『いちご100% ~名脇役は青春の主役になれるか~』 作:Gussan0
続き書けたで候。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
初めての撮影から数日。映像研究会の放課後は、それまでとは少し違うものになっていた。
カメラを運び出し、テープとバッテリーを確認する。外村が撮影予定を確認し、真中がその日に撮る場面を決める。東城が脚本を開き、小宮山が騒ぐ。
そして俺は――
「境野!次ここ!」
「はいよ」
気づけば普通に呼ばれていた。俺、映像研究会の部員じゃないんだけどな。
「いよいよ俺の出番か……!」
放課後の教室。小宮山が妙に真剣な顔で立っていた。今日最初に撮るのは、主人公と友人が教室で話す短い場面だ。
「この日のために俺は――」
「小宮山」
カメラの後ろから真中が声をかける。
「何だ?」
「普通にやってくれ」
「まだ何もしてないだろ!?」
「今の時点でもう不安なんだよ!」
「何でだよ!」
「読み合わせを思い出せ!」
「…………」
小宮山が黙った。
「分かったか?」
「……おう」
素直だ。少しは反省しているらしい。
「境野」
「ん?」
「小宮山が変なことしたら止めてくれ」
「監督が止めろよ」
「……そうだった」
真中が一瞬だけ真顔になる。
「お前、少しずつ監督らしくなってきたな」
「今ので!?」
「最初なら俺に丸投げしてただろ」
「……そう言われると成長してる気がする」
「単純ね」
撮影を見に来ていた北大路が呆れた声を出す。
「さつき、静かにしてろよ」
「分かってるわよ」
真中と北大路がいつものように言い合う。俺はふと北大路を見る。
「というか北大路」
「何?」
「今日、お前の出番あったか?」
「ないけど?」
「じゃあ何でいるんだ?」
「…………」
北大路が止まった。
「別にいいでしょ」
「いや、悪いとは言ってないけど」
「この前撮ったところがどうなったか気になっただけよ」
「まだ編集してないぞ?」
「知ってるわよ!」
「じゃあ――」
「真中!」
「はい!」
「早く撮りなさい!」
「何で俺が怒られるんだよ!?」
まあ、本人がいたいならそれでいいか。
「始めるぞ!」
真中がカメラを構える。
「よーい――スタート!」
俺は自分の席に座る。小宮山が近づいてきた。
「なあ」
「ん?」
「最近、お前放課後になるとすぐいなくなるよな」
「ああ」
「何してんの?」
「別に」
「怪しい」
「何が」
「女か?」
「違う」
「じゃあ何だよ」
「何でもいいだろ」
少し硬い。けれど、前みたいに無駄に芝居がかった喋り方ではない。そのまま俺が立ち上がる。
「じゃあな」
「お、おう」
横を通り過ぎる。小宮山がその背中を見る。
「…………」
「カット!」
真中が声を上げた。
「どう?」
小宮山が振り返る。
「悪くない」
「マジ!?」
「でも最後」
「最後?」
「境野が出ていった後、もうちょっと気にしてる感じが欲しい」
「気にしてる感じ?」
小宮山が首を傾げる。
「お前、境野が毎日何か隠してどっか行ってたら気になるだろ?」
「そりゃ気になる」
「だったら、その感じでいい」
「……どうすりゃいい?」
「いつものお前なら?」
小宮山が少し考える。
「追いかける?」
「そこまでしなくていい」
「じゃあ声かける」
「台詞増えるだろ」
「じゃあ……見る?」
「それ!」
真中が指を差した。
「それでやってみよう!」
「お、おう」
俺は二人のやり取りを黙って見ていた。
「境野?」
「何?」
「いや。何か言うかと思って」
「別に」
「いいの?」
「監督が決めたんだろ」
「……おう」
真中が少しだけ笑った。
「じゃあもう一回!」
二度目。俺が教室から出る。小宮山が少し身を乗り出し、俺が消えた扉を見る。
「……何してんだ、あいつ」
「カット!」
真中がすぐに声を上げた。
「今の!」
「良かった?」
「良かった!」
「よっしゃ!」
小宮山が拳を握る。
「俺、役者の才能あるんじゃ――」
「調子に乗るな」
「境野!」
「でも今のは良かった」
「……マジ?」
「ああ」
「へへ」
素直に喜ぶなよ。こっちまで笑いそうになる。
次の撮影は数日後。この日は西野もいた。
「よろしくお願いします」
西野がぺこりと頭を下げる。
「何でそんなにかしこまってんの?」
真中が笑う。
「だって撮影でしょ?」
「読み合わせもやったじゃん」
「それとは違うよ」
西野がカメラを見る。
「本当に撮られるんだって思ったら、ちょっと緊張してきた」
「西野でも緊張するんだな」
「するよ」
俺を見る。
「境野君は?」
「しない」
「即答なんだ」
「慣れてるからな」
「……やっぱりそこ不思議」
「気にするな」
「気になるけど」
西野は笑った。
「まあ、いいや」
今日撮るのは、主人公とクラスメイトが昼休みに話す短い場面だ。物語の本筋に直接関わるわけではないが、主人公の日常を見せるために東城が加えた場面だった。
「西野さん」
「うん?」
東城が脚本を持って近づく。
「そんなに難しく考えなくて大丈夫だから」
「普通に話せばいい?」
「うん」
西野が俺を見る。
「じゃあ、読み合わせの時と同じだね」
「そうだな」
「よし」
軽く頬を叩く。
「やってみます」
「じゃあ撮るぞ」
真中がカメラを構えた。
一回目。西野は少しだけカメラを気にした。台詞は間違えない。動きも問題ない。ただ、普段より表情が硬い。
「カット」
真中が映像を確認する。西野も横から覗き込んだ。
「…………」
「どう?」
「私、固いね」
「自分でも分かる?」
「うん」
画面の中の自分を見ながら、少し苦笑する。
「カメラあるって思ったら、ちゃんとしなきゃって思っちゃった」
「ちゃんと?」
「綺麗に喋ろうとか。変な顔しないようにとか」
「なるほど」
真中が少し考える。俺は何も言わない。
「西野」
「うん?」
「次、カメラ気にしなくていいよ」
「でも撮ってるよ?」
「撮ってるけど……境野と話してて」
「境野君と?」
「うん。カメラに綺麗に映ろうとしなくていいから。いつも境野と喋ってる時みたいに」
「…………」
西野が瞬きをして、それから小さく笑った。
「分かった」
俺の隣へ戻る。
「境野君」
「何?」
「普通に喋ってね」
「そのつもりだけど」
「境野君、急に違う人になるから」
「役者だからな」
「それが困るの」
「無茶言うな」
「ふふ」
笑った。
「今みたいなのでいいんじゃないか?」
「あ」
西野が真中を見る。
「もう始まってた?」
「まだ」
「もう!」
「でも今の感じ!」
「分かったってば」
二回目。カメラが回る。今度は西野の視線がほとんどカメラへ行かなかった。俺を見て、俺が返す。台詞を交わす。それだけ。
「カット!」
真中が映像を確認する。
「うん!」
「どう?」
「全然違う!」
西野も画面を見る。
「…………」
「どうした?」
「なんか、不思議」
「何が?」
「自分じゃないみたい」
画面の中の自分を見つめる。
「でも私なんだよね」
「そりゃそうだろ」
「分かってるよ」
西野が笑う。
「もう一回撮る?」
真中が尋ねた。
「え?」
「別の角度でも欲しいんだけど。嫌なら――」
「ううん」
西野はすぐに首を振った。
「やる」
「いいの?」
「うん」
少しだけ楽しそうに笑う。
「何か、面白くなってきた」
その一言を聞いて、外村の目が僅かに光った。
おい。今は勧誘するなよ。
それからの撮影は、思っていたより早く進んだ。もちろん順調だったわけじゃない。
台詞を噛んだ。人が通って撮り直した。チャイムが入った。バッテリーが切れた。小宮山が笑ってNGを出した。
そして――
「撮れてない!?」
「真中ぁ!」
「ごめん!」
真中が録画ボタンを押し忘れ、全員から責められた。
東城も撮影を見ながら台詞を少しずつ直していく。
「ここ、映像だと長いかな」
「俺もそう思った」
真中が答える。
「じゃあ少し削ろうか」
「うん」
脚本を書く東城。それをどう撮るか考える真中。少しずつ、二人のやり取りも形になっていく。
北大路は自分の出番がない日にも何度か顔を出した。
「今日は何撮るの?」
「お前、本当に来るようになったな」
「悪い?」
「悪くない」
「じゃあ言わないでよ」
西野も調理部のない日は覗きに来た。
「今日、私出番ある?」
「ないけど」
「じゃあ見てていい?」
「もちろん!」
大草もサッカー部が早く終わった日には顔を出し、機材を運ぶのを手伝った。
いつの間にか、放課後に誰かがカメラを持っている光景が少しずつ当たり前になっていた。
そして最後の撮影日。
「……終わった」
真中がカメラを下ろした。
「全部?」
東城が尋ねる。
「多分」
「多分って何よ」
北大路が眉を寄せる。
「いや、撮り忘れないか確認しないと」
「確認してから言いなさいよ!」
「でも予定してたところは全部撮った!」
外村が撮影表を見る。
「一応、全部埋まってるな」
「じゃあ……」
小宮山が息を呑む。
「完成?」
「まだだ」
俺が答える。
「え?」
「編集がある」
「…………まだあるの?」
「撮っただけで映画になると思ってたのか?」
「ちょっと」
「なるわけないだろ」
「嘘だぁ!」
「何で絶望してんだよ!」
真中の声が響いた。
数日後。俺たちは映像研究会の部室に集まっていた。
撮影が終われば、次は編集だ。部室の一角にはパソコンが置かれている。最新のものではないが、映像を取り込んで編集するには十分使える。
その前に真中が陣取っていた。
「よし」
カメラとパソコンをケーブルで繋ぎ、MiniDVに記録した映像を順番に取り込んでいく。
「まだ?」
「まだ」
「結構待ったぞ?」
小宮山が椅子の背もたれ越しに画面を見る。
「小宮山。撮った素材がそのまま一瞬で入ると思うな」
「でも十分もない映画だろ?」
「完成品はな」
「…………あ」
「今気づいたか」
撮影した素材は当然、それより遥かに長い。NG、撮り直し、別角度。同じ場面を何度も撮っている。
「これ全部見るの?」
北大路が画面を見る。
「必要なところ選ばないといけないからな」
「……撮るより大変じゃない?」
「場合による」
「映画って面倒ね」
「でも来てるじゃん」
真中が笑う。
「うるさい。私は完成したの見たいだけ!」
「はいはい」
「何よその返事!」
映像の取り込みが終わると、今度は素材を一つずつ確認していく。
編集席に座るのは真中。その横に東城。外村は必要なカットを撮影表と照らし合わせ、小宮山は時々自分のNGを見つけて騒いでいる。俺は少し離れた場所から画面を見る。
「境野」
「ん?」
「ここなんだけど」
真中が二つの映像を見比べる。俺と北大路の場面。正面寄りのカットと、横から撮ったカットだ。
「俺、こっち使おうと思う」
以前なら、どっちがいいかと俺に聞いていただろう。けれど今回は違った。
「理由は?」
「さつきが境野を追うところ、こっちの方が分かりやすい。それに次のカットにも繋げやすいと思う」
「いいんじゃないか」
「よし」
真中が映像を繋いで再生する。俺が動き、画面が切り替わる。別角度。それでも動作は途切れない。
「……おお。繋がった」
北大路も画面を覗き込む。
「本当だ」
一度目と二度目。別々に撮った映像が、一つの動きとして自然に繋がっている。
「境野」
「何?」
「これ、このためだったの?」
「何が?」
「同じ動きしてたの」
「そうだよ」
「…………」
北大路が画面と俺を交互に見る。
「撮ってる時より変」
「何でだよ」
「だって本当に同じなんだもの」
外村も頷く。
「編集すると異常さがよく分かるな」
「お前ら褒める気ある?」
「最大限に褒めてる」
「嘘つけ」
小宮山が画面を覗き込む。
「俺もこれやった?」
「お前はカットが変わるたび微妙に姿勢違った」
「マジ!?」
「だから繋ぐの苦労した」
「先に言えよ!」
「撮ってる時に言った!」
真中が怒鳴り、部室に笑いが起きた。
時間はかかった。映像を切り、繋ぎ、音量を調整し、順番を確認する。東城が台本と照らし合わせ、真中が迷い、やり直して、また見る。
俺も技術的に困っているところだけ口を出した。それ以外は任せる。
これは真中が撮りたいと思った映画だ。東城が書いた物語だ。
俺が完成させるものじゃない。
そして――
「できた……」
真中が呟いた。
「……できた?」
東城が聞く。
「うん。できた」
今度は言い切った。
完成した映像は十分にも届かない短い作品。それでも、俺たちが最初から最後まで作った一本の映画だった。
「じゃあ、再生するぞ」
部室の照明を少し落とし、全員がパソコンの画面の前へ集まる。
真中、東城、外村、小宮山、北大路、西野、そして俺。
再生。
画面に校舎が映り、主人公が歩いている。
「境野君だ」
西野が小さく笑う。
「俺だな」
「何か変な感じ」
「何で西野が」
「だって隣にいるのに画面にもいるから」
「そういうもんだろ」
物語が進む。ノートを見つけ、文章を読む。翌日、また新しい文章が増える。
「あ、俺!」
小宮山が声を上げた。
「黙れ」
全員から言われた。
「酷くない!?」
西野の場面になる。
「……うわ。恥ずかしい」
「ちゃんとできてるじゃん」
真中が言う。
「そうなんだけど……自分で見ると変な感じ」
それでも、西野は画面から目を逸らさない。口元は少し笑っていた。
北大路の場面になると、今度は本人が黙った。画面の中で主人公を追いかけ、言葉を交わす。
「…………」
「北大路?」
「何よ」
「いや」
「ちゃんと見てるだけ」
真剣な顔だった。
やがて物語は最後へ進む。
主人公がノートを開き、少し迷ってペンを取る。
『続き、待ってます』
ノートを閉じる。
翌日。同じ場所でノートを開く。
そこに増えている一言。
『ありがとう』
画面が暗くなった。
「…………」
誰もすぐには喋らなかった。ほんの数秒。それが妙に長く感じた。
「……終わった」
真中が言った。
「うん」
東城が答える。
「俺たち、本当に映画作ったんだな」
「……うん」
東城の声は少しだけ震えていた。
「どうした?」
「何でもない。ただ……嬉しい」
画面を見ながら笑う。
「私が書いたものが、本当に映画になったんだなって」
「東城」
「ありがとう、真中君」
「いや、俺だけじゃないし!」
「うん」
東城がみんなを見る。
「みんな、ありがとう」
「だからお礼はいいって」
北大路が少し照れたように顔を逸らす。
「私も……楽しかったし」
「お」
真中が反応する。
「さつき、今楽しかったって――」
「うるさい!」
「何で!?」
「西野は?」
外村が尋ねる。
「私?」
「初出演の感想」
「うーん……恥ずかしかった」
「やっぱり?」
「でも」
西野は少し考えてから笑った。
「楽しかったよ」
「ほう」
外村の目が光る。
「なら、二人とも映像研究会に入らないか?」
「……やっぱり言うと思った」
俺が呟く。
「何だ、境野。分かっていたのか」
「顔に出てた」
「失礼な」
「否定しろよ」
「でも」
西野が少し考える。
「入ってもいいかも」
「え?」
真中が先に反応した。
「いいの!?」
「うん。調理部もあるから毎日は無理だけどね」
「掛け持ちでもいいだろ!」
「それなら……もうちょっとやってみたいな」
完成した映像を見て、西野が笑う。
「じゃあ、入ろうかな」
「よし!」
「何で淳平君がそんなに喜んでるの?」
「仲間増えるじゃん!」
「ふふ。そっか」
「北大路は?」
俺が見る。
「何で私に振るのよ」
「楽しかったんだろ?」
「それは……そうだけど」
「出番ない日も来てたし」
「撮影が気になったから!」
「編集の日も来てた」
「完成するところまで見たかったの!」
「今日もいる」
「完成したんだから当たり前でしょ!」
「…………」
「何よ」
いや、それもう答え出てないか?
北大路はしばらく黙ったあと、ふっと息を吐いた。
「……次も映画撮るんでしょ?」
「撮る!」
真中が即答した。
「早いわよ」
「でも撮る」
「…………じゃあ私も入る」
「おお!」
「ただし!」
北大路が真中を指差す。
「入ったからって、何でもやるとは言ってないからね!」
「分かってるって!」
「本当に?」
「多分」
「そこは言い切りなさいよ!」
いつもの調子で言い合いが始まる。でも北大路の表情は楽しそうだった。
「東城は?」
真中が尋ねる。
「え?」
「東城も入ろうぜ」
「私も?」
「脚本書いてくれたじゃん。それに、また書きたいって」
「…………」
東城が完成した映画を見る。
「私……うん。入りたい」
「東城!」
「真中君、声大きいよ」
「ご、ごめん!」
「ふふ」
東城が笑う。
「文芸部も続けるけど、それでもいいなら。また書きたいし……今度は演じる方も、ちょっとやってみたいかも」
「お」
外村が反応する。
「東城、いいことを――」
「外村」
「何だ?」
「その顔やめろ」
「どんな顔だ」
「美少女が増えたって顔」
「…………」
「図星かよ」
東城が困ったように笑う。
まあ、脚本を書くのも演じるのも、本人がやってみたいならそれでいい。
「これで三人か」
外村が満足そうに頷く。
「いやあ、実に素晴らしい」
「華が増えたから?」
「それもある」
「認めやがった」
「だが、それだけではないぞ。映像作品は人が多い方ができることも増える」
「急にまともなこと言うな」
「俺はいつでもまともだ」
「嘘つけ」
そんなやり取りをしていると、真中がこちらを見る。
「……で、境野は?」
「俺?」
「お前も入るだろ?」
「何で確定みたいに聞くんだ」
「だって主演やっただろ。撮影ずっと来ただろ。編集も手伝っただろ。それに楽しかったって言っただろ」
「…………」
それは言った。
「境野君」
西野までこちらを見る。
「一緒に入ろうよ」
「お前、さっき決めたばっかりだろ」
「だからだよ。調理部も一緒、映研も一緒」
「文芸部は?」
「それは東城さんと一緒でしょ?」
「そういう数え方する?」
「する」
「境野君」
東城も俺を見る。
「私も……境野君がいてくれたら嬉しい」
「…………」
それはちょっと断りづらい。
「境野」
最後に真中が呼ぶ。
「次も一緒にやろうぜ」
真っ直ぐな言葉だった。
前の人生でも映画は好きだった。好きだったからこそ、一生続けた。
けれど、あれは仕事でもあった。
現場へ行けば監督がいて、スタッフがいて、役者がいる。台本があり、スケジュールがあり、それぞれが自分の仕事をする。それが当たり前だった。
でも今は違う。
放課後に集まって、古いカメラを使って、失敗するたび騒いで。誰かが困れば別の誰かが手を貸し、最後には全員で一台の画面を囲んだ。
前の人生では知らなかった映画の作り方。
前の人生では知らなかった楽しさ。
それを、もう一回やる。
悪くない。
「……分かった」
「お?」
「俺も入るよ」
一瞬、真中が目を丸くする。
「マジ!?」
「何で誘った本人が驚くんだよ」
「だってお前、一本だけって言ってたじゃん!」
「言ったよ。俺だって覚えてる」
完成した映画を見る。
「でも、気が変わった」
「境野君」
西野が嬉しそうに笑う。
「これで一緒だね」
「だから調理部でも一緒だろ」
「そういう意味じゃないよ」
「?」
「……何でもない」
何だよ。
「境野君」
東城も笑った。
「これからもよろしくね」
「ああ」
「よーし!」
真中が勢いよく立ち上がる。
「じゃあ次の映画作ろうぜ!」
「早い!」
北大路が即座に突っ込んだ。
「今日一本完成したばっかりでしょ!」
「でも部員増えたんだぞ!」
「だからって明日から次は早いでしょ!」
「じゃあ明後日!」
「そういう意味じゃない!」
騒がしい。
小宮山が笑い、外村はもう何か企んでいる顔をしている。西野も東城も笑っている。北大路も文句を言いながら帰ろうとはしない。
俺は椅子にもたれ、完成した映画を見る。
一本だけ。
確か、俺はそう言ったはずだった。
それが一本撮り終えた頃には、映像研究会の部員になっている。
人生、分からないもんだ。
画面には、俺たちが作った最初の一本。
そしてその前では、もう次の映画の話が始まりかけていた。
これで入部オーケー。
では、また∠( ゚д゚)