ダネルはカリビアンシリーズの賞品に――――「車」と「ビール」にそんなに恩に感じていたのか。
MVPで高級車を、ホームランでビールの看板当てたことでビール1年分を貰った。
免許は持ってないし高級車は左ハンドルで母さんや景子ねーさんに譲るのにも不安があった。ならば売ってお金にしたいとも思ったがイベント品なので売るのは良くないと言われた。
ならばと輸送費を調べると日本まで保険込みで安くて100万円もかかる。しかも今後の税金やら維持費やらを考えると……それだけでかなりかかるとなって――――結局ダネルにあげた。
飯の一つスケジュールの一つ、ルールや野球で使われるスペイン語の意味だって教えてもらった。3ヶ月も世話になったし何も惜しくはなかった。
ビールは正直ビビったな。ホームランで軽く走ってビールの看板に当たった瞬間、鼓膜にビリリとくるほどの大歓声が上がったんだから……何言ってるかわからないしなにごとかと。ベース踏んで戻ったら大人どもがいつもの何倍もテンション上がってるしさ。
当然飲めないしこれもダネル行きだった。
残りの腕時計と記念トロフィーは母さんに送った。
ゴツくてキラキラした腕時計はプレイの邪魔だし、こっちの治安的にすごく高い腕時計をつけるのも不安、どうせ使わないんだから母さんか景子ねーさんが使えばいい。
キャンプで忙しくて忘れてたけどこれら行き先を後で聞かれてネット記事で騒がれてこっ恥ずかしかったんだよな。なんか美談になってたし。
賞金は球団に送ってもらってこっちの銀行に全部預けて生活費に使っている。それだけで300万円ぐらいになった。税金怖いし殆ど使ってないが。
あれから数ヶ月、もう8月だけど――――ダネルが来た。
白おじが動いてくれたらしい。しかも5年契約だ。
白おじとは自分の1年の契約の後に契約を見直して更に4年は一緒に野球したいと話していたしその期間と合う。粋な計らいと考えるべきか外堀を埋めてきたか……ここまでやるか白おじ。専属キャッチャーじゃんか。
お陰で成績が戻った。
遠慮なしでナックル以外投げられる。もうナックルは半ば諦めた。1試合に数回ならダネルは反射神経と動体視力で結構とってくれるし決め球にはなったけど……変化しすぎてワンバンになったり、デッドボールになる可能性を考えると多用しないほうがいい。
ダネルは明るい性格で自分なんかよりも一瞬でチームメイトと仲良くなった。そしてダネルが他のキャッチャーに俺の球を受けられるように指導している。
ウィンターリーグでもカリビアンシリーズでも50球の投球制限があった。1日50球160キロの球を受けるのと、倍の100球では負担が違うはず。ダネルの手は大事にしないと……。
「ストライークッ!!」
加減せずに投げられるのは気持ち良い。
打ってボコボコにしてやろうという気合の入ったバッターに対して、投げて勝つんじゃなくて「わざと打たせる」のは勝負として成り立たないし無駄に集中力が必要だった。
「ストライークッ!!」
フォークに対してボール半分上を空振りしたバット。
――――勝負はやはり楽しい。
打っても投げても湧き上がるオコサマとクソガキだが……ダネルに言われたがどちらも応援じゃないかと言われてビビった。なんでそうなってるのか。
「ボール!」
ダネルと同時にチャレンジを要求。
アンダースローで低く投げるとボール判定が多い。
判定は覆ってストライク。これでゲームセットだ。
ダネルと組んでいる間は負け無しだし、存分に勝負ができる。
悪いことが続いていたが、良いことも続くことだってあるのかもしれない。
大人気ダネル。驚くほどに人気だダネル。びっくりだよダネル。
「美談」や「車」や「ビール」フラグに気付いた人はいるかな?