『いちご100% ~名脇役は青春の主役になれるか~』 作:Gussan0
続き書けたで候。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
西野つかさと真中淳平が付き合い始めてから、学校で少し変わったことがある。
「境野君」
「ん?」
「淳平君、いる?」
「今日はいる」
「今日はってなんだよ!」
教室の奥から真中の抗議が飛んできた。
「昨日は西野が来る直前に購買行っただろ」
「あれは偶然だ!」
「今日は捕まえられてよかったな、西野」
「あはは。ほんとだね」
「お前ら!」
三年二組の西野が、昼休みになると時々こちらへ来るようになったことだ。目的はもちろん彼氏である真中。付き合い始めたばかりということもあって、西野が姿を見せるたび真中は分かりやすく浮かれている。
「淳平君、お昼まだ?」
「まだ!」
「じゃあ一緒に食べよ」
「おう!」
いそいそと弁当を持ってくる真中を見ていると、こっちまで妙な気分になる。青春してるねえ。
「境野君も一緒に食べる?」
「俺?」
「うん」
「いや、彼氏との昼飯に元クラスメイトを混ぜるなよ」
「別にいいじゃん」
「俺がよくない」
「なんで?」
「真中の視線がうるさい」
「え?」
西野が真中を見る。真中が露骨に目を逸らした。
「淳平君?」
「な、なんでもない!」
「ふーん?」
西野が面白そうに笑う。この辺は去年から変わらない。明るくて、人との距離を縮めるのがうまい。去年同じクラスだった頃も西野の周囲にはいつも人がいた。男女問わず人気があって、俺みたいに一人でいても平気な人間にも普通に話しかけてきた。
「じゃあ東城さんも誘おっか」
「えっ」
俺より先に真中が反応した。
「なんで真中が驚くんだ」
「いや、だって……」
「この前ちょっと話したし」
西野が教室を見回し、本を読んでいた東城を見つける。
「あ、いた。東城さーん」
「えっ?」
「一緒にお昼食べない?」
「わ、私?」
「うん」
東城の視線が真中へ向かう。次に西野。最後に俺。なぜ俺を見る。
「嫌なら無理しなくていいよ?」
「う、ううん! 一緒に食べる」
「ほんと? じゃあ決まり」
西野が笑う。
結果、真中、西野、東城、俺の四人で机を囲むことになった。真中は落ち着かない。東城も落ち着かない。西野だけが普通だ。
「東城さんのお弁当、自分で作ったの?」
「う、うん」
「すごーい。私も料理するけど、お弁当って朝から作るの面倒じゃない?」
「前の日に少し準備してるから……」
「へえ。今度なんか教えてよ」
「私でよければ……」
「やった」
意外と会話が続いている。東城は人見知りする方だが、西野は相手が答えやすい話題を振るのがうまい。
「境野君は?」
「何が」
「お弁当」
「自分で作った」
「えっ」
東城が反応した。
「境野君、自分で作ってるの?」
「だいたいな」
「知らなかった……」
「言ったことなかったし」
西野は特に驚かない。
「境野君、料理できるよ」
「知ってるの?」
「去年、調理実習で同じ班になったことあるから」
「ああ、あったな」
「先生より手際よかったよね」
「それは言い過ぎだ」
「包丁使うのすっごく速かったじゃん」
「普通だろ」
「普通じゃないって」
東城が俺の弁当をじっと見ている。
「食う?」
「えっ!?」
「そんな見られると食いづらい」
「ご、ごめん!」
「卵焼きくらいならやるけど」
「いいの?」
「ああ」
箸を伸ばしかけて、止めた。これ、俺の箸でそのまま渡したら妙な空気になるやつか? 前世なら気にもしなかったが、今は中学生だ。
「ほら」
弁当箱の蓋へ卵焼きを置いて東城へ渡す。
「あ……ありがとう」
「どういたしまして」
「境野」
「ん?」
真中がこっちを見ていた。
「何?」
「いや……なんでもない」
何なんだ。
「私も」
「西野まで?」
「去年の境野君の料理、久しぶりに食べたい」
「調理実習で一回食っただけだろ」
「だから久しぶり」
「はいはい」
もう一つ置いてやる。
「ありがと」
西野が口へ運び、嬉しそうに笑った。
「ん。おいしい」
「普通の卵焼きだぞ」
「東城さんも食べてみて」
「う、うん」
東城も一口食べる。
「……おいしい」
「そりゃどうも」
「境野……」
「だから何だよ」
「俺にもくれ」
「なんでだよ」
「俺だけないのおかしいだろ!」
「彼女から貰え」
「そういう問題!?」
「淳平君、食べる?」
「食べる!」
西野が自分の弁当からおかずを差し出すと、真中は一気に上機嫌になった。単純な奴。
でもまあ、西野が笑っていて、真中が嬉しそうで、東城も少しずつ普通に話せるようになっている。思っていたより悪くない昼休みだった。
◇
「境野君」
放課後、靴を履き替えていると後ろから呼ばれた。
「西野?」
「今帰り?」
「ああ。今日は文芸部休み」
「そっか。じゃあ途中まで一緒に帰らない?」
「別にいいけど。真中は?」
「淳平君、今日は大草君たちと用事あるんだって」
「なるほど」
二人で校門を出る。去年は珍しくもなかった。同じクラスで帰る方向も途中まで同じだったから、偶然一緒になることは何度かあった。三年になってクラスが分かれてからは久しぶりだ。
「なんか懐かしいね」
「去年もたまにこうして帰ったな」
「うん。境野君、今年も全然変わんないね」
「一年でそんな変わるか?」
「変わるよ。中学生なんだから」
「そういうもんか」
「そういうもん」
前世まで含めれば一年なんて誤差みたいな感覚なんだが、もちろん口には出せない。
「でも、ちょっと変わったかな」
「どっちだよ」
「あはは」
西野が笑う。
「東城さんといるとき」
「東城?」
「うん」
「何が違う?」
「んー……自然?」
「意味が分からん」
「私と話すときも普通なんだけど、東城さんとはもっと静かっていうか」
「文芸部だからな」
「関係ある?」
「たぶん」
「ふーん」
西野が横から俺の顔を覗き込む。
「境野君、東城さんのこと好きなの?」
「…………は?」
思わず足が止まった。
「なんでそうなる」
「なんとなく」
「違う」
「即答」
「友達だよ」
「へえー」
「なんだその顔」
「別に?」
昼休みにも見たぞ、その顔。
「西野」
「ん?」
「人のことより自分はどうなんだ」
「私?」
「真中と付き合い始めたんだろ。楽しい?」
「…………」
西野の表情が少し変わった。からかうような笑顔が消える。
「楽しいよ」
「ならいいじゃん」
「でもね、まだよく分かんない」
「何が」
「付き合うってこと」
西野が前を向く。
「淳平君の告白、すっごく変だったでしょ?」
「まあな」
「普通あんな告白しないよね」
「普通の基準を俺に聞くな」
「でも面白かった。あんなことしてまで私に告白してくる人、初めてだったから」
「それで付き合った?」
「それだけじゃないけどね」
その言葉に少し引っかかった。
「前から知ってたのか?」
「ん?」
「真中のこと」
西野が一瞬だけ目を丸くし、それからいたずらっぽく笑った。
「内緒」
「なんだそれ」
「女の子には秘密があるの」
「そうですか」
「そうなんです」
そこから少し歩いたところで、西野がぽつりと言った。
「でも……淳平君、東城さんのこと気にしてるよね」
気づいてたか。いや、西野なら気づいていても不思議じゃない。
「俺に聞くなよ」
「聞いてないよ」
「じゃあ何だ」
「言ってみただけ」
西野は笑っている。でも、さっきまでとは少し違った。
「境野君って、こういうとき絶対余計なこと言わないよね」
「本人がいないところで勝手に話すことじゃないだろ」
「やっぱり」
「何が」
「境野君だなーって」
「またそれか」
「あはは」
やがて分かれ道へ着く。
「じゃあ私こっち」
「ああ」
「また明日ね、境野君」
「また明日」
西野が手を振って歩いていく。その背中を少しだけ見送った。
明るくて、誰とでもすぐ仲良くなれて、いつも楽しそうに見える。でも当然、西野だって何も考えていないわけじゃない。
同じ教室で一年過ごした。一緒に授業を受けて、話して、笑った。
西野つかさは、俺にとってもう「原作のヒロイン」というだけの存在じゃない。
去年同じクラスだった、一人の友達だ。
◇
翌日の放課後。
「境野君」
「ん?」
文芸部で本を読んでいると、東城がノートから顔を上げた。
「昨日、西野さんと一緒に帰ってた?」
「途中までな」
「……そうなんだ」
「見てたの?」
「たまたま窓から」
「ふーん」
東城のペンが止まった。
「どうした?」
「え?」
「いや、止まってるから」
「あ……別に、なんでもないよ」
「そう?」
「うん」
さらさらとペンが走る。
三秒。
止まった。
「…………」
「…………」
「境野君」
「何」
「二年生のとき、西野さんと仲良かったんだね」
「普通だぞ」
「一緒に帰るくらい?」
「帰る方向が途中まで同じだったからな」
「ふーん……」
またペンが動く。そして止まる。
「東城」
「な、なに?」
「今日全然書けてないだろ」
「そ、そんなことないよ!」
「さっきから同じ行で止まってるぞ」
「…………」
東城がノートを両手で隠した。
「見ないで……」
「見てない」
「……ほんと?」
「人の原稿勝手に読まないって前にも言っただろ」
「……うん」
東城の手から力が抜ける。
「そうだったね」
「ああ」
少しだけ沈黙したあと、東城が小さな声で言った。
「……境野君」
「ん?」
「私も」
「何?」
「私も境野君と、一年生のとき……一緒に帰ったことあったよね」
「あったな」
確か、雨の日だった。東城が傘を忘れて、俺の傘に途中まで入れて帰った。
「覚えてたの?」
「そりゃ覚えてるだろ」
「…………そっか」
東城が俯く。けれど今度は、口元が少し笑っていた。
「なんだよ」
「なんでもない」
そしてペンが動き始める。今度は止まらない。
俺は首を傾げながら、本へ視線を戻した。
女心は難しい。
前世で何十年生きようが、こればかりは経験値でどうにかなるものでもないらしい。
東城さんのキャラがイマイチ掴めぬ。
では、また∠( ゚д゚)