TASでカンストした次の人生。   作:mono-zo

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11話 負けるのはもっと嫌いみたい。

 

「ストラーック!!」

 

 

具合が悪い中も投げる。

 

死亡したほどのトラウマがあったのかもしれない。

 

乗り物酔いなんて大体1日2日で治ってもおかしくはないのだけど、まだ全快とは言えない。体内のよくわからない筋肉とか尻の筋肉とかくるぶしのあたりの筋肉とかもまだ筋肉痛だ。

 

まぁそういうのを全部言っちゃうと登板させてもらえないかもだし、母さんの治療費がどこまでかかるかわからないこともあって目的のためには可能な限り登板したい。

 

できれば来年、メジャーに行って治療費の心配がいらないぐらい稼ぐ。そのためにも一試合一試合の成績は大事になる。

 

そうじゃなきゃ、嫌いな野球なんて……。

 

 

「ボール!!」

 

「ちっ」

 

 

今のは入ってただろ。

 

さっきストライクだったのと同じコース、なのに判定はボール。……嫌になる。

 

指導された通りに投球ごとに毎回監督と吉村を見る。

 

落地監督の指示が出た。指示は…………『打たせろ』と『ストライクこだわるな』、それに『吉村のサインに従え』か。

 

 

――――ムカつく。

 

 

「ストラィーック!!」

 

 

上手く動けない自分に、よくわからないサインに、この環境に。全部ムカつく。

 

大体吉村も吉村でわかっていない。

 

相手打者は俺が相手だと皆本気だ。「新人への洗礼」だか「大人の面目」だかなんだか知らないけど、本気で打つ気だ。

 

そして何を狙いに来ているかは秒で変わる。外角速球狙いに内角下目の変化球狙いなど。

 

バッターと向き合えば、何となく分かる。

 

野球仙人と野球博士とのタッグトレーニングで相手の心理を昨日の晩飯から女性のタイプまでわかるようにと修行したものだ。

 

前世ほどではないが、何となく分かる。分かるというのに吉村は狙っているコースに投げろと指示してくる。

 

ほんのり足踏み、ロジンバッグで滑り止めする。

 

時間を稼いでもバッターの狙いは……変わらないか。

 

監督を見て、そのままやれとの指示。仕方なく、投げる。

 

 

「ストラーック!!バッターアウト!」

 

「ちっ」

 

 

打たれなかったとは言え、相手の狙いのコースに投げるのはムカつく。

 

 

しかしなんで俺、こんなにムカついてるんだろうか。

 

 

……体調が悪いのだ。気分が悪くなってもおかしくはない。

 

指示通り動くのが仕事だし、投げる。打たれた。

 

投げる。投げる。打たれた。

 

 

ムカムカしてたまらない。

 

 

指定されたコース、そこはバッターが狙っている。

 

吉村のサインを見て首を振りたくなったがチラリと監督を見る。

 

やれとのご命令。

 

命じられるまま、でも本気で投げる。

 

内角ストライクゾーンからわずかに外側にスライダー。相手の狙いのコースだ。

 

打たれる確率が高いとわかるそこに投げ込む。

 

鋭いスイングだったがタイミングがズレたようで盛大にファール。客席にボールが飛んでいった。

 

 

「チッ」

 

 

監督を見ると「ほら俺の指示に従ったから打ち損じただろう」という顔をしている。うっざ……。

 

 

――――ムカつく。

 

 

次も指示通り投げる。打たれた。これで満塁だ。

 

 

もっと別のコースなら、変化球だったなら……指示に従わなかったら打たれなかった。コンディションが最高だったら。

 

を考えてしまって色々頭を巡って、苛立ちが止まらない。

 

 

しかも……まただ。

 

 

また、相手が狙ってるコースに投げろと指示してくる吉村。

 

吉村の指示通りに投げろと命令してくる落地監督。

 

指示されたコースとは反対の四隅に――――投げた。

 

 

「ボール!!」

 

「っ?!……タイム!」

 

 

困惑したかのように向かってくる吉村。

 

 

「どうした?サインがわからなかったか?」

 

 

わざと逆玉を投げたのに、吉村には怒りはない。

 

むしろ心配してきているのが伝わる。

 

 

「ちげぇよ、俺今日は監督に指示したコースに投げろって言われてたけどさ。……吉村、なんで打たれるコースに投げろって指示してくるんだ?」

 

「打たれるコース……数値だよ、苦手なコースに苦手な球種でつくのは当然だ」

 

「いや、ちゃんとバッター見ろよ。『今この球狙ってます』っての投げさせて楽しいか?俺は…………」

 

 

自分で言って引っかかった。『楽しい』ってなんだ?

 

俺、野球は嫌いなのに、金のためなのに……なんで指示も聞かずに、こんなに必死になってるんだ??

 

 

「大河?」

 

「――――……俺、野球は嫌いだけど、負けるのはもっと嫌いみたい。好きに投げていいか?」

 

「……言いたいことはいくらでもあるし、後で絶対怒られるだろうが…………わかった。やろう」

 

 

グラブの背でグラブに軽く当ててきて、吉村が戻った。

 

 

胸が軽くなった。

 

 

どこに投げるか、この試合で初めてキャッチャーの指示を聞かず、首を振って指示する。

 

右アンダースロー、地面スレスレの低空シュートを投げる。

 

バットにかすりもしてない。

 

落地監督の方は見ない。満塁のこの場面を抑えることに集中する。

 

ほんのり前傾して低めを狙うバッターに対して右サイドスロー、おちょくりカーブをバッターの顔面に投げる。

 

腰を抜かしたように後ろに下がったが残念。その玉はストライクゾーンまで曲がる。

 

最後の1球、右オーバースロー、内角低め。この日最速の165キロのストレート。

 

 

「ストライィィク!!バッターアウトッ!!」

 

 

これでこの回は守れたけど、監督の指示を聞かなかったこともあって交代させられてしまった。

 

 

 

⚾⚾⚾⚾⚾⚾⚾⚾

 

 

 

試合終了、4-3でナイツの勝利。

 

ヒーローインタビューだ。投球は微妙でも序盤で打撃で3ランホームランとソロホームラン打ったからね。

 

 

「今日は不調だったのですか?」

 

「結構打たれましたもんね。監督の言うとおりのコースに投げてたんですが……あ、今日は良いこともありました」

 

「良いこと?なんでしょう」

 

「俺、野球は嫌いなんですが……負けるのはもっと嫌いだったみたい。……です」

 

「はぁ?」

 

 




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