TASでカンストした次の人生。   作:mono-zo

4 / 13
4話 やってきた野球星人。

 

相談したいことがあると、高橋が監督室にやってきた。

 

聞いてみると何やら子どもと勝負したそうだ。高橋が負けたら俺にその子を推薦、勝ったらその少年は「土下座して二度と野球をやらない」と宣言したそうだ。

 

 

「それで、俺のもとに来たって?」

 

「はい」

 

「……メディア対策か?」

 

「メディア対策?」

 

 

呆けている高橋だが、キッズイベントってことは親御さんや他の子も見ているし、スマホで動画を撮られていてもおかしくはない。

 

となれば「キッズイベントで子供に土下座を強要させたプロ野球選手」なんて酷い動画が今頃出回っていてもおかしくはない。子供が勝手にやったとしてもイメージはひどく悪いものになるだろう。

 

 

「子どもを負かせて土下座されたんだろ?それは――――「違います。負けたのは俺です」

 

「……………………え?は?」

 

 

意味がわからなかった。

 

 

「完膚なきまでに負けました。ですからそんな選手がいたと、約束通り話に来ました」

 

「相手は、子供……だよな?」

 

「はい、中学生でした」

 

「手を抜いたとかじゃなく、中学生に、本気で負けたのか?」

 

 

余計に意味がわからん。

 

冗談かと思ったが、高橋の目は本気だった。

 

本気で、それでいて憔悴しているのも見て取れる。

 

 

「はい。でもあれは中学生ではありましたが……化け物でした」

 

「化け物?」

 

「野球星人とか超人と言ってもいいでしょう。両投げ両打ち、スピードは測っていませんがアンダースローで160キロを超えて、わけのわからない変化球を投げてきました。ナックルなんて見たことのない速さです」

 

「アンダースローで160???そりゃありえんだろ。日本で140キロ、アメリカでも150ほどが最速のはずだろ?」

 

「でも出ていたと思います」

 

 

やばい薬でもやってるか、それとも練習のし過ぎで熱中症にでもなったのか?

 

高橋にメディカルスタッフを呼ぶ前に話を聞いてみた。

 

高橋はイベントで中学生にボコボコにされて、その後その子の話を聞いたそうだ。

 

その中学生は家庭の事情で金銭が欲しいらしい。我が兵庫ドラゴンナイツに来た理由は子供向けのイベントがあって、なおかつ投手陣に問題があるからだそうだ。

 

まぁ、うちは主力のピッチャーが故障したし、トレードが……いや、まぁいい。今はそこじゃない。

 

とりあえず高橋が正気か、もうっちょっと話を聞くことにしよう。

 

 

「他の球団へ行きそうだったか?」

 

「次のキッズイベントが鹿児島エイリアンバスターズであると言っていましたね。あそこもトレードとケガで投手陣が脆くなってるからだとか……そもそも、子供をプロ野球選手にするなんてってことで話も聞いてもらえないかもと言ってました。早く契約がしたいそうです」

 

 

うぅむ、高橋の目は俺を騙そうとしているようには見えないし、体幹も揺らいだりもしていないな。

 

 

「なるほどな、何故そんなに急いで契約がしたいのかは聞いてるか?」

 

「母親が病気で治療費が必要だそうです。あと、出来高払いで契約したいと言っていました」

 

「出来高払い?」

 

「中学生である自分には信用はないだろうしとのことです」

 

「まぁ、わかりはするが……そんな中学生ほんとにいるのか?」

 

 

高橋が自分なりに聞いて作ったらしき資料を渡してきた。

 

大河健人、山口県出身。164センチ45キロ。

ポジションピッチャー。本人曰く何でも出来る。

 

なんだ?このバカみたいな資料は。

 

 

「冗談だったらお前の出番減らすからな。ビデオあるか?」

 

「はい。俺は悪夢みたいな体験だったんで見たくないんで……あとは監督に任せます」

 

「おう、走り込み行ってこい。一応その前に医務室で診てもらってこい」

 

「……?はい」

 

 

とりあえずやりかけの書類を終わらせてから見ることにしようか。

 

 

 

⚾⚾⚾⚾⚾⚾⚾⚾

 

 

 

動画は最初キッズイベントからだった。

 

球団はこういうことをやってますってアピールにもなるし、将来の野球選手がその子どもたちから生まれてくれるかもしれない。あわよくばうちに来てくれれば幸いである。

 

こういうイベントは選手に負担をかけはするし、彼らも内心面倒に思っているかもしれないが良くやってくれている。

 

未編集の動画で、問題のシーンまで早送りする。

 

イベントの途中、それまでいなかった子供が高橋に声をかけて、勝負が始まった。

 

 

「ははっ、これに負けたって?」

 

 

子供は、どう見ても子供。

 

細く、背も低い。

 

普段から肉付きのガッチリした野球選手を見ているからこそよりそう思える。高橋と比べても大人と子供だ。

 

どこかの学校のジャージに運動靴、グラブはなし。こういうイベントだと気合の入った子だとリトルのユニフォームで来ることもあるけど……野球のアピールに来たんじゃなかったのか?

 

 

何を言われたか音声は載ってないか高橋のやつめっちゃキレてんな。

 

カメラの一人を手招きして、勝負の体制になった。

 

子供は……ボールを籠で持っていって…………左投げか。しかもアンダースロー。

 

 

「ほぁっ!!?」

 

 

高橋が、大きく振り遅れた。

 

横からの画像だ。球速は定かでは無いが、明らかにアンダースローのスピードではない。

 

続いて2球目、今度は体を半身入れ替えて右のサイドスローで球は大きく曲がった。スライダーか?

 

理由のわからない変化量だった。明らかに当てに行った高橋が、目を丸くしている。

 

 

キャッチャーはおらず、勝負は続く。

 

 

何球勝負かはわからないが、中学生は毎回、投球フォームを変えて投げた。変化球も全部別。

 

どの変化球がエグい変化をしていて、高橋に当たるかと思ったカーブが外角低めに投げ込まれた。

 

カメラマンが異変を察してか画像が揺れた。スピードガンを持ってきたようだ。ワインドアップで力強い左投げ……162キロ。

 

 

「――――――…………ははは、ははははは!!」

 

 

使い慣れない放送ボタンを押す。

 

 

「あー、高橋選手高橋選手……至急監督室まで来るように……いや、スカウトに関わる全職員、いるだけ今すぐ全員来い。緊急事態だ!」

 

 

将来の野球選手どころか、今すぐにでも戦力になりそうな子が来てくれた。

 




よかったら感想や評価などよろしくお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。