他の選手が皆自分のチームに戻っていく。
ドミニカの野球は3ヶ月だ。そうなれば残りの9ヶ月、他の国のリーグに戻って試合することになる。
自分も以前はメキシコでやってきたが父が病気で倒れた。父は小さいながらも会社をやっているし助けが必要だった。
一応これまでしっかり稼いできた金がある。だからここ1年とちょっと、自分から契約を切っていた。
ウィンターリーグでは事情を知っているかつての仲間に呼ばれて参加したが、やはり体は動く。むしろ休み無く働いていた頃よりも動きが良くなったまである。
とはいえ現役ではないし控え選手だ。それでもこのリーグに呼ばれたことにはドミニカ人として栄誉もある。父も参加してこいと後押ししてくれた。
集まった皆はうちの庭でよく肉を焼いて食った仲だ。久しぶりに会えて最高に嬉しかった。――――しかし同時に、少し心苦しかった。
皆は他のリーグで活躍しているが自分は介護と会社をやっている。
どこか劣等感があって、皆が輝かしく見えた。置いていかれたような、このままで良いのか分からない焦燥感があった。
支給されたユニフォームを着て慣れない感覚があった。
現役選手とそう変わらないとは言っても、世間的には引退のような扱いの自分に出番はあるのかと心配していたのだが――――ティグレが来た。
小学生のような体つきで、とんでもない球を投げるアジアンモンスター。
プロともなれば大抵の球を捕れるものだが……ティグレの球は受けるのにコツが必要だ。
特にカットボールと浮き上がるようなアンダースロー。打者に当たるコースから変化するとんでもないボール……集中していても角度を間違えれば手がイカれそうになる。
ティグレは日本でもキャッチャー数人に怪我をさせたこともある。ベテランのキャッチャーでも1試合に数回はとりこぼしてしまうほどだ。
他の奴らよりも英語もできるしティグレの球を最も捕れる自分がパートナーとなった。
そしてティグレは活躍した。
ティグレが活躍すれば自分は目立つ。
もう二度と出番すら無いかと思っていたのに、夢の舞台へ……カリビアンシリーズ決勝戦まで戦わせてくれた。
結果、目立った活躍をしたティグレのおかげで控えだったはずの自分の出番も多くなりキャッチャーとしても賞をもらえた。――――フリーである自分に契約のお誘いが来た。
MLBを含むメジャー契約もある。
数カ国、複数のチームからだ。でも、内容は読まず、母さんに預けた。
……………………悩んだ。
地元のヒーローになった。近隣数カ国の中で最高のキャッチャーとして最優秀賞も貰った。この上ない栄誉だ。
だから、このまま父の会社を継いでも良いじゃないか。
娘がいるし妻もいる。母に……今は助けのいる父もいる。
俺を大切に育ててくれた父だ。ここで助けないと俺はきっと後悔する。
これでいい。これこそが正しいはずだ。
仲間を空港まで見送りに行って、胸が張り裂ける思いだった。
送られてきた招待も……こんなチャンスを掴まないのは馬鹿だともわかっている。だけどこれが正しいはずだ。
帰ったらビールを飲んで寝よう。きっと今日も美味くは感じないだろうが酔いたい気分だ。
「ダネル。待ちなさい」
「父さん?」
書類を持って病室から出ようとして呼び止められた。
「お前は親孝行な息子だ」
「あぁ」
「だからこそ話しておきたい」
病室に戻り、なにか言いたげな父のもとに向かう。
「俺の人生は俺の人生でお前の人生はお前の人生だ。お前が家族を助けたいという気持ちがあるのはわかるが、お前がお前の栄光に手が届くのに何もしないのは俺の後悔になる。……行って栄光を掴んでこい」
「だけど……」
「俺はいつかは死ぬ。ダネルがいない間に死ぬかもしれないが、それは笑って死ねるから良いんだ」
「…………」
「自慢の息子よ。やれるとこまでやってこい。それだけで俺は幸せだから」
俺にも娘がいる。
もしも同じ立場になれば、きっとそういう考えも浮かぶだろう。
この弱った父を見て、どこに行こうとも将来後悔もするだろう。それでも俺は――――
「――――……わかった」
「会社のことは心配するな。いずれお前が継げるようにはしておくが今はその時じゃない。……体を大切にな」
「あぁ、飲みすぎるなよ」
どこの球団でやるか預けていたリストを見ることになった。
そのリストの中に一つ、縁があるものがあって……直ぐに決めた。
他のどんな条件よりもその球団からのオファーは、今の自分にとって大切で……今の自分にはこれしか無いと思えた。
「車とビール、それにヒーローにさせてもらった恩ぐらい返さないとな」
昨日までの鬱屈した思いなど無く、足取りは軽かった。
――――……父に、家族に胸を張れる俺でいよう。
あれ?書き溜め分にu18始球式の話無いなって探し回って消しちゃったかと焦ってたら昨日投稿してましたww