『いちご100% ~名脇役は青春の主役になれるか~』 作:Gussan0
続き書けたで候。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
北大路の出演が決まってから、数日が経った。
その間にも、俺たちの日常は普通に続いていた。授業があって、昼になればいつもの場所に集まり、放課後になればそれぞれの部活へ向かう。
俺と東城は文芸部。俺と西野は調理部。大草はサッカー部。そして真中たちは、空いた時間を見つけて映像研究会の準備を進めていた。
――俺も何故か、その準備にかなり関わっている。
「できた」
昼休み。
いつもの木陰で、東城が一冊のノートを差し出した。
「お?」
真中が真っ先に身を乗り出す。
「脚本!?」
「う、うん。まだ直すところはあるかもしれないけど……最後まで書いてみた」
「見せて!」
「ちょっと待て真中。東城が持ってるだろ。引っ張るな」
「あ、ご、ごめん東城!」
「ううん」
東城が笑いながらノートを開いた。
以前よりも整理された形で、台詞や場面が書き込まれている。
主人公は放課後の校内で、一冊のノートを見つける。
持ち主の名前はない。
書かれているのは、誰かが書いた短い文章。
最初は気まぐれに読んだだけだった。
けれど翌日、同じ場所へ行くと、新しい文章が増えている。
誰が書いているのか。
どうしてここに置いているのか。
少しずつ気になり始め、主人公は放課後になると同じ場所へ向かうようになる。
そんな主人公の変化に最初に気づくのが、北大路が演じるクラスメイトだ。
最後まで、ノートを書いた人物の正体は明かされない。
ただラスト。
主人公が自分から、ノートへ短い言葉を書き残す。
『続き、待ってます』
翌日。
その下に、一言だけ返事が増えている。
『ありがとう』
そこで終わる。
「……いいじゃん」
真中が呟いた。
さっきまでの勢いとは違う、少し静かな声だった。
「俺、好きだな。これ」
「本当?」
「ああ!」
途端にいつもの調子へ戻る。
「撮りたい!これ撮ろう!」
「まだ細かいところは直すかもしれないよ?」
「そこは撮りながら考えればいいだろ!」
「いや、撮る前にある程度固めろ」
「何でだよ!」
「撮影中に大きく変えると、前に撮った場面と繋がらなくなる」
「……なるほど」
「まあ、現場で変わること自体はあるけどな」
「どっちだよ!」
「変更するなら理由が必要ってことだ」
「境野」
外村がこちらを見る。
「お前、またさらっと経験者みたいなこと言ったな」
「気のせいだ」
「最近それで誤魔化せると思ってるだろ」
「思ってる」
「認めやがった」
「俺の役は!?」
小宮山が脚本を覗き込む。
「主人公の友達」
東城が答える。
「台詞も増やしたよ」
「よっしゃ!」
「ただし、普通の高校生だからね」
「……おう?」
「変な喋り方しなくていいから」
「何で俺だけ先に釘刺されてんの!?」
「前のが前のだったからだろ」
「境野!」
「事実だ」
笑いが起きる。
「私のところは?」
北大路が尋ねた。
「この前の読み合わせから少し増やしたの」
東城が該当するページを見せる。
「主人公の様子がおかしいことに気づいて、何度か声をかけるようにしてみた」
「ふーん」
北大路が目を通す。
「結構出るのね」
「嫌だった?」
「別に」
即答だった。
「引き受けたんだからやるわよ」
「ありがとう、北大路さん」
「だからお礼はいいって」
そう言いながらも、そのまま自分の台詞を確認している。
「西野さんにも短い役を作ったよ」
「私も?」
「うん。でも調理部もあるから、二場面だけ」
「それなら大丈夫そう」
西野が俺を見る。
「また境野君と演技するんだね」
「そうなるな」
「今度は台詞忘れないようにしないと」
「撮影なら忘れたら止めるぞ」
「助けてくれないの?」
「前は読み合わせだったからな。撮影で勝手に変えたら東城の脚本と違ってくる」
「そっか」
西野は東城を見る。
「じゃあちゃんと覚えないとね」
「無理しなくて大丈夫だよ」
「ううん。せっかくだからやってみる」
東城が嬉しそうに笑った。
「それで今日だけど」
真中が脚本を覗き込む。
「最初に境野がノートを見つけるところ。そのあと、さつきとの場面まで撮りたい」
「分かったわ」
北大路は自分のページを確認したまま答えた。
「でも初日なんでしょ? そんなに撮れるの?」
「やってみないと分かんないだろ」
「まあ、それもそうね」
「北大路」
「何?」
「随分やる気になったな」
「引き受けた以上、中途半端にやる方が嫌なのよ」
「北大路らしいな」
「何よ、それ」
「褒めてる」
「……ならいいけど」
放課後。
空き教室に、今日の撮影へ参加する人間が集まった。
真中、東城、外村、小宮山、北大路、そして俺。
西野は調理部。
大草はサッカー部だ。
机の上には、倉庫から発掘したMiniDVのビデオカメラ。予備のテープ、三脚、使えることを確認したバッテリー。
その横には外村が作った紙が何枚か置かれている。
「何だこれ」
「撮影予定表」
「作ったのか?」
「当然だ」
外村が得意げに胸を張る。
「場所、必要な役者、使える時間。分かる範囲でまとめた」
「……ちゃんとしてるな」
「俺を何だと思ってる」
「美少女を撮りたい奴」
「否定はしない」
「しろよ」
「だが、撮るならちゃんと撮る」
そこは本気らしい。
「まず境野の一人の場面からだな」
真中がカメラを見る。
少しだけ緊張している。
「いよいよだな」
「そうだな」
その一言で、教室の空気が少し変わった。
撮影前。
スタッフが配置につき、役者が立ち位置へ向かう直前の空気。
何十年も身を置いてきた場所。
懐かしい。
けれど今は、何もかも違う。
大勢のスタッフはいない。
高価な機材もない。
監督も脚本家も役者も、全員高校一年生。
「境野?」
「ん?」
「どうした?」
「何でもない」
真中を見る。
「監督。始めようぜ」
「……おう!」
真中の顔が変わった。
撮影場所は、校舎の端にある廊下だった。
窓から差し込む夕方の光。
人通りは少ない。
廊下の隅には、物語の鍵になるノートが置かれている。
「カメラ、ここでいいかな」
真中が三脚を調整する。
俺は画角を見る。
悪くない。
ただ――
「…………」
「何だよ」
「何も」
「絶対何かある顔しただろ!」
「監督が決めろ」
「気になるだろ!」
「じゃあ聞くけど」
カメラの横に立つ。
「この場面で何を撮りたい?」
「何をって……境野がノートを見つけるところ」
「それは起きることだろ。何を見せたい?」
「…………」
真中が黙る。
「最初からノートを目立たせるのか。それとも主人公が見つけた時に、観客にも初めて気づかせるのか。それだけでも撮り方は変わる」
「あ……」
真中がカメラを見る。
少し考える。
「後者」
「理由は?」
「主人公と一緒に見つけてほしい」
答えはすぐに返ってきた。
「だったら今の位置だと、ノートが先に見える」
「マジ?」
「覗いてみろ」
真中がファインダーを確認する。
「あ、本当だ」
「じゃあどうする?」
「……カメラ、もう少しこっち?」
「やってみろ」
三脚を動かす。
「これなら?」
今度は俺が覗く。
「いいんじゃないか」
「よし!」
真中が嬉しそうに笑う。
俺は一歩離れた。
これでいい。
どう撮りたいかを決めるのは、真中だ。
「境野、立ってくれ」
「はいよ、監督」
「……それちょっと恥ずかしいな」
「慣れろ」
「お前が言うと重いんだよ!」
立ち位置につく。
「東城」
「う、うん」
「主人公、ここではまだノートにそこまで興味ないんだよな?」
「うん。最初は誰かの忘れ物かなって思うくらい」
「分かった」
真中がカメラの後ろへ回る。
「じゃあ……撮るぞ」
誰も喋らない。
「よーい――スタート!」
歩く。
放課後。
帰宅しようとしている、どこにでもいる高校生。
特別なことは何もない。
廊下を進む。
その途中、視界の端に何かが入る。
二歩。
通り過ぎる。
一歩。
止まる。
少しだけ戻る。
床に置かれたノートを見る。
しゃがむ。
手に取る。
表紙を見る。
名前はない。
軽く眉を寄せ、開く。
「…………」
書かれている文章を読む。
ほんの少しだけ目が止まる。
けれど深くは考えない。
閉じる。
「……忘れ物か?」
「カット!」
役を抜く。
「どう?」
真中がすぐに聞いてくる。
「俺に聞くなよ」
「でも!」
「監督がどう思った?」
「…………」
真中が撮った映像を確認する。
俺たちも後ろから覗き込んだ。
短い映像。
技術的には粗い。
音も良くない。
プロの現場と比べれば、当然見劣りする。
「……映画っぽい」
小宮山が呟いた。
「お前、感想が小学生だぞ」
「だって映画っぽいんだよ!」
「分かる」
外村も画面を見たまま答える。
「境野が画面に入った瞬間、急にそれっぽくなった」
「主演だからな」
「そういう意味じゃない」
東城は何も言わず、画面を見つめていた。
「東城?」
「……動いてる」
「そりゃ映像だからな」
「そうじゃなくて」
東城が小さく首を振る。
「私が書いた場面が、本当に動いてる」
「…………」
「何か……不思議」
その顔を見て、少しだけ分かった。
脚本を書いた側にとっての最初の撮影は、こう見えるのか。
「真中」
「ん?」
「もう一回撮ろう」
「え?」
「今度はどうしたい?」
真中は映像を見る。
「……境野。ノート見つけるところ、もう少しだけ遅くできる?」
「どこを?」
「通り過ぎてから。今だと最初から気づいてたように見える気がする」
「なるほど」
「一回、本当に通り過ぎて……それから何となく戻る感じ」
「分かった」
「あと『忘れ物か?』も、もうちょっと独り言っぽく」
真中が東城を見る。
「あ……うん。その方が主人公っぽいかも」
「境野、できる?」
「監督がそうしたいなら」
「よし!」
真中がカメラへ戻る。
さっきまで俺に「どう?」と聞いていた奴が、もう自分から注文を出している。
悪くない。
二回目。
三回目。
角度を変えて、もう一度。
ノートの手元。
主人公の視線。
廊下を歩く足。
一本目のテープに、少しずつ東城の物語が入っていった。
「次、さつきとの場面」
真中の声に、壁際で待っていた北大路が立ち上がった。
「やっとね」
「退屈だった?」
「撮影って思ってたより待つ時間長いのね」
「そっちか」
「同じところ何回も撮ってたし」
「必要なんだよ」
「見てれば分かるわよ」
北大路は東城から脚本を受け取ると、自分の立ち位置へ向かった。
「ここ?」
「そこ」
真中がファインダーを確認する。
「境野はこっち」
「了解」
俺も位置につく。
読み合わせは既に済んでいる。
だから、改めて芝居について話す必要はない。
「一回そのままやってみよう」
真中が言った。
「よーい――スタート!」
主人公が鞄を閉じる。
そこへ北大路の演じるクラスメイトが近づく。
「最近、放課後になるといつも同じところ行ってない?」
「……そうか?」
「行ってるでしょ」
「気のせいだろ」
「何かあるの?」
「別に」
「本当に?」
俺が鞄を持って歩き出す。
「ちょっと」
北大路が俺を追って一歩踏み出した。
さらにもう一歩。
「カット!」
「え?」
北大路が止まる。
「何?」
真中がカメラを覗いたまま答えた。
「さつき、途中で画面からいなくなった」
「……は?」
「ここ」
撮った映像を見せる。
北大路が俺を追った瞬間、画面の端へ寄り、そのまま半分ほど外れている。
「何よこれ」
「お前が動いたからだろ」
「だって境野が行くから!」
「役としてはそれで合ってる」
「じゃあ何が悪いのよ」
「カメラが追えてない」
真中が困った顔になる。
「……難しいな」
「そういうこともある」
「境野」
「何?」
「どうすればいい?」
「方法はいくつかある」
「いくつか?」
「カメラを動かす。画角を広くする。北大路の動きを小さくする。俺の動く距離を短くする」
「そんなにあるのか」
「どれにするかは監督が決めろ」
「またそれかよ」
「またそれだよ」
真中は少し考え、ファインダーを覗く。
「……カメラは動かしたくない」
「理由は?」
「まだ俺、動かしながら綺麗に撮れる気がしない」
「妥当だな」
「画角を広くすると?」
「二人とも入れやすくなる。ただ、今より遠く見える」
「それは嫌だな」
「じゃあ残り二つ」
真中が俺と北大路を見る。
「二人の動きを少し小さくしてみてくれ」
「分かった」
「分かったわ」
俺は床を見る。
「北大路」
「何?」
「次、ここまで」
床の継ぎ目を指す。
「ここ?」
「さっきより半歩くらい小さい」
「そんな細かいの?」
「カメラだと結構変わる」
「……面倒ね、映画って」
「そのうち慣れる」
「簡単に言うわね」
「じゃあ俺も動く距離を縮める」
「それならやりやすいか」
「たぶん」
「たぶんって何よ」
「やってみれば分かる」
「それ真中と同じじゃない」
「監督だからな」
「関係ないでしょ!」
「よし、もう一回!」
真中の声。
二度目の撮影。
今度はお互いの動きを少し小さくする。
「カット!」
真中が映像を確認した。
「……入った!」
「当たり前だろ」
「いや、分かってても嬉しいんだよ!」
北大路も覗き込む。
「本当だ」
「さっきと全然違うだろ?」
「動きはほとんど変えてないのに」
「画面の中じゃ数十センチでも大きいからな」
「ふーん……」
北大路が映像を見る目が少し変わった。
「面白い?」
東城が尋ねる。
「……ちょっとね」
「ちょっとなんだ?」
「東城さんまで笑わないでよね」
「ご、ごめん」
その時、真中がもう一度映像を戻した。
「待って」
「どうした?」
「ここ」
北大路が俺を追うところ。
「さつき、この動き良くない?」
「どれ?」
「境野が行った時、一瞬だけ迷ってから追うところ」
「ああ」
俺も見る。
悪くない。
役としても自然だ。
「これ、別の角度からも撮りたい」
真中が言った。
「同じ場面を?」
「ああ」
「じゃあ撮ればいい」
「さつき、今のもう一回できる?」
「え?」
北大路が固まった。
「今のって?」
「今の」
「だから、どのくらい?」
「一瞬止まって、それから追うやつ」
「そんなの覚えてないわよ!」
「ええ!?」
「普通いちいち何歩歩いたとか覚えてないでしょ!」
「あ……」
真中が俺を見る。
「境野」
「何だよ」
「できる?」
「俺はできる」
「何で!?」
北大路まで振り返った。
「仕事なら同じ芝居を何回もやるからな」
「仕事?」
「……昔、似たようなことを色々やった」
「またそれ?」
「細かいことは気にするな」
「気になるんだけど」
「今は撮影」
「逃げたわね」
「逃げてない」
位置へ戻る。
「北大路」
「何?」
「俺がさっきと同じように動く」
「うん」
「北大路は無理に同じにしようとしなくていい。俺見てればいい」
「それで繋がるの?」
「合わせる」
「……また簡単に言う」
「大丈夫」
「その自信どこから来るのよ」
「経験」
「十五歳の台詞じゃないわよ」
それは俺もそう思う。
「真中」
「準備できてる!」
「じゃあ頼む」
「よーい――スタート!」
一度目と同じ位置。
同じ姿勢。
鞄を閉じるタイミング。
視線を動かす角度。
立ち上がる速さ。
台詞の間。
可能な限り、一度目と揃える。
俺が動く。
一瞬遅れて、北大路が追う。
床の継ぎ目の手前で止まる。
「カット!」
「どう?」
北大路が真中を見る。
「ちょっと待って」
真中が一度目の映像と見比べる。
「……すげえ」
「何が?」
「境野」
「俺?」
「ほとんど同じじゃん」
「繋げるなら必要だからな」
「いやいやいや」
外村が横から覗き込む。
「待て。最初に鞄持ったタイミングまで同じじゃないか?」
「大体な」
「視線も」
「合わせた」
「歩幅は?」
「そこも」
「…………」
「何だよ」
「気持ち悪いくらい正確だな」
「言い方」
「だってそうだろ!」
小宮山も映像を覗き込む。
「境野、お前機械か何か?」
「人間だ」
「じゃあ俺にもできる?」
「練習すれば多少は」
「よし!」
「お前の場合、まず普通に台詞言うところからな」
「何でだよ!」
北大路は俺ではなく、映像を見ていた。
一度目。
二度目。
俺の動きを見比べる。
「……本当にほとんど一緒」
「だから言っただろ」
「これも演技なの?」
「演技というより、撮影の技術に近いかな」
「ふーん」
北大路が俺を見る。
「やっぱり変な奴」
「何でそうなる」
「普通の高校生がそんなことできる?」
「外村と同じこと言うな」
「じゃあ普通なの?」
「…………」
「ほら」
「多少慣れてるだけだ」
「出た」
外村が笑う。
「境野の『多少』」
「便利な言葉ね」
「北大路まで使うな」
「よし!」
真中がカメラを持ち上げる。
「もう一個撮りたい!」
「まだやるの?」
「今の見たら撮りたくなった!」
北大路が呆れた顔をする。
「監督ってこんなに我が儘なの?」
「人による」
「真中は?」
「たぶんこれからもっとなる」
「境野!」
「否定できるか?」
「……頑張る」
「そこは否定しなさいよ!」
また笑いが起きた。
片づけを始める頃には、窓の外もかなり暗くなっていた。
途中でバッテリーが一つ死んだ。
「うわあああ! バッテリー!」
「騒ぐな小宮山」
「死んだぞ!」
「古いんだから想定内だ」
「境野が冷静すぎる!」
予備へ交換する。
今度は小宮山が三脚へ足を引っかけそうになり、外村に首根っこを掴まれた。
「危なっ!」
「お前は機材から三歩離れろ」
「何でだよ!」
「壊されたら困る」
「俺よりカメラ!?」
「カメラ」
「即答!?」
完璧とは程遠い。
音も画も粗い。
撮り直しばかり。
ほんの短い場面に、思っていた以上の時間がかかる。
それでも一本目のテープには、確かに映像が残っていた。
東城が書いた主人公が歩いている。
北大路の演じるクラスメイトが、その後を追っている。
それを真中が撮った。
「境野」
「ん?」
片づけの途中、真中がカメラを持ったまま声をかけてきた。
「楽しいな」
「……そうだな」
「難しいけど」
「ああ」
「頭の中だともっと簡単だった」
「大体そんなもんだ」
「でも俺、もっと撮りたい」
その言葉に迷いはなかった。
「だったら撮ればいい」
「おう!」
真中が笑う。
「次は小宮山の場面な!」
「ついに俺の出番か!」
「普通にやれよ」
「任せろ! 俺の演技力を――」
「普通に」
「境野、俺への当たり強くない!?」
「前科がある」
「一回だけだろ!」
騒がしい声が廊下に響く。
東城が笑っている。
北大路も呆れながら、その輪の中にいる。
今日、俺たちは初めてカメラを回した。
ほんの数十秒の場面を撮るだけで、何度も止まり、位置を直し、角度を変えた。
読み合わせなら自然にできたことが、カメラの前ではそのまま使えるとは限らない。
画面には枠がある。
別の角度から撮るなら、同じ動きを繰り返す必要もある。
昔は当たり前だったことを、一つずつ思い出していく。
いや。
思い出しているだけじゃない。
「境野!」
先を歩いていた真中が振り返る。
「早く来いよ!」
「ああ」
今は仕事じゃない。
契約もない。
報酬もない。
ただ友達と一本の映画を作っている。
前の人生とは、全然違う。
――悪くない。
そう思いながら、俺はみんなの後を追った。
また書けたら投稿しますー。
では、また∠( ゚д゚)