『いちご100% ~名脇役は青春の主役になれるか~』 作:Gussan0
続き書けたで候。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
東城が眼鏡を外し、三つ編みをやめてから一週間ほどが経った。
最初の二、三日は教室へ入るたびに視線を集めていた東城も、今ではすっかり馴染んでいる。
「おはよう、東城」
「おはよう、境野君」
朝、教室へ入ってきた東城は普通に俺へ挨拶し、自分の席へ向かう。結局、元の髪型には戻さなかった。本人曰く、最初こそ恥ずかしかったものの、慣れてしまえば思っていたほどではなかったらしい。西野は「絶対こっちの方がいいって」と大喜びしていた。
そしてもう一人。
「…………」
「真中」
「えっ!?」
「何も言ってない」
「な、なんだよ!」
「だから何も言ってないって」
分かりやすい。真中が東城を見る回数は、明らかに増えていた。
屋上で出会った少女が東城だった。それを知った影響は大きいのだろう。ただ、だからといって急に何かが変わったわけではない。真中には西野という彼女がいる。東城もそれを知っている。
真中と東城が以前より互いを意識するようになった。それだけだ。――今のところは。
受験の話は、日を追うごとに現実味を増していった。授業中に教師が志望校について話すことも増え、放課後に進路相談で残る生徒も珍しくなくなった。
俺の第一志望は変わらず泉坂高校。真中も泉坂。大草は推薦で泉坂。小宮山も相変わらず泉坂を目指している。
問題は――。
「東城。ちょっといいか」
「はい」
ホームルームが終わったところで、担任に呼び止められた東城が教卓へ向かう。
「この前出してもらった進路希望なんだが、泉坂も候補に入れたんだな」
「……はい」
「もちろん悪い学校じゃない。ただ、東城の成績ならもう少し上も十分狙えるぞ」
「…………」
「前にもいくつか勧めただろ?」
「はい」
机の上へ何枚かの学校資料が置かれる。
「今すぐ決めろとは言わない。ただ、偏差値だけじゃなくて校風や進学実績も含めて、もう一度考えてみなさい。東城なら選択肢は多いんだから」
「……はい」
教師としては当然の話だろう。成績がいい。なら、より上の学校も検討してみたらどうか。別に泉坂を否定しているわけじゃない。選べるからこそ、よく考えろという話だ。
「境野」
「はい?」
突然こっちへ飛び火した。
「お前もだぞ」
「俺?」
「お前も成績だけなら他に選択肢あるだろ」
「俺は泉坂でいいです」
「即答だな」
「近いんで」
「……お前、本当にそこだけは一貫してるな」
「毎日通うんですよ?」
「分かった分かった」
担任が苦笑する。俺の場合は既に理由が決まっている。東城は違う。だから迷うのも当然だった。
「境野君」
その日の放課後。文芸部で本を読んでいると、向かいから呼ばれた。
「ん?」
「……境野君って、迷わなかった?」
「高校?」
「うん」
「ほとんど」
「やっぱり」
東城の前には原稿ではなく、数冊の学校案内が広げられている。
「家から近いって、そんなに大事?」
「俺にはな。一人暮らしだと帰ってからやることあるし」
「ご飯とか?」
「飯、洗濯、掃除。買い物もある。それに通学時間って毎日のことだろ。片道三十分余計にかかれば、往復一時間だ」
「あ……」
「三年間なら結構な時間になる」
「そう考えると大きいね」
「まあ、これは俺の場合だけどな」
東城が学校案内へ視線を落とす。
「東城は東城で考えればいい」
「……うん」
ページをめくる。
「こっちは、先生が一番勧めてくれてる学校」
「結構上だな」
「うん。設備もいいし、進学実績もいいみたい」
「いい学校じゃん」
「……うん」
返事の割に、表情が晴れない。
「何か引っかかる?」
「引っかかるっていうか……」
東城は少し迷ってから、別の資料を開いた。泉坂高校。
「泉坂のことも調べたの」
「どうだった?」
「通学はそんなに大変じゃない。図書室もちゃんとしてるみたいだし……文芸部もある」
「あるんだ」
「うん。活動がすごく盛んなわけじゃないみたいだけど、ちゃんと続いてるみたい」
「小説は続けられそう?」
「……うん」
少しだけ声が明るくなった。
「だったら条件の一つは満たしてるな」
「うん」
東城が泉坂の学校案内を眺める。
「もっと上の学校へ行った方が、将来のためにはいいのかな」
「それは俺には決められない」
「……そうだよね」
「ただ、上に行けるから上に行かなきゃいけない、ってこともないだろ」
「…………」
「偏差値が高いところから順番に全員の正解になるわけじゃない。何をしたいかとか、どこで三年間過ごしたいかとか。そういうので決めてもいいんじゃない?」
「どこで……過ごしたいか」
「前にも言ったけど、友達がいるってのも理由にしていいと思う。ただ、それだけで決める必要もない」
「……うん」
「先生が勧めた学校に行きたいなら、そこを選べばいい。泉坂がいいと思うなら泉坂でいい。東城の進路だろ」
しばらく返事はなかった。やがて東城が小さく笑う。
「境野君って、こういう時は本当に何も決めてくれないよね」
「決めてほしいの?」
「ううん」
東城は首を横に振った。
「たぶん、それじゃ駄目なんだと思う」
「なら自分で決めろ」
「……うん」
東城はまた資料へ視線を落とした。
それからさらに何日か経った。
放課後の教室では、真中と東城が机を並べて問題集を開いていた。小宮山はその向かい。俺と大草も少し離れた席で、それぞれ勉強している。
「東城! これ!」
「どれ?」
「この英文!」
「あ、それはね――」
最近、真中が東城へ質問するのは珍しくなくなった。
「なるほど!」
「ここが主語で、こっちが――」
「待って東城、もう一回!」
「うん」
真中は楽しそうだ。東城も楽しそうだった。
「……真中の奴、分かりやすいな」
大草が小声で言う。
「何が」
「色々」
「曖昧だな」
「お前も大概だけどな」
「何が?」
「……いや、もういい」
なんだこいつ。
「境野君!」
「ん?」
「ここの答え、これで合ってる?」
東城の問題集を確認する。
「合ってる」
「ほんと?」
「ああ」
「よかった」
「境野!」
今度は小宮山。
「俺のも!」
「自分で丸つけしろ」
「扱いが違う!」
「東城は確認。お前は答えを聞こうとしてる」
「バレた!?」
「バレるだろ」
「小宮山……」
大草がため息をつき、教室に笑い声が響く。東城も笑っていた。
以前なら、こういう人数の中で東城が自然に笑っている光景はあまり見なかった気がする。少なくとも一年の頃はそうだった。同じクラスだったから分かる。休み時間は本を読んでいることが多く、話す相手も決して多くなかった。
変わったのは、髪型だけじゃないらしい。
「境野君」
その帰り、校門を出たところで東城に呼び止められた。
「少しいい?」
「ああ」
二人で歩き出す。夕方の住宅街をしばらく無言で歩いたところで、東城が口を開いた。
「……決めた」
「高校?」
「うん」
「どこ?」
東城は少しだけ緊張したように息を吸う。
「泉坂高校。第一志望、泉坂にする」
「そうか」
「……驚かないの?」
「候補には入れてたし」
「そうだけど」
「ちゃんと考えた?」
「うん」
今度の返事には迷いがなかった。
「先生に勧めてもらった学校も調べた。すごくいい学校だったよ。設備も、進学実績も。でも……泉坂もちゃんと調べたの」
東城は指を一つずつ折る。
「家から通える。勉強もちゃんとできる。文芸部もある。小説も続けられる。それから……真中君もいる」
やっぱりそこは大きいらしい。
「大草君も、小宮山君も」
「小宮山は受かればな」
「またそれ言う」
東城が笑う。
「それに――境野君もいる」
「俺?」
「うん。西野さんはまだ分からないけど……最近ね、みんなと一緒にいるのが楽しいの」
東城は夕暮れの道の先を見る。
「前は、高校って勉強するところだと思ってた。もちろん、それも大事だけど……三年間過ごす場所なんだよね」
以前、俺が言った言葉だった。
「だから、どこで勉強したいかだけじゃなくて……誰と過ごしたいかも考えた」
「それで泉坂?」
「うん」
「先生に上の学校勧められてるんだろ」
「うん」
「それでも?」
「それでも」
はっきりした返事だった。
「勉強は泉坂でもできる。小説も書ける。それなら私は……高校でも、今みたいにみんなと一緒にいたい」
東城が少し照れたように笑う。
「それって、駄目な理由かな?」
「なんで俺に聞くんだ」
「境野君が前に、友達がいるのも理由にしていいって言ったから」
「言ったな」
「だから」
「……東城がちゃんと調べて、自分で決めたならいいんじゃない?」
「……うん」
「ただし、俺たちがいるからって勉強の手を抜くなよ」
「それは境野君に言われたくない」
「なんで」
「私の方がちゃんと勉強してるもん」
「否定できない」
「ふふっ」
東城が笑った。
一年の頃、同じクラスだった俺と東城は今ほど話していなかった。文芸部で一緒になってからも、最初は本当にそれだけだった。それが今では、東城が高校を選ぶ理由の一つに俺まで入っている。
友達。そういうことなんだろう。
翌日。
「真中君」
「ん?」
「私も泉坂、受けることにした」
「…………マジ?」
「うん」
「マジで!?」
「う、うん」
「よっしゃあ! 東城も泉坂か!」
「うん」
「じゃあ高校でも一緒じゃん!」
「……受かったらね」
「受かるだろ、東城なら!」
「まだ分からないよ」
「いや絶対大丈夫だって!」
「そ、そうかな」
「おう!」
東城の頬が赤くなる。やっぱり分かりやすい。
「そういや、西野はどうするんだろ」
「……お前、まだ聞いてなかったの?」
「聞こうとは思ってたんだよ!」
「彼氏だろ」
「分かってるよ!」
「じゃあ聞けよ」
「タイミングがあるんだって!」
「何のタイミングだ」
「色々だよ!」
そんな話をしていた、その日の昼休み。
「淳平君」
噂をすればなんとやら。西野が三年四組へやってきた。
「西野!」
「なに?」
「いや、ちょうどお前の話してた」
「私の?」
西野が俺、東城、真中を順番に見る。
「……何の話?」
「進路」
「ああ」
西野の表情が少し変わった。
「西野、どこ受けるんだ?」
「んー……まだ決めてない」
「まだ?」
「候補はあるよ。でも最終的にはまだ」
「そっか」
「淳平君は泉坂だよね」
「おう!」
「境野君も?」
「ああ」
「東城さんは?」
東城が少し緊張したように答える。
「私も……泉坂にしようと思ってる」
「えっ」
西野が目を丸くした。
「そうなの?」
「うん」
「へえ……みんな泉坂なんだ」
「大草は推薦決まってるし、小宮山も受けるぞ」
「小宮山君も?」
「受かるかは知らん」
「境野君、それ本人にも言ってるでしょ」
「言ってる」
「やっぱり」
西野が笑う。ただ、その後でもう一度「……泉坂かぁ」と小さく呟いた。
「西野?」
「ううん。なんでもない」
そう言って、いつもの笑顔に戻った。
次の土曜日。
「境野君」
「何」
「これ、借りていい?」
西野が手にしているのは、俺が集めていた高校案内の一冊――泉坂高校だった。
「いいけど」
「ありがと」
今日も勉強会だ。真中と小宮山は問題集と格闘中。大草はその横で余裕の顔。東城は過去問を解いている。西野は休憩に入ったところで、本棚に置いてあった学校案内を見つけたらしい。
「西野さん、泉坂気になるの?」
東城が尋ねる。
「ちょっとね」
「受けるの?」
「まだ分かんない。最初は別の学校を考えてたんだけど」
俺の手が止まった。
(……桜海学園か)
前世の記憶が正しければ、西野が進学するのは泉坂高校ではない。桜海学園――女子校だ。
しかも、単純に偏差値や校風だけで選んだわけじゃなかったはずだ。東城と同じことをやっていても勝てない。そんなことを、西野は後に口にしていた。
真中の近くには東城がいる。だったら同じ場所で東城と張り合うのではなく、自分は自分の場所で頑張る。自分を磨いて、自信をつける。
少なくとも俺は、あの進路選択をそう記憶している。だから西野は泉坂へ行かなかった。真中が泉坂を受けると分かっていても、東城がそこへ行くことになっても、自分で別の道を選んだ。
それが、俺の知っている西野つかさだった。
「でもさ、最近ちょっと迷ってるんだよね」
「どうして?」
「んー……」
西野は泉坂の学校案内をめくる。
「前はね、東城さんと同じ学校に行ったら、なんかずっと比べちゃう気がしてたんだ」
「私と?」
東城が驚いたように顔を上げる。
「うん」
「どうして……?」
「東城さん、頭いいし、かわいいし」
「か、かわ……」
「それに――」
西野の視線が一瞬だけ真中へ向く。それだけで何の話なのかは分かった。東城も分かったらしい。頬がわずかに赤くなる。
「同じところにいたら、私、自分に自信なくしちゃうかもしれないって思ってた」
「西野さん……」
「だから違う学校へ行って、そこで頑張るのもいいかなって」
――同じだ。
俺の知っている西野の考え方と、根っこの部分は変わっていない。東城と同じ場所ではなく、自分の場所で頑張る。そのために桜海学園を選ぶ。
そこまでは、俺の記憶にある流れと繋がっている。
「でもね」
西野が笑った。
「最近、ちょっと違うかなって思い始めた」
「違う?」
「東城さんと一緒だからって、東城さんと同じにならなきゃいけないわけじゃないでしょ?」
「……うん」
「東城さんは小説書いてるし、淳平君は映画やりたいんでしょ。境野君は……」
「俺を見るな」
「境野君は何でもできそうだから保留」
「雑だな」
「ふふっ」
東城が笑う。
「だったら私も、泉坂に行ったって自分のやりたいこと探せばいいのかなって」
西野はもう一度、学校案内を見る。
「東城さんと同じ学校に行ったからって、私が東城さんになるわけじゃないし」
「……西野さん」
「それに、東城さんと最近一緒にいるの、楽しいから。高校でも東城さんと一緒だったら楽しそう」
東城が目を丸くした。
「嫌?」
「ち、違うよ! 私も……西野さんと一緒だったら嬉しい」
「ほんと?」
「うん」
「そっか」
西野が嬉しそうに笑う。
その様子を見ながら、俺は何も言わなかった。桜海学園を受けるのか、と聞くこともできない。そもそも西野本人からその名前を聞いていない以上、俺が知っている方がおかしい。
原作の西野が間違っていたわけじゃない。違う学校へ行って自分を磨く。それも西野が自分で選んだ道だ。
ただ、今の西野は別の答えを見つけかけている。
東城から離れなければ、自分らしくいられないわけじゃない。同じ場所にいても、自分は自分でいればいい。
もし西野がそう考えるようになったのだとしたら、俺の知っている進路と違ってくるのも当然なのかもしれない。
数日後。
「境野君」
「ん?」
昼休み、西野が俺の机へ一冊の学校案内を置いた。
「返す。ありがと」
「決まった?」
「……まあね」
少しだけ悪戯っぽく笑う。
「どこ?」
「当ててみる?」
「面倒だからいい」
「そこは付き合ってよ!」
「じゃあ――」
「泉坂高校」
先に言われた。
「…………」
思わず西野を見る。
「何その顔」
「いや」
「そんなに意外?」
「……少し」
少しどころじゃない。
――泉坂。
桜海学園じゃない。
前世で知っていた『いちご100%』では、西野つかさは桜海学園へ進学する。
東城の眼鏡や髪型が変わる時期が早まったのとは意味が違う。あれは、本来起きるはずだった出来事が少し早く起きただけとも言える。
けれど、これは違う。
西野が泉坂を受験する。
俺の知っている進路そのものから外れた選択だ。
いや、原作でも受験自体はしていたな。
ただ合格したものの、進学しなかっただけで……。
「ちゃんと考えたのか?」
「考えたよ」
「真中がいるから?」
「それもある。彼氏だもん。一緒の高校に行けたら嬉しいよ」
「まあ、そうだな」
「でも、それだけじゃないよ」
西野はそう言って俺を見る。
「泉坂のことも調べた。通学も大丈夫だし、学校も悪くない。それに境野君もいる」
「また俺か」
「去年同じクラスだった友達がいるの、結構大きいんだからね?」
「そういうもん?」
「そういうもの。それに東城さんもいるし」
「仲良くなったな、お前ら」
「うん。東城さん、話してみたら面白いし」
「本人に言ったら喜ぶぞ」
「あとで言おうかな」
西野は少し笑ってから、真面目な表情に戻る。
「最初に考えてた学校もちゃんと見たよ。そっちが嫌になったわけじゃない。ちゃんと比べて、それでも泉坂に行きたいって思ったの」
「…………」
「同じ学校でも、東城さんは東城さんで、私は私だしね」
西野らしい言葉だった。
「だから決めた。泉坂、受ける」
迷いのない声だった。
その顔を見て、俺の中にあった『西野つかさは桜海学園へ行く』という知識が、完全に過去のものになった。
原作ではそうだった。
でも、今の西野は違う。
「なら勉強しないとな」
「第一声それ?」
「受けるだけなら誰でもできる」
「境野君って本当にこういうところ現実的だよね」
「落ちたら意味ないだろ」
「分かってるって。ちゃんと受かるよ」
「なら頑張れ」
「うん」
西野が笑った。
「西野!」
そこへ教室へ戻ってきた真中が声を上げる。
「聞いたぞ! 泉坂受けるってマジ!?」
「誰から聞いたの?」
「東城!」
見ると、その後ろで東城が申し訳なさそうな顔をしていた。
「ご、ごめん。西野さんが泉坂にするかもって……」
「別に秘密じゃないからいいよ。うん。私も泉坂受ける」
「マジか!」
「マジ」
「よっしゃあ! じゃあ西野も一緒じゃん!」
「受かったらね」
「お前なら大丈夫だって!」
「淳平君も受からなきゃ意味ないよ?」
「…………そうだった」
「忘れてたの?」
「いや、忘れてない!」
「ほんと?」
「ほんと!」
西野が笑い、東城もつられて笑った。
「これで五人か」
「五人?」
西野が首を傾げる。
「俺、真中、東城、西野、大草」
「小宮山君は?」
「受かったら六人」
「またそれ?」
東城が呆れたように笑う。
「境野君、小宮山君に厳しくない?」
「現状を正確に評価してるだけ」
「俺にも厳しいぞ!」
「真中にも必要だからな」
「お前は俺の母ちゃんか!」
「誰がお前の母ちゃんだ」
笑い声が教室に広がる。
その中で、俺は改めて顔ぶれを見る。真中淳平、東城綾、西野つかさ。そして俺。大草は既に推薦で泉坂、小宮山も合格を目指して勉強中だ。
俺の記憶にある中学卒業後とは、もう違う。
東城のイメージチェンジが早まっただけなら、まだ「時期がズレた」で済んだ。けれど、西野の進学先まで変わった。これはもう、原作の出来事が少し前後したという話じゃない。
俺がここにいる。俺が誰かと知り合い、話し、一緒に飯を食い、勉強する。西野と東城が知り合い、友達になった。それだけでも人と人との関係は変わり、選ぶものまで変わっていく。
「境野君?」
西野に呼ばれ、思考を切る。
「何?」
「また難しい顔してる」
「そう?」
「してる」
「受験のこと考えてただけ」
「境野君、自分は余裕あるからって油断しない方がいいよ?」
「西野に言われたくない」
「何それ!」
東城が小さく笑い、真中も笑う。
この光景を、俺は知らない。
でも、知らないならこれから知ればいい。
少なくとも今は、それで十分だった。
にしのんの進学先が泉坂へと変更になりました。
では、また∠( ゚д゚)