いちご100% ~名脇役は青春の主役になれるか~ 作:Gussan0
続き書けたで候。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
映画が完成した翌日。
「おはよう、境野君」
「おはよ」
教室に入ると、西野がいつものように声をかけてきた。
ここまではいつも通り。
「今日、調理部だよね?」
「ああ」
「終わったら映研行く?」
「……行くんじゃない?」
「何で疑問形なの?」
「まだ慣れてないんだよ」
「何が?」
「俺が映研の部員ってことに」
「ああ」
西野が納得したように頷き――笑った。
「私も」
「お前もか」
「だって昨日入ったばっかりだもん」
そりゃそうだ。
俺は文芸部。
調理部。
そして映像研究会。
高校一年で三つ掛け持ち。
前世を含めても、ここまで節操なく部活に入った経験はない。
「でも」
西野が鞄を机に置く。
「ちょっと楽しみ」
「映研?」
「うん」
「昨日までずっといたじゃん」
「そうだけど」
西野は少し考える。
「部員として行くのは初めてでしょ?」
「……そんな変わるか?」
「変わるよ」
「そういうもん?」
「そういうものです」
妙に偉そうに言われた。
「それより調理部」
「ん?」
「今日、新入部員のあれでしょ?」
「ああ」
そっちもあったな。
調理部は毎日活動するような部ではない。掛け持ちしている生徒もいるため、基本的には週一回きちんと参加すれば問題なし。
ただし、新入部員には一つだけ恒例がある。
――自分で一品作ること。
料理でも菓子でも構わない。
何が作れるのかを見るというより、料理にどう向き合うのかを見るためらしい。
「西野は決めた?」
「うん」
「何作る?」
「内緒」
「何で」
「境野君こそ」
「俺?」
「何作るの?」
「普通に作るよ」
「だから何を?」
「内緒」
「あ、真似した」
「そっちが先だろ」
「ふふ」
西野が笑った。
放課後。
調理室に入ると、すでに何人かの部員が準備を始めていた。
「新入部員はこっちねー」
先輩に呼ばれ、俺と西野は並んで説明を受ける。
使用する材料は事前に申告したものが用意されている。制限時間内なら何を作ってもいい。
完成したものを先輩たちが試食する。
それだけ。
「緊張する?」
隣の西野に聞く。
「ちょっと」
「意外」
「何で?」
「料理好きなんだろ?」
「好きだから緊張するの」
「なるほど」
「境野君は?」
「別に」
「またそれ」
「料理で緊張することないし」
「自信あるんだ」
「それなりに」
前世では一人暮らしの期間も長かったし、役作りで料理を覚えたこともある。
今世でも一人暮らしだ。
できない方が困る。
「それじゃ、始めてくださーい!」
一斉に動き出す。
俺も材料を手元へ寄せた。
作るのは――オムライス。
凝った料理にする必要はない。
玉ねぎと鶏肉を切り、フライパンを熱する。
油。
鶏肉。
玉ねぎ。
炒めながら隣を見る。
「…………」
西野は真剣だった。
普段の柔らかい雰囲気とは少し違う。
計量。
混ぜる。
確認する。
また混ぜる。
「境野君」
「ん?」
「見ないで」
「何で」
「気になるから」
「別に盗まないよ」
「そういう意味じゃないって」
「はいはい」
自分の作業へ戻る。
ケチャップライスを仕上げ、一度皿へ。
問題は卵。
熱しすぎない。
溶いた卵を流し込み、固まり始めたところを箸で混ぜる。
形を整え――。
「よっと」
ライスの上へ。
ナイフを入れる。
ふわりと開いた卵が、ケチャップライスを覆った。
「…………」
隣から視線を感じる。
「何?」
「上手」
「どうも」
「それ、お店で見るやつじゃない?」
「普通だろ」
「普通じゃないよ」
「そう?」
「そう」
西野が妙に納得してくれない。
「西野は?」
「もうちょっと」
見れば――。
「フルーツケーキか」
「うん」
焼き上がったスポンジ。
クリーム。
果物。
なるほど。
「将来の練習?」
「……まあね」
西野が少し照れたように笑う。
「私、お菓子作るの好きだから」
「いいんじゃない?」
「え?」
「好きなもん仕事にできたら楽しいだろ」
「…………」
「何?」
「ううん」
西野が笑った。
「ありがとう」
何で礼を言われたんだ?
完成後は試食。
俺のオムライスを食べた先輩が、しばらく黙った。
「……境野君」
「はい」
「本当に一年生?」
「戸籍上は」
「何その答え」
笑われた。
西野のフルーツケーキも評判は良かった。
「西野さん、これ自分でよく作るの?」
「家でも時々」
「へえ。綺麗にできてるね」
「ありがとうございます!」
嬉しそうだ。
こういう顔を見ると、本当に好きなんだろうなと思う。
片付けまで終わった頃には、それなりの時間になっていた。
「じゃあ行こっか」
「どこに?」
「映研」
「本当に行くんだ」
「部員でしょ?」
「昨日までなら帰ってたのにな」
「昨日入ったんだから当たり前じゃん」
西野に急かされる形で、二人で部室へ向かう。
扉を開けると――。
「遅いぞ!」
真中がいた。
「何で待ち構えてんだよ」
「今日から正式に部員増えただろ!」
「だから?」
「なんか嬉しいじゃん!」
「お前、昨日からずっとそれだな」
「いいだろ!」
「淳平君、東城さんたちは?」
西野が部室を見回す。
「東城は文芸部。さつきは――」
「来たわよ」
直後、扉が開いた。
「お」
「何よ」
「いや、本当に来たなって」
「部員になったんだから来るでしょ!」
「西野と同じこと言ってる」
「え?」
西野が笑う。
「私も境野君に同じこと言った」
「へえ」
「何でそこで意気投合するんだよ」
北大路が鞄を置く。
「で?」
「何が?」
「今日は何するの?」
「…………」
真中が止まった。
「決めてないの?」
「いや」
「決めてないのね」
「昨日映画完成したばっかりなんだから仕方ないだろ!」
「じゃあ何で遅いって怒ったのよ!」
「みんな集まりたかったから!」
「子供か!」
北大路の突っ込みが飛ぶ。
「まあまあ」
外村が奥から顔を出す。
「今日は今後の映像研究会について考えればいい」
「今後?」
「ああ」
外村がニヤリとする。
「せっかく部員も増えたんだ。次はもう少し本格的な活動を――」
「次の映画?」
西野が尋ねる。
「それもある」
「それも?」
「まあ、待て」
嫌な予感がする。
こいつがこの顔をしている時は、大抵ろくでもないことを考えている。
「その前に」
扉が開いた。
「遅くなってごめんなさい」
東城だった。
「東城!」
「真中君、声大きいよ」
「あ、ごめん」
その手には文芸部で使っている鞄と、一冊のノート。
「東城さん、お疲れさま」
「西野さんも」
「文芸部?」
「うん」
東城が俺を見る。
「境野君、今日は来なかったね」
「今日は調理部」
「あ、そうだったね」
「俺も掛け持ちだからな」
「大変そう」
「東城も今から同じだろ」
「あ……」
今気づいたらしい。
「そうだった」
小さく笑う。
文芸部。
調理部。
映像研究会。
それぞれ別の場所にいたはずの人間が、放課後になるとここへ集まってくる。
昨日までは映画を作るためだった。
今日は違う。
もう撮影は終わっている。
それでも、みんなここにいる。
「じゃあ」
真中が全員を見る。
「今日は何する?」
「だから決めてないのかよ」
「これから決める!」
「堂々と言うな」
「次の映画でも考える?」
西野が言う。
「それもいいな!」
「ちょっと休みなさいよ」
北大路が呆れる。
「昨日一本完成したばっかりでしょうが」
「じゃあ何する?」
「知らないわよ」
「お菓子でも食べる?」
東城が提案する。
「あ」
西野が鞄を見る。
「ちょうどあるよ」
「何が?」
「今日作ったやつ。余った分、少し貰ってきたの」
「マジ!?」
「食べる?」
「食べる!」
「真中、反応早すぎ」
「いいだろ!」
西野が包みを取り出す。
「境野君のオムライスは?」
「持ち歩けるか」
「あはは、そっか」
「境野、オムライス作ったの?」
真中が食いつく。
「新入部員の課題でな」
「俺も食いたい」
「何でだよ」
「今度作ってくれよ!」
「嫌だよ」
「即答!?」
笑い声が部室に響く。
次の映画を撮るわけでもない。
会議をするわけでもない。
ただ集まって、喋って、小分けした菓子を食べる。
そんな放課後。
俺は西野から渡された菓子を一口食べる。
「どう?」
「うまい」
「本当?」
「ああ」
「よかった」
嬉しそうに笑う西野。
向こうでは真中と北大路がまた何かで言い合っている。東城はそれを見て笑い、外村は――。
「…………」
「外村」
「何だ?」
「何企んでる?」
「失礼だな。俺は映像研究会の未来について考えているだけだ」
「その顔で?」
「顔は関係ないだろ」
絶対何か考えてる。
まあ、それはその時になってからでいい。
一本の映画を作るために集まっただけだったはずの俺たちは、映画が終わってもこうして集まっている。
どうやら俺の放課後は、前より少し忙しくなりそうだった。
ちょっと短いですはい。
でら、また∠( ゚д゚)