「…………」
「…………」
気不味い。
じーさんは年齢こそ白髪でわかるが背筋がピンとしていて背も高い。服装も高そうなスーツを着こなしている。
伝え聞くゴミパパと同類のようには見えない。
しかし、多分向こうの方が気不味いだろう。
勘当した息子のせいで息子の嫁は苦しみ、孫である自分にまで迷惑がかかろうとしている。それを聞かされたばかりなのだとすれば……。
「だいたい浩二から話は聞いている。――――済まなかった」
「知らなかったなら仕方ないと思う」
胃の辺りに手をやったまま深々と頭を下げてきた自称祖父、素直に返答する。
「そうかもしれない。それでも、あのクズを教育しきれなかったのは儂の責任だ。許してくれとは言えないが……それでも自分の出来うる限り償わせてもらいたい」
「めっちゃいい人っぽい」
「…………いい人なものか。まぁ休んでおきなさい。健人は療養中と聞いた。あやつの好きにはさせん」
心の声が出た。
お金に困っても母さんはこの人に頼らなかったということはヤバい人の可能性もなくはないけど。どう見たって悪人には見えない。
「わかった。じゃあ寝てるね」
「外にいる。騒がしくなったらすまん」
「盗るものもないし、家にいていいよ。じーさん、おやすみ」
「…………」
これはマジだ。
そもそも借金取りに金を返していたし、我が家にまともな財産はない。
母さんも父親のことを話してくれて、いつか来るかもしれないけど大事なものは貸金庫に全部入れてるから家なんか護ろうとせずに逃げなさいと何度も言われている。
もしもこの自称祖父がゴミパパに負けないほどのクズでも、この家には盗れるものはほとんどないはずだ。価値がありそうなものといえば貰ったばかりの食材と貰った古ぼけた登山用リュックと傷の入ったクーラーボックスぐらいか。
部屋に入って鍵をかけて……肉屋のおっちゃんに確認の電話だけして確認は取った。
困ったら球団に何でも連絡するようにって言われてるけど、ゴミパパの存在は不明だったし、手間をかけてクビにされたらたまらない。
相談するにしても「そもそもゴミパパが居るのか」「ゴミパパがいたとして要求はなにか」とかを確認してからにしないと……もしもゴミパパが改心してた場合、単純に大事になった上で無意味にクビになりかねない。
なんかあっても多分大丈夫だろ。ロープと釣り糸とガムテープだけ用意しておくか。
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その後、程なくして恥知らずなゴミパパが来ていたらしい。
じーさんがゴミパパの存在に察知、表札を出していないからどの部屋か探しているゴミパパに対して、不意打ちの鉄拳。
そのまま外で待っていたらしいじーさんの関係者とともにゴミパパを取り囲み、やはり改心していなかったゴミパパはじーさんの知り合いの業者の伝手でタコ部屋に就職させてくれたそうな。
それは法的にありなのかとも思ったのだけど……聞いたら教えてくれた。言いにくそうだったけど安全のためだからと。結構なんでも話してくれるじーさんである。
そして、自分が寝ている間に何事もなく全てが終わったけど……このじーさん、帰らない。
松坂牛と書かれた肉の目立つすき焼きらしき用意と封筒を用意していた。何がしたいのか意味不明でこのじーさん怖いんだけど。
「このお金は?」
「奴は結構な借金を残して去ったと聞いた。額はわからんが、ひとまず香織さんの治療費のためにATMで下ろせるだけ下ろしてきた」
「ありがとじーさん」
素直に良い人すぎるじーさんにお礼を言った。
突然ぶわっと泣いたじーさんをどう対処したものかと悩む。
「ただいまー、今日のご飯なにー?……え、だれ??」
「じーさんらしい」
景子ねーさんが帰ってきた。ちょっとこの状況をどうにかしてくれるかと期待したが、景子ねーさんからすれば「知らない老人が家にいて泣いてる」とか意味不明すぎるだろう。
「じーさんって……あのろくでなしクソったれの?!」
「そうです。ろくでなしクソったれの、諸悪の根源の父で、申し訳ない。……いや、儂こそが諸悪の根源か…………」
景子ねーさんは一瞬フリーズしたけど、景子ねーさんからすれば大河家の祖父はよく知った存在だ。となればもう一人の祖父と言えばゴミパパの父親しかいないと気が付いたようだ。
じーさんはメンタルが弱いのかもしれない。絞り出すような謝罪をしてきたけど……なんだか可哀想である。
「景子ねーさん、じーさんはいい人っぽいからそう責めないで」
「はぁっ!?責めてはないけど」
「じーさん、お腹すいた」
「今、つくる」
ぎこちない手つきですき焼きを作ってくれるじーさん。
スーツ姿のまま料理していたのでエプロンを渡す。知らないキッチンで何がどこにあるのか困っていたようだし、横で手伝う。
景子ねーさんは離れた場所でスマホを握りしめていた。
じーさんに話を聞くとゴミパパは昔から性根が腐っていて、きっと他にもなにかやらかしているはず。これから財産状況や……他に家庭をもっていないか、借金や世間様に迷惑をかけていないかなど入念に調べ上げることになる。そして死ぬまでか、せめて自分の犯した罪の二倍分は働かせる予定らしい。
「このじーさん、何でも答えてくれる……!」
「孫の、安全のためだからな」
「……血液型は?」
「O型」
ゴミパパを管理しているのはあくまでクリーンで誠実な会社らしい。……多分ここだけ嘘だな。態度的に知らせないほうが良いと思ったっぽいしあえて聞かなくてもいいか。
その会社は以前ゴミパパに迷惑をかけられたことがあるらしく、絶対に逃さないと約束してくれたそうだ。……絶対それクリーンで誠実な会社じゃないって。
基本何でも話してくれる不器用なじーさんだけど、大事な部分は隠すようだ。
「どうぞ」
「?……じーさんも食べようよ」
「…………いいのか?」
「うん」
出来たすき焼きをじーさんは食べる気がないようだったけど、声をかければ一緒に席についてくれた。景子ねーさんも少しは信用したようで、何も言わずじーさんの分の食器を用意してくれた。
このじーさんとはまだ家族の実感もなければ、家族としての距離感も掴めてはいない。
「じーさん」
「なんだ?」
「これからよろしく」
何故かじーさんはまた泣いてしまった。よく泣くじーさんである。
野球とは関係のなさそうな話である。必要だったか?それはmモゴー!モゴモゴモゴー!!(´・×・`)※ネタバレ防止自主規制!