「…………もう」

 

 北大路が大きく息を吐いた。

 

「分かったわよ」

 

「え?」

 

「やるって言ってるの!」

 

「マジで!?」

 

「何回言わせるのよ!」

 

「よっしゃあ!」

 

 真中が拳を握る。

 

 その嬉しそうな顔を見て、北大路は一瞬だけ笑った。

 

 すぐにいつもの顔へ戻ったが。

 

「決まりだな」

 

 外村が満足そうに頷く。

 

「主人公・境野。相手役・北大路」

 

「待って」

 

 北大路が睨む。

 

「相手役って言っても、まだ東城さんの脚本完成してないんでしょ?」

 

「う、うん」

 

「じゃあ役も変わるかもしれないじゃない」

 

「もちろん。今日のは仮だから」

 

「なら決まったのは、私が出演するってことだけ」

 

「十分だ」

 

「あと!」

 

 北大路が俺を指差す。

 

「勘違いしないでよ。あんたと演技するのが楽しかったから出るんじゃないからね」

 

「別にそんなこと言ってないだろ」

 

「真中が頼むからよ!」

 

「はいはい」

 

「その返事やめなさい!」

 

「北大路」

 

「何よ!」

 

「俺も映像研究会の部員じゃないぞ」

 

「…………」

 

「出演するだけだ」

 

「…………あんたと一緒にしないで」

 

「何でだよ」

 

 外村が吹き出した。

 

「二人とも同じこと言ってるぞ」

 

「「違う!」」

 

 声が重なる。

 

 一瞬の沈黙。

 

 小宮山が腹を抱えた。

 

「息ぴったりじゃん!」

 

「小宮山!」

 

「俺!?」

 

 また教室が騒がしくなる。

 

 西野はその様子を笑って見ていた。東城も脚本を抱えながら、どこか嬉しそうだった。

 

 真中は早くも次のことを考えているらしく、東城へ何か相談を始めている。

 

 一本の短い映画。

 

 映像研究会が、まず最後まで作品を作るための第一歩。

 

 主人公は俺。

 

 そして北大路も出演することになった。

 

 西野も時間が合えば手伝ってくれる。

 

 東城が書き、真中が撮る。

 

 外村と小宮山が動く。

 

 少しずつ形になってきている。

 

「境野君」

 

「ん?」

 

 西野が隣から小さく声をかけてきた。

 

「何?」

 

「境野君って、相手によって全然違うんだね」

 

「演技?」

 

「うん」

 

「相手が違うんだから、そりゃ変わるだろ」

 

「……やっぱり、それが普通なんだ?」

 

「普通だろ」

 

「そっか」

 

 西野は少し考えてから笑った。

 

「じゃあ、そういうことにしておくね」

 

「何だよ、それ」

 

 答えは返ってこなかった。

 

 ただ、外村まで似たような顔をしている。

 

 そんなにおかしなことをしたつもりはない。

 

 共演者が演じやすいように受ける。

 

 相手が詰まれば待つ。

 

 動いた方が自然なら動かす。

 

 それだけだ。

 

 前の人生では、当たり前のようにやっていた。

 

 主役だろうが脇役だろうが関係ない。

 

 相手が良くなれば、場面も良くなる。

 

 ただそれだけのこと。

 

 ――その考え方そのものが、長い年月をかけて身についた「名脇役」の癖だということには、まだ気づいていなかった。




さつきのキャラが原作よりツンデレっぽくなってる気がする。

では、また∠( ゚д゚)
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