いちご100% ~名脇役は青春の主役になれるか~ 作:Gussan0
続き書けたで候。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
嵐泉祭で映画を上映する。
そう決まった翌日から、俺たちの学校生活が映画一色になった――なんてことは、もちろんない。
授業は普通にあるし、宿題だってなくならない。
それに俺の場合、映像研究会だけが部活というわけでもなかった。
「境野、ちょっといい?」
「はい?」
放課後の文芸部。
原稿用紙に向かっていた俺は、二年の先輩から差し出された数枚の紙を受け取った。
「ここなんだけどさ。なんか会話が固い気がするんだよね」
「どれどれ……」
ざっと目を通してみる。
男女二人が言い争う場面らしい。内容自体は悪くない。ただ、互いに長い台詞を順番に言い合っているせいか、確かに会話というより演説に近くなっていた。
「ここ、一回途中で遮ってみたらどうです?」
「遮る?」
「こっちが全部喋り終わるまで相手が待ってる必要ないでしょう。怒ってる場面なら、なおさら」
「ああ……なるほど」
「あと、ここも返事させない方がいいかもしれません。黙って睨ませるとか」
「境野って、こういうの細かいよなぁ」
「役に立ったならいいじゃないですか」
「いや、褒めてるって」
笑いながら原稿を受け取った先輩が、自分の席へ戻っていく。
「境野君、また頼まれてたね」
声の方を見ると、東城がノートから顔を上げていた。
「最近、俺の扱いが便利屋になってない?」
「ふふっ。でも、境野君に聞くと分かりやすいからじゃないかな」
「それならいいんだけどな」
文芸部に入ってしばらく経つ。
最初こそ東城以外にはほとんど知り合いがいなかった俺も、今ではこうして先輩たちから声をかけられるようになった。
小説については、まだまだ勉強中だ。
ただ、人間がどんなふうに喋るか、どう動けば自然に見えるかについてなら、それなりに分かる。
前世で長いこと役者をやっていた経験が、思わぬところで役立っていた。
「そういえば東城」
部室の奥から声がした。
五十嵐部長だ。
「はい?」
「映像研究部にも入部してたってことなのかい?」
「あ……はい」
東城の表情が僅かに固くなる。
「今まで話してなくて、すみません」
「別に謝ることじゃないよ」
五十嵐部長は特に怒った様子もなく答えた。
ただ、少し考えるような顔をしている。
「それにしても、映研ねぇ……。ちゃんと活動してるのかな」
「してますよ」
思わず口を挟むと、五十嵐部長がこっちを向いた。
「そういえば境野もだったね」
「ええ」
「君は確か、調理部にも入ってなかった?」
「入ってますね」
「文芸部、調理部、映像研究部……三つか」
「…………」
改めて他人から並べられると、我ながら多い。
「よくやるね」
「最近、自分でもそう思います」
近くにいた先輩たちが笑う。
東城まで口元を押さえていた。
「笑うところか?」
「だって境野君、今気づいたみたいな顔するから」
「入った時期がバラバラだったからな。こうして並べて考えたことなかったんだよ」
「普通は考えてから入るんじゃない?」
「……それはそう」
言い返せなかった。
五十嵐部長が小さく息を吐く。
「まあ、掛け持ちすること自体は別にいいんだよ。文芸部の活動もきちんとやってくれればね」
「はい」
東城が頷く。
「境野も同じだよ」
「分かってますって」
「ならいいけど」
俺は肩をすくめた。
実際、三つあるからといってどれかを適当にするつもりはない。
文芸部では小説を書く。
調理部では料理をする。
映像研究部では――これから映画を作る。
こうして考えると、本当に忙しい高校生活だ。
六十年以上生きた前世を含めても、こんなに部活動を掛け持ちした経験はない。
「それで?」
五十嵐部長が東城を見る。
「映像研究部では何をやってるんだい?」
「あの……今度の嵐泉祭に向けて、映画を作ることになったんです」
「映画……」
五十嵐部長の反応は、あまり芳しいものではなかった。
「部長?」
「いや。君のためになるとは、あまり思えないけどね」
「え……?」
東城が少し不安そうな顔になる。
俺も五十嵐部長を見る。
「映像研究部、嫌いなんですか?」
「そういうわけじゃないよ」
五十嵐部長は椅子にもたれながら続けた。
「ただ、今の映像研究部に昔の面影がどれだけ残ってるのかなと思ってね」
「昔?」
「前は映像部だったんですか?」
俺が尋ねると、五十嵐部長は頷いた。
「そうらしいよ。ただ今じゃ、CGを扱う部なんかもあるだろ? そういうところに人が流れたりして、昔とは随分変わったみたいだけどね」
「へえ……」
知らなかった。
俺たちが今使っている映像研究部にも、それなりの歴史があるらしい。
「まあ、僕は文芸を映像が超えられるとは思ってないけどね」
さらっと言った。
「部長、それ単に対抗意識ありません?」
「否定はしないよ」
「しないんだ……」
東城が困ったように笑った。
五十嵐部長らしいと言えば、らしい。
文章に対して真面目な人だからこそ、映像より文芸の方に思い入れがあるのだろう。
その後、しばらくして文芸部の活動が終わった。
「じゃあ、お先に」
「お疲れさまでした」
鞄を持った五十嵐部長が教室を出ようとする。
ところが、扉の前で足を止めた。
「……ああ、そうだ」
振り返る。
「もう一つだけ言わせてもらえば、この学校には昔の映像部が作った作品が残ってるらしいよ」
「え?」
東城が顔を上げた。
「図書室に保管されてるって聞いたことがある」
「昔の映像部の作品……」
「興味があるなら探してみたら?」
それだけ言い残し、五十嵐部長は今度こそ部室を出ていった。
東城はしばらく扉を見つめていた。
「気になる?」
「……うん」
「だよな」
これから自分たちで映画を作ろうとしているんだ。
同じ学校の先輩たちが作った作品なら、見てみたいと思うのは当然だろう。
「今度、図書室で探してみようかな」
「いいんじゃないか?」
俺はそう答え、自分の原稿を鞄へしまった。
この時の俺は、それ以上深く考えていなかった。
◇
数日後。
「境野君、そっちお願いしていい?」
「了解」
調理部の調理室。
俺は隣の台から差し出されたボウルを受け取った。
「これくらい?」
「もうちょっと」
「はいはい」
「もうちょっと」
「……まだ?」
「あとちょっと」
「その『ちょっと』便利すぎない?」
「あはは、ごめんごめん」
こんな感じで、調理部にもすっかり馴染んでいた。
最初は新入部員として料理を一品作って見せるところから始まったが、今では他の部員と一緒に作業するのも珍しくない。
「境野、悪い。こっちの火見てくれない?」
「ちょっと待ってください。俺、今こっちやってるんで」
「終わったらでいいから」
「分かりました」
返事をすると、少し離れたところから笑い声が聞こえた。
西野だった。
「何だよ」
「ううん。境野君、今日も忙しいなって」
「誰のせいだと思ってる」
「私は何も頼んでないよ?」
「今日は、だろ」
「ばれた?」
「ばれるわ」
西野が楽しそうに笑う。
俺と西野はいつも同じ班というわけじゃない。
今日は別々の作業をしているし、西野も西野で周りの部員たちと楽しそうに話している。
それでも時々こうして声を掛け合うくらいには、調理部で一緒にいることが当たり前になっていた。
「でも境野君、本当に断らないよね」
「手が空いてたら手伝うだろ」
「だから頼まれるんじゃない?」
「……最近それ、別の場所でも言われたぞ」
「やっぱり?」
「やっぱりって何だ」
「境野君らしいなってこと」
そう言って、西野は自分の作業へ戻っていった。
「境野ー、こっちいい?」
「今行きます!」
……本当に便利屋になってないか、俺。
そんな疑問を抱きながら、俺も別の調理台へ向かった。
◇
さらに数日後。
放課後の廊下を歩いていた真中は、後ろから呼び止められた。
「真中君」
「ん?」
振り返ると、そこには東城が立っていた。
手には鞄。
そして、その中には一本のビデオテープが入っていた。
「どうしたの、東城?」
「あの……ちょっと観てほしいものがあるの」
「俺に?」
「うん。一緒に視聴覚室に来てくれる?」
真中が目を瞬く。
「今から?」
「うん」
東城の表情は、いつになく真剣だった。
「分かった」
二人は並んで視聴覚室へ向かった。
誰もいない室内。
カーテンを閉め、東城がビデオデッキへ一本のテープを入れる。
「これ、何のビデオ?」
「前に五十嵐部長から聞いたの。昔の映像部の作品が学校に残ってるって」
「へえ……」
東城が手にしていたテープを真中へ見せる。
「第18回高校生映像コンクールの出展作品。今から七年前に、この学校の映像部が作ったものみたい」
「七年前……」
真中の目が、テープへ向く。
七年前。
今の自分たちと同じように、この泉坂高校で映画を作っていた生徒たちがいた。
「観てみよう」
「うん」
再生ボタンが押された。
画面にノイズが走る。
やがて、映像が始まった。
◇
「…………」
上映が終わっても、真中はしばらく何も言わなかった。
画面には既に何も映っていない。
それでも視線だけは、テレビへ向いたままだ。
「真中君……?」
「……すげえ」
「え?」
「すげえよ、これ」
ようやく出てきた言葉だった。
プロが莫大な金を使って撮った映画じゃない。
豪華なセットがあるわけでもない。
出演しているのも、撮っているのも高校生。
使える場所も機材も、今の自分たちと大きく違うわけではないはずだ。
なのに――。
「俺たちがこの前撮ったやつと、全然違う……」
真中は拳を握る。
悔しい。
けれど、それ以上に胸が高鳴っていた。
高校生だけでも、ここまで作れる。
だったら。
自分たちにだって――。
「真中君」
東城が隣から声をかける。
「前に言ってたよね」
「何を?」
「どうせ作るなら、観た人に面白いって言わせたいって」
「……ああ」
真中は覚えていた。
東城も覚えていた。
「私、映像のことはまだよく分からないけど……」
東城がテレビを見る。
「でも、この作品を観て思ったの」
そして真中へ向き直った。
「作ろうよ」
「え?」
「私たちで、これよりもっと面白い映画を作ろうよ!」
真中が目を見開いた。
普段の東城からは想像しにくいほど、強い言葉だった。
けれど、その目は本気だった。
「東城……」
「私も頑張るから。物語を考えて、ちゃんと脚本にする」
「…………」
「だから――」
東城が手を差し出す。
真中は、その手を見る。
少し迷ってから、自分の手を重ねた。
「……うん」
手と手が重なる。
それだけなのに、急に距離が近くなったような気がして、真中の顔が熱くなる。
東城も少し頬を赤くしていた。
それでも手は離さなかった。
「絶対、いい映画にしよう」
「うん!」
七年前。
同じ学校にいた高校生たちが作った一本の映画。
その作品は、七年後の二人へ確かに何かを残した。
そして今度は――。
真中たちが、自分たちの映画を作る番だった。
また出来たら投稿します。
では、また∠( ゚д゚)