『いちご100% ~名脇役は青春の主役になれるか~』 作:Gussan0
続き書けたで候。
ちょいちょい進めていきやす。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
西野つかさと真中淳平が付き合い始めた翌朝。
教室へ入ると、真中が机に突っ伏していた。
「……何してんだ」
「境野……」
「朝から死にそうな声出すなよ」
「俺……西野と付き合ってんだよな」
「昨日見てたから知ってる」
真中が勢いよく顔を上げた。
「そうなんだよ! 俺、西野と付き合ってんだよ!」
「朝から報告し直さなくていい」
「でも全然実感ねーんだよ! 昨日までほとんど話したことなかった西野が彼女だぞ!?」
「告白したのはお前だろ」
「そうだけど!」
面倒臭いな、こいつ。勢いで告白したら本当に付き合えることになって、本人が一番混乱しているらしい。
「それに……」
真中の声が小さくなる。
「昨日、見たんだよ」
「何を」
「あの子」
何を言いたいのかは分かった。
「西野の後ろに、髪の長い女の子がいてさ。ほんの一瞬だったけど……たぶん、屋上で会った子だった」
「じゃあ西野じゃなかったんだな」
「……たぶん」
真中が再び机へ突っ伏した。
「俺、何やってんだろ……」
「知らん」
「冷たくね!?」
「昨日あれだけ盛大に告白した奴に、今さら何言えってんだ」
「それはそうだけどよぉ!」
そのとき、教室の扉が開いた。
「おはよう、境野君」
「おはよう、東城」
東城綾が教室へ入ってくる。一瞬だけ真中を見て、わずかに間を置いた。
「……おはよう、真中君」
「お、おう。おはよう」
それだけだった。昨日のことには触れず、東城は自分の席へ向かう。
目元が腫れている様子もない。昨日よりは落ち着いたらしい。
なら、俺から何か言う必要もないだろう。
◇
昼休み。
「境野君」
「ん?」
弁当を食べていると、東城が本を抱えてやってきた。
「昨日借りた本、返してもいい?」
「ああ」
「面白かった」
「ならよかった」
本を受け取って鞄へしまう。東城が自分の席へ戻ろうとしたところで、教室の入口から声が飛んできた。
「境野君」
聞き覚えのある声だった。
「西野」
三年二組の西野つかさが立っていた。相変わらず目立つ金色のショートヘア。廊下を通りかかった生徒がちらちらとこちらを見ているあたり、学校のアイドル扱いされているのは伊達じゃない。
「淳平君いる?」
「大草たちと購買」
「あー、入れ違っちゃった」
「待ってりゃ戻ってくるだろ」
「そうする」
西野は気軽に三年四組の教室へ入ってきた。
「…………」
東城が少し意外そうに俺と西野を見比べている。
「どうした?」
「え? ううん……」
今度は西野が東城に気づいた。
「境野君、その子は?」
「東城。同じクラスで、文芸部も一緒」
「あ……東城綾です」
「西野つかさ。よろしく、東城さん」
「う、うん。よろしく……西野さん」
東城の声が少し硬い。
無理もない。目の前にいるのは、昨日真中の彼女になったばかりの相手だ。
「……境野君」
「ん?」
「西野さんと知り合いだったの?」
「ああ。二年のとき同じクラスだった」
「そうだったんだ……」
「私の話?」
西野が会話へ入ってくる。
「うん。境野君と知り合いなんだなって」
「去年同じクラスだったからね。境野君、去年もこんな感じだったよ」
「どんな感じだ」
「いつも落ち着いてて、困ったときだけ妙に頼りになる感じ」
「だけってなんだ」
「あはは」
西野が笑う。東城も小さく笑った。
「……境野君らしいかも」
「東城まで何言ってんだ」
「だって一年のときもそうだったから」
「一年?」
西野が東城を見る。
「私、一年生のとき境野君と同じクラスだったの」
「へえー。じゃあ東城さんの方が境野君とは付き合い長いんだね」
「……うん」
東城が少しだけ嬉しそうに頷いた。
「それで今年はまた同じクラスで、文芸部も一緒なんだ」
「そう」
「ふーん」
西野が俺と東城を交互に見る。
「何だよ」
「別に?」
絶対何か考えてる顔だろ、それ。
「でも東城さんって文芸部なんだ。本好きなの?」
「う、うん。好き……かな」
「私あんまり読まないから、すごいなぁ」
「す、すごくないよ。ただ好きなだけだから……」
「好きならいいじゃん」
「……」
東城が一瞬、目を丸くした。
どこかで似たようなことを聞いたと思ったのかもしれない。
「西野」
「ん?」
「真中戻ってきたぞ」
「え?」
教室の入口にはパンを抱えた真中が立っていた。
「西野!?」
「淳平君」
西野が笑顔になる。
「待ってたよ。一緒にお昼食べよ」
「お、おう!」
分かりやすく真中の顔が赤くなる。
「じゃあね、境野君。東城さんも」
「ああ」
「う、うん。またね、西野さん」
二人が教室を出ていく。東城はしばらく、その背中を見ていた。
「……西野さんって」
「ん?」
「もっと近寄りにくい人なのかと思ってた」
「本人には言うなよ」
「い、言わないよ」
東城が慌てて首を振り、それから少しだけ笑った。
「でも……いい人だね」
「そうだな」
笑顔がほんの少しだけ寂しそうだった。
好きな男の彼女。それも昨日、自分が泣く原因になった相手。
それでも本人と話してみれば、嫌いになる理由なんてなかった。
まあ、東城らしいか。
◇
それから数日。
「境野」
「なんだ」
「好きってなんだと思う?」
「朝っぱらから重いな」
登校早々、真中が前の席から振り返ってきた。
「いや、真面目な話!」
「俺も真面目に答えたんだが」
「答えてねーだろ!」
「西野と付き合ってるんだろ。本人に聞けよ」
「聞けるかそんなこと!」
「じゃあ俺にも聞くな」
「境野ならなんか知ってそうじゃん!」
「俺を何だと思ってる」
「妙に人生経験豊富そうな中学生」
「……」
こいつ、たまに妙なところを突いてくるな。
「西野のことは好きなんだよ。かわいいし、一緒にいるとドキドキするし」
「惚気なら他でやれ」
「違うって! でも……東城のことも気になるんだよ」
「声」
「――っ!」
真中が慌てて口を塞ぐ。
東城はまだ登校していない。
「だから悩んでんだよ。俺、西野と付き合ってるのに……東城のこと考えたりしてさ」
「なら自分で考えろ」
「分かんねーから聞いてんじゃん!」
「他人に『お前はこっちが好きだ』って決めてもらって納得できるのか?」
「う……」
「できないだろ」
「……できない」
「じゃあ悩め」
「雑!」
「恋愛相談なんてそんなもんだ」
こいつがこれからどう迷うのか、俺にはおおよその記憶がある。だからといって答えを教えるつもりはない。
東城がお前を好きだとか、お前はこれから東城に惹かれていくだとか。
そんなものは、本人が気づかなければ意味がない。
◇
「境野! 東城って俺のことどう思ってると思う!?」
「知らん」
昼休み。俺の机を真中、大草、小宮山の三人が囲んでいた。
「お前、東城と仲いいだろ!」
「文芸部が同じなだけだ」
「一年のときも同じクラスだったんだろ?」
「そうだけど」
「だったら何か知らねーの!?」
「本人に聞け」
「聞けるわけねーだろ!」
「じゃあ諦めろ」
「境野冷たすぎ!」
横で大草が笑っている。
「だったら試してみりゃいいじゃん」
「試す?」
「女の子の目をじっと見てみろよ。照れて目ぇ逸らしたりしたら、脈アリかもしれねーぞ」
「マジで!?」
「大草」
「ん?」
「中学生男子に余計な知恵を与えるな」
「なんだよ境野。お前も東城相手にやってみれば?」
「嫌だよ」
「なんで!?」
「文芸部で顔合わせづらくなるだろ」
それ以前に、そんな方法で人の感情が全部分かるなら苦労しない。
視線、瞬き、頬の紅潮、呼吸、声。人間の感情は確かに身体へ現れるし、俺なら普通より細かく拾える。
だが、照れたから恋愛感情とは限らない。緊張でも羞恥でも似た反応は起きる。
正確に見えることと、その意味を正確に理解できることは別だ。
「よし!」
真中が立ち上がった。
「やってみる!」
「話聞いてたか?」
「東城の目を見ればいいんだろ!」
「俺は一言も勧めてない」
「東城ー!」
「えっ?」
本を読んでいた東城が顔を上げる。
「な、なに? 真中君」
「ちょっといい?」
「う、うん……」
真中が東城の前へ行く。
「…………」
「…………?」
そして無言で見つめ始めた。
「……ま、真中君?」
東城の頬がみるみる赤くなる。視線が泳ぎ、やがて耐えきれなくなったように俯いた。
「な、なに……?」
「――――!」
真中が硬直する。少し離れたところで大草がニヤニヤしていた。
「境野!」
「知らん」
「まだ何も言ってねーだろ!」
「顔に書いてある」
東城が困ってるだろ。
俺は席を立った。
「東城」
「え?」
「先生が文芸部の提出物、今日までって言ってなかったか?」
「……あっ!」
東城が勢いよく立ち上がる。
「忘れてた!」
「今なら昼休み中に出せるだろ」
「う、うん!」
東城は逃げるように教室を出ていった。
真中がこちらを見る。
「……境野」
「なんだ」
「今、助けた?」
「困ってたからな」
「……お前、やっぱ東城と仲いいよな」
「一年から知ってるし、文芸部も一緒だからな」
「それだけ?」
「それだけだ」
少なくとも俺にとっては。
「真中」
「ん?」
「東城が赤くなった理由を、勝手に一つに決めるなよ」
「え?」
「恥ずかしかっただけかもしれない。突然見つめられて困っただけかもしれない。本人が何も言ってないなら、それ以上は分からん」
「……そっか」
「まあ、考える材料にはなるんじゃないか」
「どっちなんだよ!」
「だから自分で考えろって言ってる」
◇
放課後。
文芸部へ行くと、東城はもういつもの席に座っていた。
「お疲れ」
「あ、境野君」
俺も向かいへ座り、本を開く。
「…………」
「…………」
しばらくして気づいた。
東城が時々こちらを見ている。
「何?」
「えっ」
「さっきからこっち見てるだろ」
「み、見てないよ!」
「そう?」
「……ちょっとしか」
「見てるじゃん」
東城が赤くなる。
「……境野君」
「ん?」
「昼休み、ありがとう」
「提出物のこと?」
「それもだけど……あのままだと、どうしていいか分からなかったから」
「真中も悪気があったわけじゃないと思うぞ」
「うん。それは分かってる」
東城は小さく笑った。
「真中君って、時々すごく変なことするよね」
「時々?」
「……けっこう?」
「そっちだな」
くすっ、と東城が笑う。
「でも……びっくりしたけど、ちょっと嬉しかった」
「…………」
「な、なんでもない!」
慌ててノートで顔を隠す。
なるほど。
大草の雑な理論も、今回ばかりは完全に外れというわけではなさそうだ。
もちろん、それを真中へ教えるつもりはない。
これは東城の気持ちだ。俺が勝手に口にするものじゃない。
「境野君」
「ん?」
「……境野君は、ああいうことしないよね」
「人を無言で見つめ続けるやつ?」
「うん」
「しないな」
「そっか」
なぜか東城が少し笑う。
「なんだよ」
「ううん。境野君らしいなって」
「それ最近よく言われるな」
「そうなの?」
「西野にも似たようなこと言われた」
「あ……西野さん?」
「ああ」
「…………」
東城のペンが一瞬止まる。
「境野君って、西野さんとは二年生のとき、よく話してたの?」
「まあ、それなりには」
「ふーん……」
「何?」
「なんでもない」
東城はノートから顔を上げなかった。
俺もそれ以上は聞かず、本へ視線を戻す。
しばらくして、また東城のペンが止まった。
少し考えて、書いて、消す。また考えて、書いて、消す。
「行き詰まった?」
「え?」
「さっきから全然進んでないだろ」
「あ……分かる?」
「消しゴム使う回数が多いからな」
東城は自分のノートを見る。
「……ちょっと、どうしたらいいのか分からなくなって」
「話の?」
「うん」
少し迷ったあと、東城がこちらを見る。
「境野君だったら、どうする?」
「内容による」
「そうだよね……」
「話せる範囲なら聞くけど」
「……うん」
東城はノートへ視線を落とした。
「ヒロインの女の子がね、好きな人に気持ちを伝えられないまま……その人に恋人ができちゃったの」
「…………」
随分と身近な話になったな。
「それで?」
「その女の子は……諦めた方がいいのかな」
東城は顔を上げない。
あくまで小説の相談。
本人がそういうことにしたいなら、俺もそういうことにしておこう。
「東城はどうしたい?」
「え?」
「作者だろ」
「そうだけど……」
「その子がどうしたいのか、一番分かってるのは東城じゃないか?」
「…………」
東城が黙り込む。
「でも……諦めないのって、悪いことじゃない?」
「なんで?」
「だって、その人にはもう恋人がいるんだよ?」
「好きでいるだけなら自由だろ」
東城が顔を上げた。
「もちろん、恋人がいるのを分かってて無理やり奪おうとするとか、二人の仲を壊そうとするとかなら話は別だけど」
「……うん」
「でも、自分の気持ちまで今日から全部消せって言われても無理だろ」
「…………」
「好きだった時間まで無かったことにする必要はないんじゃないか」
東城が俺を見つめる。
昼休みとは違う。
驚いたような、それでいてどこか安心したような目だった。
「……そっか」
「俺ならそう思うってだけだけどな」
「ううん」
東城が小さく首を振る。
「ありがとう、境野君」
「どういたしまして」
「……もう少し、書いてみる」
「ああ」
東城が再びペンを握る。
今度は止まらなかった。さらさらと文字が増えていく。
俺も本へ視線を戻した。
しばらくして。
「……境野君」
「ん?」
「できた」
「もう?」
「全部じゃないよ」
東城が少し笑う。
「でも……続きをどうするかは決まったから」
「そっか」
「うん」
東城がノートをこちらへ少し傾ける。
俺は見なかった。
「……見ないの?」
「完成してないんだろ?」
「そうだけど……」
「完成したら読ませてくれるって言ってなかったか?」
「あ……」
東城が目を丸くする。それから、少し照れたように笑った。
「うん。約束したね」
「ああ」
「じゃあ……もう少し待ってて」
「気長に待つよ」
「……うん」
再びペンが走り始める。
俺も途中だったページへ戻った。
紙をめくる音と、ペンが走る音。
いつもと変わらない、放課後の文芸部。
ただ、さっきまで何度も止まっていた東城のペンは、それから一度も止まらなかった。
中学生編はもうちょい続けていきます。
少しずつオリ主がいる影響が出るかも。
では、また∠( ゚д゚)