もうすぐ中学を卒業する。
高校受験は公立高校の予定だし、成績的には全く問題がないけど……その前にどうしてもやりたいことがある。
図書室のパソコンを使ってこの世界のプロ野球とキッズイベントについて調べた。
前世と知っている球団が違う。ルールはほぼ同じだけど結構違っていて面白い。
それに野球鉄人や野球鬼人、野球鉄人のようなとんでも人間の情報もない。よかった。あいつら金属の詰まった金棒でぶん殴ってくるぐらい当たり前にやるからな。二度と会いたくない。
それよりもキッズイベントだ。
プロ野球選手は野球界を盛り上げるため、後進の育成のために子供向けのイベントに参加することがある。
野球が好きな子供には最高のイベントで、野球が好きじゃない子でも興味を持ってくれるかもしれない。
ここに、勝機を見出した。
電車代はない。夕食のもやし炒めを食べた後、水筒に水を入れて……県をまたいで走ってイベント会場に向かった。
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「野球のイベント会場はここですか?」
「はい」
地図を見てここまで走ったのだ。ある程度迷ってしまって時間もかなり経ってしまった。
イベントが終わってないか心配だったけど、まだ終わってなさそうだった。
「誰かプロの選手は来てますか?」
「えーと、今日は誰だったかな。吉村選手に高橋選手は見かけたかな」
「よしっ!」
子供に指導している選手がいた。ボールの握り方に、スイングの角度など、基本を教えている。
その中でも、一人休憩している選手に声をかけた。
「球団に、プロとして入れてください!!」
「君が成長して、野球がうまくなったらねー」
当たり前のことを返された。
うん、自分でも馬鹿だってわかっている。
「今すぐ契約したいんです!」
「なら、プロになれるだけの実力はあるのかな?ないなら――――「あります!」
ただ、馬鹿は馬鹿でも――――突き抜けた馬鹿は記憶に残りやすいはず。
「……は?」
「試してください!スペックだけで言えばどんなプロ野球選手よりも俺の方が上のはずです!」
「君、何を言ってるかわかってるの?」
プロ野球選手に向かって、子供が吠えている。
本当に馬鹿だとわかっている。だけど、本気だ。
ちょっと気を悪くしたのがわかる、名前も知らない選手。
「はい、無礼に聞こえるかもしれませんが、僕よりうまい選手なんて聞いたことがありません!」
「ははは!良い度胸だ!まぁ、大言壮語は浪漫があるが……プロを舐めすぎだ。帰りなさい」
雰囲気が変わった。無礼な発言だと思われても仕方ない。
眼の前の、野球に人生を捧げたプロの選手より自分が上だと暴言を吐いたのだから。
「高橋選手!俺ならこのナイツを優勝させることができます!」
「くどい!そんな背丈で、いや、そもそも『どんな選手よりも上手い』ってのは大言壮語を超えて無礼だよ。投げるのも打つのも、誰にも負けないって?そんな選手いないんだよ」
怒ってはいるけど、子供が相手とわかっているからかまだ理性がありそうだ。
「じゃあ勝負してください。俺が勝ったらGMか監督に推薦。負けたら土下座して謝ります。二度と野球はしないって」
殴られたり叩き出されないだけありだ。まぁそうなったらそうなったでプランBの予定だけど。
「すー……はー……まぁいいか。土下座はしなくていい。だけどこうやってイベントを荒らすようなことはしないように、約束できる?」
「はいっ」
彼からは明らかに怒気を感じたが、自分の土下座と野球をしない発言にやる気になってくれたようだ。なんなら「捻り潰してやろう」という気概が見える。
キッズイベントで、子供を土下座させたりなんかすれば絶対問題になるもんね。大人なら問題にならないようにしたいはずだ。
「僕は大言壮語と言われるだけのことをプロ野球選手であるあなたに言いましたよね」
「そうだね」
「だから、3打席勝負をお願いします」
「分かった」
のってくれて助かった。
ちゃんと打席に立ってくれた彼、籠に入ったボールを持っていって向き合う。
あとは――――証明するだけだ。
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