消毒液のような匂いがする白い廊下を進み、看護師さんに聞いて病室に行くと……母は起きていた。
「母さん、死なないで」
「ごめんね、死ぬつもりはないけどさ。どうなるかわからないから今のうちに話さないと……」
お医者さんに話を聞くと、母さんは元々体が強くなかった上に長年の過労で臓器にかなりの負担があったと。よくはわからないが、心臓が一番悪くなっているらしい。
長期の休息と心臓の手術が必要だそうだ。
他の臓器はともかく心臓は手術の必要はあるがすぐに手術する必要はないそうだ。まずは検査して、それと手術のための体力を取り戻す必要があるのだとか。
「そんな事言わないで」
「聞きなさい。高校に行って大学に行って、好きなことを見つけて、仕事して、人に恥じない生き方をしなさい。あんたのお父さんはクズだったからあんなふうになっちゃだめよ」
自分のために、こんなになってまで働いてくれていた母。
極論だが、生まれてすぐに自分を捨ててさえいれば負担は減っただろう。そんなことを考えてしまう。……弱々しい母を見るのは辛い。
「母さん」
「それで、お嫁さんは大事にして生きるのよ」
遺言のようなことは聞きたくはない。
手術の成功確率はそう悪いものではないが、母さんの体は全身蝕まれている。
心まで弱っている母が、このまま言いたいことだけ言って……死んでしまいそうで怖い。
「わかった」
「ならいいわ。ホント自慢の息子」
ベッドの横で座って話を聞いていると撫でられた。
もう自分も中学も終わりだと言うのに……子供扱いだ。
「母さん」
「何?」
「もしもだけど、大学に行かずにもっと人に認められて素晴らしいと言われるような仕事とかがあったら、どうすればいい?」
以前から母さんには「大学までいかせる!」と言われていたし、今から自分がやろうとしていることは反対されかねない。
「うーん、警察とかかな?そうね。それもいいと思うわ。あ、ギャンブルはダメよ!」
「ギャンブルとかではないけど……」
「だったらいいわ。好きなことをやりなさい。後のことは景子ちゃんに任せたから。…………ごめんね。一緒にいられなくて」
「母さん、俺、全力を尽くすよ。ゆっくり休んで早く治して」
「検査ばかりでなかなか休めないわよ」
そういうことじゃないんだけど……景子さんが母さんの服やタオル、水筒を持って帰って来たので交代する。
本当なら自分が見るべきなんだろうけど「女性には女性の身支度があんのよ」と言われれば頼らざるをえない。
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